ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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988年後のお姫様

 センリはロズモンドのギルドで魔物退治の報酬金をもらうと、早速エンジェを服屋へ連れて行った。

 なぜならエンジェがかつていた988年前と違いドレスはあまり着用しない。今の時代はパーティーや上流の舞台を見に行く時などの正装が主だ。王族や皇族などはよく着用しているが、今や貴族ですら着用しない。

 エンジェはかつての大国パールミリオの王族ではあるが、今の時代では滅んだ国の元お姫様で普通の人。

「どう?」

「なかなか良いんじゃない? 似合ってる。か、可愛いよエンジェ」

「ありがとうセンリ」

 今のエンジェはふわふわドレスからワンピースにドレスアップしていた。

 薄いピンク色のワンピース。腰に結んでいる黒いリボンが印象的だ。

 そこにエンジェの極上の笑みとくればセンリはただ悩殺されるだけだ。

「それにしてもこの時代の服は軽くて動き易いね」

 エンジェはその場でくるり。スカートがひらひら。

 センリは胸がキュンキュンするだけだった。

(なんで私はこんな年端もいかない女の子に興奮してるの? さっきだってただワンピースを着せてただけなのに裸に──背中に興奮して……。相手はお子様なうえに女の子だよ? これじゃただの変態だよ)

 極短い期間でセンリはドキドキしては自己嫌悪、ドキドキしては自己嫌悪。その繰り返しだった。

「どうしたのセンリ?」

「いや、ただ自分があまりにも屑だと思ってただけ……」

 疑問そうな顔のエンジェに暗い顔でセンリは答えた。

「センリは屑じゃないよ! 私を助けてくれたじゃん!」

「そうだけどそうじゃないの」

 センリは大人びているが純粋な瞳のエンジェにただ罪悪感が湧いていた。自分の不純な心を悟られそうで怖かった。

「そうじゃないって何?」

「大人になるとね……。色々あるの……」

「色々って?」

「大人になればわかるよ」

「教えてよ」

「大人になったらわかるよ」

「なんで?」

「大人にならないとわからない事もあるんだよ」

「ふ~ん」

 エンジェはセンリが答えてくれないと悟り追及を諦めた。

「じゃあ大人になったら聞くね?」

「……大人になったらね」

 だからエンジェはセンリと約束する。

 大人にならないとわからない事を大人になったら教えてもらう約束を……。

「じゃあ何着かエンジェの服も買ったし、次は私の剣を買いに行くよ」

 センリとエンジェは服屋から出る。

 センリは服の入った袋とドレスの入った袋を持って歩き、エンジェはそれに並ぶ形だ。

「センリの鞘って剣が入ってないよね」

「入ってないわけじゃないの。ちょっと持ってて……。そして離れてて」

「うん」

 エンジェがセンリから服の入った袋を受け取ると、センリは鞘の口に手を近づける。そして、剣を4本取り出して自身を囲うように地面に向けて投げた。

「え? い、今の何?」

 エンジェの目にはセンリが鞘に手を近づけてから地面に剣が刺さるモーションが見えていなかった。

 正に一瞬の出来事。

 エンジェに見えないのも当然だ。

 今のはセンリの割りと本気の投剣だ。センリの本気の投剣──特に投げるモーションはギルド内でも見えるメンバーはほとんどいない。ランクSの格闘家の動体視力でも微妙に見える程度なのだ。これは決してギルドのランクSのメンバーが弱いわけではない。

 つまり常人のエンジェに見えるはずもないのだ。

 仮に速いものを見る眼を持っているならば話は別だが……。

「今のは千流四葉。片手で剣を4本持って投げる技ね。さらにもう片手で4本持って投げる技を八重ね」

 センリは地面に刺した剣を鞘に収める。

「私の剣術は数多の剣を投げて戦うの。完全に我流だけどね。普通の剣術も使えるけど私の場合は投げた方が強いからね」

「ふ~ん」

「しかも荊の塔で1300以上も剣投げたからね。まだたくさん剣はあるけど一応買っとかないとね。はぁ……あんな大技使わなきゃ良かったわ」

 センリの大技──おそらく世界中でセンリしか使えない専用大技『千羽の星』。

 確かに強力だが1000本という剣の多さは出費的にセンリはあまり使いたくない。

 兎にも角にもセンリは町のすべての武器屋と剣屋を巡り剣を買えるだけ買った。

 最終的に魔物退治の報酬金の5分の3が剣の出費に消えた。

 

 

 

 センリとエンジェは買い物を終えると夕飯を食べるためにそこそこのレストランに入った。

「この時代のごはんはおいしいね! お城にいた時でもこんなおいしいごはんは出なかったよ」

「そう」

(やっぱり昔の食べ物は今ほどおいしくないのね)

 エンジェはサンドイッチのセット。センリもエンジェと同じものだ。

「そういえばエンジェは何歳なの? 5歳?」

「え~とね……993歳!」

「はぁ?!」

「だって私が閉じ込められたのが5歳でしょ? それから988年経ってるから5+988で993だよ! センリは何歳なの?」

「16だけど……」

「私の方が断然年上ね。じゃあさっきの大人になったら教えてくれるって言うの教えてよ?」

「だ、だからそれは無理!」

「なんで?! 私は993歳! 立派な大人よ?!」

「と、とにかく駄目なものは駄目! 今からエンジェは5歳ね!」

「なんでよ?」

「私の言う事聞くって言ったでしょ? それに993なんて大人どころかおばあちゃんだよ?」

「うっ……。おばあちゃんは嫌だなぁ」

「5歳でいいよね?」

「……うん」

 エンジェはしぶしぶ頷いた。

 確かにエンジェの年齢だけみれば993歳である。

 しかし、身も心も思考も知識も運動神経も一般的な5歳児相当である。確かに大人びてはいるというかませているが……。その辺はご愛嬌だろう。

「それでセンリ、次はどこ行くの?」

「どこって言うか隣り町かな。歩いても半日かからない」

「歩けるかな~?」

「いざとなったらおんぶするよ」

「う~」

(おんぶは嬉しいけどそれじゃ子供みたい。恋人みたいに手を繋ぎたいよ)

 エンジェは嬉しさ半分、不満半分という心情だった。

「センリさん宛てに郵便です!」

 エンジェはどこからか聞こえる声にビックリした。

 するとセンリは上から落ちて来る手紙をキャッチした。

「確かにお届けしました!」

「ありがとう」

 センリは上空にいる翼を持つ鳥みたいな人間──鳥人の郵便屋さんにお礼をすると手紙を開封する。

 エンジェは飛び去った郵便屋さんを見送っている。そしてセンリに向き直る。

「今の何?」

「郵便屋さん。郵便屋さんと言っても今の郵便屋さんは私みたい旅とかでぶらぶらしている専門のだけどね」

 センリは手紙を読み始めた。

『敬愛なるセンリへ

 

 お久しぶりですわ。元気にしていますか?

 私は元気ですわ。ところで荊の塔を攻略なされたんですわよね? おめでとうございます。

 ここからが本題です。私は今とあるランクAの依頼を受けていますの。盗賊に盗まれた物を取り返す仕事なのですが相手に私と同じS級精霊魔導師がいたましたの。恥ずかしながら返り討ちに遭ってしまいました。それで助けてほしいのです。場所は王都の『ブルーブルー』です。

 よろしければ力を借してください。お願いします。

 

 チェルノフレイより』

 センリは手紙を読み終えると時計を見る。

(時間は……まだ間に合うね)

「エンジェ……行き先変更。今からブルーブルーに行くよ」

「え? なんで?」

「知り合いがピンチらしい。今から助けに行くの」

「うん! いいよ」

「ありがとう。本当は今日はもう宿を取って泊まるつもりだったけど、今日中に乗らないと2日でブルーブルーに着けないからね」

「乗るって何に?」

 エンジェは荷物をまとめているセンリに質問をする。

「車ね」

 センリは有無をエンジェに言わさず、エンジェを抱えた。

 カウンターに代金を支払い、今日の最終便の車のある場所まで走った。

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