ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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若荊
串刺し姫


 センリという女は町を目指しながら道を歩いている。しかし、その目はあまりにも高い塔に奪われている。

 ふわふわしたおかっぱの白髪、白い瞳、それなりに整った顔立ちだが割と童顔、スタイルも悪くない。太ももが見えるくらい短いジーンズのパンツ、この一帯は暑いため上は袖の短い紺色のシャツだ。持ち物も必要最低限の中身が詰まったバッグと鞘だけだった。

「あれが有名な名も無き魔導師が作った塔か……」

 センリは一言独り言を呟いた。

 その塔は荊国の観光名所の一つで塔の名前は『荊の塔』。塔の高さは雲にも届きそうなほど高く、まるで拘束するかのように塔に荊が絡みついている。もっとも観光名所と言っても中には入る事ができず、見せ物の側面が強い。

 そしてセンリが向かっているのは荊の塔に最も近い町『ロズモンド』だ。

 センリはさらに歩くと目的地であるロズモンドが見えた。

 

 

 

 思ったより活気がないな。

 これが町に入った時にセンリが抱いた感想だった。すぐ近くには有名な茨の塔があるのに観光客がほとんどいない。

 センリは宿屋に入る前にギルドに寄った。ギルドはそこそこ賑わっているようだ。

 ギルドとはメンバーに登録している者が仕事の依頼を受ける事ができる一種の派遣業のような物だ。主な仕事は薬剤師や商人のための材料集めや魔物狩り、メンバーランクが高いと要人の護衛などの仕事を受ける事ができる。

 そもそもセンリがこの町のギルドに来た理由はお金が底を尽きかけ、偶然旅の道中にこの町があったからだ。つまり、お金がないから宿屋を取る事もできないのだ。

 センリはカウンターにいる可愛いけど地味な顔の受け付け係の女にメンバーカードを見せた。

「えっと……これはメンバーランクSですか?! えっと名前は……ええっ?! なんでこんな大物がこんな寂れた町に?!」

(自分で寂れた町って言ったよこの受け付け……)

 メンバーランクは下からC、B、A、Sと大きくなる。ちなみにこのメンバーランクは個人を評価する基準にも使われたりする。

「それで? この町には何か仕事はあるの?」

「ちょっと待ってください!」

「できれば手っ取り早そうな魔物退治とかがいいんだけど……」

 受け付け係はファイルをめくる。その顔は興奮を隠し切れず、目をキラキラさせている。やがて受け付け係はファイルから紙を取り出しセンリに見せる。

「この仕事はランクA相当のものです。最近、この町に、ハイエナ型の魔物が群れで襲って来てるんですよ。それでテン──」

「センリでいいよ。むしろセンリでお願い」

「えっと、センリ様にはこの魔物群を討伐していただきたいのです。相当な数ですけど1人で大丈夫ですか? よろしければこちらで他のメンバーの援軍を用意しますが?」

「いや、大丈夫」

(メンバーが多くなると報酬金の分配が発生するからね)

「ですよね!」

 受け付けの女は極上のスマイルでセンリに同意した。

 それにセンリからすると中途半端な強さの援軍など足手纏いで邪魔なだけなのだ。

「それでその魔物の群れの巣とかわかるかな? 直接潰しに行きたいんだけど……」

「それがわからないんです。最近、強い魔物がこの辺りでも増えて屈強な兵士やメンバーが巣の捜索に行ったきり帰らないというのもよく起こりますし……」

「わかった。じゃあハイエナの魔物は一匹どの程度の強さなの?」

「ランクB相当とだと思われます」

「余裕かな」

「余裕綽々ですね!」

「そうだね。それで魔物はだいたいどのくらいの時間に襲撃して来るの?」

「はい! いつも通りなら後1時間以内に襲撃して来ると思います」

「そう。ありがとう」

 センリは手続きを終えると立ち去った。

 センリがギルドから出て行った後、センリを対応した受け付け係の女の周りを職員や建物内にいたメンバーが囲った。

「今の女の子ランクSなの?」

「そうですよ!」

 受け付け係の女はなぜか誇らしげに答えた。

「センリってのなら聞いた事あるぜ。確か──」

「そう! 通称『串刺し姫』です! 私、大ファンなんですよ!」

「ああ、だから冷静なのにテンパってたのか……」

「テンパってませんよ!」

「まあ、それはそれとしてランクSのメンバーならハイエナの魔物くらい余裕だな」

「そうですね。この町のメンバーも兵士も情けないですからね。だけどもう安心ですね!」

「おい。お前失礼過ぎるぞ……」

「そうだ! 私、見に行って来ます!」

「おい! 無視すんな!」

 受け付け係の女は職務を放棄して走り出した。

 

 

 

 センリは町にある北と南の出入り口のほぼ真ん中の位置で待機していた。魔物の群れはそのどちらかの出入り口から襲撃して来るらしいとセンリは聞いた。

 そこまでわかっていれば罠でも仕掛けられそうなものだがあまりにも群れの数が多過ぎて罠が足りなくなったそうだ。

 センリは宙を仰ぎ見て呟く。

「まあ、余裕かな」

 もし町の出入り口の近くに魔物が現れたら他のギルドメンバーから狼煙で連絡が入る手筈だ。この町は小さいためセンリが全速力で走ればものの5分で出入り口に着く。

 結局は他のギルドメンバーを頼る形になっていたがボランティアという事でセンリは喜んで協力してもらった。要は報酬金が全部手元にくればいいのだ。現金な人である。

 やがてセンリの目が狼煙を捉えた。方角は北の出入り口だった。センリは走り出す。

 センリが北の出入り口に到着した頃には既に魔物が町に入り込もうとしていた。

「無理だよ」

 センリの言葉とともに1本の剣が正に町に踏み込もうとする魔物を貫く。センリはただ言葉と一緒に剣を投げただけだ。

 センリが鞘の口に手をかざすと鞘の中に剣が現れた。すると一瞬でさらに8体の魔物に向かって8本の剣を投げて刺した。魔物の群れがたじろぐ中、センリは立ち止まり魔物の群れと対峙した。センリはさらに鞘から2本の剣を取り出して言う。

「さて……一騎当千といくわね。串刺しにしてあげる」

 センリは穏やかに笑みを浮かべて剣を投げた。

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