ゴッドイーターは毎日受注できる通常任務とは別に、前日、またはそれよりも前に指令を受ける特別任務がある。これはリンドウやソーマが受けている所謂特務とは別のもので、対象ゴッドイーターの普段の仕事内容に応じて課せられる。ゴッドイーターの成長を促すとか色々理由はあるが、要は討伐数を上げる為である。ユウカとコウタで担当したコンゴウ討伐任務なんかが、これにあたる。発令するのは直属の上官、ユウカらにとってはリンドウだ。そしてこれは命令なので、拒否権は当然ない。生化学企業のくせに、無駄に軍隊モダナイズされているからである。
そして今ユウカの手元に、成長を促す為でも討伐数を上げる為でも何でもない指令書、もとい任務内容の詳細が記載された端末画面が収まっていた。
「桜庭ユウカ、ソーマ・シックザール、藤木コウタ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ……」
何度読み直してもメンバーは変わらない。そして部隊長の欄の名前が変わる事もなかった。なんでだろう。念のためヒバリに三十回くらい確認したのだが、やはり三十回とも結果は変わらなかった。しかも一番腹立たしいのは、ソーマまでもがこの人選に対して然もありなんといった態度であった事だ。普通ここはソーマが隊長になる筈だろう。四人の内で最も階級が高いし、古株だ。
「このメンツで一番意思疎通が上手く、神機の扱いも悪くない、全体も見れるしフォローも上手い。これ以上に理由が必要か?」
「新人には重すぎるプレッシャーの如何とかですかねぇ!」
「それ以外それ以外」
「サクヤさん!」
「ごめんなさいね。私、今日は偵察班と哨戒任務に出なくちゃいけなくって……」
「言っておくがサクヤが入ったとしても部隊長は十中八九お前だったぞ」
「どうして」
現場猫みたいな顔をしたユウカに大人二人が呆れ半分で苦笑する。
ユウカのコミュ力と神機使いとしての能力は申し分ない。あの四人の中ならば部隊長を担当する人物は明白なのだが、どうもこの新人は自覚が足りないらしい。普段は自信満々そうに振舞っているのに、彼女は根っこのところが小心者だ。
「古今東西仲を深めるには共同作業って相場が決まってる。つーわけで、未成年同士頑張れや」
「……リンドウさん。前から思ってたんですけど、もしかして物凄く私に放り投げてませんか?」
「気にすんな。時期に慣れる」
それはユウカに面倒事を投げる事を止めないという意味だろうか。最初に感じた尊敬や感服がここ最近急激に目減りしているのだが、この人そんなんだからイマイチ威厳が足りないんじゃないかな。
懐疑の眼差しを向けるユウカに、リンドウは渋々といった感じで煙草を口から離した。
「やっておしまいお前たち!(裏声)」
「行くでがんすー、ってしまったァ!」
「ハイ了承したな行ってこーい」
「汚い!大人は汚い!」
「逆にこんなんに引っ掛かるお前が心配だわ」
「リンドウさんのバカ!十七年後ハゲー!」
「具体的な年数でビビらすんじゃねーよ!」
逃げンなー!背後にドップラー効果を感じつつもダッシュでその場から離れた。サクヤの「行ってらっしゃーい」というのほほんとした声にのみ反応して、廊下をアラホラサッサと走り去る。戦略的撤退であった。
「そんなわけでどういうわけだか私が今回の部隊長です。よろしくお願いします……」
「ヨロシクー」
「よろしくお願いします」
マグマがすぐそこで流れている地下道で、汗をだらだら流しながら声を上げる。ノリの良いコウタと生真面目なアリサは良い子のお返事をしてくれたが、ソーマは腕を組んで地面に突き刺した神機に寄りかかるのみだった。
「ありがとう二人とも……エーと、今回はシユウを二体討伐。場所は見ての通り煉獄の地下道です。クソ暑いので各自体調管理に気を付けてください」
「御託は良いから任務を始めたらどうだ」
「ソーマさんこそその見るだけで暑くなるフード取ったら?……ごほん、まあ命令することは特にないです。リンドウさんの教えをみんな守るよーにね」
「はいはーい」
「二人とも、返事」
「……はい」
「……ああ」
「じゃあ始めよっか。ヒバリちゃん、観測よろしくねー」
『任務開始了解しました、ご武運を!』
「じゃソーマさんとアリサが奥、私とコウタで手前を探そうか。見つけたら連絡お願いね」
「了解しました」
「了解。気をつけろ」
高台から飛び降り、任務開始の電子音が端末から鳴り響いた。二手に分かれ、背を屈めて仄暗い路をひた走る。角まで行っては止まって向こう側を窺い、なにも居なければ走るの繰り返し。長く曲がりくねった路の先のぽっかりと丸く開いた空間から首を出すと、目的のアラガミが見えた。しかも二体ともだ。一体は資材を貪り、一体は悠々と佇んでいた。
「ワア、元気そうだなあ」
「ヴェノム化でもさせとく?」
「ウン……でもまず一体誘い出さないと。ハロー、ソーマさんアリサー、発見しました合流お願いします」
端末を腰元で手早く操作して応援を呼び、コウタと素早く目配せし合う。何方が初撃を喰らわせるかの確認だ。上手くタイミングを狙わなければ、二体とも釣れてしまう。乱戦は出来れば避けたいので、ここは慎重に生きたいところだ。そして狙撃はコウタの方が上手い。故にユウカはソッと後ろに引っ込み、万が一の為に神機を構えて壁に背を近づけた。音が小さいビーム型のバレッドが砲口から発射され、「来た来た」とコウタが身を翻す。倣ってユウカもコウタの背中について駆け出し、時折振り返って背後についてくるシユウを確認する。シユウが立ち止まっては狙い撃って居場所を知らせる工程を何度か挟みつつ、合流ポイントに到着した。既に二つの到着していた人影が迎え撃つようにユウカ達に走ってくる。
「全員迎撃行動に入って!ソーマさんヘイト管理よろしく!」
「了解」
二人と二人がすれ違い、ソーマとアリサが勢いのままアタックを仕掛ける。今まで延々追いかけて来たエサに突如として攻撃をしかけられ、シユウが僅かに身体を傾げた。その隙を逃さず、アリサが神機を大きく食らいつかせる。肩口からガッツリ噛みつかれたシユウは雄たけびを上げ、身体を思いきり揺らしてアリサを振り払った。しかしアリサは流石タダでは振り払われず、空中で身体を捻って銃口をシユウへ向けた。バンバンバン!とバレッドが弾ける。シユウはそれを素早い身のこなしで避け、ついでにソーマの盾に足蹴を喰らわせた。
一連の流れの最中に体勢を整え、コウタは砲撃戦へ、ユウカは前に出て素早い捕食を繰り出す。連続かめ〇め波みたいな光球を器用に避けながら、バーストを全員に行き渡していく。派手に騒々しい戦闘音を地下道に存分に響かせながらも、装甲が固く動きも素早いシユウに応戦している。
炎を纏った鋭い蹴りをまともに喰らったアリサを壁に激突する前に抱き留めたり、ソーマの重い一撃を当てるための時間稼ぎや隙を作ったり、コウタの元に飛んでいこうとするシユウを盾で受け止めたりと、やる事が多いユウカであったがなんとかフォロー・バックアップをし続けている最中。
チラ見した端末画面に赤い点が移動しているのが見えた。画面を滑る点が向かう先は、もう一つの赤い点。つまりこちらへ向かってきている。ウワア見ちゃったよといった感じに顔を顰める。充分離れている上にそれなりに入り組んだ地形なのに、アラガミっていうのはどうしてこうピンポイントで人の嫌がる事をしてくるのか。
ともかく来ている事がわかったのだから止めない道理はない。アリサはメンタル不安定野郎なので却下、コウタは銃形態で盾不携帯なのでよろしくない。なので実質ソーマかユウカの二択だ。否、実質一択の間違いか。
「コウタ!」
呼びかけると、コウタの視線がこちらへ向く。端末を一瞥すると直ぐに理解したのか力強く頷いた。理解力ある同僚最高かよと思いながら、よろしくの意を込めて頷き返す。
コウタがありったけのバレッドを放射しながら注意を逸らしてくれている内にシユウの脇を通り抜けそのまま真っすぐ駆け抜ける。何やら喧々諤々聞こえた気がするが聞こえなかったフリをして、すぐの曲がり角まで来ていたシユウを手狭な路で迎撃する。
ちまちま斬りつけながら誘導して、仲間達からグングン離れた。赤い矢印だけが他の矢印とはぐれていく様はなんとも風情があるというかぶっちゃけて言うと心細い事この上ないが、そうも言ってられないのが仕事だ。周囲に構わず遠慮なくバカスカ撃ちながらバキバキと装甲のあるシユウの脚を力任せに叩き折る。
脚と頭とエートあと腕だっけ?
タコ殴りにしながらバスターブレードで来れば良かったなと思ったところで、ヒバリから通信が入った。
『シユウ一体撃破です!お疲れさまでした!残り一体はユウカちゃんが応戦中です!』
どうやら恙なく向こうは終わったようだった。体力ゲージを欠かさずウォッチングしていたが、変に増えたり減ったりもしていない。大きい怪我はなかったのだろう。安堵しながらも攻撃の手を弛めることはない。蹴りや衝撃波、正拳突きに熱球とあらゆる攻撃をしてくるシユウの攻撃をいなしながら何度も切り結んでいく。滑空して突っ込んでくるシユウを最低限の動きで回避し、降り立ったその無防備な背中に飛び掛かった。
「せーいッ!」
ジャンプからの連撃。トドメと言わんばかりに両手で構えて鋭い突きを柳の大木のような巨体の腹部に突き刺した。ガクリ、と力が抜けて崩れ落ちる巨躯が地面に額をつけたのを確認してから、神機をズルリと引き抜いた。赤黒い液体がぬらぬらと鈍色を汚していて不快だった。
「おーい!ユウカー!」
快活な声に釣られて振り返ると、こちらへ駆け寄ってくる三つの影があった。どの影の動きもぎこちなさは見られない。ユウカも大きく手を振って応える。しかしこの三人、並んでいると信号機みたいな色合いをしているなあ。
「何も言わずに離れるな」
「急に戦線放棄し出して何事かと思いましたよ」
「ゴメンゴメン。コウタいるから大丈夫かな~って」
「は?」
「顔コワ。や~、だってこれ実質三人の連携訓練だし。そんならリーダーはコウタでしょ」
リンドウにはっきり言われた訳ではないが、このメンバーでわざわざ任務となればそういう事だろう。独断専行の多いソーマとアリサ、射撃は上手いが計画性のないコウタ、そしてフォローに回っているユウカ、と来れば、ユウカが抜けたらこの部隊は成り立たないという事だ。ゴッドイーターは職務上あらゆる任務、あらゆる人員と対応しなければならないのに、そんなんじゃやっていられない。討伐対象もシユウ二体。任務詳細を見た時に既にピンと来ていた事である。だからユウカも死ぬほど嫌がったのだ。一人で片方討伐する事が目に見えていたから。万一の事態に備えた予備戦力、それがユウカの課せられた仕事である。
入隊して暫く、アラガミを倒す事にも慣れて来た頃。自分の欠点を見直すには丁度良い時期であった。
そしてこの場合、最もリーダーとしてふさわしいのはコウタである。コウタは計画性はないし神機の扱いも下手くそだし抜けたところがあるが、この三人の中では一番周りをよく見ている。ユウカの目的を瞬時に察知したのもこの能力に所以したのであった。
「シユウ一体に面白い手古摺り様だったみたいだね」
事実として、三人がシユウ一体倒すよりも、ユウカが一人で一体倒した方が時間はかからなかった。ニコリと笑ってそんな事実を突きつけたユウカに、三人は揃って目を逸らす。アリサなんか顔を真っ赤にしているし、握りしめた拳はプルプル震えていた。時間がかかったという事は、それだけ連携もクソもなかったという事だ。いつもカバーしていたユウカや他の上官殿達もおらず、さぞカオスな戦場だっただろう。
「あのさ、ユウカ、いやユウカさん、そのー、怒ってる?」
「ていうか、困ってるかな」
恐る恐るといった感じで聞いてきたコウタに、ユウカは顎に手を当てて迷うように返答した。
個人戦なら二人ともちゃんと戦えるのに、どうしてこう、協力プレーができないのだろ。ユウカにとっては心底不思議であって、どう指導すべきかも同様に。リンドウがユウカに放り投げる気持ちもわかるというものだ。しかし、まさかユウカから見た各自の欠点を今ここで全てぶちまけてよろしい訳もなく。隊長職とはかくも難しいものか。
気を抜くと出そうになる溜息を懸命に堪えながら、なんだかテンションが極端に下がった三人を先導して帰投する事となった。
*
露骨にぎこちない空気が流れる四人がエントランスに到着すると、第一部隊の上官たちがそれを出迎えた。
「おっ帰って来たな新人共」
「あれ?二人とも、今日任務だったんじゃ」
「もう終わった。つーわけでユウカー、新しい仕事行くぞー」
「エッ、ちょ、今帰って来たばっかなんですけど!あー!ヤダーー!!!」
人さらいにあったユウカをポカーンと見送る一行にサクヤが近づき苦笑を漏らす。
「皆今日はお疲れ様。大変だったでしょう?」
「サクヤさぁーん!」
慈愛の微笑みを浮かべるサクヤに、コウタが情けない悲鳴で応えた。色々と限界だったものが吐き出されたのである。
「やばいっスよやばいッスよユウカのやつ!あいつマジどこまでワカッてんスか!?」
「全部わかってるんでしょうねえ。長所も欠点も」
ユウカとの任務は、平常かなりスムーズだ。こちらのやりたい事を全て理解し、合図や声を掛ける前に迅速に行動する。阿吽の呼吸というのだろうか。特別な関係の相手でなくとも、ユウカはそれを行える。彼女の持つスキルの中で一番の特技であった。その察知能力と言ったら、心が読めるのではないかとコウタが常々思っているほどだった。そしてそれは、今や支部のゴッドイーターの殆どの共通認識である。桜庭ユウカは稀代のエスパー、帯同した際の生還率はリンドウに及ぶだろう、という感じに。少なくともコウタは、最近のユウカと一緒に出撃する際攻撃を喰らう事がなくなった。それが如何に可笑しい状況であるかは、遠距離型ゴッドイーターなら誰しもがわかる。ヤベ!と思った時には目の前に盾が展開されているのだ。瞬間移動系の能力も持っているのかもしれない。
「オレめっちゃアゲられてて逆に気まずかったスわ!」
「オイ……調子に乗るなよ……」
「唯一の同期同格だから贔屓されてるんじゃないですか?」
「いやいやいやバカお前ら勘違いしてるって!アレ絶対次で下げる為のアレじゃん絶対!もう俺今後一生ユウカに会いたくないんだケド!」
コテンパンにされるーーーッ!と顔をワッと覆って蹲るコウタに憐憫しながら、その背中をポンポンと軽く叩いた。彼の予想はサクヤの見立てと相違なかったからだ。ユウカは手緩い事は絶対にしない。まだ一ヵ月の付き合いなのに、直感的にそれがわかった。
「でも本当に、ユウカの観察眼と成長は目覚ましいわよ。強く成りたいなら、そしてこれからもゴッドイーターとしてやってくなら、彼女の意見は聞いておいた方が絶対に良いわ」
例えば一見優秀な狙撃兵で完璧そうに見えるサクヤだが、彼女は不意打ちに弱い。全体を俯瞰して観察し、隊員の体力に気を配りつつアラガミへ銃撃をする彼女にとって、複数の敵のときは相当それらが負担になる。視線をあっちこっちに向けているから、その分注意力散漫になってしまうのだ。コウタは一つの敵に集中し過ぎて妨害してくる他アラガミの対応に遅れる傾向にあるし、何より後先考えないし若干の自己犠牲の姿勢が見られるのでウッカリ自分がダウンしてしまう。ソーマの欠点は言わずもがなだ。
そしてユウカはそれらを理解しているので、目標アラガミを積極的に切り付けつつ隊員の動きを最も重視し、彼等の能力や体力底上げの為にバースト受け渡しを最優先にしている。彼女がよく戦場を走り回っているのはこの為だ。
「……同時期にゴッドイーターを始めた程度の人間に、聞く事なんてないですから」
「あら」
ピャッと素早い身の熟しで去って行ったアリサの背中を見送る。頑なさと微かな怯えに、サクヤはおっとりと笑った。イタズラが見つかりかけて怯える子どものようだったから。
「コウタくんはどうする?」
「ッッッき(聞き)ますよぉ~~~、ユウカ、こーゆーときはいらんことは言わないッスもん~~~」
つまりは口先だけで駄々をこねているのだった。ユウカは必要であれば『そう』する。ならば、それはコウタにとって真実必要であるのだろう。同僚兼友人に真摯に対応されれば、コウタは無碍にできず真剣に向き合うのが性質であった。それが自分のプライドをベコベコにされるようなものであってもだ。ユウカの心配や不安、艱難辛苦の一端を知っている故に。
「てかさ、ソーマどうすんの」
「………………………………………………………」
ソーマはハッキリと押し黙った。自分に直すべきところがある事は嫌という程知っているが、指摘されるとなると話は変わってくる。此れ迄幾度となく上官から注意を受け、ソーマはソーマなりに周囲に気を配ったりしていたのだが、評価が上がることは一向になかった。なので今更指摘されても、変わらないのではないかという疑問は強い。
しかし他でもないユウカが言うのならば、変わってしまうだろな、という確信もあった。何しろ彼女は、いちばん近くでソーマを見ていたのだから。彼女の言葉は過つことなく穿つだろう。
しかしながら、ソーマにはそんな経験がなかった。時に腫れものを扱うかのように接され、時に嫌悪され遠巻きにされ、偶にいる奇特な輩も、突っ込んだ事を言ってくる者はいなかった。ソーマが踏み込むことを許したのは後にも先にもあの少女一人だから。
故に、図星を突かれたその時、自分が女々しく激高しないかという一点が情けなくも一番心配であった。キレやすい自覚はある。
「いっそエントランスで聞くか……」
「勇者かよ止めとけそれは!」
「貴方って色んな意味で強い子よね……」
*
ハイヴのすぐ傍にもアラガミは発生する。なので定期的に偵察班が巡回したり、殲滅班も帰る時分などにバサバサ倒している。それ以外でも、中型以下のアラガミは特に発生しやすいので注意し続けなければならないし、ほっとくと対アラガミ防壁の壁だって破られてしまう。破りづらい壁と分かっていながら突撃してくるアラガミは多く、外部居住区に侵入するアラガミは後を絶たない。この通り人類はかなりギリギリを生きているのだった。なので、リンドウの周回とも呼べる任務に同行するのはユウカとしてもやぶさかではない。ないのだけれど。
「疲れましたー!もう駄目です動けないですー!」
「叫ぶ余力があるならまだ行けるな。次行くぞー」
「あああああーーー鬼ーーー!」
ズルズルと引き摺られるユウカは首根っこを掴まれたまま喚きまくった。この上官ちょっと容赦なさすぎである。世が世なら労働組合に訴えられて然るべき傍若無人だった。バカデカい神機を担ぎながら、ユウカを彼女の神機ごと容易に引きずるのだから流石ゴッドイーターの怪力っぷりだ。
アラガミを見つけては応戦し、ユウカはその中心に放り投げられては必死に体力を削った。戦場に目まぐるしく視線を動かしながら、自分に出来得る最善の行動を常に選び続ける。至難の業であったが、ユウカの能力はそれを可能にさせた。
「オイ邪魔ァ!」
「スイマセン!」
たまにこうしてミスすることがあるが。ユウカはコンゴウの顔面を踏みつけて思いきり後方にジャンプした。リンドウが今さっきまでユウカの居た場所に渾身の一撃を叩きつける。コンゴウは赤い仮面を割られ顔面の肉を両断され、間もなく活動停止した。
「今の回避は微妙だな。クイック捕食で通りぬけた方がダメージあるだろ」
「ハイ……おっしゃる通りで……ていうかリンドウさん気配消して攻撃するのやめません?急に来るから私までコワイんですが」
「人間の気配ぐらい読み取れや。何年人間やってんだよ」
「ウィッス」
「それと離脱する直前攻撃の手ェ弛めるんじゃねえべや。もっと腰入れて斬ってから、全力離脱しろ」
「はい、体力不足です。スマセン」
事実ユウカはヘトヘトであった。地下道から帰還してからこっち、合計でコンゴウ五体、グボログボロ三体、サリエル七体、それと小型アラガミを数えるのが嫌になるくらい倒した。前衛はリンドウだったのに、彼は息一つ切らしていないのだから恐れ入る。その調子でユウカの不足を一通り詰将棋のように並べ立てた後、リンドウはケロッとした顔をして「んじゃ帰るか」と朗らかに言った。
「前から思ってたんですけど、指導するときだけすごい厳しくないですか?」
「お前は叩いて伸ばすタイプだからな」
「…………エッ、じゃあ厳しいのって私にだけ!?これは明らかな不公平では???」
「そーいうのはもっとまともに神機使えるようになってから言えな」
「すいませんね下手くそで!!!!」
「いんや、新人にしちゃ上等だよ。その調子でバリバリ強くなって楽させてくれ」
「くっ……私より強かな奴がいつかリンドウさんをぎゃふんと言わせるに決まってるンですからねっ!」
「人任せなんかよそこ。ってか、え、お前より強かな奴……!?」
「なんでそこで慄くんですか!」
今にも地団駄踏みそうなユウカの怒声に、リンドウは意にも介さずカラカラ笑う。風車のように軽やかで涼し気な笑い方だった。
このように、ユウカはリンドウに時に厳しく、時にもっと厳しく育てられている。しかしこれらがちょっと厳しすぎるなという事もユウカはわかっているので、仲間にはあのように微妙に甘やかすのだった。その甘やかしは果たして合っているのか、執行猶予と呼ぶんじゃなかろうかという疑問は彼女にはなかった。何しろ、ユウカも充分に未熟な身であったので。
ユウカのステータスを見れば見るほど強くなりそうな感じしかなくて笑います。伸びしろガールです。しかしやっぱりユウカなので何故かどことなく心配というか不安感があります。メンタルもフィジカルも安定してるのになんで???