それはセンリとエンジェがブルーブルーを訪れる5日前の事。
ブルーブルーの隣りに位置する町。町の名前はワイド。その町でそれは突然始まった。
「ヒャッハー!」
「殺されたくなければどけどけ!」
人型の竜──竜人達が銃火器を武装して町を襲撃し始めた。
結果的に云うと町は壊滅した。
これはその顛末の話である。
「ほら! バンバン。バン!」
「見ろよ宝石だぜ! ダイヤモンドだぜ!」
「銀行からお金を強盗したぜ! 見ろよ。袋がパンパンだぜ!」
10人の竜人は下品な笑い声を上げた。
そんな竜人達の1人を突然、鎖が襲う。
「な、なんだ?!」
竜人の1人が叫びながら鎖が絡みついて拘束される。
すると地面から数多の鎖が出現する。
「ああ! 束縛天使だ!」
竜人は持っている大砲を撃つ。砲弾は鎖の1つに命中。その鎖は千切れて地面に落ちる。
「散開だ! 集まってたら奴の思うツボだ!」
9人の竜人はその場から散る。
1人の竜人に対して2本の鎖が追尾する。
あっという間にさらに6人が捕縛される。
残ったのは3人。大砲を持った竜人、2丁の拳銃を持った竜人、剣を持った竜人。
しかし、3人もただ逃げ回っているわけでもない。
最初に気付いたのは剣を持った竜人だ。
「あそこだ!」
剣を持った竜人はとある家を指差した。
大砲を持った竜人は大砲を示された場所に撃ち込んだ。砲弾が真っ直ぐに示された場所に飛ぶが、鎖がそこを守るように盾となる。
「オラオラ! オラ!」
さらに大砲を撃つ。撃つ。撃つ。
やがて竜人達を追尾していたすべての鎖が砲弾から守るために千切れる。そして家に砲弾が1つ命中すると壁が崩れる。
崩れた壁の向こう側には少女──チェルノフレイがいた。
「あら? ただの雑魚な部下かと思ったら私の居場所を特定するなんてなかなかやりますわね。腐っても竜人という事か……」
「ごちゃごちゃウルセーぞ! やっちまえ!」
「身も心も束縛してあげますわ!」
竜人達が得物の銃火器を撃ち始める。集中砲火だ。
チェルノフレイは自分の身を守るように虚空から鎖を出現させる。
先程よりさらに頑丈な鎖が銃弾をはね返す。
チェルノフレイはさらに竜人達の足元からさらに鎖を出現させる。
「な、なんだ?!」
「捕まった!」
「てめー死ね!」
身を束縛された竜人達は阿鼻叫喚。
「さてさて。これで終わりかしら?」
「馬鹿め! まだ頭領が残ってんだよ!」
「頭領が本気出せばてめーなんか余裕で殺せんだよ!」
「あなた達のような輩の頭領なんてたかが知れてますわ」
その時、激しい閃光と轟音とともに離れた所に雷が落ちた。
「何?!」
「頭領だ! よっしゃ! 束縛天使これでお前は死んだ!」
頭の良い台詞とは言えない事を竜人が言っている間に空からチェルノフレイと対峙するように1人の竜人が地響きとともに着地した。
その竜人はチェルノフレイの3倍は大きく、赤い鱗に両肩には大砲が備え付けられて、誰もが目を奪うような立派で大きい一角を額に付けている。
チェルノフレイはか細い腕を組み言う。
「どちら様ですの?」
「ドラゴンドライサー。強盗竜団の頭領だ」
「頭領ですの? ちょうどいいですわ。これ以上の強盗を無意味ですわ。おとなしく投降してくれればこれ以上の危害は加えませんわ。言っておきますけどこちらにはあなたのお仲間を捕まえている事をお忘れなく」
「何かと思えば……。そんな脅しでこの俺様が投降するわけないだろう」
ドラゴンドライサーがそう言うと周りに電気が走る。
「鎖使い。悪いが俺様は兎は2兎も3兎ほしい派でな。つまり金品も奪って仲間も奪い返す」
ドラゴンドライサーの角が輝きを放つ。周りの電気がドラゴンドライサーの角に集まる。するとドラゴンドライサーの鱗が緑色に変色し、手足に黄色い毛が生える。
その様子を見て信じられないといった様子でチェルノフレイは言う。
「ま、まさか……」
「悪いが鎖使い……いや束縛天使。俺様もお前と同じ精霊使いなんだよ」
(竜人が精霊使い? しかも感じる限り私と同じく頂点精霊!)
精霊使いというのは精霊に愛される者達の事である。また精霊にも階級があり下から底辺、下位、中位、高位、頂点と分かれる。
通常竜人の人間の魔力量より少ない。例え頂点精霊に愛されても下位魔法を使っただけで魔力が空になる。
「雷の頂点精霊ですの?」
「ああ、雷と麒麟を司る頂点精霊だ。お前は鎖と大蛇を司る頂点精霊か。奇しくも頂点精霊使いが2人揃った訳だ。ここはどちらがより頂点に近いか戦おうじゃねーか」
「頂点を決める戦いに興味はありませんわ。ですが手加減できる程甘い相手ではないのもまた事実。私も本気で行きますわ!」
ドラゴンドライサーはニヤリと笑い、手の平をチェルノフレイに向けるとバチバチと電気を放出する。チェルノフレイは目の前の地面から鎖を出現させて向かって来る電気を阻む。そして電気を帯びた鎖をそのままドラゴンドライサーに向けて攻撃する。しかし、ドラゴンドライサーはその鎖を掴み引きちぎった。
「この俺様に雷は通じないぞ」
「そのようですわね!」
ドラゴンドライサーの足元から鎖が出現する。鎖はそのまま巻き付く。
「ほお。俺様を直接拘束するか。だが……」
ドラゴンドライサーは腕を広げて無理矢理鎖を引きちぎる。
「俺様が竜人だと忘れるなよ」
「くっ!」
「次は俺様のターンだ!」
ドラゴンドライサーは大きく口を開けると、電気の束というべきか電気の光線を発射した。チェルノフレイは鎖を盾に防ごうとするがその電気の束は水のように鎖と鎖の隙間を通り止まる事はなかった。仕方なくチェルノフレイは空中から鎖を出現させて自身の身体に巻き付け、空中へ引っ張って跳んだ。しかし、不幸にも回避への判断が一歩遅かたためか片足が電気の束に一瞬だけ巻き込まれてしまった。
「あっ、があぁぁぁ!!!!」
チェルノフレイは叫び声を上げながらも片足は電気の束から脱出した。
「えぐっ、えぐっ、うぇ~」
チェルノフレイは鎖にぶら下がったまま痛みに涙を流す。
「戦闘中に相手から目を背ける奴があるか」
ドラゴンドライサーは両手の平と両肩の大砲をチェルノフレイに向け、口を開けてマシンガンのように電気の玉を発射した。チェルノフレイは意識をドラゴンドライサーに向けて、空中で無数の鎖を出現させて電気の玉を防ぐ。ドラゴンドライサーは口から先程と同じ電気の束を発射する。
チェルノフレイは先程とは違いこの電気の束を回避するだろう。しかし、ドラゴンドライサーはその可能性を潰すために連射性の高いの攻撃をし、チェルノフレイ自身の鎖で視界を奪ったのだ。回避させないために。
案の定、チェルノフレイは自ら視界を奪ってしまった鎖に電気の束が流れ込んでから事態に気付いた。しかし、チェルノフレイも先程と状況が違う。既に鎖は身体に巻き付いている。つまり先程より回避までの時間が早かったため、今回は回避した。
(防戦一方じゃ殺られますわ! 仕方ありませんわ。必殺技を使いますわ!)
「受けてみなさい! 蛇纏呪縛!」
チェルノフレイが自身最大の技を出そうとした時だった。チェルノフレイが後ろから衝撃を受けると腹部から血が流れた。
「ぐっ! 何?!」
しかし、謎の攻撃はまだ続く。次は肩に情熱が走り血が流れる。
「ヤバいですわ!」
チェルノフレイは鎖に引っ張られて空中を移動する。移動した瞬間、攻撃が太ももに当たる。
チェルノフレイには見えないがそれは弾丸、攻撃の正体はチェルノフレイには見えない遠い位置にいる強盗竜団の1人が撃った狙撃銃。
しかし、チェルノフレイは運動能力には秀でていない。精霊魔法を使う以外は普通の少女だ。だから速く動く銃弾など見えなかった。
チェルノフレイは後ろに顔を向ける。
確かに正体こそ見えなかったが、正体はわかった。
(狙撃銃ですわね! マズいですわ。前方に雷使い、後方に狙撃手。最悪ですわ)
「だから、戦っている時に相手から目を背けるななと言っているだろう!」
「え?」
チェルノフレイは前方に顔を戻す。
ドラゴンドライサーが電気を纏った角を向けてチェルノフレイに突進して来ていた。
チェルノフレイは鎖を出現させてドラゴンドライサーを拘束しようとする。しかし、再び後ろから弾丸が腹部から貫通した。
「がっ!」
チェルノフレイは意識が途切れてしまう。同時に鎖が力を失い落ち始める。しかし、ドラゴンドライサーは止まらない。無情にも角はチェルノフレイを貫いた。
ドラゴンドライサーは地面に降り立ち呟く。
「ギルドってのも大した事ないな。ランクSでこの程度かよ。悪く思うなよ。精霊魔法使い同士の中で誰が最強かなんて俺様は興味ない。俺様が興味あるのは金だけだ」
ドラゴンドライサーが頭を振るとチェルノフレイは角から離れ飛んで行き家の壁にぶつかり、その家が崩れた。
ドラゴンドライサーは狙撃手のいる方向を向き親指を立てて言う。
「ナイススナイプ」
その後、強盗竜団はこの町から根こそぎ金品と食料を奪い去って行った。
町の騎士団は全員死亡。投入されたギルドメンバーも9割が死亡した。幸運にもチェルノフレイは死にかけたが一命を取り止めた。
しかし、強盗竜団は誰1人として捕まらなかった。
強盗竜団が襲撃した10つ目の町の出来事だった。