ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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最上階の荊姫

 階段を上る。

 ただひたすら上り続ける。

 何事も起こらない。

 正確には色々な物はあった。しかしそれらは所詮はただの面白味もない物だった。

(本当に……本当にこれでとっておきのものがつまらないものだったらぶっ殺す。もう死んでるかもしれないけど)

 センリはそんな事を内心愚痴りながらも階段を上り続ける。

 やがてセンリは最上階に到着した。

 なんだかんだでここまで来るのに半日はかかっていた。

 目を見開いてあまりにも長い時間と思うほどだが実際は刹那の間、センリは見惚れた。

 明らかに今までの部屋とは異質であった。今までの部屋はほとんど何もなかったり、意味がなかったり、奇妙な物が置いてあったり、気持ち悪かったり、としていたが最上階だけは違う。

 神秘的というべきだがしかしそれはあまりにも不自然だった。

 森。

 天蓋は透明な何かが張り巡らされているため太陽光が降り注いでいて明るく、緑色の葉と葉の間から注ぐ木洩れ日に癒やされる。

 センリは確かに癒やされた。

「だからなに? こんなもののために私は時間と剣と体力を無駄にしたの?」

 センリは何かないか? と木々が生える部屋を歩き回る。

 やがて太陽光を一身に受け空中に浮かんでいる1本の剣を見つけた。

「もしかしてこれがとっておきの物?」

 センリはその剣に近づいて観察する。

「良い剣ね」

 その剣の刀身にはバラと荊が全体に彫られて白銀に煌めいている。しかし、装飾品というわけでもなく刃はなかなかの切れ味を誇っている感じだ。

「まあいいや。これくらいもらわなきゃ釣り合わない」

 センリは柄を握り締める。

 するとセンリの頭の中に情報が流れ込む。

 剣(私)の名前は『荊薙』。刀身を伸縮自在に操る事ができる。刀身を伸ばすにはただ柄を握り締めて思えばいい。命令すればいい。この剣(私)はあなたに相応しい。

「何これ? 荊薙?」

 センリの頭の中に情報が流れ終わると同時に刀身を覆うように鞘が現れた。

 鞘には剣と同じデザインのバラと荊が描かれている。緑色の荊と青色のバラの絵。

「青色のバラなのね。個人的には白か紫が良かったんだけど……」

 文句を言っても仕方がないのでセンリは剣を腰に納めた。しかし、剣の性能に関してはなかなか良かったので割と満足している。

「んっ……?」

 センリは剣が浮いていたすぐ側に5歳くらいの少女がベッドの上で眠っているのを発見する。

 センリは近づいて少女の顔を覗き込んだ。

 長く綺麗な黒い髪で容姿が整った美少女だ。そしてふわふわの白いドレスを着ているため、一見するとお姫様みたいだった。

「なんで女の子がこんなところにいるの? 王道的に考えるならこのお姫様は王子のキスで目覚めるのかな? そもそもこの子お姫様なの? それ以前に私は王子以前に男ですらないし」

 とセンリは言って、ある考えが脳裏を過ぎる。

(もしかして荊の塔攻略の条件ってこの女の子をここから連れ出す事なんじゃないの? とりあえず……)

「起きて起きて」

 センリは女の子を肩を揺らしてみる。

 無論。起きるわけがない。起こす条件はセンリの言うところの王道のキスであるのだから。

「起きないね。仕方ない。ちょっとキスでもしてみるか。これで起きなかったら置いて行こう」

 しかし、センリは報酬金の事を考えて考えを改める。

「やっぱり起きなくても連れ出そう。もしこれでこの子が依頼達成に必要だった時、戻るのが面倒だしね。そもそも次は扉が開かないかもしれないし」

 センリはそう言うと、目を閉じて眠っている少女の小さな唇に唇を近づけていく。

 しかし、そこに躊躇いなどというものはなく2人の唇が軽くだが全てが触れた。

 しばらくの間センリが口づけをすると、唇を少し離してからゆっくり目を開ける。

「…………っ!」

 目が会う。

 センリと少女の目が逢う。

 少女の熟した葡萄のような紫色の右目が、僅かに明るい夜のような黒色の左目が、センリの星のようにきらめく白色の目を真っ直ぐ見つめる。

 センリは胸が高鳴り、顔を紅潮させる。素早く少女から距離を離して顔を逸らしてしまう。

(な、何?! どうしたの私? 確かに綺麗な子だけど相手は子供で女の子じゃない!)

 自分に起こったあまりの事態にセンリは錯乱している。

 一方、少女は自分から顔を逸らしたセンリの顔を見つめている。少女自身と同じ状態のセンリを。

 少女は笑顔を零す。

(可愛いお姉さんだな~)

 もっとも、少女はセンリより些か冷静のようだが。

 少女はセンリに向かって言う。

「お姉さんの名前はなんて言うの?」

 センリは少しだけ冷静を取り戻して答える。

「わ、私はセンリって言うの! よろしくね!」

「うん。よろしくね。私はアンジェル……エンジェティーネ・ベル。エンジェって呼んで。お姉さんが私を助けてくれたんだよね?」

 エンジェは笑みを向ける。

 センリはドキドキ。冷静を装って答える。

「助けたかどうかわからないけど君を起こしたのは私だね」

「うん。チューで起こしてくれたんでしょ?」

 センリはさらにドキドキを大きくする。肯定するのが恥ずかしかった。だから答えとして口を閉じる。

「ねぇ。ところで悪い魔法使いはどこにいるの?」

「さあ、私が来た時には君しかいなかったけど」

「そうなんだ。助けてくれてありがとう。お姉さん」

「気にしないで。それよりもなんで君はこんなところにいるのかな?」

 エンジェは悲しそうな顔になる。

「悪い魔法使いが私をここまで連れて来たんだ」

「それは災難だったね」

「うん。それにしてもお姉さん変な格好だね」

「普通のシャツとホットパンツだけど……。というか君だってドレス着てるじゃない」

「私……一応お姫様だから」

「どこの?」

「『パールミリオ』って国。結構大きい国だよ」

 センリは記憶を探る。

 確かにどこかで聞いた事ある名前の国だった。

 そして思い出す。だけど言っていいかどうかセンリは悩むが結局言う。

「そこは確か988年前に滅んだ国と同じ名前ね」

「そう。やっぱり滅んだのね……」

 エンジェは悲しそうな顔になるが泣かない。むしろその事実を受け止めてしまう。

「君は些か大人過ぎるね」

「私は子供だよ」

「その対応が大人なの。故郷が滅んだら余程嫌いじゃない限り普通は泣いたりするものよ」

「何があったか聞かないの?」

「大体は察しが付く。今の歴史では病気が流行ったとか戦争に負けたとか色々言われてたけど実際はわからなかったからね。むしろ君がパールミリオのお姫様と聞いて納得したくらい」

 エンジェを攫うために悪い魔法使いがパールミリオを襲い滅ぼした。

 そうセンリは考えた。そしてその考えは正しい。

「そう。お姉さんって優しいのか優しくないのかわからない人だね」

「そうね。じゃあ早速だけど戻るよ」

「どこへ?」

「下だよ」

「そういえばここは塔の一番上の階だったね」

「そうね」

 センリはエンジェに背を向けてしゃがみこんだ。

「どうしたの?」

「どうしたの? じゃなくておんぶよ」

「おんぶなんて悪いよ」

「子供なんだから甘えなさいよ。それに君に合わせて塔を下りてたら何日かかるかわからないからね。そっちの方が私にとって都合が悪いよ」

「うん。ありがとう」

 エンジェはセンリにおぶさる。

 センリもエンジェもお互い体を密着させてドキドキしている。

(本当に私どうしちゃったんだろ? 子供相手にドキドキして……)

(お姉さんの背中暖かいな。ふわふわの白い髪も可愛い)

 センリはエンジェをおんぶすると立ち上がる。

「ちょっと速く走るからしっかり掴まっててね」

「うん!」

 センリが走り出そうとした時、2人の前に突如魔法陣が現れ、空間に切れ目が入り穴が広がる。その先には荊の塔の側の風景が見える。

「何? この穴から帰れるの?」

 センリがうんざりした調子でボヤいた時、空間に文字が浮かび上がる。

「『勇者よ。遂に私のとっておきをあなたは手に入れたようだね。とりあえずはおめでとうと言っておこう。君は何年目の何人目かな?

100年目の1人目、彼の一番弟子かな?

200年目の2人目、妖精界最強の剣士かな?

300年目の3人目、彼が作った氷の精霊かな?

400年目の4人目、東方の秘境の仙人かな?

500年目の5人目、怪力自慢の虎の獣人かな?

600年目の6人目、最速の鳥人かな?

700年目の7人目、神の子かな?

800年目の8人目、史上最悪の海賊かな?

900年目の9人目、数多の銃火器と装甲を武装した男かな?

1000年目の10人目、悪魔と人間のハーフかな?

まさか何も関係のない人間が私のとっておきを手に入れたなんて事はないだろうね。何にしてもご苦労様。ここから下の階に戻るのも楽ではないだろう。この空間の裂け目に飛び込むがいい。すぐに地上まで戻る事ができるよ』……か。さて悪い魔法使いのとっておきとはどっちの事かな?」

 センリは腰の剣とエンジェを一瞥する。

「君はどう思う? これは罠かな? それとも本当に帰れるのかな?」

「わかんない」

「そうね」

「できれば君じゃなくて名前で呼んでほしいかな? そっちの方が嬉しいな。さっきも言ったけどエンジェで良いから」

「うん。わかったよ。エ、エンジェ」

「ありがとう。センリ」

 顔が赤くなるのを感じながらセンリは空間の裂け目を見ていると、そこには受け付け係の女がいた。

「あっ! センリ様。いきなり空間が裂けたから何かと思いましたよ」

「君か。悪いけどそっち側にある何か物をこっち側に投げてくれない?」

「そうですね。罠の可能性もありますしね」

 受け付け係はポケットからペンを取り出してセンリ側の空間に投げた。

 センリ側の空間にペンが落ちる。

「まあ、大丈夫そうだね」

「そうですね」

 センリは意を決して空間の裂け目に足を踏み入れた。

 

 

 

 青いバラの花言葉は不可能、もしくは奇跡。

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