吸血鬼村でライトブルーを逃がした後、村の吸血鬼達とまた一悶着起こしたセンリは村の吸血鬼達との戦闘した後に船に乗り大陸にある港町ドルンマーに戻った。
そんなセンリとエンジェはギルド本部がある『光の国』にある都市ウインクに向かう予定だった。
理由はライトブルーがギルドオーナーはエンジェの父親だと言ったため、センリはエンジェに会わせようとしたからだ。
肝心の光の国の都市ウインクの場所だが面倒な事に港町ドルンマーとはちょうど大陸の反対の位置にある。
都市ブルーブルーからの汽車が動けば20日ほどで到着するのだが、肝心の汽車が動かない。
センリだけなら歩いて行けるのだが、子供のエンジェは汽車で20日の距離を歩き続けられないだろう。
という事でセンリとエンジェは用もなしにギルドにあるランクSのギルドメンバーだけが使える部屋に滞在していた。
ランクSSのセンリには誰も文句言えないし文句言う気にもならなかった。
そして今。
センリは都市ブルーブルー近隣の魔物討伐の依頼をこなしていて、エンジェは都市ブルーブルーの子供と遊んでいた。
■■■■
都市ブルーブルーのとある広場。
エンジェは友達のネリネと人形遊びを終えてセンリがエンジェにもたせたお菓子を2人で食べていた。
「いいな~。エンジェはお姉さんがいて」
「ネリネにはパパとママがいるじゃない」
「そうだけど……」
エンジェとお喋りしてる相手はネリネ・ガーネットというエンジェと同い年の少女である。
赤毛緑眼でエンジェより少し背が高い。どこかのお嬢様なのか身に付けている物もドレスからアクセサリーまで高級感が漂っている。
「だけどセンリお姉さんカッコいいじゃん! この前ブルーブルーに来た悪者を倒したんでしょ?」
「センリは可愛いの! 確かにカッコいいけど……」
エンジェは照れながらネリネに反論する。
都市ブルーブルーを強盗竜団から守った。そして異例のギルドランクSSへの昇格。
これらにより都市ブルーブルーではセンリは時の人となっていた。
エンジェは吸血鬼村から出た時のセンリを思い出す。
相変わらず吸血鬼達を圧倒する強さのセンリはエンジェの目にはカッコよく映っていた。しかし、同時に弱々しく見えた。今にも泣きそうだったセンリの姿はあまりにも心配になりまた綺麗だった。
とても5歳とは思えないセンリへの印象判断だが本当にそう思ったんだから仕方ない。
エンジェも自分自身なんて言ったらわからないが、まるでセンリには何かが欠落しているように見えた。それはエンジェでも壊せそうなほど脆そうでガラスのように綺麗だった。
そんな事は知らないネリネにエンジェは言う。
「私が言うんだからセンリは可愛いの!」
「なんでよ?!」
「だって私の方がセンリと一緒にいるもん!」
ふとエンジェの頭の片隅にセンリをおねえさんと呼んだ女性を思い浮かべた。
エンジェは黙り込む。
センリをおねえさんと呼んだという事はそれなりに親しい関係だという事は聡いエンジェにはわかる。
(あの女の人と会った時のセンリ……嬉しそうだった)
エンジェは嫌な気持ちでいっぱいになった。
それは所謂独占欲という感情なのかもしれないがエンジェにはわからなかった。
「どうしたのエンジェ?」
「ううん。なんでもない」
お菓子を食べ終えた2人はネリネの案内によって都市ブルーブルーの探検を始めた。
もっとも探検といってもただの遊びなうえに子供2人では動ける範囲だって限られる。
しかし、エンジェとネリネは運悪くというべきか、それとも運良くというべきか。
2人は決して入る事ができない場所に入る事になる。
エンジェとネリネが空を見れば青空が広がっている。しかし、その青空は切り取られている。
そこは暗闇というほどではないが明るくて影懸かっている。
そこは所謂路地裏と呼ばれる場所。
路地裏と言えば不良やらが闊歩したり、裏社会の住人が闇取引したりするイメージが浮かぶだろうがエンジェとネリネが入った路地裏はまさにその通りの場所だった。
しかし、幸運にも路地裏には2人の他に誰もいなかった。
2人は人形を抱えて手を繋いでいる。
エンジェは泣きそうになりながら言葉を発する。
「ネリネ~……ここどこなの? なんか恐いね」
ネリネも強がって答える。
「ここはブルーブルーの路地裏だよ」
確かに路地裏だ。
しかし、この路地裏はギルドメンバーや政府や国の人間すら滅多に近づかない路地裏である。
そもそもここは簡単に入れる場所ではないのだが、見張り役の裏の住人が本当にたまたま偶然にも持ち場を離れていたのである。
一般人が入れば身包みを剥がされた挙げ句行く末は奴隷かリンチの末に殺される。
だからこそ2人が未だに見つかっていないのは運が良いのだ。
「とりあえず出口探そう!」
ネリネは言った。
「来た道戻るの?」
「まあ、それがベストな解決方法だね」
もちろんエンジェもネリネもここが裏社会が支配する場所だとは思ってない。そもそも知らない。
子供なりに用心はしている。しかしその詰めは甘いと云わざるを得ない。
エンジェとネリネが路地裏を戻っている途中。
地面ではない。壁に足を付けて上から2人を見ている者がいた。
その者は呟く。
「ふむ、ガキが2人か……。2人とも顔は整っているな。これなら奴隷商に高値で売れるだろ。しかし、あのガキ共どこかで見覚えがあるな」
その者は思い出す。
「そうか。黒髪のガキは串刺し姫センリと一緒にいるガキ、赤毛の方は最高政府蛇の国のブルーブルー直属魔法部隊隊長ブレンダ・ガーネットの娘か!」
大物だった。
この2人を捕まえれば奴隷商に売るなり身の代金を要求するなりして億万長者も夢ではない。
しかし、リスクがあった。
その者にとってブレンダ・ガーネットは大した問題ではない。大き過ぎる問題はセンリの方だった。
裏社会の住人でセンリの名を知らない者はいない。むしろ表の住人よりその名は轟いていると言っても過言ではない。
裏社会の住人にとってセンリといえば裏社会最強の秘密結社を1人で壊滅に追い込んだ人間。裏社会ではセンリに触れないようにしているくらいだ。
下手を打てば裏社会が壊滅される恐れすらある。
「だが逆を言えばこれはセンリを葬るチャンスじゃねーか。あのガキを人質に取ればな!」
その者はエンジェとネリネを拉致するために動こうとした時。
その者はどこからともなく現れた鎖に巻かれ始めた。
「なっ! なんだこれは?!」
その者の体中に鎖が巻かれると、鎖がその者を締め付ける。
「ぐ! ぎゃ! がああああああ!!」
やがてその者は破裂する。
空には大きな鎖に座り路地裏を見下ろしている金髪碧眼の少女──チェルノフレイがいた。
その者を鎖で締め殺したのはチェルノフレイの精霊魔法だった。
「まったく……偶然私が路地裏に入るのを見ていたから良かったものの……。一歩間違えば表に戻って来られませんでしたわ。センリったらエンジェに路地裏の事教えてませんでしたわね。いえ、知らなかったのかしら? とりあえず後でセンリとエンジェに路地裏の事を教えておく必要がありますわ」
チェルノフレイはエンジェとネリネが路地裏から出るのを見送るとその場から離れた。
だが、偶然にもエンジェもネリネもチェルノフレイもチェルノフレイに締め殺された者も気付かなかったが今までの事を見ていた者がいた。
むしろこれは偶然とは言えないかもしれない。
先にも述べた通りエンジェとネリネが入った時には誰もいなかったし、帰る時もチェルノフレイに締め殺された者しかいなかった。
しかし、確かにすべてを見ていた者はそこにいなかった。
誰もいなくなった路地裏ですべてを見ていた者は現れた。否、むしろそれは発生したと表現した方が的確かもしれない。
発生したそれは美しい女性の姿だった。
ウェーブがかった長い黒髪、赤い瞳、褐色肌で長身、起伏の激しいスタイルが良い女性。
「エンジェティーネ・ベル」
発生した女性はそう呟くとエンジェの後を追うために歩き出す。