空葬眼。
感受特性──全方位が見えて、視力で見える距離は物影や裏側や自分自身が見える。攻撃特性──瞳は空色になり星型12面体の紋様が回り、焦点を合わせた空間を捻る。10種ある魔神眼の中で最強と名高い魔神眼である。
それがセンリの幼馴染みアイカの持つ魔神眼である。
しかし、アイカの空葬眼の真価は攻撃特性ではない。
「こんにちはアイカ。元気だった?」
「こんにちはおねえちゃん。会えて嬉しいな。約束通り復讐しに来てあげたよ」
「そう。それは嬉しいわ。今すぐにでも私を捻ればいいのに」
「おねえちゃんに空葬眼の攻撃は避けられるだけじゃん」
アイカの目はいつものブラウンの瞳に戻った。攻撃特性を解いて感受特性に切り替えたのだ。
それを見ていたバレンタインは同じく見ていたホワイトに言う。
「あの女……センリ相手に攻撃特性を使わないのか?」
「あの人達知り合いみたいだね」
「センリに空葬眼の攻撃が効かないのは知ってるみたいだしな。どっちにしても空葬眼の攻撃特性を使わなきゃ勝ち目ないだろ」
センリとアイカはバレンタインとホワイトの言葉を聞いていた。
アイカは言葉を紡ぐ。
「やっぱりそういう認識なんだね。空葬眼って……」
「そうだね。まあ、私はアイカの空葬眼の攻撃特性よりあっちの方が苦手よ」
アイカは優雅に笑みを浮かべるとアイカを守るように空から2人の人間が落ちて来た。
1人は全身華美な鎧を身に纏って両手にライオンの顔が付いた大きな盾を持ち、側頭部と後頭部に目が付いた兜を被った大男。もう1人は両手が剣になっている小さな男。
そして大男の目には盾のような5角形の模様の魔神眼──『防断眼』。小さい男には時計のような模様の魔神眼──『時減眼』。
センリはそれらを見て言う。
「相変わらずビャッコ作の人形は壮観だわ」
その男達は人形だった。
精巧に作られた人間のような人形だ。但し、その目だけは人間のものだった。
アイカ・ニシテンマ。ニシテンマとは極東の島国のとある一族だった。ニシテンマの一族は代々人形を扱う家系である。空葬眼はあくまでたまたまアイカが開眼しただけの事である。
言うなればアイカの真価は家系直伝の人形操作技術と空葬眼の感受特性による合わせ技だった。
「行くね。おねえちゃん」
小さい方の人形の目が通常の目に戻ると姿が消える。否、視認できない程の速さで動いた。但し、センリはそれより速く動ける。
アイカの人形技術には魔力の糸で自分自身と人形の感覚を共有する技術がある。それは視覚を共有できるという事でもあった。つまり、アイカは時減眼の視界を見ている。
時減眼。すべてが遅く見える感受特性と視界の範囲を遅くする攻撃特性を持つ魔神眼。
この小さな人形は時減眼に加え、速さを追求するために限りなく軽量化を図った人形だった。
センリと小さな人形は刹那、剣を交える。
エンジェ、バレンタイン、ホワイトの耳に剣と剣がぶつかり合う音が聞こえた。
「なんて戦いだ。魔神眼の感受特性でも捉え切れない!」
「センリも化け物だけどあのアイカとかいう娘も相当切れてるね」
バレンタインとホワイトが言った。
エンジェはその戦況(見えないが)を見て違和感を覚える。センリとアイカ──まるでお互い相手に合わせているような……。
(まるで踊っているみたい……。む~、センリ楽しそう……)
さてさて、その戦況はどうなっているかというと──
小さな人形はセンリの神速に追い付けない。しかし、速さには対応できる。
むしろ小さな人形は十分仕事をしている。
センリは8本の剣をアイカに向けて投げた。
アイカは大きい人形の防断眼の攻撃特性を発動した。大きい人形の側頭部の防断眼の盾の模様が光る。
アイカの横から飛んで来る剣を絶対防御のバリアーが阻む!
防断眼の攻撃特性──それは視野の範囲だけ平面のバリアーを張る事ができる。しかし、視野の広さだけバリアーを張るという性質上、自分から近いほどバリアーが狭くなるという弱点もあるが。
「本当に嫌らしい戦い方ね。アイカ」
「おねえちゃんに出し惜しみなんてするわけないじゃん」
小さい人形の時減眼の感受特性で動きを見切り、大きい人形の防断眼の攻撃特性で防御する。
完璧な戦術だった。
センリはアイカに言う。
「疲れてるじゃない。大丈夫?」
「疲れてない」
「顔が辛そうよ」
「そう? 心配してくれるなんて嬉しいな~」
アイカは限界だった。
空葬眼の視界、防断眼の視界、時減眼の視界すべてをアイカは同時に見ている状態だった。精密性や正確性に気を遣う人形操作技術に加え、センリの動きに合わせた動きもある。さらにアイカは魔力の糸に常に魔力を供給し、防断眼の攻撃特性にも魔力を使った。
まだ戦えるが、結果は完全にわかっていた。
「やっぱり、おねえちゃんは強いね」
アイカは踵を返す。
「ちょっと私はこれ以上戦えないな。また復讐に来るから私の事覚えててね? おねえちゃん」
「何、その可愛い捨て台詞? 私がアイカの事を忘れるわけないじゃない」
「それは超嬉しいな~」
アイカはそれだけ言い残して人形を連れて足早にセンリ達から離れて行った。
センリもエンジェの元へ戻って行く。
「大丈夫? センリ」
「見ての通り無傷よ」
そもそも先の戦闘でセンリもアイカもダメージを負っていない。
センリは車に乗り込み、晴天を見上げる。
「今日が雨じゃなくて良かったわ」
「本当だね。雨だったらびしょびしょだよ。晴れてて良かったね!」
エンジェはセンリにくっつく。
「いやいや! ちょっと待てよ!」
センリとエンジェがほのぼのしようとしていると、バレンタインがそれを遮った。
「何? 君、五月蝿いよ」
「可笑しいだろ! なんであんな激しい戦闘の後でそんなにのほほんとしてられるんだよ?!」
「お互い死んでないんだから別にいいじゃない」
「まるでお互い死なない事を望んでたみたいな言い方だな?」
「彼女は私の大事な掛け替えのない可愛い自慢の幼馴染みよ。少なくとも私は彼女を殺す気はないわ」
「身内には甘いんだな」
「当然よ。エンジェやアイカ、ギルドの仲間達や友人達を守るためなら私は万人の敵とも最強の敵とも戦うわ」
センリは穏やかで優しい──それでいて余裕な笑みを浮かべる。
アイカの襲撃後、4人は約3時間車に揺られて都市ブルーブルーに到着した。
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車の窓に映る夜空を見上げてアイカは思う。
(おねえちゃん凄かったな。おねえちゃんと戦うのも久しぶりだった。…………でもやっぱり私はおねえちゃんと仲良くしたい。遊びたい。なんであの時──おねえちゃんは一族殺しを否定してくれなかったの? ううん。答えはわかってる。だからこそ私はおねえちゃんに復讐する。復讐しなくちゃいけない。これは私のためにかな? おねえちゃんのためにかな?)
アイカは車に揺られる。
目的のために……。