橙色の髪の少年は時減眼を感受特性に戻した。
体を後ろに向けると、そこにはセンリが両手に剣を1本ずつ持って立っていた。
「なるほど最強秘密結社の十目の狼を殺した事実だったというわけか」
「私的にはあの目が10個付いてた気持ち悪い狼人さんは最強秘密結社の中では弱い方だったわ。なんでみんなあれを神格化してるのかしら? あの10個の魔神眼も使いこなしてなかったし……」
「はは、噂以上の化け物だね。串刺し姫センリ……。まさかこんな単純だけど難易度の高い方法で魔神眼を対処するなんて……」
魔神眼の攻撃特性を対処する方法は有名なものとして3つある。
1つ目は相手の視界を遮る事。魔神眼の影響範囲はそれぞれ少し異なるが、共通点として攻撃特性は最低でも目に映ったものにしか干渉できないし、そのうえ攻撃特性の間は感受特性が使えない。つまり視界を遮れば攻撃特性の効力を大幅に下げる事ができる。例えば、相手の視界を遮るように布を投げたり、部屋を暗くしたりなどだ。
2つ目は魔力切れ。1回攻撃特性使うために消費する魔力は魔神眼の種類や使用時間などで魔力切れする時間はまちまちではあるけれど。
3つ目は相手の視界から外れる事。視界の空間にのみしか干渉しないなら単純に視界から外れれば良いだけの事だ。通常、感受特性から攻撃特性あるいはその逆に切り替える瞬間に攻撃してない攻撃特性──つまり常人と同じ目になるタイムラグが存在する。そのタイムラグで視界から外れる。
センリが行った対処方法は3つ目の視界から外れる事。もちろん、人智を越えた速さである神速を使えるセンリだからこそ出来た芸当である。
「とりあえず……君は誰?」
センリは少年に言った。
「僕は最大裏会社の社員だよ。本名はハンドとでも呼んでよ。界隈では『千手魔神』とも呼ばれているよ」
「大した2つ名だこと」
「そうかもね」
「それで? 私に何かよう? 時減眼だけに時間稼ぎが目的なんでしょう?」
ハンドは腕を組んで一呼吸考えてから言う。
「あまり目的をベラベラ言うのもよくないけれど……戦闘だけじゃほとんど時間を稼げそうもないから話そうか」
さて、とハンドは始めてから言う。
「まずは僕の自己紹介からだよね。僕は最大裏会社前衛戦闘課所属の課長さ。僕の目的は君の足止めによゆ時間稼ぎだけれど、これはあくまで作戦を成功させるための作戦の一部かな。裏社会の暗黙の了解として串刺し姫センリにはあまり接触しないというのがあるんだけど──」
「なんでそんな暗黙の了解が?」
「君が最強秘密結社を壊滅させたからでしょ」
「なるほど」
「話を戻すよ。もし串刺し姫センリが理由や目的はどうあれ僕達の作戦にイレギュラーで介入した場合、確実に僕達の目的は失敗に終わる。ならば最初から串刺し姫センリの事を作戦に組み込めば良い」
「ふ~ん。で? 目的は?」
「そう急かないでよ。こっちだって時間稼ぎに必死なんだからさ」
「そう。じゃあ早く続けて。私も暇じゃないの」
「そうかい? 僕達最大裏会社の最大目的は蛇の国の王族抹殺だよ。ある国の依頼でね。最大裏会社史上最大の依頼報酬なんだ」
「蛇の国の王族を殺してどうするの?」
「依頼主の意図はわからないよ。そもそも王族達は昨日からお忍びでブルーブルーに来ていたんだ。だから護衛も竜騎士隊しかいなかったしね。僕達はそれを利用してるだけさ。第1段階の竜騎士隊の排除も束縛天使チェルノフレイと褐色肌の女性がしてくれたしね。もっとも無自覚とはいえギルドも王族を守ってるけどね。だからこそブルーブルーもこの有り様なわけだけど」
センリはチェルノフレイとアンノウンが竜騎士隊を撃破した顛末を知らない。
センリ自身もあの竜騎士隊の事が嫌いなため竜騎士隊の末路などどうでもいいが、流石にこの展開には苦言したかった。
「状況も教えようか? 蛇の国の政府、最高政府から援軍が送られて来て、それらと最大裏会社、ギルドの三つ巴というところだね。とは言っても政府側はほぼ壊滅状態だけどね。援軍が来る頃には王族抹殺は終わってるかな」
センリは溜め息を吐いて、戦闘態勢に入る。
「丁寧な状況説明どうも。大体理解できたわ。時間稼ぎは終わりね。さっさと君を倒させてもらうわ」
「串刺し姫センリはせっかちだね。まあ聞けよ」
(まだ何か話すのね)
センリは少しウンザリしていた。
「端的に言えば僕は時間稼ぎをしているわけだけども、とりあえず僕の戦い方について説明しようか。僕は魔神眼の1つである時減眼を持っているわけだけれども、他にも僕は強力な能力を持っている。何かわかるかい?」
「知らないわ」
「少しは考えてくれよ。時間稼ぎにならないじゃないか。じゃあ答えを言うよ? 答えは手と鳳凰を司る精霊魔法さ。しかも頂点精霊だね。すごいだろ?」
「確かにすごいわ。魔神眼と頂点精霊魔法の両立した人は初めて見たわ」
「そうだろう? 精霊魔法と魔神眼──特に魔神眼の攻撃特性の中でトップクラスで魔力の消費が激しい時減眼との両立なんて自分で言うのも難だけどなかなかいないよ。串刺し姫センリには改めて時減眼の説明なんていらないだろうから頂点精霊魔法のハンドの説明でもさせてもらおうかな? 簡単に説明すると手を作る魔法だね。あらゆる生物の手を魔力で作って操るんだ。はっきり言って手の精霊魔法と時減眼の攻撃特性は相性最悪だね。だって視界の空間は問答無用で流れる時間を遅くするからね。魔力の消費量も半端ないし。だけど感受特性は手の精霊魔法とすごく相性が良いんだよね」
「ふ~ん」
センリは剣を投げた。
常人には見えないセンリの投擲モーション。格闘技の達人すら見える事はない神速の投擲。
しかし、ハンドには時減眼の感受特性によりそのモーションが見えている。
ハンドは精霊魔法で自身を覆うほどの手を作り出してギリギリ剣を防いだ。
ハンドは言う。
「時減眼で見ても尚この速さとは化け物め!」
「みんなそうだけど私みたいな麗しくてか弱い女の子を化け物呼ばわりするなんて失礼ね」
「麗しくてもか弱くはないだろう」
センリはさらに8本の剣を投げた。
ハンドは大きなの手の平でそれを防いだ。
「こっちも反撃だ」
ハンドは上空に巨人の手のような大きな手を作り出す。
「精霊魔法・ジャイアントハンマー!」
巨人の手は握り拳を作りセンリに向けて振り下ろした。
範囲、威力ともにセンリの今まで対戦相手の攻撃の中では確実にトップクラス。
「遅い」
センリはいとも容易く攻撃範囲から外れて違う建物の屋根に飛び移った。。
もちろんジャイアントハンマーの振り下ろす速さは十分速いが、センリにとっては遅い。
ジャイアントハンマーはセンリが今まで立っていた建物を潰した。
ハンドはさらに人間と同じくらいの大きさの手を作る。たくさん作る。その様はまさしく千手……。
千手がセンリに襲いかかる。
(なんか……気持ち悪いというか……なぜかエロい感じがするわ)
センリは手を避けながらそんな下らない事を考えていた。
(まあ、時間もないしさっさと決めよう。本当は投擲だけで勝てるけどエンジェが心配だから早く終わらせるだけなんだからね!)
センリは剣を構える。
そして迫り来る千手に向かい神速。
ハンドは時減眼でその動きが見えていたが、手の動きがセンリの動きに追いつけない。
センリは手を回避しながらハンドとの距離を詰める。
ハンドは口を開く。
「ここまで──」
言い終わる前にセンリがすれ違い様に一閃。
「な……んで、そんな動きができる……。化け物が……」
ハンドはセンリの動きを見ていた。
すれ違い様にハンドの体を回り、下から上に剣で切り上げて螺旋のように斬る技。神速のセンリだからこそ使える技。
折れた剣を捨ててセンリは言う。
「☆縫」
ハンドは螺旋の切り傷から血飛沫を上げて絶命した。
「君と遊んでいるほど暇じゃないの」
センリはそれだけ言うとギルドに向かって行った。