殺戮専用人型破壊兵器ディスペアーが起動してドラゴンの住む国ハワボルイを壊滅させたりドラゴンを殺戮している頃。
センリとエンジェはどこ吹く風。
そんな事がある事もわからない2人は暢気に次の目的地である港町ドルンマーに徒歩で向かっていた。
汽車を乗らない理由は、都市ブルーブルーは強盗竜団の襲撃を受けた際に駅及びレールが破壊されたため1週間程汽車の運転が休止になった。
しかし、港町ドルンマーは都市ブルーブルーから歩いて1日かからない。そのためセンリとエンジェは歩いて行く事にした。
「センリ! 私にも剣教えて!」
エンジェがそんな事を言ったのはその道中の事だ。
センリは大いに驚いた。
「なんで?」
「だってあの時センリカッコ良かったんだもん」
あの時とは強盗竜団が都市ブルーブルーを襲撃した時の事である。その時に狙撃銃を使う竜人を倒した時の事を指す。
というより、それ以外はほとんどエンジェには見えていなかっただけだが。
センリもカッコ良いと言われて悪い気分はしない。
しかし、それとこれとは話が別である。
「ダメ」
「なんで~?」
「エンジェには私みたいになってほしくないな」
「どうして? カッコ良いのに」
「もしエンジェが私みたいになったらエンジェの事嫌いになりそうだからかな」
幼子に対してセンリの言い方は悪いと言わざるを得ない。しかし、それはセンリの本心でもあった。
少なくとも今のセンリは自分自身が嫌いだ。
それにセンリの投擲剣術千流もセンリにしか使えないし、センリが扱う普通の剣術もやはり今はセンリにしか使えない。
どちらにしてもセンリはエンジェに剣術を教える気はない。さらに言えばセンリはエンジェが剣に向かないとも思っている。
(エンジェは魔導師とか向いてそうね)
魔導師に向いているかは完全に勘であり希望的観測ではあり根拠はない。
「う~。嫌われたくない」
エンジェは明らかに不機嫌になった。
(とは言っても護身術程度には教えてもいいかな。今は真剣しかないから教えられないけど)
「わかったわエンジェ。ドルンマーに着いたら木剣買ってあげる」
「木剣?」
「うん。護身術程度で教えてあげるね」
「護身術?」
「自分の体を守る剣術って事。まあ、私がエンジェを守るんだからそれも必要ないけどね」
エンジェは明らかに機嫌が良くなり、センリの手を強く握り締め鼻歌を歌い始めた。
■■■■
センリとエンジェが港町ドルンマーに到着したのは夜だった。
時間的にはまだまだ店を閉める時間ではないが、今日の船便は終わってしまっていた。
センリとエンジェは宿に宿泊する事にして、現在は荷物を部屋に置き1階のレストランで遅めの夕食を食べていた。
お金には困っていないため食べ物はレストランの中でも高級で豪勢なものを頼んだ。センリは決して少食ではないし、エンジェも幼子の中でも大食いではないが食べる方である。
センリは持参の箸を置いてエンジェに言う。
「エンジェはもうこの時代の生活には慣れた?」
「うん。食べ物はおいしいし便利だし楽しいよ」
センリも最初の方はエンジェが文字を読めないかと懸念していたが奇跡的にも988年前から言語が変わっていなかったためエンジェは文字も読めるし、学術にも秀でていた。
エンジェ曰わく1日の半分は勉強に費やしていたらしい。
「ねえセンリ。私達はこれからどこ行くの?」
「隣りの島にある吸血鬼村ね。ギルドで依頼を受けたから依頼主に会う必要があるの。魔物退治らしいけど今回の依頼は報酬の羽振りがいいの」
「ふ~ん。おねえちゃん吸血鬼村行くんだ」
センリの背後から女の声が聞こえた。
(まったく、今日は運が良い)
センリは後ろを向いてその女を見る。
その女は女というより少女だった。
琥珀のようなブラウンの瞳、長く艶やかなサラサラな黒髪はツインテールにしている。容姿はセンリと同じく極東の国のような顔付きだ。
「こんばんはアイカ」
「こんばんはセンおねえちゃん」
アイカは静かにだが喜々とした笑みを浮かべた。
センリはエンジェに向いて言う。
「エンジェ、今日はもう部屋に行って寝なさい」
「なんで?」
「込み入った話しだからね。大丈夫。私もこのおねえさんと話しが終わったらすぐに行くから」
「うん」
「ごめんねエンジェ。明日おいしいお菓子買ってあげるから」
エンジェは違和感を覚えた。
しかし、それ以上追求しないで席から立ち、部屋がある3階へと続く階段を上った。
センリはそれを確認するとアイカにエンジェが座っていた自分とは向かいの席に座るように促した。
アイカは席に座る。
「何か頼む?」
「ううん。大丈夫だけど紅茶1杯頼もうかな」
「お腹空いてないの?」
「お金がないの。ううん。どちらかと言えば無駄使いできないの」
「じゃあ私が奢ってあげる」
「いえ、そんな。おねえちゃんに迷惑かけるわけにはいかないよ」
「いいのよ。どうせお金は無駄に余ってるし」
「そう? じゃあサンドイッチ頼もうかな」
「サンドイッチだけ? 相変わらず少食だね」
「そうかな?」
「そうよ。魚のフライも頼むわね」
センリは店員にりんごジュースと紅茶、サンドイッチ、魚のフライ、オムライスを頼んだ。
店員はセンリを見て、まだ食べるのか、と思ったが店員なので文句を言わずに注文された食べ物を用意した。
食べ物が届いてから、センリとアイカは食事を進めながら会話をする。
「単刀直入に聞くけどアレをやったのは本当におねえちゃんなの?」
「むしろ私以外にいるのかな?」
アイカは真剣に質問したがセンリは茶化す感じに質問で答えた。
「否定しないのね」
「事実を一体どうすれば否定できるの? 私は強くなるために自分の一族を皆殺しにした。父、母、祖父、祖母、いとこ、おじ、おば、兄、弟、もちろん君の親友であり私の妹であるあの娘もね。これは事実なの。私もそんな弱い一族の名前を捨てた。これで満足?」
「どうやって殺したの?」
アイカの質問にセンリは一瞬言葉に詰まる。がすぐに言葉を返す。
「みんな私に為すすべなく私の投げた剣に刺されたわ。まさに殺戮ね」
「例えば!」
アイカは人差し指を立てて続ける。
「これは私のただの推測なんだけどね。私はおねえちゃんがあの無駄に強い一族を皆殺しにできたとは思えないし、したとも思えない。だって証拠がないもの」
「殺してないという証拠もないでしょ? むしろ殺した証拠はあるじゃない。だって私の一族は私を除いて全員剣で串刺しにされて死んでたでしょ?」
アイカは無駄だと思い諦めた。
センリの言う事は事実だった。
アイカは目の前でセンリの一族が剣に串刺しにされて死んでいるところを見ていたのだから。
「確かにそれは紛れもない事実だね。みんな剣に刺されて死んでた。……おねえちゃん、私はテンスイちゃんと同じくらいおねえちゃんも大好きだよ」
「私もアイカの事大好きよ」
「そう……。それは嬉しい、超嬉しい。もう1度言うね。私はおねえちゃんが超好き。本当におねえちゃんはテンスイちゃん達を殺したの?」
これはアイカが最後にと思いした質問。
「殺したわ。私は私自身の手で一族を殺した」
「これ以上は無駄だね」
アイカは苦しそうな顔になる。むしろ今にも涙が零れそうであった。
胸が心が苦しい。
(大好きなおねえちゃんにこんな事を言わないといけないのね。おねえちゃんは一族殺しを否定してくれなかった。これ以上は心が耐えられないよね。これを言ったらおねえちゃんとは絶対に絶交だよね。ううん。私とおねえちゃんの間に新しい交わりが生まれる。私の親友を殺した人間と親友を殺された私。おねえちゃんとはこんな事になりたくなかったな……。だけど、これ以上壊れるくらいなら……)
アイカは席から立ち上がり言う。
「おねえちゃん」
「何?」
「おねえちゃんからの事実が聞けて私は心に決めた。絶対におねえちゃんは許さない!」
「やっぱりそうなるのね」
「白々しい。だけどまだ否定するんなら否定していいよ?」
「否定はできない。だけど、私は心の奥でどこか罪滅ぼしを望んでたのかもしれないわ」
「滅ぼす罪もなかったりして」
「ううん。私も妹でありアイカの親友を殺した事に罪悪感があったの」
「これ以上は平行線だね。今日は久し振りに話せて嬉しかった。バイバイ! 私の大好きなおねえちゃん! 寝首には気を付けてね」
「ごめんね。私はエンジェのために死ぬわけにはいかないわ」
「そうなんだ。まあ、簡単に死んでもらっても困るけどね」
センリは宿屋を出て行くアイカを見送った。
「私に復讐すると言ったのはあなただけ。父の親友も、母の妹も、兄の恋人も私の復讐者にならなかった。大好きよアイカ」
アイカは夜空を見上げて思う。
(復讐者か……。エンジェ……。さっきのオッドアイの少女だよね。もしかしたら彼女なら……)
アイカ・ニシテンマ。
それは復讐者と呼ぶにはあまりにもセンリが大好きで、しかしまだセンリの一族殺しを否定する少女だった。