ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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蛇の国のブルーブルー

 センリとエンジェはロズモンドを発つと馬が引っ張る車に乗って『テンスター』という荊の国最大の都市に行き、そこから汽車に乗り隣国の『蛇の国』の都市ブルーブルーに向かった。

 やがてブルーブルーに到着する。

 駅周辺はたくさんの人と店で賑わいを見せている。

 大きな建造物がたくさんそびえ立っている都市。それがブルーブルー。

 はぐれないように2人は手を繋いで駅を出る。

 エンジェは大きな建物に圧倒される。

「すごーい! 大きな建物がいっぱい! ここがブルーブルー?」

「うん。私も初めてじゃないけどここに来る度に圧倒されるよ。エンジェ、ここはある大きな教会を中心にして発展してるの」

「大きな教会?」

「うん。今はもういないみたいだけどブルーブルー教って宗教徒が使ってたとか、神の子が生まれた地とか、私はあまり詳しくないの。ごめんね」

「ううん。ありがと」

 センリとエンジェは知る由もないが、このブルーブルー教の神の子とは悪の魔導師が予想し、善の魔導師が選んだ荊の塔を攻略するかもしれなかった700年目にして7人目の事だった。

 その者は最上階のちょうど半分で命を落とした。なぜなら彼にはその教えによって生き物を殺す事ができなかったから……。

 運命とはいえ神の子が予定外の死を迎えた事によりブルーブルー教は衰退する事になった。

「それでセンリ、私達はここで何するの?」

「つまらない話だよ?」

「じゃあいいや」

 エンジェは目に映ったものをセンリに何か質問する。センリはそれに答える。

 しばらくの間は駅前から動かずにその繰り返しだった。

 センリも最初に会った時のようなドキドキはなくなったけれど、グラスに入れる水のように嬉しさが溢れて自然に笑みが零れてしまう。

 流石にエンジェもあまりにも駅前から動かないので口に出す。

「なんでここから動かないの?」

「いや、いつものあの子なら乗り物の向かえを勝手に寄越すんだけど……。今日は来ないのね。ギルドまで遠くないし、仕方ないから歩いて行く?」

「うん!」

 エンジェはセンリの手を強く握る。

 センリは仕方ないと思いつつエンジェの手を軽く握り、エンジェに合わせて歩き出す。

「センリの手って大きいね。温かいね。私センリの手大好き……」

「あう……!」

 エンジェの不意打ち。

 センリは紅くなった顔をエンジェに見えないように逸らした。

 右手はエンジェの手、左手には荷物で塞がっていてセンリは顔を隠せない。

「どうしたの?」

「なんでもない! そうだ! 何かお菓子食べる? ここはスイートサンドがおいしいの!」

「食べる!」

 センリは話題を逸らし、近くの屋台でスイートサンドを買った。

 スイートサンドとは2つの小さいホットケーキにアイスやチョコレートや餡を挟むお菓子だ。

 それをエンジェに渡す。

 センリも食べたかったが両手が塞がっているため諦めた。

 2人は再び歩き出す。

「おいしー! こんなおいしいの988年前にはなかったよ!」

「そう。それは良かったね」

 センリはエンジェを見て、羨ましいなと思いながらも、可愛いなとも思っていた。

 エンジェはセンリを見上げる。

「センリは食べないの?」

「いや、私は大丈夫だよ」

「嘘。これをチラチラ見てるじゃない」

「うっ……。確かにほしいけどさ」

「じゃあ一口あげるよ。ア~ンして」

「え?」

 エンジェはスイートサンドをセンリに向けて差し出す。

「だからア~ンして。私の食べていいよ? おいしいよ?」

 エンジェの純粋で甘い目、無意識な小悪魔な笑みはあげる側なのにむしろねだるようにセンリを見上げる。

(え? いいの? これ間接キスじゃないの? 他人の大人と子供の間接キスは犯罪じゃないの?)

「いらないの? センリ」

 エンジェの悲しみにを含んだ瞳に魅入られてセンリはスイートサンドを口に含む。

 甘い。あまくて甘い。口の中で甘さが広がり、エンジェを嫌でも意識して感じてしまう。自分が自分でなくなりそうになる。口内から喉にそれが通るところまで意識してしまう。それはまるで優しく蹂躙されているような……撫で回されているような……。

(なんでこれが犯罪じゃないの?! 間接キスはキスなんだから犯罪よね。あれ? 私、犯罪者?)

 もはやセンリは思考錯乱している。

(なんで相手は子供なのにここまで意識しなきゃいけないの?)

 とは思っていてもセンリをここまで意識させるのはあくまでもエンジェだけであり、他の子供には意識は向けない。それどころかセンリがエンジェにだけここまで意識を向けているのは恋心故なのだが……。

「センリ口大きいね」

「そ、そう?」

「うん」

 パクッ。

 エンジェは小さな口でスイートサンドを食べる。センリが噛じったところを。

(センリと間接チューだ……。おいしい……)

 エンジェの幼いながらの恋愛感情はセンリと恋人らしい事をして嬉しい気持ちだ。証拠に顔が赤い。

 突然だが駅からギルドまでは徒歩で15分かからない。途中屋台や服屋に寄ったり、センリがエンジェを意識してどぎまぎしたりといった感じでノロノロ歩いていたため結局到着まで1時間かかることになる。

 

 

 

 センリとエンジェは手を繋いでギルドの建物の前にいた。

「ロズモンドのギルドより大きいね」

「一応ギルドでは3番目に大きいからね」

 屈強な男、銃を携えた女、金棒を持った虎の獣人、ウサ耳の少年、鎧を装備した狼男。

 色々な者達が出入りする大きな扉をセンリとエンジェは見ている。

 エンジェは興奮気味に言う。

「これみんなギルドの人なの?!」

 エンジェはセンリから手を離しトテトテと走る。センリは握っていた右手を名残惜しむ。

「ちょっとエンジェ?」

 エンジェは金棒を持った虎の獣人に近づいて虎の獣人の足の毛を触り出す。

「ふわふわで気持ちいい」

 エンジェと虎の獣人の体格差は軽く5倍。まるでぬいぐるみと人間の赤ちゃんである。

 もっともその例えを使うにしては可愛い過ぎるぬいぐるみとゴツ過ぎる赤ちゃんだけれど。

「なんだ嬢ちゃん? オレに何か用か?」

 虎の獣人はエンジェを睨み付ける。

 しかしエンジェは動じない。むしろ見つめ返している。

「エンジェ、何やってるの。こっち来て」

「ゲッ! 串刺し姫!」

 虎の獣人はセンリを見て、たじろぐ。

「人見てその態度はヒドいじゃない。ウッド」

 センリは言いながらウッドと呼んだ虎の獣人からエンジェを引き離す。

「すまねぇ」

 見た目とは裏腹に小心者な虎の獣人はウッド・マスクという名前だ。ギルドに所蔵していてランクはA。センリとは割と親しいギルドメンバーの1人だ。

 センリはエンジェと手を繋ぎ、ウッドとともにギルド館内を歩く。

 ギルド館内には怪我をしたギルドメンバーがたくさんいた。

 センリはウッドと話しをする。

「旅してるお前がなんでギルドに来てんだ? いつもは上が呼び出しても碌に来ないのに」

「上の人達には呼び出されてないけど、チェルには呼び出されたの」

「束縛天使にか? お前……ここ最近のギルド内のお前自身の状況知らねぇだろ?」

「何それ? 私が荊の塔を攻略したから表彰の準備でも進めてるの?」

「それもあるだろう。だが今はそれ以上の自体だ」

「勿体ぶらないでよ」

「ああすまん。どうやら上の奴らはランクSSを作ってお前をそれに格上げしようと考えてるようだ」

「有り難迷惑だね」

「上の奴らはお前を気に入ってるからな。そもそも1年前くらいからお前をランクSSにしようとしてたんだよ。それで今回お前が荊の塔を攻略した事が決定打になったわけだ」

「興味ないかな。お金くれる方が余程有り難いわ」

「お前って奴は……」

 センリがウッドと会話をしている一方。

 エンジェはつまらなそうに下を向いている。

 自分は会話から省られているうえにセンリが構ってくれていない。

 エンジェなりに大人の対応でセンリを静観しているのだが、反面子供が故に好きな人にそんな自分を見て欲しい。

 エンジェのウッドへの評価はこの短時間で毛が気持ちいい人から邪魔者という転落ぶりだ。

 エンジェはセンリの手を強く握る。

 センリも握り返す。

「ところでよ。その嬢ちゃんは──」

「来てくれましたのね。センリ」

 ウッドの言葉を遮った声を聞き、3人は声の方向を向く。

 そこには痛々しくも顔にガーゼを当てている少女かいた。

 金髪碧眼、幼いながらも将来性の伺える整った顔立ち。白いゴスロリの服を来ている。

 少女の名前はチェルノフレイ。ギルドランクSで異名は束縛天使。年齢はセンリの2つ下。

 チェルノフレイは椅子に座り優雅に紅茶を飲んでいる。

 センリはチェルノフレイを見て言う。

「こんにちはチェル。これはまたこっぴどくやられたのね」

「お恥ずかしい限りですわ。ん……?」

 チェルノフレイはセンリと手を繋いでいるエンジェに目を向ける。

 エンジェもチェルノフレイの視線に気付いて見つめ返す。

「もしかしてセンリの子供ですの?」

「違う!」

「えっ。違ったのか?!」

 チェルノフレイどころかウッドもエンジェの事をセンリの子供だと思っていた。

 エンジェはセンリの腕に抱きついて言う。

「違うもん! 私はセンリの恋人だもん!」

 エンジェはチェルノフレイを睨み付けた。

 センリはエンジェの言葉で頭がショートする。

「チューだってしたんだから! パパとママ以外とのチューは恋人同士でするんでしょ?」

「センリ……」

「センリ……お前……」

 チェルノフレイとウッドは年端もいかない子供に手を出した(と思っている)センリにドン引きである。

 当のセンリは幸福ではあるが不運にも惚けている。

「と、とにかくお嬢さん、センリから離れなさい」

 チェルノフレイはエンジェをセンリから引き剥がして遠ざける。

「やめてよ! センリ~助けて~!」

「可哀想に……既にセンリによって洗脳済みなのね」

「まさかセンリにこんな性癖があったなんてな」

 センリはショートしていた頭が回復し、誤解を解くように言う。

「誤解しないでよ! 確かにエンジェにキスしたわ。だけどそれはエンジェが眠ってたからなの。さすがに起きてたら私だってやらなかったからね」

 センリの事実だが誤解を解くのに決定的に何かが足りていない言葉にチェルノフレイとウッドはさらに引く。顔を赤くして嬉しそうに俯いているという事実がさらに拍車をかける。

 聞き耳を立てていた周りのギルドメンバーも引いている。

 ギルドメンバーはセンリに関して荊の塔攻略よりもむしろ幼女に手を出した(疑惑)という事の方が興味がある。なぜなら、センリなら荊の塔攻略くらい余裕そうと思われているからだ。つまり多少の驚きこそあれど実は大方予想通りなのだ。逆にそんなセンリが幼女に手を出した(疑惑)というスキャンダルはみんなの関心を集めている。

「チェル、いい加減にしないと依頼に協力してあげないわよ」

 センリの一言でギルド館内は静まり返った。

「え? 何?」

 ギルド館内が歓声に湧く。

 センリはあまりの歓声に疑問符を頭に浮かべる。

「センリが協力してくれるなら百人力──いいえ、千人力ですわ」

 チェルノフレイは笑みを浮かべる。

「いくらなんでも喜び過ぎじゃない?」

「いいえ。きっと私達の話しを聞いたらこの歓声も納得しますわ。ねえ? ウッドさん」

「ああ」

「とりあえず何があったか話しますわ」

 センリとエンジェ、ウッドが席に座るとチェルノフレイは5日前の事を語りだす。

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