センリはエンジェを背負い空間の裂け目を通る。
受け付け係の女は笑顔で迎える。
「おめでとうございます。センリ様! この988年間誰も成し得なかった荊の塔を攻略し生きて帰って来ました。センリ様ならこの依頼を完了できると思っていました」
「そんな事より君、上から剣振って来たでしょ? 大丈夫だった?」
「はい。幸運にも当たりませんでしたから」
センリは周りを見渡す。
地面に無数の剣が刺さっている。
「ねえセンリ。そろそろ下ろして」
「え? う、うん。ごめんね」
センリはエンジェを背から下ろした。
エンジェの裸足が地面に着く。
「なんか久しぶり。ひんやりして気持ちいい……」
センリは笑顔で走り回るエンジェを見て笑みを零す。
そしてセンリは受け付け係に顔を向けて言う。
「それで報酬金はどうなるの? 私がこの塔から持って来たのはこの剣とあの女の子だけなんだけど……」
センリは荊薙を持ち、エンジェを見る。
「それでは両方ともオーナーの方に持って──いいえ、連れて行きましょうか? あくまで依頼内容は荊の塔の攻略ですけど一応」
「私は構わないよ。とりあえず魔物退治の報酬金は直接、荊の塔攻略は銀行に振り込んでおいてくれない?」
「はい。了解しました」
立ち止まってセンリ達の会話を聞いていたエンジェは不機嫌な顔になる。
エンジェはセンリに付いて行ことしていた。
まだ出逢って30分も経っていないがエンジェはセンリをとても気に入ってしまったのだ。むしろ一目惚れと言ってもいいくらい大好きになってしまった。怖いくらいに。
5秒のキスも最後4秒の余韻も唇の切なさもエンジェには残っていた。センリのミルクのようなパールのような白い瞳の目と合った時も心地よく胸が高鳴った。
(一緒にいたいって言えばセンリは一緒にいてくれるのかな?)
エンジェはセンリに駆け寄り抱きついてお腹に顔を埋める。
「な、なな何?! エン、エンジェ!」
センリは慌てる。
一瞬にして顔を紅潮させる。急に心臓の鼓動が激しくなる。脳内が錯乱する。
センリとエンジェ。どちらが重症かと言えばセンリの方が重症なのだ。
「センリ様は随分エンジェ様でしたっけ? に懐かれてるんですね」
「どちらというと愛してるの」
「あら? 随分ませたお嬢様ですね」
「よく言われるの。さっきもセンリに言われたしね」
「でしょうね」
「それでね。私、そのなんとかオーナーのところ行かないから!」
エンジェはセンリを見上げる。
目に涙を浮かべ、不安そうに眉を歪めている。
何度も言うがセンリは重症なのだ。
センリ自身は気付いていない──というより否定しているがそれは間違いなくエンジェに対する恋心だった。
だから、意識的に可哀想とは思っている。しかし、それ以上に無意識的にエンジェと離れたくないと思っている。
「わ、わかった。だったら来ればいいよ。どうせ剣だけ差し出せば攻略の証明になるからね! それでいいよね?」
「まあいいんじゃないでしょうか。そもそも何をもって攻略かわからないですし。剣だけで十分でしょう」
「うん。ありがとうね」
「いえいえ! 私感激です!」
センリはエンジェを見下ろす。エンジェは笑みを魅せる。センリは真っ赤な顔を逸らしてしまう。
そんな場面を見ていた受け付け係は言う。
「それでは私はこれで戻りますね。魔物退治の報酬金はギルドの方で用意していますので後で取りに来てください」
「わかった」
受け付け係は荊薙を持って歩いて行き、どこかへ消えた。
センリはエンジェの肩を掴んで引き離す。
「君はどうして私と一緒にいたいの? はっきり言って私なんかよりギルドオーナーの方が良い暮らしできるよ」
「だってそのギルドオーナーって人、私は知らないし……。センリは私が嫌いなの? 私はセンリ大好きだよ」
センリはたじろいだ。
「別に君の事は嫌いじゃないけど……」
「それは好きじゃないって事……?」
「いや、好きだけど……」
「だったらいいじゃん」
「けど私と一緒にいるととても危険なの。もしかしたら死んじゃうかもしれないよ?」
「う~……」
エンジェは暗い表情になる。しばらく静かに考えると、パッと明るい表情になり言葉を紡ぐ。
「じゃあさ! 今はセンリが私を守ってよ! 大きくなったら次は私がセンリを守るから!」
「な、ななな!」
センリは燃え上がりそうになり壊れそうになる。
センリは完全にエンジェの言葉を告白と結びつけてしまった。
センリはエンジェの小さな小さな手を繋いだ。
「わ、わかった! 私が絶対に君を守ってあげるから! その代わり絶対に私の言う事を聞いてね?」
エンジェの瞳はキラキラ。嬉しさを隠す事もなくセンリの手を強く握り返す。
「ありがとう。私絶対にセンリの言う事聞くよ」
「ならいいよ」
「やった! センリ大好き!」
「わかったから! あんまり大好きって連呼しないで!」
「そうだ。さっきから何回も言ってるのにセンリは私の名前を呼ばないから今から私の事を君って言うの禁止ね」
「うっ。わかったよエンジェ」
「ありがとうセンリ」
センリは赤くなり困った顔を、エンジェは満面の笑みを浮かべた顔を見合わせて並んで歩き出す。
こうして白髪白目の女剣士、紫と黒の目を持つ幼い元お姫様の旅が始まった。
この先、彼女達には幾多の試練が待ち受ける。
これは後に『剣神』と呼ばれる女と『ローズクイーン』と呼ばれる少女。そんな2人の恋物語。