ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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抗争終結

 センリ、エンジェ、キンジャはギルド施設の前にいた。

「センリ、早く入ろうよ」

「どうしたの?」

 幼児2人は両側からセンリの裾を掴んで言った。

 センリはただギルド施設を見ているだけ。

(どうしたものか……。チェル、ウッド、魔神眼2人、実力があるギルドメンバー──おそらく相当な実力者だと思うアンノウンの気配も感じない。いや、生きてる気配はする。つまり気絶している。そして、中央にいる知らない気配……。なんとかしないとね。エンジェとキンジャ……こんな所に2人置いて行くより一緒に入った方が安全ね)

「エンジェ、キンジャ、絶対に私の側から離れちゃダメよ」

 聡い2人はセンリの言う事が大体わかった。

 センリは扉を開け放った。

 そこには傷だらけのギルドメンバーが床に転がっていた。

「来ると思った」

「誰?」

 声は2階から。

 センリ達はそちらを見る。

 そこには手すりに座っているアンノウンの姿があった。

「はあ? アンノウン、まさかこれは君がやったの?」

「違うわ。これは私がやったの」

「……どうしてか聞こうかしら」

「大した理由ではないよ。チェルノフレイに拷問されてる間に隙を見つけてね。たまたま近くにいたこれの体に入っただけよ」

「ふ~ん」

「この体はいいわ。ここのギルドメンバーを総力で圧倒できるのよ?」

「あ、そう」

 センリは粗方理解した。

(つまりアンノウンに入ってるのは憑依できる幽霊ね。幽霊に幽霊が憑依って意味不明だけど。洗脳では拷問も何もないしね。拷問できたのはチェルノフレイのイマジンチェーンのおかげか)

 センリはチェルノフレイを見る。

(流石というべきだわ。この中では1番ダメージが少なそう。逆に言えば前が誰に憑依してたかわからないけどそちらは捕まえたけど、アンノウン相手では捕まえられなかったというわけか……)

 センリは腰を落として口を閉じていたエンジェとキンジャの耳元で言う。

「キンジャはイマジンチェーン使える?」

「ごめんなさい。私の魔法はせいぜい鎖の精霊魔法でいう中級だから頂点のイマジンチェーンは使えないの……」

「たぶんアンノウンの中の人は私に入ってた人だよ。私の首をナイフで切ろうとしたの」

「アンノウンの前に入ってたのはエンジェだったの。まあ、今はそれより2人にお願い」

「「何?!」」

 センリはチェルノフレイを指差して言う。

「君達2人は気絶してるチェルノフレイを起こしてくれない? その間は私がアンノウンを止めるから。頼むよ」

「「うん!」」

 センリは2人の背中を軽く叩いた。

 エンジェとキンジャは走ってチェルノフレイの下へ向かった。

 エンジェとキンジャの2人で行かせた理由は単純。固まっててくれた方が守り易いからである。

「さて……軽く殺させてもらおうかな?」

「舐めないでもらえる? 串刺し姫センリを殺したうえでキンジャを殺させてもらうわ」

 センリは剣を投げた。

 

 

 

 センリがロールに憑依されたアンノウンと戦っている間、エンジェとキンジャは難なくチェルノフレイの下に駆け寄った。

「チェルー! 起きてー!」

「大丈夫?!」

 エンジェとキンジャはチェルノフレイを呼びかけるように叫ぶが反応はない。

 確かにチェルノフレイ──引いてはアンノウンと戦った人達は致命傷を受けていないし、ただただ気絶しているだけだ。

 しかし、決して浅い傷ではない。言うなれば重傷だった。

 エンジェとキンジャには回復に関する技はない。

「キンジャ、薬を取りに行くよ」

「それしかないね」

 エンジェはキンジャの手を引いて医務室のある場所へ向かった。

 

 

 

 センリの投げた剣をアンノウンは回避する。

 体に剣が通る風穴を開けて。

「気持ち悪いわ」

「悪かったね」

 アンノウンは腕を伸ばし鞭のようにしならせてセンリを襲う。

 センリは難なく回避。そしてアンノウンに向かって跳ぶ。

 アンノウンは座ってる手すりから跳び、壁に着地した。

「君、壁に立てるんだ」

「この体の能力だけどね」

 アンノウンは壁をジャンプし向かい側の壁に重力を置き落下の加速度とともにセンリに近づく。

 センリは1本剣を投げる。

 アンノウンは空中で液体のように体をくねらせて、人間の体では到底ありえない軟体動物のような動きでそれを避ける。その最中に両腕をワイヤーで連結したような剣にして振る。

 空中で避けられないセンリは剣を取り出し、それらをいなす。

 するとアンノウンの腕から無数の刃が生えて伸びる。

 センリはそれをいとも容易く防ぐ。

 しかし、無数の刃の内の1本が走るキンジャに向かって伸びた。

「舐めてるのはそっちじゃない」

 センリは剣を投げてその刃の軌道をずらした。

 刃はキンジャの真横を通り床に突き刺さった。

 センリは2階の廊下に着地。

「やっぱりすごいわこの体! まさか串刺し姫と対等の渡り合えるなんてね」

「ふん」

 センリは4本の剣を投げた。

 アンノウンは手を大きくして金属のように硬化させると剣を防いだ。

「そうだね。串刺し姫を殺した後で第3王女を殺すとしようかな」

 アンノウンが両手を伸ばした。両手は途中で分裂し無数に分かれ、それぞれの先端が刃になりセンリを襲う。

 センリは隙間をかいくぐって回避。

 アンノウンは天井を走りジャンプ。腕で包丁のような、自身の身長くらいの大剣を作り振り下ろす。

 センリは床に剣を乗る。

 間一髪。

 床を切りながらセンリから見て振り上げられたアンノウンの剣を防いだ。剣と剣が当たる音と同時にアンノウンの振り下ろした力で跳ぶ。

 センリとアンノウンは空中ですれ違った。

 センリは天井に足を着き剣を2本投擲。

 アンノウンは腕の大剣を振るい2本の剣を叩き落とし、そのままセンリに向けて攻撃へと転じる。

 センリは4本の剣を取り出し、内2本を投げて叩き落とされた2本を弾き床に転がるギルドメンバーを守る。そして持っている2本の剣を頭上でクロスさせ振り下ろされた大剣を受け止めた。

「ピンチね串刺し姫!」

 天井が軋む。

 センリは体をずらし大剣を流し、回避した後天井から床に跳んだ。

 大剣は天井を壊し、瓦礫が落ちる。

「面倒ね」

 センリは剣を鞘から10本取り出しながら上に体を向け、剣を1本ずつ持ち振るう。

「☆彩!」

 落ちながら☆彩で瓦礫を切る。折れる。切る。折れる。切る。折れる。切る。折れる。切る。折れる。

 10本の剣を代償に落ちる天井の瓦礫をすべて神速の如く切った。

「流石は串刺し姫! 今度こそ殺す!」

 

「残念……終わりはあなたですわ」

 

 不意にアンノウン──否、憑依したロールは聞こえた。

「あなたがセンリと渡り合っていると思って最高に興奮してる気持ちはわかるけれど遊びは終わりですわ」

 アンノウンの体に鎖が巻き付く。

「これはまさか?!」

 アンノウンは声の方向を見る。

 そこにはチェルノフレイ、エンジェ、キンジャがいた。

 チェルノフレイは不敵に微笑み言う。

「そう、そのまさか。イマジンチェーンですわ」

 鎖はアンノウンの中のロールの幽霊体を引き上げた。

 空中に鎖で拘束されたロールにセンリは言う。

「君は私と渡り合っていると言ったわ。それは事実。だけど、それは私が手加減してただけだからよ。まだ本当に短い付き合いだけどアンノウンを殺すわけにはいかないし、エンジェとキンジャがチェルを起こす必要もあった。つまるところ時間稼ぎが必要だった。その証拠に私は落ちる天井からギルドメンバーを守るための1度しか神速で動いてない。そもそも私が本気を出せば最初の投擲で君は串刺し。投げた剣が見えてる時点で察しなさいよ。後、仮に君がアンノウンから出てればその幽体を切る技を私は持ってるし、例え君の姿が見えなくても気配で大体の位置はわかるわ。あくまで問題は君を殺す事じゃなくてアンノウンを殺さずに君を引き吊り出すかだったの」

「馬鹿な! そもそもなぜコイツは生きてるの?!」

 ロールはチェルノフレイを見て大声を出した。

 その問いはセンリの代わりにチェルノフレイか答えた。

「私が頂点精霊魔導師だと忘れてるんですの? 私の精霊魔法には一時的に体に死を繋げるものがありますの。それでギルドメンバーを一時的に死なせましたのよ。鎖は縛るのではなく本来は繋ぐものですしね。まあ、例によって頂点精霊魔法ですけど」

「なぜそこまでしたの?」

「アンノウンに憑依したあなたをギルドメンバー全員で持ってしても止められなかったからですわ。私もイマジンチェーンで捕らえられませんでしたの。だから私達はセンリが帰って来るまで死んだふり──まあ、死んでたのだけれど、してましたの」

「くっ……つまり井の中の蛙だったわけね」

 チェルノフレイはセンリに言う。

「それでこの人どうするんですの?」

「放してやりなさい」

「あら? 放すんですの?」

「ええ、コイツには最大裏会社に私達の伝言を持って帰ってもらうわ」

 

■■■■

 

 センリ達がロールを解放した3時間後。

 都市ブルーブルーの抗争は収束を迎える。

 理由はセンリが最大裏会社の上層部に向けてロールに伝言を与えた。

『1つ目、都市ブルーブルーの襲撃を直ちにやめる事。

 2つ目、キンジャ・ダ・チェーンおよび蛇の国に危害を加えない事。

 3つ目、以上2つの条件を飲み込む事。

 もし、条件を飲み込めない場合および条件を破った場合、センリおよびギルドがそちらの組織および関係者を壊滅させる。尚、そちらに拒否権はない』

 センリは最大裏会社への完全なる脅迫により抗争の幕を閉じた。

 

■■■■

 

 ロールに伝言を持たせて最大裏会社へ戻らせてすぐの事。

 センリとキンジャの2人はギルドの1室で向かい合いテーブルを挟んで座っていた。

「どうせ騙すのもあれだから単刀直入に言うわ。キンジャ、君の家族は全員死んだ」

 隠していてもどうせ王が死んだ式典などが大々的執り行われて近い内にキンジャの知るところになるのだ。

 それにまだ幼いとはいえキンジャは確実に王になる。蛇の国では王になるのに年齢は関係ない。つまりキンジャは王に即位。

 ならば家族が死んだ事実を隠して長引かせるのは逆効果。

 案の定、キンジャは呆然としている。

「後ね、君の父オウジャから遺言。『キンジャ、私はお前を愛してる』だって」

 センリはそれだけ言うとキンジャを残して部屋から出る。

 別にセンリがキンジャを無視したわけじゃない。

 こういう時センリは何て言ったらいいかわからない。

 部屋のドアの前で考える。

(強さを求めて自分の一族を殺した私じゃ何を言う資格はないわ。それ以前に何を言ったらいいのかわからないわ)

 センリは借りている自室に戻る。部屋の中で泣くキンジャの音を聞きながら……。

 

 

 

 キンジャがいる部屋とは違う別の部屋。

 疲れたであろうエンジェを寝かしたセンリは数人のギルドメンバーと今後の事を話し合っていた。

 数人と言ってもセンリと特に親しいチェルノフレイとウッド、アンノウンの3人だが。

「──という事で無責任だけど明日には私はエンジェと大陸の逆にある光の国の都市ウインクに向かうわ」

「エンジェの父親がいるというギルド本部か。だが今回の抗争でまた線路が壊れただろ」

 センリの言葉にウッドはそう言った。

「仕方ないから隣りの国まで車で行ってそこから汽車に乗る。ここで待つのも流石に埒があかないからね」

 都市ブルーブルーは近い内に2度の襲撃を受けた。

 1度目は強盗竜団による強盗襲撃。

 2度目は今回の最大裏会社による王族暗殺事件。

 可能性のある襲撃として謎の兵器による殺戮劇だけだが、ここ数日謎の兵器の活動は確認されていない。

「後、チェルはしばらくキンジャの護衛に付いて。私の名前を出したから暗殺を企てるとは考えにくいけど一応ね。もしかしたら内部に黒幕がいるかもしれないしね」

「わかりましたわ」

「じゃあ明日には出るからそろそろ私も──」

 その時だった。

 ガチャンと荒々しくドアが開かれた。

 そして鎖がセンリを襲う。

 センリは難なくそれを避ける。

「キンジャ……いきなり人を襲うとかどういう了見?」

「センリが悪いんじゃない。なんで私は助けてお父様とお母様とお姉様達は助けられなかったの?」

(ふぅん……。逆恨みどころかそもそもお門違いだけど、まあ最大裏会社を恨むよりはマシかしら)

「仕方ないじゃない。助けられなかったんだから。私を恨むならどうぞ? 私を殺してもキンジャの家族は生き返らないけどね」

 キンジャは鎖を出現させてセンリを攻撃した。

(まあこれが生きる理由なら結果オーライね)

 この先1時間、センリはキンジャの攻撃を回避して防御し続けた。

 その程度、センリにとって赤子の手を捻るようなものだった。


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