ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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アンノウン

 路地裏で発生した女性は路地裏から表通りに入る。

 当たり前の事であるが女性は民衆の目を奪った。

 理由は明白である。

 全裸。しかしそれ以上に路地裏から出て来たという状況の方が問題だった。

 その女性が奴隷にしろ裏社会の住人にしろ厄介だった。

「エンジェティーネ・ベル」

 女性が言葉を発すると民衆がどよめく。

 しかし、当のエンジェはネリネとともに路地裏から早く離れるために既にいなかった。

 女性は臭いを嗅ぐ。

「捉えた」

 女性はそれだけ言うと民衆の上をジャンプした。

 

 

 

 エンジェとネリネは先程まで人形遊びをしていた広場まで戻って来た。

「恐かった~」

 そう言ったのはエンジェ。

「まさかブルーブルーにあんなところがあるなんて……」

 2人は本当に運良く戻って来る事ができたと云わざるを得ない。

 しかし一難去ってまた一難。

 エンジェとネリネの前に裸の女性──発生した女性が空から落ちて来た。

 女性は華麗に着地する。

 そんな女性を見てエンジェとネリネは口を開いて呆然とする。

「エンジェティーネ・ベル」

 エンジェは名前を呼ばれてビクっとする。

「すみません。服とかありませんか?」

「へ?」

 女性は特に恥ずかしさを感じさせずにエンジェに言い放った。

 

■■■■

 

 ギルドの大広間。

 エンジェ、センリ、チェルノフレイのテーブルを挟んだ向かいに路地裏で発生した女性が椅子に座っていた。

 女性はもちろん服は着ている。

 エンジェはネリネを帰した後、女性を連れてギルドに帰った。ちょうど居合わせたチェルノフレイに服を貸してくれとエンジェは頼み、女性は今キツキツのゴスロリドレスを着ている。チェルノフレイがエンジェに問い質そうとしたところにセンリが魔物討伐から戻って来てこの状況に至る。

「それで君の名前は?」

 センリが女性に至極当然な質問した。

「アンノウンです」

 名前なのか不明なのか女性はよくわからない答えを出した。

「う~ん……じゃあアンノウンはどこから来たの?」

 センリは女性の名前をアンノウンとして質問した。

「路地裏です」

「路地裏?」

 センリは路地裏と聞いても裏社会としての路地裏を知らないため特に突っ込みはいれないし、事の重大さに気付かない。

 しかし、大広間にいるギルドメンバーは騒然とする。

「何? どうしたの?」

 センリとエンジェは戸惑う。

 要領を得てないセンリにチェルノフレイは教える。

「ブルーブルーには路地裏と呼ばれる裏社会が支配する場所があるんですわ」

「そうなの」

「まあ、ブルーブルーすべての路地裏がそういうわけではないし、むしろそういう地区の方が少ないですけれど……。エンジェの事と統合して考える限りこの人──アンノウンは間違いなくその路地裏から出てると考えていいと思いますわ」

 ここで言うエンジェの事とはエンジェとネリネが知らずに路地裏に入った事である。

「もっともアンノウンが裏社会の住人か奴隷かそれ以外かは判断が付きかねますけれど、アンノウンが名前なら奴隷とかそのあたりだと思いますわ」

 アンノウンはそれを聞くとエンジェを見て言う。

「エンジェティーネ・ベル。私はあなたを助けに来ました」

 センリはどこかで聞いた事あるような言葉に嫌な予感を覚える。

 それはつい最近、センリと一戦と交えた仙人となった吸血鬼──ライトブルーの言葉と被る。

 その言葉に反応したのはアンノウンに呼ばれた本人──エンジェ。

「アンノウン……あなたもパパに言われたの?」

「パパ? あの魔導師はエンジェティーネ・ベルの父親だったのですか。エンジェのパパは女の人だったんですね」

「うん? 私のパパは男だよ?」

「え? 本人が女だって言ってましたよ?」

(エンジェのパパさんってオネエ系なのかな?)

 エンジェとアンノウンの会話にこれまた微妙なツッコミを内心でするセンリ。

「どうしようセンリ……。パパが女になっちゃった……」

「大丈夫だよエンジェ。よくある話だから。ハンバーグがおいしいレストランの店長だって女の人みたいな喋り方でしょ?」

「あのカッコいい人……。パパもカッコいいかな?」

「カッコいいに決まってるじゃない」

 センリはエンジェの顔を見つめて目を逸らす。

(まあエンジェの父親だし、なかなかの美形でしょうね。ただ、まあ、なるほど──魔導師なら長生きしてる理由も納得ね。オネエ系だけど)

 一方、チェルノフレイは別の事を考えている。

 否、感じていると言った方が的確だろう。

(本当にエンジェが言ってるパパとアンノウンが言ってるエンジェのパパは同一人物なのかしら? というより別人なんじゃ……)

 ちなみにチェルノフレイ含めてブルーブルーのギルドメンバーのほとんどはエンジェが荊の塔から出て来たのをセンリから聞いている。

 なのでチェルノフレイは言う。

「アンノウン、その魔導師の名前はなんですの?」

 アンノウンは特に気にする風もなく答える。

「名前は聞いてませんね。ただ彼は自分の事をエンジェティーネ・ベルを助ける善の魔導師と言ってましたね」

「! …………」

 善の魔導師。

 その単語にエンジェは反応する。

 エンジェは以前に善の魔導師という魔導師に出会っている。

 中性的だが男性のようにハンサムな美女だった。

(違う! パパじゃない!)

 エンジェはそう言いたかった。

 しかし、エンジェには呪いがかけられている。

 善の魔導師の事を口にしたら口を噤む呪い。

「善の魔導師? 何その嘘臭い名前?」

「間違いなく偽名ですわね」

 センリとチェルノフレイは言った。

 センリもチェルノフレイも何も疑問に思わない。正確には違う疑問を持ってはいるが……。

 しかし、幸運にもアンノウンは続ける。

「確か彼は私を荊の塔1000年目の10人目の勇者だと言ってましたね」

 今度はセンリが反応する。

 センリは荊の塔の最上階──エンジェを助け、バラが彫られた剣があった部屋、エンジェと荊の塔から脱出しようとした時の事を思い出す。

 100年目の1人目、誰かの一番弟子。

 200年目の2人目、妖精剣士。

 300年目の3人目、誰かが作った氷の精霊。

 400年目の4人目、東方の仙人。

 500年目の5人目、怪力自慢の虎人。

 600年目の6人目、最速の鳥人。

 700年目の7人目、神の子。

 800年目の8人目、海賊。

 900年目の9人目、武装した男。

 そして──

 1000年目の10人目、悪魔と人間のハーフ。

(もしかして私は勘違いをしてる? 悪い魔法使いが残した100年毎に1人を予想していたのを送ってた人はエンジェの父親だと思ったけど……他にもエンジェを助けようとしていた人がいた? という事はアンノウンは人間と悪魔のハーフ?)

 にわかに信じがたい。

 なぜなら、この世界に悪魔と呼ばれる種族も魔物も動物もいないからだ。

 けれども、種族も魔物も動物もいないが言葉は存在する。

 つまり、悪魔というのは早い話が架空の生き物なのだ。神話や民話などに出て来るだけのただの架空の生き物。

(という事は神の子も強ち嘘ではないのかな? まあ、今はそんな事はいいわ)

 センリは言う。

「エンジェ……残念だけどこの人はエンジェのパパに頼まれた人ではないみたい」

「うん。……」

 エンジェは呪いの所為で善の魔導師について追及できない。

 だが幸運にもセンリに善の魔導師の存在が伝わった。

「さて、アンノウン──君は人間と悪魔のハーフだよね?」

「? 私は精霊とその善の魔導師が作ったRウィルスの融合体ですよ」

「は?」

 センリは思わぬ返しにマヌケな声を出してしまった。

 エンジェやチェルノフレイ、聞き耳を立てていたギルドメンバーもマヌケな顔をしている。

「Rウィルスって何?」

「幽霊に融合──この場合は寄生の方が正しいですね。幽霊に寄生して体を──あっ! 幽霊だから体なんてないですけどね。その幽霊にRウィルスが寄生する事によってその幽体を実体化させ て、その体をRウィルスの思い通りに動かす事ができるのです!」

「という事は君はRウィルスの人格なの?」

「その通りですね。たまたま壁に立ってた人が鎖に巻かれて死んだのでその幽体に寄生しました」

 センリはチェルノフレイを見る。チェルノフレイは目を逸らす。

「仕方なかったんですわ! エンジェが路地裏に入って身を狙われていましたんですもの!」

「別に責めてるわけじゃないよ。まあ、そういう理由ならむしろお礼を言いたいくらいね。ありがとうチェル」

「い、いえ、どういたしまして」

 チェルノフレイは照れる。

「それで……君はもしかして寄生する相手を間違えたんじゃないの? 善の魔導師に人間と悪魔のハーフに寄生するように言われなかったの?」

「いえ、別にその辺は指定されませんでしたね。私が寄生すれば最強になれるらしいですし」

「へぇ……」

 悪魔という単語を過剰に出すセンリにチェルノフレイは反応する。

「センリ、先程からあなたは悪魔悪魔と言ってますけれど悪魔がどうしたんですの?」

「エンジェを荊の塔に閉じ込めた悪い魔法使い──いや、エンジェを助けたのが善の魔導師ならエンジェを閉じ込めたのは悪の魔導師としよう。とにかく悪の魔導師は100年毎に荊の塔を攻略する挑戦者を予測なのか予知なのかわからないけどしていたらしいわ。まあ、この状況から察するにエンジェを閉じ込めた悪の魔導師から善の魔導師が助け出す構図ね。ただ、どうもゲームめいてるわ」

「ゲーム?」

 センリの言葉に反応したのはエンジェ。

「100年という節目に1人挑戦者を送る。完全にゲームよね」

 エンジェは善の魔導師と会った時の事を思い出す。

 善の魔導師は、引き分け、だと言っていた。

 エンジェはセンリの言いたい事がわかった。

 エンジェ自身どんな言葉で現したらいいかわからない。けれどももう少し年齢を重ねていればこう思うだろう。

 オモチャにされた、と。

 センリは続ける。

「許せないわ。善の魔導師や悪の魔導師とかいうふざけた人達」

「そうですね。生みの親とはいえなかなかヒドいですね」

「それで君はどうするの?」

「私ですか?」

「君以外いないじゃない。この通りエンジェは既に荊の塔から助け出してるし、今更荊の塔を攻略しに行く意味もないでしょ?」

「そうですね。じゃあ私もこのギルドに入ります」

「まあ、別にいいんじゃない」

「それでセンリはさっきから悪魔と言ってましたがどうしたのですか?」

 アンノウンは話題が終わると質問する。

「いやね、悪の魔導師は善の魔導師が荊の塔に送る挑戦者の予想に人間と悪魔のハーフというのがいるのよ。どうもそれが気になってね」

「この体は純粋に人間ですね」

「そもそも悪魔なんて見た事ありませんわ」

「所詮は悪の魔導師のただの予想だ。深く考えても仕方ないわ」

 センリは考えても無駄だと考え4人でトランプをしようと提案した。

 

 

 

 その少し後、センリはウッドに依頼の協力を持ちかけられる。

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