ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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蛇の国のお姫さま

 エンジェからロールを引き離した数10分後。

 エンジェは町中を1人で歩いていた。

(ネリネは大丈夫かな……)

 エンジェは同い年の友達であるネリネ・ガーネットの事が心配だった。

 幸運にもエンジェはここまで敵らしい敵に遭遇していなかった。

 そもそもエンジェがどうしてではなく、どうやってここにいるか?

 チェルノフレイがロールを拷問している最中にこっそりギルドから抜け出したのだ。はっきり言ってあまり褒められた行為ではないだろう。

 エンジェはとてとて歩いていると、エンジェと同い年くらいの上半身が人間で下半身が蛇の少女が物影に隠れているのが見えた。

 金髪赤目の可愛い容姿で赤い鱗に、豪華絢爛な純白のドレスと金綺羅のティアラを身に付けた様はまるでお姫様。

 エンジェは物影をひょっこりと見て言う。

「何してるの?」

 正直言ってエンジェの判断は正しくない。

 センリにも一応知らない人に声をかけてはいけないと言われていたし、エンジェ自身も聡い子であるためそのくらいはわかるはずである。

 しかし、エンジェは見えたのだ。

 子供の蛇人があまりにも怯えていて、撒き散らす敵意も殺意も自身を守る殻のようだった。

「誰?!」

 子供の蛇人は声を荒げた。

 エンジェはビクッとする。

 恐怖心+敵意はただの警戒心だ。子供の蛇人はエンジェを警戒していた。

 だからエンジェは安心させるように言葉を選ぶ。

「えっと……私はエンジェティーネ・ベル。あなたは?」

「……私を知らないの? 私は蛇の国を治める王──オウジャの娘が第3王女──キンジャ・ダ・チェーン! 私を知らないなんてあなた余所者ね! つまり私を殺しに来た刺客、暗殺者ね?!」

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 違うよ!」

 キンジャは疑心暗鬼だった。

 都市ブルーブルーに家族とともにお忍びで遊びに来たら急に抗争が始まり、キンジャの母親である王妃は乱心して第1王女と2王女を殺害、父親である王とともに命からがら逃げたと思ったら父親は敵の足止めをしてキンジャを逃がし、逃げている途中でも恐い思いをした。

 疑心暗鬼にならない方が不思議だった。

 エンジェは優しく言う。

「安心して、私はキンジャの味方だよ」

 センリに読んでもらった本にあった台詞そのまんまではあったが嘘偽りない言葉だった。

「本当に?」

「本当」

「本当に本当?」

「本当に本当」

 ここに来て初めてキンジャは安心した顔を見せた。

「そうね。あなたみたいな弱そうな人間が敵なわけないよね」

「そうだよ」

「とにかくエンジェもここに隠れて!」

「わ!」

 キンジャはエンジェの手を引っ張り物影に連れ込む。

 エンジェはキンジャの尻尾に座る形になる。

「ごめんねエンジェ。だけど私も恐いの……。一緒にいて!」

 エンジェは笑顔を向ける。

「いいよ。私も恐いけど」

 エンジェとキンジャはお互いがどういう状況なのか話し合った。

 

 

 

 2人は数分物影に隠れていたが、運良く敵に見つかる事なくやり過ごしていた。

「私は世にも珍しい鎖魔法を使えるのよ」

「すご~い!」

「そうでしょ!」

「チェルみたい」

「チェル? チェルノフレイの事?」

「うん」

「あなたチェルノフレイと知り合いだったの?」

「うん。私のセンリの友達なんだ」

「センリ? もしかしてギルドランクSSになった串刺し姫センリ? すごい! エンジェはセンリとも友達なのね!」

「ちがうよ。センリは私の好きな人なの」

「そうなんだ。だけど私もセンリ大好きなの」

「むっ。私の方が大大好きだし」

「それでも私の好きには負けるね」

 悔しそうなエンジェを勝ち誇った顔でキンジャは見た。

 そしてキンジャは考える。

 エンジェと会って割とリラックスして、この後どうすればいいかを……。

(パパなら大丈夫だよね。強いし。今は生き残らないと!)

「エンジェ、じゃあギルドに案内してよ。私、ギルドの場所わからないの。少なくともここより危なくないと思うの」

「…………別にいいけど」

「それでエンジェは何が使えるの?」

 エンジェは考える。

 この前はセンリに剣術を教えてもらおうとして木刀を買ってもらおうとしたが結局は欲望に負けて人形を買ってもらったし、魔法が使えるかというと使えない、何か能力があるかといえばない。センリの戦い方もほとんど身にならない。988年前の経験で勉強はある程度できる。しかし、今も昔もエンジェは誰かに守られ甘やかされていたと言っていい。

 はっきり言って普通の人間の5歳児だった。

「ごめん。私強くないの」

「つまり役立たずね」

「うぐっ……」

 エンジェは目に涙を浮かべる。

 そう言われるのは好きの気持ちで負けるより悔しかった。

 つまり、エンジェにとってそれは自分よりキンジャの方がセンリに褒めてもらえる事を意味していたから……。

「ごめん! 泣かないでよエンジェ」

「泣いてないもん」

「わかった! 戦闘は私に任せて」

「泣いてないもん」

「わかったから!」

 かくしてエンジェとキンジャの危険な冒険が始まった。

 

■■■■

 

 センリはギルドに向かっている途中にある人物を見つけた。

 数人の魔導師に囲まれて血まみれで倒れている男の蛇人。

 センリは魔導師達と同じ数の剣を投げて串刺しにして、男の蛇人に駆け寄った。

 身なりはまるで王様のようだった。

「君は蛇の国の王──オウジャかな?」

「……その強さを鼻にかけたような無礼な言葉遣いはギルドのセンリか?」

 オウジャは元気もなく言った。

「ムカつく言い方だけど久しぶり」

 センリはギルドランクSの時にオウジャの護衛の任務を膨大な依頼料をふっかけて受けた事があった。

 ギルドランクSの護衛の任務もセンリにとっては緩いものであり、ほとんどは子供のお守りをしていたくらいだった。

(1歩遅かったか。なるほど、あの男の時間稼ぎは成功という事か……)

「それにしても君がたかだか数人の魔導師に負けるなんてね」

「返す言葉もないがあの中に頂点精霊魔導師がいたんだよ」

「なるほど。君は精霊だけどせいぜい上級精霊だしね」

「血が薄まり過ぎたからな。むしろこんなに血が薄まったのに未だに上級とは流石は私のご先祖様だ」

「そんな事より王妃と子供達は?」

「私は助けてくれないのか?」

「はっきり言って君はもう助からないよ。私は回復魔法を使えないし」

「それもそうか……。じゃあ頼む。キンジャを助けてくれないか? 妻と上の娘は2人は死んでしまってね」

「そう……」

(善良な王の最後なんてこんなものか……。善良な王なんてのは見えない敵が多いしね)

「わかったわ。君は私が知る王の中では好きな方だったよ」

「それは嬉しいな。そうだ。確かセンリは異例のギルドランクSSになったんだっけ? おめでとう」

「そんな事よりキンジャに遺言とかないの? あれば伝えるけど」

 オウジャは少し黙り、やがて口を開く。

「こういう場合って遺言は何を言えばいいんだ?」

「さあ? 大好きだよ、とでも言えばいいんじゃない?」

「それでいいや」

「テキトーね」

「テキトーなものか。むしろしっくり来たくらいだ」

「ふ~ん」

「センリは変な娘だな。お前みたいなのが故郷の一族を皆殺しにしたとは思えない」

「言ったでしょ? 私が強いのはあの一族を皆殺しにしたから。妹の親友にも恨まれてるんだから」

「なるほど……そういう事にしておこう。だからそんな恐い目で私を見るな」

(そんな恐い目してたかな?)

 もうあまり長くないと思ったセンリはさっさと立ち去るべく踵を返す。

「じゃあね。知り合いの死ぬ間際なんて見たくないし、キンジャもだけどエンジェも心配だしもう行くわ」

「どうでもいい人間は躊躇いなく殺すのに知り合いが死ぬのは見るのも嫌だなんて我が儘だな」

「悪い?」

「いや、悪くない。お前は敵を殺しただけだからな」

「関係ない会話はやめよ。こんな事で時間食うと君の娘も君みたいになるわ。この結果もついさっき私が時間稼ぎさせられた結果なんだから。じゃあね蛇の国の王。君の娘には、君の父は君の事を大好きだったと言っておくよ」

 センリはそれだけ言ってオウジャの前から離れた。

 

 

 

 センリを見送ったオウジャは息を引き取った。

 

■■■■

 

 エンジェとキンジャがギルドに向かってから数10分。2人は敵らしい敵に遭遇しなかった。

 しかし、いくら運が良くても敵もキンジャを探しているわけで……。

 2人はとうとう敵に遭遇してしまったのだ。

「邪魔な鎖じゃああああ!!」

 二足歩行で人型のライオン──獅子人は雄叫びを上げて縛り付けていた鎖を無理矢理引きちぎった。

 もちろんその鎖はキンジャが魔法で出現させたものである。

「ヤバい! エンジェ伏せて!」

 キンジャはエンジェを押し倒して獅子人が横に振るった腕を避けた。

「手を煩わらせやがってこのクソガキども!」

 獅子人が腕を振り上げ、思いっきり叩き殺そうとした。

 エンジェとキンジャは固く目を瞑った。

「その手を下ろしなさいよ。獅子人」

 声とともに獅子人の振り上げた腕が下りた。否、正確には落ちた。

「え?」

 意味のわからないまま獅子人は腕があった所を見る。

 振り上げたはずの腕がなかった。だが痕跡はあった。切れた痕跡が。

 そして地面には獅子の腕。鋭い爪を備えた屈強な腕。

「え?」

 そして獅子人の胸を剣が貫いた。

 獅子人は胸から飛び出た剣先を見た。

「え?」

 獅子人は倒れて絶命した。あっさりと。

 センリは壊れた剣を捨てて、エンジェ達に近づいて行く。

「今回は間に合ったみたい。ギリギリだけど。全速力だったのが良かったのかな?」

(何にしても直系の王族は残り第3王女のキンジャだけか……。王族がほとんど死ぬとか、流石は裏社会を支配する最大裏会社ね)

 エンジェとキンジャが目を開けると優雅に佇んでいるセンリがいた。

「センリ……」

 どちらかがそう呟く。

「あれ? エンジェにキンジャ、2人とも一緒だったの? というかなんでエンジェはここにいるの? もしかしてウッドとあの魔神眼兄妹はエンジェをほったらかしにしていたのかしら?」

 2人は起き上がるとセンリに駆け寄った。

「センリ~、恐かったよ~」

「うぇ~ん!」

「良し良し、恐かったね2人とも」

 センリは屈んで2人の頭を撫でた。

(どうしよう……。キンジャになんて言おうか……)

「とりあえずギルドに行くよ。ここは危険だから」

 センリはオウジャが死んだ事をキンジャに伝えるのは安全な状況になったら伝えようと考え、エンジェとキンジャを連れてギルドに向かった。

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