依頼の待ち合わせの町『クラシック』に向けて走っている。
センリに依頼の協力を要請した虎人ウッドが。
センリはエンジェを抱えてウッドの上で言う。
「早く速く。速く走らないと今日中にクラシックに着かないわよ」
「俺を足に使いやがって……」
「君が協力を持ちかけた依頼でしょうが。私は依頼料を半分の半分で受けてるんだから足くらいになりなよ。馬車馬のようにね」
「なぜ馬車を使わないのか……」
「君の走りは馬車馬より速いからね。交通費も発生しないし」
「ランクSの依頼じゃなきゃお前に頼まねーよ」
「ランクAの君が受ける依頼じゃないわね」
センリとウッドの会話におずおずエンジェが割り込む。
「ごめんなさいウッド。私の所為で……」
「エンジェの所為じゃないわ。依頼の協力を持ちかけたこの虎が悪いんだから。自業自得ね」
センリはウッドが答える前に答えた。
センリ的には依頼を持ちかけたウッドがすべて悪い事になっている。
エンジェがいないならセンリも自分で走ったがエンジェがいたのでウッドに乗っかる事にした。
そもそも当初はエンジェはブルーブルーに置いて行くつもりだった。
ところが、私の側にいるのがどこよりも安全だから連れて行く、とセンリが言ったのだ。完全にわがままである。
さらに、こんなか弱い女の子を歩かせるつもり? ともセンリは言った。
そのような経緯でセンリ、エンジェ、ウッドはクラシックに向かっている。
■■■■
センリ達がクラシックに向かっているのとほぼ同時期。
めでたくギルドメンバーになったアンノウンとチェルノフレイも依頼をこなしていた。
とは言ってもギルドメンバーになったばかりのアンノウンが受けた依頼だ。大した仕事ではない。ギルドランクC級の依頼だ。
アンノウンのギルドランクはC。ギルドランクとしてはギルド加入最初はみんなランクCなので普通な事だ。
そんなアンノウンが受けた依頼内容は行方不明の猫探し。ランクCならこの程度である。
さてさて、この依頼は早めに片が付いた。
問題はこの後に起こる事だ。
都市ブルーブルーはあくまでも蛇の国の中にある1つの町に過ぎない。
簡単に言うと国直属の軍隊が都市ブルーブルーに在留しているのだ。
そのうえ、その軍隊というのがまた曲者で竜騎士隊という軍の中でも高い位置に属する隊だ。構成員はほとんど竜人であり剣や鎧を装備している。
竜人は基本的に獰猛で差別的な性格である。差別的という意味ではどの種族も差別的なところはあるが竜人はその中でもかなり差別的だ。この前の強盗竜団を思い出せばその獰猛さと差別的な性格はわかるだろう。
話は戻ってその竜騎士隊も例によって獰猛で差別的だ。店では金を払わず、通行人が邪魔なら殴り飛ばし、市民が逆らえば即死刑よくてリンチ。強盗竜団と違ってその存在自体が国の公式部隊なので尚更質が悪い。蛇の国の市民は歩く災害と呼ぶほどだ。
そんな竜騎士隊と──チェルノフレイとアンノウンは対峙していた。
理由は簡単だ。
竜騎士隊が死刑を行っていたからだ。死刑相手は親子だった。男の子が竜騎士隊の1人にぶつかり、怒り狂った竜騎士隊から母親が男の子を庇い謝っても、竜騎士隊は親子ともども死刑と称して殺した。罪状は男の子の方に暴行罪、母親の方に公務執行妨害。
そんな成り行きを偶然見ていたギルドのチェルノフレイとアンノウンはキレた。ただそれだけだ。
竜騎士隊隊長が言う。
「貴様ら何者だ? 我々を竜騎士隊と知っての愚行か?」
チェルノフレイとアンノウンは答える。
「ギルドランクS──チェルノフレイ!」
「ギルドランクCのアンノウンです!」
それを見ていた民衆が歓声に湧く。
民衆は竜騎士隊を恐れながらも怒りも感じていた。
「ギルドか……。よもや蛇の国最強の部隊──竜騎士隊に喧嘩を売るとは……死刑だな」
竜騎士隊はそれぞれ剣を構える。
チェルノフレイはアンノウンに尋ねる。
「アンノウン、あなた戦えますの?」
「一応。これでも善の魔導師から英才教育を施されましたから。チェルさん、半分ずつにしましょう」
「自信あり気ですわね。様子見も兼ねてあなたの意見に賛成しますわ」
チェルノフレイは竜騎士隊の足元から細い鎖を出現させて巻き付ける。竜騎士隊は鎖を引きちぎる。その後、さらに一回り大きい鎖を空中から出現させて竜騎士隊の数人を巻き付ける。鎖は鎧を破壊しながら締まって行く。
「な、なんだこれ?!」
「締まって……! や、やめてくれ!」
「罪状は無実の罪を与えた疑いかしら? 身も心も束縛してあげますわ」
竜騎士隊の1人がチェルノフレイに向けて走って行く。しかし、両者の間に距離があり過ぎた。走る竜騎士隊の目の前の地面から鎖が出現し鎧とその体を貫通させた。その竜騎士隊は体に鎖を通して宙吊りにされた。
「大した事ないですわ。この人達に比べたら本当に強盗竜団は強かったですわ。なるほど、だから竜騎士隊は強盗竜団を迎え撃たなかったんですわね。……さて、アンノウンは?」
チェルノフレイはアンノウンを見る。
チェルノフレイが見た時はアンノウンはまだ1人も竜騎士隊を倒してなかった。
(竜人相手に接近戦?)
アンノウンは竜騎士隊の1人を相手にしていた。
アンノウンは竜騎士隊の剣を回避しながらチェルノフレイに言う。
「チェルさんに私の能力を解説しましょう。私には大別して2つの能力があります。1つ目が──」
チェルノフレイは剣を回避するとジャンプして壁に立つ。
「宿主が生前に持っていた能力です。この場合、この宿主は重力移しという壁や天井に自分の重力を移す能力を持っていたみたいですね。もちろん宿主が生前能力を持っていなければこの能力は当然ありませんが、逆にたくさんの能力を持っていればそれだけの能力が使えます」
「ふ~ん」
チェルノフレイは適当に応えると、アンノウンはさらに続ける。
「そして……これはRウィルスが独自に持つ──」
アンノウンが竜騎士隊に向かって壁を駆け出す。そして、自身の両手を結合させて自分と同じくらいの大きさの斧を作り出す。その斧を竜騎士隊の1人に自身が受けている重力の方向──壁に向かって振り下ろす。斧は竜騎士隊の鎧を破壊して体を押しつぶした。
「変身能力です」
早い話がRウィルスには2つの能力、『引き継ぎ』と『変身』があるのだ。アンノウンが使った重力移しは、エンジェとネリネが裏路地に入った時に2人を拉致しようとしてチェルノフレイに殺された人間の能力であった。
アンノウンは一旦腕を通常状態に戻すと、足をバネの形にする。
そしてジャンプする。しかしそのジャンプは壁からのジャンプ。地面と平行のジャンプ。
アンノウンは重力を反対の壁に移して落ちる。落ちる先には竜騎士隊隊長。
アンノウンはニヤリと笑う。
隊長はその強大な竜人の腕を振るう。アンノウンは地面──この場合は重力が1番働く普通の地面を重力を移さずに蹴り、隊長を腕をかわしながら落下スピードを加速させる。
そして重力に身を任せ、体を捻り体の向きを変えながら足を斧にして踵落としを決める。無論、落ちる方向は下にではなく横だけれど。
隊長の鎧は壊れ、硬い鱗を破りながら斧が肉を裂いて食い込む。
「お……が……あ~」
隊長はカッコ悪い呻き声を出して倒れた。
アンノウンは重力を地面に戻して立つ。
(強い……。けれど多人数を相手する戦いは苦手そうですわね)
チェルノフレイは残った竜騎士隊を鎖で縛り、一気に締め上げた。
断末魔の叫びはやがて聞こえなくなる。
チェルノフレイは鎖を消してアンノウンに言う。
「なかなか強いですわね」
「そうですか? これでもエンジェを助け出すために英才教育を受けましたからね!」
「さっきも聞きましたわ」
(おそらく1体1なら私より強いですわ。それでも強さはギルドランクS級、センリの足下にも及びませんわね)
そもそもセンリならこの程度の強さでこの程度の数は一瞬で串刺し。勝負にすらならない。
竜騎士隊の倒したチェルノフレイとアンノウンに盛大な歓声が上がった。