夜の吸血鬼村。
センリとエンジェは吸血鬼外な吸血鬼を待っていた。
センリは余裕な笑みを浮かべ、エンジェは不安な表情でセンリの体に背を預けている。
吸血鬼達はセンリの邪魔だからという理由で全員家に押し入れた。気遣いとかではなく本当に邪魔だった。
センリとエンジェは会話をしながら時間を潰す。
「吸血鬼より強い吸血鬼ってどんな人なんだろうね」
「どんなに強くてもセンリが1番強いと思う!」
「うん。ありがとう」
センリはエンジェの頭を撫でる。
(髪が気持ちいいわ)
センリは結構エンジェの流れるような髪が好きだ。
エンジェもエンジェでセンリのふわふわの髪が好きなのだが。
2人ともお互い手を繋ぎたいが、吸血鬼外が不意打ちを仕掛けて来るかも、という理由で手を繋いでない。
「エンジェは眠くない?」
「眠くない」
内心はかなり眠いエンジェ。
時間は22時を過ぎている。子供はとっくに寝る時間だし、起きてるのもツラい時間だ。
それでもエンジェは頑に寝ようとしない。
センリの勇姿を見るためだ。
正確には強盗竜団頭領ドラゴンドライサーとセンリが戦った時に魅入ってしまったという方が正しい。
もっともその時センリの戦い方は神速で一瞬で決まったはずなのに、それをせずに時間を稼いでいた。ただひとえにエンジェの前で美しくカッコ付けたかったからだが。
「ほら、もう寝なさい」
「え~!」
「大丈夫よ。寝ててもエンジェの事は守れるから。そうだ! 歌歌ってあげようか?」
「大丈夫。間に合ってるから」
センリとエンジェがイチャイチャ楽しんでいたところ、2人と距離を離した後方に吸血鬼外がいた。
青髪金眼の女性──ライトブルーだった。
ライトブルーはセンリとエンジェを見て小さく独り呟く。
「荊の塔攻略者か……。ただの人間があのアルラウネを倒したのか。380年前、ただの吸血鬼だった私はあのアルラウネに殺され続け、やっとの事で逃げるのが精いっぱいだったのに」
ライトブルーも荊の塔挑戦者の1人だった。
ある人間に頼まれて攻略を依頼された1人。しかし、これはまた別の話だ。
「何?!」
ライトブルーは4本の剣を歯でくわえ、手でつかみ取り、回避でセンリの剣を防いでいた。
つまり先程の驚いた台詞はセンリのものだった。
ライトブルーは後方にいるセンリに言う。
「まったく、不意打ちとは卑怯じゃない?」
「不意打ちをした覚えはないわ」
「そうだね。あなたは私に背を向けていたんだもんね。驚いた。まさか吸血鬼の私の目でもセンリさんの動きが見えないなんて……」
センリがライトブルーに攻撃した時の動きはライトブルーの方へ向き、走りながら剣を4本取り出し、すれ違い様に投げた。
しかし、ライトブルーはその攻撃を防いだのだ。
「さすがは吸血鬼を超えた吸血鬼ね。村人は私のスピードに為すすべもなかったのに」
「だから普通の吸血鬼の目には見えないし、吸血鬼が反応できる速さじゃないんだって。あなたの速さ──神速はね。現に私も見えなかったって言ったじゃん」
「じゃあなんで防げたの?」
「センリさんが神の如き速さ──神速なら私は神の如き読み──神読ってところかな。確かにセンリさんの速さは吸血鬼だけの身体能力だけじゃ防げない。だけど予め動きが読めれば吸血鬼の身体能力をもってすれば十分対応できる。逆に吸血鬼の身体能力が無くて神読だけでもセンリさんの神速は防げないかな」
センリは剣を両手に4本づつ計8本を取り出す。
「ライトブルー!」
エンジェはライトブルーの背に向けて叫ぶ。
ライトブルーはエンジェに顔を向ける。
「さっきぶり、エンジェ」
「ライトブルーだったんだ……」
村の吸血鬼を殺してたの。
「そうね」
ライトブルーはエンジェの心を読んで答える。
「なんで?」
「自分の強さを測るため、かな。それでもあの程度の連中じゃ相手にならなかったけれど。けどね──」
ライトブルーはセンリの方へ向き直る。
「村の連中がギルドに私の討伐を依頼すると宣言した時ははっきり言って期待してなかった。例え精霊魔導師だとしても私は負けないしね。だけどこんな大物が釣れるとは予想外だった」
センリは素っ気なく言う。
「あっそ。それは光栄ね」
「あら? 怒ってるの? 私がエンジェと親しかったから。そんなに強いのに嫉妬なんて可愛いじゃない」
「別に」
「ふむ。嫉妬くらいなら可愛いものだけれどなかなか歪んだ心を持ってるのね。センリさん」
「意味がわからないわ」
「わからなくないでしょう? まあいい」
エンジェはライトブルーの言ってる事がわからなかった。
もっとも誰が聞いても誰もわからない会話だが。
「まあ、それはそれとして──私としてはこの強さ手に入れてから初めて本気でやれそうな相手。センリさん、悪いけど手加減はしないから。あっ! エンジェには危害を加えないから安心して」
「そうみたいね。もっと悪意に満ちた人かと思ってたけどむしろ逆。君、仙人ね?」
クスリとライトブルーは笑った。
センリは神速でライトブルーの背後に回り込むと8本の剣を投げた。しかしライトブルーはそれら剣がセンリの手元から離れた刹那──ここまで来るともはや刹那の中のさらに刹那、すべての剣を両腕を振って叩き落とした。
簡単は話だ。
ライトブルーは動きを、先を、心を、思考を、空気を、状況を、流れを読んでセンリが背後に回り込む前に、投げるより先に投げる剣を叩き落すために両腕を振っていた。
これこそが正にライトブルーが持つ神読。
センリはバックステップでライトブルーから距離を取り、エンジェの側に来た。
「つまるところセンリさんがどんなに速く動けてもセンリさんが動く前に防御しとけばいいわけよ」
ライトブルーはセンリの方へ体を向けながら言った。
「一体何が起こったの?」
エンジェは呟いた。
エンジェには一連の動きが完全に見えていなかった。
センリはエンジェに言う。
「えっとね……。エンジェ、顔の前に手を出してみて」
エンジェはセンリの言う通りに手の平をセンリに見せるように出した。センリは人差し指をエンジェの手の平に付ける。
「こういう事。予め防御してればこうやって攻撃を防げるでしょ?」
「え? うん」
エンジェはセンリの言う事を理解できたが求めていた答えと違った。
「さて、センリさんの質問に答えよう。センリさんの予想通り私は仙人。云わば吸血仙鬼とでもいうのかな。センリさんは荊の塔攻略者でしょ?」
「そうだけど」
「私は荊の塔挑戦者なの」
「そうなんだ。君ほどの強さならキリー倒せたでしょう?」
「いいえ、残念ながらその時は私はただの吸血鬼だった」
「なるほどね。あれはただの吸血鬼じゃ倒せないよね。私もここ最近じゃ苦戦した相手よ。いえ、苦戦という意味じゃ初めての相手かしら。奥義を使ったからね」
「そう。私はあのアルラウネから運良く逃げる事ができたね。私も文字通り初めて死にかけて敗北をしたの。まあ、私も吸血鬼としてプライドもあったし、何よりエンジェを助けようとも思ってた」
これにはセンリもエンジェも驚いた。エンジェを助けようとしていた事に。
エンジェはライトブルーに言う。
「どうして?」
「あなたの父親──ギルドオーナーのエルエル・ベルに頼まれたの」
ギルドオーナー。すべてのギルドを束ねる者。センリやチェルノフレイ、ウッドが所属するギルドメンバーの実質トップである。
(この人の話が本当ならギルドオーナーに渡すべきは荊薙じゃなくてエンジェだったのかな?)
センリは思った。
ライトブルーはセンリを指差して言う。
「けれど今はそんな事関係ないよセンリさん。私は純粋にあなたと戦いたい」
センリはため息を吐いてから言う。
「そうね。どっちにしても君は討伐対象だしね」
「センリ……」
「行くわ」
センリは神速でライトブルーとの距離を詰めると8本の剣を投げた。ライトブルーは神読でそれを読み切って防ぐ。
センリとライトブルーが激しい攻防──この場合センリが常に攻撃でライトブルーが常に防御を繰り返している中ライトブルーが言う。
「吸血鬼の弱点って殺し続ける事と精神的に殺す事でしょ? 私は荊の塔のアルラウネと戦ってそれを痛感させられた。だから私は修行した」
センリは鞘から100本の剣を空中に放るとそれらを次々と目にも止まらない速さでライトブルーに投げて行く。ライトブルーはそれらをすべて防ぐ。
「元々優等種族の所為か身体能力はほとんど上がらなかった。だから私は自分の身体能力を上手く扱えるように修行した」
センリは弾かれて地面に転がった剣をライトブルーに向かって投げた。ライトブルーはそれを回避する。
「次に私は精神を鍛えた。この修行のおかげで私は仙人──吸血仙鬼になり吸血鬼の身体能力と仙人の精神力、そして仙人として神懸かった心や先を読む神読ができるようになった。と言っても神読というのは吸血鬼の身体能力と組み合わせて初めて能力としての神髄を発揮する。今のようにね」
この時点でセンリは既に200本近くの剣を消費していた。
センリとライトブルーはお互い距離を取っている。
「無駄口多いんじゃないの?」
「センリさんの動きが見えなくても私には喋る余裕があるだけの事じゃない?」
まさに神の如くライトブルーの読みは的中していた。
今の状態はお互い決定打がない状態である。
センリは唯一の突破口としてライトブルーを殺し続けなければならない。しかし、今の状況は殺し続けるどころか1回も殺してない状況。
一方、ライトブルーは1回でも攻撃をセンリに当てればほぼ勝ちが確定する。なぜなら、センリは神速こそ脅威ではあるが身体的耐久性は人間のそれである。例え1撃で死ななくても致命傷は避けられない。しかし、ライトブルーの神読をもってしてもセンリの神速の回避に攻撃を当てる事ができなかった。
ライトブルーは言う。
「膠着状態ね」
「そうみたい」
少なくともこの時点での体力は互角である。
ライトブルーはセンリの目の動きを読み瞬きをした間に距離を詰め腕を振り下ろす。しかし、センリはそれを見てから回避する。
センリは再びバックステップで距離を取り言う。
「キリがないわ。投擲じゃ君を倒せないみたいね」
「は?」
センリは鞘から剣を1本取り出し構える。
「☆縫い」
センリは神速でライトブルーをすれ違い様に、スパイラルを描くように剣を下から上へ振り上げた。
「ガッ!」
ライトブルーは斬られた部分を触る。血がベットリと手に付いた。
センリが持っていた剣は折れた。鞘から新しく1本の剣を取り出す。
「今まで本気じゃなかったの?」
「本気だったわ。戦い方を変えただけ」
センリはその場から動かず、振り返り様に剣を横に振るった。
するとライトブルーの体が斬れ、後ろに吹っ飛んだが倒れなかった。
センリの剣が折れる。
「流石は吸血鬼……今の☆彩で真っ二つにならないなんて。でも傷は深いみたい。まあ、それでもすぐに再生するのだろうけど」
センリの言う通りライトブルーは体の傷が回復する。
「ど、どうして防げない?!」
「簡単な事よ。君が防ぐ前に攻撃しただけ。私の動きが読まれても対応できない速さで動けば例え神読でも私の動きは防げない。それに投げて当たるまで時間を要するからね。君はその時間に絞って私の攻撃を防いでたんでしょ? だったら投げないで普通に剣を振ればいいだけよ」
センリは次々と鞘から剣を取り出し☆彩でライトブルーを斬る。斬る。
読みも何もない。センリの神速にライトブルーの神読は対応できてない。
「さあ行くわ!」
センリはさらに鞘から剣を1本取り出し☆彩を使い折れる。剣を取り出し☆彩を使い折れる。剣を取り出し☆彩を使い折れる。剣を取り出し☆彩を使い折れる。
ライトブルーは防ぐ術もないまま斬られ続ける。再生が間に合っていない。
(このままでは本当に死ぬ……。流石に荊の塔攻略者は格が違う……)
ライトブルーがそんな事を思っているとセンリの斬撃が止まった。
血まみれのライトブルーが疲弊した顔に疑問符を浮かべているとセンリは持っていた剣を鞘に仕舞う。
「な……んで……?」
「エンジェが止めてって言ったから。私としてら討伐の報酬なんかよりエンジェに嫌われる方が嫌だからね」
ライトブルーの疑問にセンリは無表情で答える。
ライトブルーがセンリの☆彩で斬り続けられている間にエンジェが、止めてと叫んだのだ。もっともライトブルーにはそれが聞く余裕がなかったので聞こえなかったけれども。
(再生しない……。どうやら魔力が切れたみたい)
ギリギリだった。
後1撃でも食らっていればライトブルーは死んでいた。
センリはエンジェの側まで歩いて行く。
エンジェのその泣き顔でぐちゃぐちゃになっていた。
センリはエンジェに目線を合わせる。
「ごめんねエンジェ。恐かった? ごめんね」
そう言うセンリの目も涙目である。
まるで諦めにも似た色をその目に彩っていた。
「ううん。センリは悪くない……。だけどライトブルーは友達だから……」
友達。
エンジェとライトブルーが話したのは僅か3分程度だった。しかし、その時確かエンジェは不安を飛ばしてくれた優しい人だった。
センリは罪悪感を覚える。
ライトブルーにではない。エンジェにだ。
だからセンリはライトブルーを見逃す。
(討伐失敗。私の負けか……)
「ライトブルー、私は君を討伐しないわ。エンジェに感謝しなさい」
センリはライトブルーに言った。
「なるほど……確かに命拾いしたよ。ありがとうエンジェ、センリさん」
「なんで私にも感謝するの? 殺そうとしたのに」
「センリさんは討伐依頼を受けただけでしょう? 私はこの村の吸血鬼達に対してそれだけの事をしたからね」
「私は別に報酬がほしかっただけよ。村の恨みとか復讐とかどうでもいいの。君を殺したら割りに合わないし」
「私の負け。流石は荊の塔攻略者ね」
「そう……。君もその状態でここにいたら村の吸血鬼に殺されるよ。早く逃げなさい」
「そうさせてもらう」
センリとエンジェは逃げるライトブルーの背中を見送った。
傷だらけのライトブルーは住処がある山中を歩いている。
「エンジェは大丈夫かな? いえ、エンジェよりヒドいのはセンリさん。結果的に1番傷付いてたのはセンリさん。私は負けと自分で言ってフォローしたけど……。いや、負けたのは事実なんだけどセンリさんがそう思ってない。それにしてもまさか助けようとした人間に助けられるなんて思わなかった」
ライトブルーは笑みを零して住処目指して歩いた。