ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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魔神眼

 センリ、エンジェ、ウッドが蛇の国に属する町の1つクラシックに着いたのは都市ブルーブルーを出発してから半日後だった。

 さらにその5時間後には依頼を終えている。否、実質まだ続いていると言えるかもしれない。

 センリの前にはロープで縛られて目隠しされている男女2人組がいる。

 男はスーツで青髪をオールバックにしている。女はチェックのワンピースで同じく長い青髪をサイドテールにしている。

 その様は何かプレイに及んでいるように見えるが、これはどちらかというと拷問である。

 事実、センリはその男女の首に剣を突き付けている。脅しだ。

 センリは言う。

「さて、君達はどこに所属してる人達かな? 魔神眼持ちでそれなりの実力者だから最高政府の公務員? それとも最大裏会社の社員かしら?」

 センリとウッドが受けた依頼はとある果物の収穫および農夫と果樹園のガードだった。

 なぜこの果樹園のガードがランクSの依頼かというと、果物がとても高価だからだ。

 ちなみにウッドは警備担当。センリとエンジェは収穫担当となり、2人は農夫がその高価な果物をたくさんくれたので休憩中はそれを食べながら作業をした。

 そして事件は起きる。

 件の男女2人組が果樹園を襲った。それをセンリとウッドが向かいうち、見事捕縛した。

「首をはねたくなかったら喋りなさい。自分を大事にするか、任務を大事にするか」

 男の方が喋る。

「『魔神眼』を使えばお前くらい……」

 センリは男の側頭部を蹴る。手加減して。

「うぐ……」

 センリは再び首に剣を当てて言う。

「魔神眼を使えれば? 言っとくけど私は君達の魔神眼を両方攻略したのよ。表の感受特性も裏の攻撃特性もね」

 魔神眼。所謂特殊能力を持った眼の事である。魔神眼はセンリの言った表と裏──感受特性と攻撃特性で1つの能力である。感受特性は物事を見る事に特化した能力で普通の人と同じ眼、攻撃特性は魔力を使い見てる物事に影響を及ぼす能力で眼に特別な紋様が現れる。世界中で確認されている魔神眼は全部で10種類。

 例えば──センリが捕らえた男の魔神眼の感受特性は粒子を見る能力で、攻撃特性は焦点が合った物を分解する能力である。これは一般に『解嚼眼』と呼ばれる凶悪な魔神眼である。

 また、ついでに女の方は感受特性が正確に光と闇を見る能力で、攻撃特性は見ているところを闇に染める能力。こちらは一般に『闇曇眼』と呼ばれる。

 センリは女の顎に剣の側面を当てて持ち上げて言う。

「3度目は言わないよ。君達はどこの組織所属なの?」

「待って! 言うから!」

「そう? 素直な子は好きよ。まずは名前を聞こうかしら」

 センリは男女から剣を引き離し鞘に収めた。

 女は観念して話す。

「私はホワイト・リールス。それでこっちが──」

「兄のバレンタイン・リールスだ。こっちからも質問いいか?」

「どうぞ」

「あんたは何者だ? あの虎人はそれほどではなかったがあんたは強過ぎる。魔神眼の裏はともかく、表はどんなに速くてもある程度は目で追えるが俺達はあんたを目で追えなかった。一体何をした?」

「なるほど……君達の質問はわかった。その前に私の質問に答えてもらうわ」

「仕方ないか」

「所属組織を言いなさい」

「最大裏会社よ」

「へぇ……。それで果樹園を襲撃した目的は?」

「知らないな。俺達はただ襲撃しろ、と命令されただけだからな」

「ふ~ん……。まあ期待してなかったわ。とりあえず君達は警備隊に連行させてもらうわね」

「ま、待って! 結局あなたは誰なの?」

 質問を聞き終えたセンリにホワイトは先程と同じ質問をした。

「ギルド所属ギルドランクSS──異名は串刺し姫」

「んなっ!」

「はあ!」

 ホワイトとバレンタインは声を揃えて驚いた。

 当然といえば当然。

 センリはかつて裏社会で最強の秘密結社を壊滅させた過去がある。それ以来、裏社会ではセンリの要求はすべて応え、センリとの戦闘は可能な限り回避するよう暗黙の了解がある。仮にセンリの怒りにでも触れれば最悪の可能性として裏社会そのもの消滅する可能性もあるからだ。

 ホワイトとバレンタインはむしろ任務失敗よりも重い失敗をしてしまったといえる。ほぼ確実に裏社会によって殺される。

 しかし、バレンタインはセンリに先程までの殺気がない事に気付いた。

 バレンタインとホワイトの耳にセンリと少女──エンジェの声が聞こえた。

「エンジェ……なんで来たの? 危ないよ」

「ごめんなさい! でも……この人達悪い人じゃないよ」

「どうして分かるの?」

「見れば分かるの。だってセンリやチェルと同じ色だもん。絶対良い人になるから許して上げて」

「……わかったわ。でもギルドには連行するわ。一応犯罪者だから」

「うん! やっぱりセンリは優しいね」

「エ、エンジェの方が優しいじゃない。こんな人達を許すなんて」

「パパが言ってたの。悪い人はなりたくて悪い人になったんじゃないって」

「ふ~ん」

「センリ、屈んで屈んで」

「何?」

「イイコイイコなでなで」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと何?!」

「パパとかママは良い子だとエンジェにこうしてくれるよ。嫌だった?」

「別に嫌じゃないけど……」

「嬉しかった?」

「うぅ~……」

「嬉しかった?」

「嬉しかった」

「良かった!」

(何だこれ?)

 ホワイトとバレンタインはセンリとエンジェの会話を聞いて同じ事を思った。

 自分達に向けていた殺気と威嚇たっぷりのセンリの声がデレデレでテレテレの可愛い声になった。

 色々な意味で予想外だった。

 兎にも角にもホワイトとバレンタインは安堵する。ひとまずは首の皮が繋がったからだ。

 

■■■■

 

 センリ、エンジェ、ウッドは依頼を終えて都市ブルーブルーに戻っている道中だった。

 無論、捕らえたホワイトとバレンタインも一緒だ。

 今回は人数も人数なのでセンリは自腹を切って車を用意した。そこに大きい体で車に乗れないウッドを除いた4人が乗車している。

 センリとエンジェは隣り同士に座り、向かいにはホワイトとバレンタインが座っている。

 ホワイトとバレンタインは拘束をされてはいるが目隠しは外れている。エンジェがセンリにそうお願いしたからだ。

 兄妹の2人は美形でよく似ていた。

「言っとくけど馬鹿な真似はしないでね。この状況下でも私はエンジェを守りながらでも君達を殺せるんだからね」

「わかってる。最強秘密結社の『十目の狼』を倒したお前に勝てるとは思ってない。それにお嬢ちゃんには仮があるしな」

 センリの脅しに応えたのはバレンタインだ。

 十目の狼とは最強秘密結社所属のメンバーで10種類すべて魔神眼を備えた人狼だが、死んだ者を説明してもしょうがないので割愛する。

「センリさんはどうやってあの最強秘密結社を壊滅させたの? 裏社会どころか表社会でもあれを壊滅させられる組織はないと言われてたのに……」

「君達にしたように剣を投げてればあの程度壊滅できるわ。確かに普通の組織とは比べものにならないくらい強い組織だったのは間違いないけどね。まあ、私抜きのギルドで束になって戦っても確実に負けるくらいの強い──正に最強の組織ね」

 リールス兄妹はドン引きである。

 バレンタインは言う。

「怪我とかしなかったのか?」

「私は女よ。この完璧で綺麗な体に傷を付けるわけないでしょう。これでも戦闘中は気を使ってるの」

 エンジェはセンリを見て驚く。

 幼いエンジェですらセンリの強さは尋常でない事はわかっている。おそらく自分では絶対に辿り着けない領域の強さ。

(まさか、そんな事を考えながら戦ってたなんて……)

 もはやエンジェもドン引き。

「それでセンリはこの人達をギルドに連れてどうするの?」

「エンジェはどうしたい? これはエンジェの独断よ。私はエンジェの判断をできる限りサポートするだけだからね」

 エンジェは考える。

 エンジェが荊の塔で眠る少し前──パールミリオでお姫さまをしていた時にも似たような状況があった。

 メイドが国の機密情報を国外に流した。エンジェの父親でありパールミリオの王──エルエルはそのメイドを処刑すると言った。機密情報を流したのだからエルエルの判断は妥当といえば妥当だ。しかし、エンジェはそのメイドが好きだった。可愛くて、エンジェにとっては優しくて良い人だったから。だからエンジェは反発した。結果、メイドは処刑された。

 エンジェは考える。

 ホワイトとバレンタイン。2人は良い人だ。理由はわからないがわかる。だからこそチャンスを与えても良いのではないかと思っていた。

 エンジェは2人に言う。

「2人ともギルドに入りなよ! そうすれば最大裏会社とかいうのも簡単に手を出せないよ! バレンタインもホワイトもムリヤリ悪い事させられていただけでしょ?」

 ホワイトとバレンタインは黙り込む。

 実はエンジェはエンジェなりに考えての発言だがあまりにも幼稚だった。しかし、言っていた事は実にドンピシャだった。

 ホワイトとバレンタインの兄妹もちょっと前までは表社会の住人だった。両者とも魔神眼はその時から開眼していた。しかし、最大裏会社は2人の魔神眼に目を付けて2人の家族を皆殺しして拉致した。逃げ出したくても規模が違い過ぎて2人の力だけでは逃げ出せなかった。

 しかし、2人には今ギルド──というよりセンリという後ろ盾がある。エンジェが頼めばセンリは最大裏会社を潰しに行く。だけど最大裏会社はセンリとの全面戦争(もっともこの場合はセンリの大虐殺になるだろうが)は避けたい。だからこそ2人の安全は保証される。

「もしかして大陸で10年前にあった魔神眼狩りの被害者?」

 センリは何気なく聞いてみた。

「まあな。今更被害者振るつもりはないが」

「魔神眼狩り?」

 バレンタインの言葉を聞きエンジェはセンリに尋ねる。

「10年前、私はこの大陸に住んでなかったからあまり知らないけれど大陸で魔神眼持ちを拉致しまくったらしいね。私の住んでた極東の島国にも飛び火して大陸の人達が私の国の魔神眼持ちも狩り始めたのよね。私も危うく知り合いが拉致されかけたわ」

 ホワイトが補足するように説明を始める。

「10年前はどういう理由かわからないけど、あらゆる国が大規模な戦争をしようとしていた。その中でも魔神眼──特に魔狂眼は今の魔法を主とする戦争において重要視されたから、強力な精霊魔法も無効にできるしね。それで裏社会は国に売るためにこぞって魔神眼狩りをしたわけ。結局戦争は起きず熱も沈静化して国も魔神眼を買わなくなった。それでも使い勝っての良い『流懲眼』持ちや優秀な奴らは売れてった。……で、売れ残った私達みたいなのは裏社会で働いてるわけ」

「ふ~ん。通りで弱いわけね」

「お前が強過ぎるんだよセンリ。これでも俺らはエリートだぞ」

「へぇ……。最大裏会社も大した事もないわね」

 センリの完全に馬鹿にした発言だが、最大裏会社がセンリからすれば大した事ないのも事実といえば事実だった。

 その時だった。

 車の屋根が心地悪い高い音を立てて捻れた。

 4人は呆然と晴天を見上げている。

 最初に言葉を発したのはバレンタインだった。

「これって『空葬眼』だよな」

 センリは扉を開けて外に出る。

「エンジェ、車から出ないでね」

「……うん」

 センリは鞘から2本の剣を取り出し両手に持つ。

 相対した人物は少女だった。

 長く艶やかなサラサラな黒髪はツインテールにしていて、容姿はセンリと同じく極東の国のような顔付き、黒いドレスを優雅に着こなしている。

 センリの幼馴染み──アイカがいた。

 但し、その目なブラウンの瞳ではなく、空色の瞳に星型の12面体が回っている。それは空葬眼の攻撃特性の紋様だった。




とりあえずお詫びです。
ごめんなさい。
以前出た、そしてこれから先も出るであろう「青いバラ」の花言葉の事です。
どうやら今の花言葉は「奇跡、神の祝福とか」らしいですね。
日本の企業とイタリアだかオーストラリアの共同研究で開発されて以来「不可能とか」そのニュアンスの言葉から前述のニュアンスの言葉に変わったらしいですね。
言い訳のつもりではないですけど私は開発の際にてっきり奇跡とかの花言葉が追加されたものとばかり思ってました。
青いバラの花言葉は後でも使うんですが不可能の方も使う予定なので予め告知しておきます。
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