天を泳ぎて地に戻りきよ   作:緑雲

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GEB本編篇はっじまっるよ~


少女と青年
少女、入隊


 

「おっ、レア物だな」

「戦果は上々、ね」

 

 今もなお荒廃が侵食し続ける街、その一角で、二人の男女が巨大な武器を掲げてお天道様の下、しめしめと忍び笑った。サカキのオッサンが喜びそうだ、そうね早く帰りましょ、などという会話をしながら撤収作業を終える。二人の傍らには、神のごとき神々しさを持っていたはずの巨影が全身を弛緩させその身を地に落されていた。

 

「そういえば、ソーマったら何をあんなに急いで帰っていったの?」

「ああ、ソーマの勝利の女神が適合試験なんだとさ」

「ああ、あの噂の!」

 

 討伐が完了するや否や資材も素材も回収せず撤収作業を二人に丸投げして全速力で駆けていった年下の同僚。あんなに切羽詰まっている彼は珍しく、女の眼から見ても余裕がなさそうに見えた。近年何があったか少しだけ丸くなった節がある彼に勝利の女神がついてるらしいというのは、極東支部でもっぱらの噂である。というのもその勝利の女神は一人の少女で、かつ入院中だったというのだから一入である。病弱かつ慈悲深い微笑みを浮かべる女神とはどんな人物なのか。何しろあのソーマを攻略するくらいだ。

 

「楽しみねぇ」

「ハハッ、確かに」

 

 大人くせに二人して、ここにいない人物を感じ悪く笑った。

 

 尤もそんな噂の勝利の女神とされる少女の実態は女神がついてるというよりどちらかと言えば憑いてた感じの少女であり、今まさに大ピンチに陥っているのであった。

 

『それが神機だ』

 

 嘘だろ承太郎。え?何あの触ったら即死する系のトラップみたいな構造。絶対あの柄掴んだら秒で落ちてくるでしょあの上の鉄。え焼鏝でもされるの?しんど。チェンジでお願いします。

 

『只今より、新型神機適合試験を始める』

 

 強制スタートかよ。

 せめてどっちの選択肢選んでも延々yesって言うまで進まないRPG形式にしろや。ファミ通レビューで酷評してやるからな。

 心の中ではこのように全ギレしながらも、少女はゆったりと神機の前に立った。端から見れば悠然たる様を醸し出すその雰囲気は、まるで常人が触れてはならない荘厳な儀式が始まるように錯覚させた。黒い髪はみどりに艶めき、美しい蒼の双眸は蛍光灯の下だろうが少しも輝きを損なわず意志を感じさせる。

 なお、中身は前述した通りである。これはひどいギャップ。

 そっ、と腕を上げ、覚悟を決めた少女は一歩踏み出す。目の前には、かつて「一生触らないで生きていくわ」と誓ったはずのものが横たわっている。しかしそんな無様な過去を塗りつぶす為に、握りしめるように強くその武器の柄を掴んだ。

 

「アックソギャグになってしまった立ち直れな、イッテェーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 なんとも締まらない試験映像である。開発者は泣いて良い。

 

 

「ユウカ!」

 

 銀髪の男が三白眼を細めて、普段の彼らしくもなく必死に個人の名前を廊下で叫んだ。一方衆目なんて意にも介さずその呼び掛けに微笑むは、一見儚げにも見える可愛らしい少女である。少女が花も咲かさんばかりに顔を綻ばせくしゃりと笑顔を浮かべる。

 

「遅いよ、ソーマさん!」

「悪い。試験は」

「へへっ、勿論、ユウカさん余裕のごうかーく!」

「いやー、いい叫びっぷりだったよ」

「エリックうっさい」

 

 ゴッドイーター史に残るレベルの醜態を晒した自覚はある。見守ってくれていた相変わらずイカした格好をした友人に裏拳を入れて黙らせた。パァンと気持ちのいい音と共にウッと呻いて蹲る青年に、やった本人が一番慌てた。

 

「えっちょエリック!?ごめん今すっごい音鳴ったね!?」

「ゴッドイーターになったら筋力が大幅に上昇すると言ったろう」

「いや言われてたけどここまでとは普通思わないじゃん!?えごめんねエリック、ほんとゴメン。以降気を付けます」

「だ、だいじょぶだいじょぶ。油断してたボクも悪かった………じゃ元気そうだしボクはエリナに報告してくるよ」

 

 後でね、と何にも考えてなさそうな笑顔でひらひら手を付って去るエリックであるが、若干動きがぎこちない。本気で申し訳無さを覚えて両手を合わせて軽く拝んでおいた。心の中でエリナにも謝っておく。気を付けなければ。

 

「痛む箇所や、疲労感、筋肉痛のようなものは?」

「ないない。心配しなくても、後でサカキ博士に見てもらうってば」

 

 神機適合後は漏れなくサカキ博士の研究室行きだ。今まで数多のゴッドイーターがそうしてきた様式なのだから知ってるだろうに。

 大きい図体でうろうろしちゃう様なんか熊みたいで可愛い。破顔するユウカに、ソーマはようやくほっと安堵したように微笑んだ。

 

「……………………」

「な、なんだ?」

「いや………何て言うか……世界平和にできるなって」

「は?」

「ううん、ソーマさんはそのままで居てね」

「は?」

「最小言語で威圧するのやめてくれる?つまり、変わらないでってこと~、つまり、」

「おーーいユウカ!ツバキさん呼んでっぞ!」

「はーあーいー!またね、ソーマさん」

 

 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンの一節を口遊む彼女に首をかしげながら手を振り返す。私を月へ連れてって。つまり、変わらないでってこと。つまり、

 

「…………………はあー」

 

 赤らむ頬を袖で隠しながら、フードを深くかぶり直した。

 この、たらしめ。

 

 

「初めまして!私はオペレーターの竹田ヒバリと申します!」

「桜庭ユウカですよろしくお願いします!あれ、いくつ?」

「16です」

「同い年だ!えヒバリちゃんって呼んで良い?呼ぶねよろしくね~!」

「数秒で人となりがわかるお人ですね………はい、よろしくお願いします」

 

 はにかみ笑う赤毛の少女、ヒバリは可憐な少女だった。まさに純朴な少女、世が世ならむさい男共が寄って集っただろう。髪は左右でそれぞれ結ばれた癖があり上へ跳ねていて、一層彼女を幼げに見せているが、ブラウンの瞳は穏やかながら強かそうで、彼女の素晴らしい魅力をしとしとと伝えてくる。今のところ支部内で女帝と野郎にしか会っていないユウカにとっては希望の星だった。是非その可憐さを失わないでほしい。

 

「桜庭さん………いえユウカちゃん、で良いですか?」

「もちろん!」

「良かった。ユウカちゃんはエントランスで待機です、少ししたら第一部隊のリーダーさんが……あ!ほら来ましたよ」

 

 ヒバリに促されて後ろを見やると、丁度帰還ゲートから男が一人出てきたところだった。夜のような黒髪に、アンバーの眼を持つその男は、狼のリーダーような印象を受ける容貌をしている。

 

「リンドウさん、支部長が見かけたら顔を見せに来いと仰っていましたよ」

「オーケー、見なかった事にしといてくれ」

 

 ああこの人が、とユウカは納得したように僅かに頷いた。ソーマがたまに愚痴るリーダー、彼に軽く疎まれつつも認められている数少ない人間。ユウカは幾度か眼を瞬かせた後に、向き直って背筋をしゃんと伸ばした。

 

「よう、新入り。そう堅くならなくていいぞ、普通にしてくれ」

「そんなんだからソーマさんにうざがられるんだと思いますよ………」

「ハハッ、アイツは生真面目だからなァ」

 

 軽口を叩いてもさらっと笑い飛ばす余裕もある。ソーマの口振りから想像していた以上の人のようだ。悪く言えば大雑把、良く言えばおおらか、寛容。だが責任感がないというわけでなく、むしろ強い方。上司としてなら最適な人物だ、ここの人事部は見る目がある。

 

「桜庭ユウカです、これからどうぞくれぐれもお手柔らかに!お願いします!」

「……………」

「………?……リーダーさん?」

「いやすまん。ちょっと思ってたのと違ってな………」

「えっなんですかそれ」

「いやまあウン気にするな!俺は雨宮リンドウ、一応お前の上官、だが細かいことは置いといて、とっとと背中を預けられるくらい育ってくれ」

「善処はします!」

「よォし不安すぎる元気な回答をどーも!お前に遠慮はいらなそうだな!」

「何故!?」

 

 バシバシと背中を叩いてくる手から逃げるべく飛び退いたところで、ふわりと優しい香りに包まれた。

 

「上官殿、新人にパワハラかますのは如何なものかしら~?査問会にかけられたいの~~??」

「スキンシップだっつの、なあ新入り」

「そうですプロレスしてただけです」

「貴方たち息ピッタリね」

 

 ガシッと肩を組み合いながらサムズアップする。こういうノリか、なるほどね、好き。

 呆れたように溜め息をついたのは、さらさらと音がしそうなほど顎上あたりで綺麗に切り揃えられた黒髪ボブに、露出が激しいのがまったく違和感なく受け入れられるほどの抜群のプロポーション、優しそうで包容力のある端整な顔立ち。つまりそう、美人だ。

 

「ヮ~~顔面偏差値高~~」

「ふふ、ありがと。貴女が噂の新人さん?」

「噂」

「あ、あ~~新型!新型のね!」

「あそうです。桜庭ユウカと申します、うつくしいお姉さん。今度一緒にお茶でモ゛ッ」

 

 スパーーンと良い音をたてて頭が叩かれて勢い良くつんのめる。あわや豊満なお姉さまの懐へダイブかと思われたが、当然のように首根っこを掴まれてぶら下がることになった。

 

「いった………くない!不思議!」

「俺が力余るわけないだろうが」

「え?あっ、ソーマさん!」

 

 首根っこ掴まれたまま目線を斜め後ろ上に向ければ、これまた美形が顔を思い切りしかめていた。美形の怒った顔は恐い、これ豆ね。

 

「で、俺は優しいから聞いてやるが、何しようとしていたんだ?」

「あ、アハハハハー!女子会!女子会だよっていだだだだだだギブギブギブゥ!レフェリー!」

「この尻軽いい加減にしろ」

「ちがうちがうちょっと顔の良さに弱いだけ!!!」

「そう、いう、ところを、言ってるんだが?」

 

 完璧にキマったヘッドロックから逃れようともがくが、当然無謀だった。怒気を漲らせるソーマはとっても大魔王なので、周囲にいた人々が二人以外二メートルほど引いて行くのが見える。

 三十秒ほど罵りあってから攻防はユウカが拘束から逃れお姉さまの背に隠れたことで一旦の終止符が打たれ、リンドウがどうどうとソーマを羽交い締めにする。完全に猛獣扱いであった。

 

「お姉さん……お背中綺麗ですね」

「貴女まったく反省してないわね?」

「えへ」

「笑って誤魔化してるし……まあいいわ。私は橘サクヤ、後方支援担当だから、貴女と組むことも遠くない内にあるかもね」

「はい!囮と撹乱はお任せです!」

「物分かりは良いのにねぇ」

「あ、ソーマさんは良いんです。怒ってる顔もかっこいいので」

 

 え、という声を最後に固まるサクヤを他所に、羽交い締めしていたリンドウを苛立たし気に振り払うソーマに駆け寄った。手を合わせてもーしませんと平謝りし始めている。用済みになったリンドウがゆったりとサクヤのもとに寄ってきては声を潜めて言った。

 

「誰だよ勝利の女神とか言ったやつは」

「貴方よリンドウ。と言うかあれは勝利の女神って言うより、」

「カップルだな、どー見ても」

 

 いつもより4割増しで口が回るソーマと、ほぼマシンガントークかつ騒々しいユウカ。寡黙な青年と明るい少女、成熟した男と未熟な少女。なんというか、破れ鍋に綴じ蓋というか凸凹コンビというか、何にせよつまり、お似合いの二人であった。

 

 




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