ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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吸血鬼村

 センリが復讐者アイカと対立を決定的とした翌日。

 センリとエンジェが乗船する船の出航時間までしばらく時間があるという事で前日の約束通り木剣を買おうとしていた。

 しかし、エンジェ木剣が売っている向かいの店の人形に目が釘付けだった。

 センリは後ろからそんなエンジェを見ている。

(やっぱり女の子だね~。木剣より人形か……。まあ私も剣なんかより人形の方が好きだけどね)

 センリにとって剣なんてものは好き嫌い以前に所詮はただの武器であり手段である。

 センリはエンジェに顔を近づけて言う。

「買ってあげようか?」

「え? でも木剣買うし……」

「木剣もほしいの?」

「うん!」

「どっちか1つね」

「え~」

 センリ的には特別、木剣と人形両方買ってもお金は足りるし重くない。しかし、それ以上に旅をしている身としては荷物が多くなるのは邪魔になるので勘弁してほしかった。

「じゃあお人形さん」

「うん。買ってあげるね」

 なんとなくこっちだろうな、とセンリは思っていた。

 いくらエンジェがませていて聡いとしても遊びざかりの子供には変わらなかった。

(人形といえばアイカはニシテンマの一族だったわね)

 センリはエンジェが指定した人形を買いエンジェに渡した。

 上機嫌なエンジェは右手はセンリと手を繋ぎ左手は人形を抱いている。現金な子である。

 人形を買うと乗船するのにちょうどいい時間ということで、2人は船に乗り込むとその船のVIPルームに案内された。

 センリとエンジェはVIPルームでくつろいで出航を待った。

 

 

 

 センリとエンジェが港町ドルンマーから出航して5時間後くらい。

 とある島の港町エンギリに到着した。

 その島は港町エンギリと吸血鬼村くらいしかなく、後は山があるくらいだ。

 この島は吸血鬼が唯一集団──つまり吸血鬼村で暮らしている地である。

 吸血鬼村はドラゴンの住む国ハワボルイと並んで完全な中立地帯にして危険地帯であるため人間はあまり近づかない。

 そのため交通は完全に徒歩で山道だが道中において安全面という意味では安全だ。強いて危ないといえば魔物が出るくらいだが、吸血鬼の狩りの対象になるそれらは他の生物に対して臆病であるしセンリより強い魔物はいない。

 だからというべきか。

 センリは今回の依頼を不自然だと思っている。理由は先に記した通りこの島の魔物は基本的に吸血鬼より弱いという事だ。

 センリが知る魔物の中で吸血鬼の強さを超えるのは荊の塔の守護者のアルラウネ──キリーくらいだった。それでも荊の塔というホームでの話だけれど。

 そもそも吸血鬼は怪力高速頑丈という非常に高い身体能力、再生力、不老長寿で不死と間違うほどの生命力が特徴の種族である。ここまで強い──というより身体的能力に尖った種族は存在しない。

 これらの理由から人間は当たり前として他の種族、魔物、動物ありとあらゆる生物は吸血鬼を前にして基本的に逃げる。勝てないから。しかし、逃げるという行為すら吸血鬼相手には無駄なのだが。

 ひとまずそれは置いといて。

 センリとエンジェは港町エンギリに降り立った。

 しかし、港町エンギリは港町ドルンマーと違い賑わいを見せていない。どころか閑散としているといった方が近く、港町というよりほとんど村だ。

 当然といえば当然。この島には観光地もなかければ聖地もない。唯一あるといえば危険地帯吸血鬼村くらいだ。

 無論、そんな所にセンリに用はないし、エンジェも興味がなさそうだった。

 そもそもここで装備を整えようにも店が酒場と宿屋しかない時点で準備も何もないわけだが。

「さて吸血鬼村に行きましょうか」

「レッツゴー!」

 センリとエンジェは町民に吸血鬼村までどのくらいで着くか聞いた。

 のんびり歩いても2時間あれば着くらしい。

 しかし、いくら安全と言ってもエンジェが歩いて山道を歩くのは危険であるため、センリはエンジェをおんぶして走る事にした。

 

 

 

 センリが走ると通常2時間かかる距離が20分で吸血鬼村に到着してしまった。

 センリはエンジェを下ろす。

 センリは疲れ1つ見せず、エンジェはエンジェで面白かったと言っている。

 さてさて、センリとエンジェは危険地帯吸血鬼村に足を踏み入れた。

 出迎えたのは見た目青年の吸血鬼だった。

「見たところ人間のようだがこの吸血鬼村に何の用だ?」

「何の用だ? はないでしょ。君達がギルドに依頼したんじゃない。魔物を退治して──と」

「確かに依頼したな。だけど俺達はお前みたいな奴を頼んだ覚えはない。お前は譲歩してもギルドランクはせいぜいBだろ? しかも、ガキがガキを連れて来るとはな。わかるか? 相手は吸血鬼を超える化け物だ。本来ならランクSが10人いても足りないくらいだ」

「だったら私の実力試してみる?」

 センリはカチンと来た。

 センリは自分の強さに自信を持っている。少なくとも目の前の青年1人を倒すくらいわけないと確信さえしている。

「その吸血鬼を超える化け物がどのくらい強いかわからないけど、私は君程度の吸血鬼を倒すのに1分とかからない。それどころか吸血鬼が100人いても私だったら倒せるわ。難ならその吸血鬼を超える化け物の代わりに私がここの村の吸血鬼を皆殺ししても構わないわよ」

 センリの挑発だ。

「ギルドはガキに口の聞き方も教えないのか? 人間ごときが吸血鬼を超えられるわけないだろ。今謝ればこの事は許してやるよ」

「吸血鬼、今謝ればこの事は許してあげる」

 センリは青年の言葉をそのまま返した。

「しょうがない。お前はここで殺してやろう。どっちにしてもここで俺に殺されなくてもお前はアイツに殺されるんだ。ただ殺されるのが早くなるだけだ」

 青年はそういうと鋭利な爪をセンリに向けて攻撃をした。

 

■■■■

 

「ウチの若い者達が失礼な真似をした」

「いえいえ。こちらも軽率な行動だと反省してるわ」

 センリはエンジェとともに吸血鬼村の長老だというコクトーという美青年と相対している。

 先程の戦いは結果的に言えばセンリが圧勝した。

 青年の吸血鬼を串刺しにしたらそれを見ていた他の吸血鬼が仲間を呼び、いつの間にかセンリは依頼の討伐対象である吸血鬼を超える化け物だという誤情報が流れ、吸血鬼達は総力を上げてセンリを殺しにかかっていた。村の騒ぎを聞いて駆け付けた長老によってその誤解は解けた。しかし、吸血鬼村の戦士達はセンリによって半殺しにされたため今は治療中である。

「しかし、ギルドランクSの串刺し姫──センリ。いや、今はSSか。噂には聞いていたが噂以上の化け物だな。なんでもあの荊の塔を攻略したとか」

「まあね」

「確かにあなたならあの化け物を倒せるかもしれないな」

 センリは横で座るエンジェを見る。

(暇そうね。当たり前か……。早めに終わらせよう)

 センリはここに来て疑問を口にする。

「それで化け物とは一体どんな魔物なの? 私からすれば吸血鬼を超える化け物なんているとは思えないけど……ましてや村を襲撃するなんてね」

「依頼内容が悪かったな。相手は魔物じゃなくて同胞──つまりは吸血鬼だ」

「は? えっと……つまりは連続殺人鬼を退治しろって事?」

「連続殺人鬼……確かにその表現は正しいといえば正しい。しかし、間違いがあるとすれば殺人ではなく殺戮──もしくは虐殺とするべきだな」

「ふうん。虐殺ね」

 虐殺。

 言葉の意味合い的に考えると村の吸血鬼とその吸血鬼の間には圧倒的な力量差があるといえる。1人の人間が多人数の人間を相手するのと同じように、1人の吸血鬼が多人数の吸血鬼を相手する事はほぼ不可能と言っていい。もちろんセンリは1人でも多人数の人間を相手に圧倒できる。つまり、多人数の吸血鬼を圧倒できるその吸血鬼も吸血鬼という枠組みから外れた吸血鬼といえる。

 センリがこの前倒した強盗竜団頭領ドラゴンドライサーはセンリの感覚的にお世辞にも見かけ倒しもいいところだった。あんなのはせいぜい吸血鬼1人と同じくらいだ。

(まあ、あまり期待できなそうね)

 とセンリは思った。

 そもそもセンリですら吸血鬼の集団を軽く返り討ちできる時点でその強さは人外もいいところではあるけれど。

「まあいいわ。わかった。まあ任せなさい。私にかかれば吸血鬼外なんて軽く倒せるからね」

 コクトーはセンリの言葉に恐怖を覚えた。

 しかし、その事を表情に出す事はなかった。

「さて、コクトー。私達は一体どこで休めばいいの?」

「宿屋があるよ。滞在中は利用料は僕が立て替えて置くとしよう」

「あら、それは助かる」

 センリが立つとエンジェも立つ。

 センリはエンジェと手を繋ぎ言う。

「それじゃエンジェ、行こうか」

「うん!」

 センリとコクトーのあまりにもつまらなくて面白くない会話が終わった事でエンジェは笑顔になる。

 センリとエンジェがコクトーの家から出て行くと、コクトーは背もたれにもたれかかり疲れたような表情でため息を吐く。

「あんな化け物は初めてだ。なまじ人間なだけにそれが顕著だ」

 あんな化け物とは言うまでもなくセンリの事である。

 コクトーはセンリとの会話に必死で対応した。

 センリという存在は長生きな吸血鬼にとっても脅威だったし驚異だった。

 先のセンリと吸血鬼達の戦闘。

 センリは頑丈で再生力がある吸血鬼の弱点を突いて来た。

 即ち吸血鬼の弱点とは殺し続ける事。そして精神的に殺す事。

 吸血鬼というのは確かに頑丈で再生力を備えている。しかし、不死ではない。あくまで再生力なのだ。

 吸血鬼が不死と間違われるほどの理由はある。まず頑丈な体で傷が付きにくい──言い換えれば殺しにくい。例え殺せても生命力で死ぬまで時間がかかる。そして死ぬ前に再生力による再生で致命傷が直る。

 つまるところ不死ではなく死んでないだけなのだ。

 しかし再生力には限界がある。

 吸血鬼は魔法を使えないが体内には膨大な魔力がある。その魔力で自動的再生をしているだけに過ぎず、魔力がなくなれば再生できなくて死ぬ。

 つまるところ殺し続ければいつか殺せるのだ。

 もう1つの弱点は精神的破壊だが、なんていう事はない。精神力は人間並みで特別強靭ではない。ただそれだけだ。

 通常、人間が1回でも吸血鬼を殺せれば英雄だろう。それくらい人間と吸血鬼の種族間には差がある。しかし、センリは吸血鬼をただの物理攻撃で何人いようと何回でも殺せる。しかもエンジェを守りながらでだ。

「ギルドランクSS串刺し姫センリ。想像以上だ。かつて最強の吸血鬼だった僕ですらあの強さの前では自信を失う」

 コクトーは宙を仰ぎそんな事を独り呟いた。

 

■■■■

 

 エンジェは人形を抱えて吸血鬼村を1人で歩いていた。

 有り体に言えば迷子だ。

「センリどこー?!」

 エンジェは叫んだ。

 エンジェはセンリと一緒に吸血鬼村を観光していた。エンジェはセンリが剣を補充しようと武器屋に寄った時に外で子供の吸血鬼が遊んでいるのを見て仲間に入れてもらい遊んでいた。その後、武器屋の近くで遊んでいたエンジェだったがセンリはエンジェが遠くに行ってしまったと勘違いしてエンジェを探すために走り去ってしまった。そんなセンリの後ろ姿を見ていたエンジェ、追いかけようにもセンリは目にも止まらぬ速さでその場から消えてしまったように見えていた。とりあえずセンリが向いていた方向に走ってみるが見つからなかった。

 一応この村にいる限りエンジェは安全だった。

「うえ~ん。センリどこなの~?」

 センリを見失っておよそ30分。エンジェはついに泣き出した。

 センリが速過ぎるが故に起こった悲劇である。

「どうしたの? 人間の女の子」

 エンジェは背後の女性の声に反応して振り返った。

「もしかしてこの女の子が、コクトーが依頼したギルドメンバーなの? まさかね」

 肩まで切り揃えられた青髪と金眼で愛想が良さそうで美人な女性だった。ジーンズのロングスカートに白いシャツの上に黒のカーディガンを羽織っている。

「何やってるの?」

「センリと迷子になったの」

 青髪金眼の女性はニヤアと笑みを浮かべた。

「へぇー。センリ……その子がね。そのセンリって人は強いの?」

「うん! とっても強いんだよ!」

 エンジェは泣くのをやめて笑顔で答えた。

 青髪金眼の女性は邪な笑みを浮かべた。

「おねえさん、名前はなんていうの?」

「吸血鬼──といえるかわからないけど吸血鬼のライトブルーよ」

「ライトブルー! よろしくね」

「うん。よろしくねエンジェ」

 ライトブルーと名乗った女はエンジェの名前を呼んで挨拶を返した。

「エンジェはどこから来たの?」

「えっとえっと……大陸から」

 間違ってはいない。

「大陸か。そういえばもう600年くらい帰ってないな」

「帰って来ればいいのに。楽しいよ」

「何が楽しいの?」

「汽車とかすごいんだよ!」

「噂には聞いた事ある。どうすごいの?」

「でかい鉄の塊が馬もなしに走るんだよ!」

「馬車か……。懐かしい」

「私なんてビックリだよ。起きたら988年後──ハッ! これは言っちゃいけないんだった!」

「え~何~? 教えてよ」

「駄目! センリに内緒って言われたの」

 しかし、時既に遅し。

 ライトブルーはエンジェの考えを読んだ。

「そうなんだ。私も1200歳くらいなんだ」

「ふ~ん。私は5歳なんだ」

「へぇ~。じゃあ私行くね」

「どこへ?」

「久し振りに遊ぼうと思ってね」

「じゃあ私と遊ぼうよ!」

「ごめん。今夜、私が勝てたら遊んであげるね」

「? わかった」

「ほらセンリさんが来るよ……。じゃあね」

 ライトブルーは逃げるようにその場から去った。

 そのすぐ後、それこそ10秒もしない内にエンジェはセンリと合流した。

 

 

 

 そして今夜。

 人外な人間による吸血鬼外な吸血鬼の討伐が始まる。

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