ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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抗争

 都市ブルーブルーは蛇の国が誇る巨大都市である。都市の中心にあるのはブルーブルーの由来となったブルーブルー教会があり、それが都市が発展するのに重要な足掛かりとなっている。もっともその宗教のブルーブルー教自体が廃れてしまったのだから皮肉な話だが……。

 そもそもその都市ブルーブルーがどのような発展したか?

 都市というのは大体は海岸沿いに発展する。理由としては港での貿易があるからだ。都市ブルーブルーはというと海岸から徒歩で半日であり近いだろう。理由の1つとして商業が栄えている事。

 2つ目と理由として先程取り上げた大陸でも有数の観光地ブルーブルー教会がある事。

 3つ目として大きいギルドの支部がある事。

 4つ目、裏社会と繋がりがある裏路地と呼ばれる場所があり犯罪組織がのさばっている事。

 5つ目、蛇の国の軍隊がよく駐在している事。

 6つ目は最高政府が積極的に関わっている事。

 これらの理由により都市ブルーブルーは発展した。

 しかし、この理由はメリットばかりではない。発展した理由の内4つは大勢力によるものだ。

 ギルド、蛇の国の政府、最高政府、最大裏会社やその他組織……。

 都市ブルーブルーではこれらの勢力間の問題が浮き彫りになった。

 

■■■■

 

 センリ、エンジェ、ホワイト、バレンタイン、少し遅れてウッドが都市ブルーブルーに戻ると町は大変な惨状になっていた。

 センリがそれを見て言う。

「さて……これはどういう事かしら?」

 センリはエンジェを抱えるとウッドに言う。

「ウッド、君はこの2人をギルドに連れて生きなさい。私な様子を見て来るから」

「おう! 任された!」

 ホワイトはエンジェを見て言う。

「あの……エンジェを連れて行くの? 危なくない?」

「私の側が1番安全よ」

「そうね。ごめん」

 ホワイトは呆れて反論をやめる。

「でもまあ、虎人に魔神眼持ち2人ならエンジェも安全かしら?」

「センリ、私ならセンリがいなくても大丈夫だよ?」

(それはそれで寂しいわ)

 センリはウッドの肩にエンジェを乗せた。

「いい、ウッド? エンジェに傷の1つも付けないように全力で命を賭けて守りなさい」

「お、おう」

「バレンタインとホワイトもよ!」

「は、はい!」

「わかったわかった」

 センリはジャンプして建物の上に飛び移り、4人に向かって言う。

「じゃあ偵察行って来るわ。できるようならこの状況の根本を制圧して来る」

「頑張ってねー! センリー!」

 エンジェがセンリに手を大きく振る。

 センリもエンジェに手を小さく振る。

 するとセンリはその場から消えた。

 ウッド、バレンタイン、ホワイトはデレデレしたセンリの顔を見て色々な意味で不安になった。

 

 

 

 途中何者かに襲われるもウッド、バレンタイン、ホワイトはそれらを返り討ちにしてギルドに到着した。

 施設に入るとそこには怪我をしたギルドメンバーがたくさんいた。

 かくいうエンジェを除いた3人も先の戦闘で満身創痍だが。

 それを見たバレンタインが呟く。

「これはヒドい。大きい勢力の1つのギルドがこんなになってるなんて……」

「あら? ウッドにエンジェ、戻ってましたの?」

 チェルノフレイがエンジェ達に近づきながら問う。

 ウッドが答える。

「ああ、ついさっきな。それよりヒデーな。何があったんだ?」

「抗争ですわ。ギルド、最高政府軍隊、最大裏会社のね」

 ウッドら3人は絶句する。

 それでもウッドは口をムリヤリ開く。

「な、なぜそんな事に?」

 その3大勢力の抗争は下手な国同士の戦争より質が悪く激しい。とある学者の諸説であり、机上の空論とバカにされた言葉ではあるがウッドら3人──どころか今回の抗争に関わった者達はその通りだと納得せざるを得なかった。

「軍隊の方は私とアンノウンの所為かしら? 最大裏会社の方はわからないですわ」

「センリが原因を潰して来るとか言って黒幕を探しに行ったんだが」

「止めなさいよ! ここで最高政府と最大裏会社が崩壊したらカオスでしょうが!」

「最高政府と最大裏会社が絡んでるなんて知らなかったんだよ!」

 センリならばおそらくこの抗争を止めてしまうだろうとギルドメンバーは思った。

 逆に言うならば表社会を支配する最高政府と裏社会を支配する最大裏会社の両方崩壊という最悪のシナリオが出来上がる。

 ギルド内は別の意味で絶望一色だった。

 バランスが崩れたとかではなく、バランスそのものが消えてしまう。

「いやいや、いくらセンリでもそのくらいわかりますわよね?」

「アイツ……依頼者が可哀想という理由だけで最強秘密結社壊滅させたよな」

「……もはや不安とかじゃなくて覚悟を決める必要がありそうですわ」

 ギルドメンバーとリールス兄妹は考える。

「とりあえず……リン!」

「はい!」

 チェルノフレイがテレパシーの妖精リンことリングベリーを呼んだ。

「センリ様に事情を説明するんですね!」

 幼児特有の高く舌っ足らずの声でリンは言った。

「ええ、頼める?」

「任せてください!」

 リンは早速ギルドから出て行った。

 ウッドはリンを見送りながら言う。

「大丈夫かアイツ?」

「リンは優秀だから大丈夫ですわ。それよりエンジェは大丈夫?」

 エンジェは俯いていた。

「大丈夫かしらエンジェ?」

「大丈夫よ。ギルドランクSのチェルノフレイさん」

「は?」

 エンジェは懐からナイフを取り出すと自分自身の首に押し当てた。

 周りにいた人達はエンジェから離れる。

「ちょ、ちょっとエンジェ?!」

「危ないからそれをこっちに寄越せ!」

 エンジェはクスクス邪悪に笑みを浮かべる。

「悪いけど私はエンジェという名前ではないの」

「何を言ってるんだエンジェ?!」

「ロール・テイル。あなた達が最大裏会社と呼ぶ組織の社員よ。肩書きは組織内部課課長」

 ギルドメンバーがざわめいた。

 バレンタインとホワイトは苦い表情になる。

 バレンタインが言う。

「ロール・テイル……。組織内部課のオーガンクラッシャーか……」

「その通りよ魔神眼課のバレンタインさん」

 チェルノフレイはバレンタインに言う。

「えっとバレンタインでしたっけ? この人は何なんですの?」

「コイツはゴーストだ。他者の生物に憑依する能力を持ってる。組織内部課所属で外部組織を崩壊させるのがコイツの役割だ」

「ありがとうですわ。大体わかりましたわ」

(だとしたら私の精霊魔法イマジンチェーンで対処できますわ。後はあれの隙を見つけてイマジンチェーンで縛れれば……)

 頂点精霊魔導師チェルノフレイにはエンジェの肉体からロールの憑依を引き離す精霊魔法があった。

 しかし、状況はエンジェの首にナイフ。一歩間違えれば引き離しても不幸にも首にナイフの刃が一閃するかもしれないため迂闊に引き離せなかった。

「ちょっとバレンタインさん、せっかく助けようとしているのに相手方に手の内を暴露してどうするのよ。もしかして最大裏会社を抜けようとしてる?」

 バレンタインはロールから目を放してしまった。

「なるほどね。串刺し姫センリに関わった挙げ句任務の失敗、そして今はそっちに寝返ろうとしているのね。だけど私はあなた達兄妹が戻って来るのを拒否するようなら殺してもいいと言われてるんだよね。それにギルドも崩壊させろという命令だしね」

(くっ……。エンジェに何かあったらセンリの狙いをこちらに定める可能性もありますわ。……ん?)

 チェルノフレイは天井を見る。

 そこには天井に立つアンノウンの姿があった。

 アンノウンは人差し指を口に持って行き、チェルノフレイに口を紡ぐように伝える。

(不幸中の幸いですわ! 後はアンノウンと意思疎通さえできれば……)

 アンノウンの変身能力を使えばあのナイフを取り上げる事ができるとチェルノフレイは考えた。

 しかし、アンノウンはチェルノフレイの考える使い方以外の使い方でエンジェが持つナイフを取り上げようとした。

 すなわち、腕を伸ばして取り上げようとしていた。

(そうじゃありませんわ!)

 アンノウンがソロリソロリとエンジェのナイフに手を伸ばしてる中、チェルノフレイは空中で小さい鎖を出してその腕を拘束した。

 アンノウンはチェルノフレイを睨み付けた。

(違いますわ! そうではなくてあれをこうして、あれをあーしたらそれをこうするのですわ!)

 もちろんアイコンタクトだけでは伝わるわけもなく、もはやお互いガン付け合ってるようにしか見えなかった。

 もちろんロールがそれに気付かないはずもなく、チェルノフレイの視線の先を追ったロールは天井に立つアンノウンを見つけてしまった。

「んなっ! お前は確か──!」

「今ですわ!」

 エンジェの首からナイフが僅かに離れた。チェルノフレイはその隙間に小さい鎖を出現させてエンジェの首を守るようにした。

 ナイフと鎖がカキンと当たる。

「何?!」

「その身を束縛して差し上げますわ!」

 虹色の鎖がエンジェに巻き付いた。

 それを引き上げると鎖はエンジェの体を通り抜け、金髪の女性──ロールがエンジェの体から鎖に縛られて出て来た。幽霊だからその姿は透けているけれど。

 ロールは虚空から出現した鎖で手を、床から出現した鎖で足を拘束されている。

 それを見てチェルノフレイは満足そうに言う。

「頂点精霊魔法イマジンチェーン。幽霊など触れる事が出来ない存在に触れる事ができる鎖ですわ」

 アンノウンは床に足を着けてエンジェをロールから離してアンノウンは言う。

「大丈夫ですか? エンジェ」

「うん。チェルが助けてくれたから平気だよ」

「それは良かったです」

 ギルドメンバーが見守る中、チェルノフレイはロールに言う。

「死んでる人に言うのもおかしいけれど、このイマジンチェーンは幽霊でも幻でも殺す事ができるんですわ」

 チェルノフレイはロールを縛ってる鎖を締め付ける。

 ロールは苦悶の表情を浮かべる。

 しかし、ロールは後に余裕の笑みを浮かべる。

「ここで私を抹消しても最大裏会社の目的はわからなくなるよ」

「どういう事ですの?」

「言うわけないじゃん」

 チェルノフレイはさらに鎖を締め付ける。

「ですわね。ならば吐くまで拷問ですわ。鎖の頂点精霊魔法の真価──身も心も束縛してあげますわ」

 

 

 

 チェルノフレイによる1時間の拷問の末、ロールは口を割る事はなかった。

 

■■■■

 

 さてさてセンリの方はどうなっているかというと……。

「串刺し姫! 噂には聞いていたがなかなか麗しいじゃねーか!」

「それはどうも。で? 私に何か用かしら?」

 建物の屋根の上で剣を持った男に絡まれていた。

「俺は通称最大裏会社の前衛戦闘課平社員『竜巻突き』のブックさ!」

「そんな事聞いてないわ」

「そうだったな。俺達の仕事のために、悪いが足止めさせてもらうぜ!」

「だったら身も心も──」

「だが美しいものが好きな慈悲深い俺が選ばせてやるぜ!」

「話しを──」

「俺に殺されるか、俺に媚びるかをな!」

(うざっ……)

「じゃあ……君を殺すわね」

「俺を殺す? ハッ! それは不可能だ!」

「どうして?」

「必殺技──竜巻突きはいくらお前がギルドランクSSの実力者だとしても防御不可能さ!」

 竜巻突き。ブックが持ち得る技の中で最大最強の必殺技。剣の突きで爆発のような竜巻を起こして相手を殺す技である。

「どうすればそんなに自信に満ちるのかしら?」

「お前の強者の傲慢ほどじゃねーよ」

「傲慢だなんて……ヒドいわ」

「最強秘密結社を壊滅させといてよく言う」

「最強秘密結社なんて大した強さではないわ」

「それが傲慢以外なんて言うんだよ! あんな化け物集団、最大裏会社の総力を以てしても壊滅なんて不可能だ!」

(五月蝿いわ。この人……)

「まあいい。最後の警告だ! 俺と戦って殺されるか? 俺に可愛く命乞いするかだ!」

 センリにとってもはや考える必要もなかった。

「君が死ねばいいじゃない」

「あくまでも逆らうのか。死ねえ! 必殺──竜巻突き!」

 ブックは剣の先をセンリに向けて、攻撃を仕掛けた。

「ふ~ん」

 センリは鞘かは剣を1本抜くと、剣の側面でブックの突きを防いだ。

「何?!」

 センリはそのまま剣を弾き飛ばし、自らの剣を投げてブックの体を串刺した。

 ブックはあっさりと、それこそ潰された蟻のように絶命した。

「結局、竜巻突きって何よ。ただの突きじゃない」

 その竜巻突きはセンリがあっさりと防いでしまったわけだが……。

「それにしても最大裏会社絡みなのね。う~ん……あの2人絡みかしら? 合理的な考えとはいえあの2人は私達側に寝返ったはずだけど……。あ! だからか。魔神眼持ちだしね。特にバレンタインの方は最凶の攻撃特性を持つ解嚼眼だったわけだし。あ~、という事はあの2人といると逆にエンジェが危険ね。忙いで戻らないと」

 センリはギルドのある方へ向かおうと踵を返す。

 そこには美少年というべきセンリと同い年くらいの橙色の髪と眼を持つ少年がいた。

「え~と……どちら様? もしかしてナンパ? 今日はナンパが多いわ。容姿を褒められるのは嬉しいものね。でもそれとこれとは話が別よ。私には心に決めた子がいるから」

 センリは吹っ切れていた。

 少年が言う。

「ナンパではないかな。いや、ナンパと言えばナンパかも。悪いけれど僕とちょっと遊んでよ」

 少年の眼に時計のような紋様が現れた。

 少年の視界に入っている空間の時の流れが遅くなる。

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