天を泳ぎて地に戻りきよ   作:緑雲

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少女、奮起

 

 靄がかったような中、意識が覚醒した故に瞼を押し上げる。思考がふわふわしていれば、視界も間隔もぼんやりだ。

 

「気は済んだか?」

 

 重い頭を上げると同時に声を掛けられ、のろのろと視線をそちらへ向ける。目を覚ますと、そこは知らない天井であった――というわけでもなく、そこはソーマの部屋らしかった。らしい、というのは、ちょっと未だ酔っていて記憶がないし寝起きで視界もぼやけているからだ。

 

「…………済んでないし澄んでもない」

「明日も非番とは言え気が緩み過ぎだ。緊急出動もあるんだぞ」

「頭痛はしない。のでセーフ」

「アウトだ馬鹿が」

 

 放り投げられたペットボトルをユウカは真剣白刃取りが如く両手でキャッチした。この状態でノールックキャッチは無謀とは流石に判別がつく。ありがとぉ~~、などと間延びした声で礼を言いながら水を呷る。

 

「ソーマさん、もしかして迎えにきてくれた?」

「いつまでも床に転がしておくわけにもいかないだろう、連絡が来た」

「ワーイゴメンナサイ。お手数かけました」

 

 ペットボトルを両手で包んだまま額につけて背を丸め、深々と謝るというか拝んだ。衣文掛けとソーマを見間違うようなベタな事もなく、睡眠と水分を摂ったユウカはしゃっきりと復活した。

 正気に戻ったせいで余計な事も色々思い出したが、ユウカは無かった事として脳の処理を行うことにした。

 酒飲みの翌日によくある症状を味わいながら、素知らぬフリして水をもう一口飲む。

 

「それで、そこまでするほどの価値はあったのか」

「そりゃあ……たぶん?」

「ハッキリしないな」

「真実は、いつも一つ!だけど心の声は、いつも!多様なんだよ~~~!」

「そうかい」

 

 ビシッと人差し指を立ててキメポーズを取るが、ペットボトルと寝ぐせのせいでどうもしまらない姿となった。自分でもそれがわかったので、若干気まずげに腕を下ろしてそっぽを向く。

 一方ソーマはくすりともせずにベッドの縁に腰かけた。鼻で笑われてもアレだが、スルーはスルーで辛い。

 というかそう言えばここ一週間馬鹿みたいな出撃をしていたのだった、怒っているのだろうか。

 さっき配給ビールをかっぱらってきたコウタには滅茶苦茶に怒られた。というか泣かれた、ごめん。

 理性とかを取り戻したユウカは、チラチラ視線だけでソーマの様子を窺いながら、恐る恐る謝罪を口にした。

 

「……ご、ごめんなさい……?」

「は?何だ」

「いや……その……ここ一週間さぁ、避けちゃってさ……」

 

 視線を彷徨わせながら弁明するように罪状を連ねる。しかし、ソーマは黙ったままユウカから目を切り、腕を組んで何やら考え込んだ。長い沈黙の間、ユウカとしてはもう死刑執行を待つ囚人の気分である。

 

「最初は怒っていた、だが……気持ちがわからないでもない。任務記録も見た、遠目に見かける事もあった、その白い顔色をな。……だから、まあ、総合的に見れば、……心配の方が強かったな」

「ごめんよぅ……」

「二度目だからな。慣れたものだ」

「う、そうだったね………あの、別に逃げたい訳じゃないんだよ?けどね、うん、……合わせる顔が……なかった……」

 

 結果や経過はどうあれリンドウを見捨ててしまった。死んだなんて思っていないが、現時点を持って消息不明なのは事実だ。

 ユウカは彼の生存を疑ったことはないし、微塵も死んだなんて思ってないけれど、それでも、いなくなってしまった。

 あの時、指揮を執ったのも命を下したのも自分だ。ソーマと長い付き合いの、信頼できる人を置き去りにさせてしまった。どの面下げて会えるって言うのだろう。どんな言葉も、第一部隊の面々の前では詭弁となってしまうような気がしていた。

 

 

 ―――『わたし、見ないフリをしていたんです。違うってわかってたのに、それがベッドに逃げ込んで布団を被っているのと同じだって知ってたのに』

 

 相手の肩に額を預けて、アリサが囁くように呟いた。二人の両手はベッドの上で絡めて繋がれ、目元と鼻は赤かった。鼻声には届かない、少し曇った声に、ユウカは耳を澄ませる。

 

『楽な方に身を任せた。……これこそが、私の罪なんですね』

『……そうだね』

 

 ユウカ自身がそれを許せたとしたって、その何が悪いのだと思っていたとしても。事実を否定することはできない。

 静かに肯定したユウカに、アリサが静かにフと息を吐いた。溜息のような微笑のようなその吐息の後、額をよりユウカの肩に押し付ける。ユウカを縮ませそうなほど強く押し付け、そして弾かれたように身体が離れた。反動でユウカも少し仰け反り、アリサの顔が見える。

 

『ごめんなさい。けどもう逃げません』

『……できそう?』

『できなくても、やるしかないです。引き金を引いたのは私です。無謀に突っ込んで気絶したのも。浅慮で両親を呼び寄せたのも。私はこの罪から、逃げるわけにはいかないんですから』

『辛いね』

『……ええ』

 

 首肯してアリサは静かに微笑った。夜半の湖のような、暗くて深くて何一つ反射できない笑みだ。ユウカも同じような表情を浮かべている。鏡合わせのよく似た二人の頭上で、安っぽい蛍光灯がチリチリと音を立てていた。

 

 

 ――そうだ、ユウカだってそうだったのだ。逃げていた。見ないようにしていた。向き合っているようなフリをして、実のところ誰とも向き合えていなかったのだ。

 至らなさから来る羞恥で、呻き声を上げ前のめりに倒れる。

 

「よりによってアリサに気付かされるなんて……」

「……アイツ、目が覚めたのか」

「少しの間だけね。新型同士ってなんか、スゴイね。ちょっと感動した」

 

 何かあったのか、と視線で問われるが黙秘する。実際にはちょっとというか涙の雨嵐だったわけだが、進んで情緒不安定を曝け出すこともないだろう。

 目を泳がせて下手な口笛を吹くユウカにソーマは物凄く怪訝そうな顔を向けたが、最終的には何も聞かない事を選んだ。代わりに深い溜息を吐き、重ねてユウカに尋ねる。

 

「もういいのか」

「うん。もう十分逃げたから、……戦わないと」

 

 ユウカはそう言って気丈に微笑んでみせた。

 生きる事と戦う事は同義だ。生きている以上、戦い続けなければならない。ゴッドイーターでなくとも同じことだ、ひとは生きる為に戦うのだから。

 低く舌打ちしたソーマに、ユウカはけらけらと軽やかに笑った。

 

「しばらくはアリサ復帰の手伝いをすると思うけど、もう無理に忙しくはしないよ。約束する」

「どうせ破るだろうがお前は。付き添うから事前に言え」

「えー。アリサのダメダメなところ見て良いの私だけにしたいなー」

「お前そんな独占欲見せたこと今までないだろ。は?なんなんだ?急にヤツに殺意湧いてきたんだが」

「え!じゃあ今度から見せるね」

「やっぱりウザそうだからいい見せるな寄るな」

「なんで!!??」

 

 にじり寄ろうとするユウカの頭頂を掴んで抑えつける長い腕に全力で抵抗する。

 しかし悲しいくらいの絶対的筋力差の前ではか弱い乙女は無力だった。だがこの世には柔よく剛を制すという素晴らしい言葉がある。か弱き乙女はそれに縋るしかない、つまり飛びつき腕ひしぎ十字固めを極めたのだが、これは見様見真似で初めてやったにしてはよくできていた。数多有る関節技で最も痛いと評される技は伊達じゃない。完璧にキマったこの状況では、おそらく痛いを通り越している筈だ。

 

「今歩み寄る流れだっただろうがバカがッ!ギブ!ギブ!」

「ワハハハいつまでもやられっ放しと思ってんじゃないわよバーカバーカ!クソザコゴッドイーターちゃん達が見た目カッコいいよねとか言って赤くなってるとこみちゃった時なんてめちゃくちゃ嫌な気分になったわバカヤローッ!この鈍感!」

「わかったから放せもげる!」

 

 完全にヤケクソな感じの高笑いを上げるユウカの腕から、ソーマは体格差という圧倒的武器を以てなんとか逃れた。双方ゼェゼェと息切れをしながらその辺に転がる。

 馬鹿の見本市のようになった二人共はしばらくして我に返って正気を取り戻す。

 二人で床に転げた。ユウカはその青いコートを利き手で掴んだ。外す事の出来ない赤い腕輪の向こうで、コートの裾がくしゃりと歪む。

 

「ソーマさん」

「なんだ」

「…………明日からまた頑張るから。よろしくね」

 

 一瞬の逡巡。そして言おうとした言葉を飲み込んで、別の言葉を口にした。

 それに気が付いているのかいないのか、ソーマは「当たり前だ」と短く返答して、握りしめられた白い拳を上から覆った。ソーマはその素行から、隊長職に任命された事は殆どない。だから彼女の双肩にかかったその重さも、わかってやることなど出来ない。

 けれど、ソーマはわからなくても良いと思っていた。

 自分がユウカを見失わなければそれで良い。

 

 

 

『私たち、きっと完全に幸せにはなれないでしょうね』

『……そうだね』

 

 幸せを求めるのは生物の本能だろう。ユウカだって、不幸であるよりは幸せである方が良いに決まってる。だが、それは余人の勝手な思い込みだ。アリサの言う通り、逃げるわけにはいかないのだから。この先どんな幸福な時間であっても、過去が伸ばす昏い陰は存在し続ける。

 だが手放せなかった一握の幸福と思い出があるから、人は生きていける。

 

『ソーマと貴方がどんなにイチャコラしていようと、私は忘れませんからね』

『うん。私も、アリサとリディアさんがどんなに涙を流して抱き合っていても忘れてやらないから』

『ええ、そうして下さい』

 

 互いの痛みを共有した二人の顔は、見違えるように美しくなっていた。痛みという存在を受け入れることは、二人の外見にすら及ぶほどの成長を促したのだ。しかしそれには気付かず、共犯者となった二人はそれから抱き合って互いに体温を分け与えた。

 

 過労死してもおかしくないレベルの任務量を熟していたユウカだが、課せられた休日は一日のみであった。ゴッドイーターはクソである。

 一日休めたとは言え残っている若干の気怠さを、両肩を回して誤魔化した。タラッタタタタッ、とリズム良く鉄の階段を下る。

 

「おばちゃん、おはようございます」

「あらユウカちゃん!最近忙しそうだったけど、大丈夫だったの?」

「ご覧の通り、元気です!おばちゃんは腰良くなった?」

「腰ねえ。この前ちょっと良くなったんだけど、またすぐ悪くなっちゃって……サロンパスが手放せないわよ~ホント、あ、イタタタタ、そこ痛いそこ痛い」

「えっ、ここ腎臓のツボですよ?」

「あらっ?」

「軽くむくみもありますし……塩分摂りすぎです」

「も~主人に続いて私まで?ユウカちゃんって、やっぱりエスパーなの?」

「保存食は塩ッ気多いですから、ご主人にもしっかり言い含めて下さいね。てかやっぱりってなんですか?」

「いや~、日頃の行いじゃね?」

「コウタ!おばちゃん、じゃあねっ」

「またお喋りしましょうねぇ」

 

 掃除のおばちゃんに手を振って離れ、呆れた顔を隠さないコウタに駆け寄る。

 

「はよ~。ユウカの交友関係ってどうなってんの?」

「おはよ。やー、腰痛いとか最近動くのが辛いとか言われたらさぁ、色々勉強してた身としてはね」

「お前、そんなんだから過労死しかけるんじゃねーの?」

「過労死しかけてないっつの。元気ビンビンだったわ」

「それはそれで人間としてはおかしいような……」

 

 早朝のアナグラには行商人と清掃員、オペレーターが主に仕事をしていて、ゴッドイーターはちらほら見かけるくらいだ。

 昼夜の区別なく現れるアラガミのせいで、ゴッドイーターが真っ当な生活スタイルを保つのは難しい。そういうところから生活習慣病が始まるのだが、未来の病気より今の脅威だ。もっと人員が豊富になったらそれとなくゴリ押しして改善案を通そうと思う。

 

「えっソーマじゃん」

「ホントだ。おはよー」

「ああ」

「ウワー、おま、露骨ー。ユウカが復帰した途端ミーティング出るじゃん」

「何が悲しくてお前と顔つき合わせる為に二十分早く起きなきゃならないんだ」

「サイテーすぎだろ!同じ部隊の仲間だろォ!」

「ソーマさんサイテー」

「そもそも隊ミーティングは義務じゃねえ。任務には時間通り来てたから問題ないだろ」

「それは当たり前だから。そんなんだから協調性ないって言われるんだよ?わかってる?」

「わかってないからやらかすんだろソーマセンパイは。俺が一人寂しくエントランスで突っ立ってた時の気持ち、わかんねーだろうなー!」

「お前ソファで寝てただろうが!」

「ねえどっちもバカじゃん。ちゃんとやってよー」

「「オマエが言うな」」

「すみません……」

 

 いつも通り――リンドウがいなくとも、サクヤとアリサがいなくとも、以前の通りのやり取りが戻っていた。

 自然に笑えた事に安堵したと同時に、僅かな罪悪感のような寂しさのような、なんともいえない感情が胸の内に溜まる。

 

「昨日通達した通り、今日からまた私が隊長代理として、第一部隊は任務を熟していきます。手始めに色々任務受けといたから、頑張っていこーね!」

「了解」

「りょーかい。つかでもコレ量多いだろ!」

「え、そう?」

「おいソーマやべーよこいつ、まだ仕事量バグってるよ。チョップしてやれチョップ」

「家電の類じゃねーわ!イタっ、ちょ、ホントにチョップしないでよっ!いたっ!ごめんごめん減らしますっ」

「もう昨日のうちに減らしといたよ」

「あ、あれコウタの仕業だったの?バグかと思って再受注しちゃったよ」

「バグはお前だよ!なにやってんだよ!」

「滅茶苦茶か。もうやるしかないな」

「はー、おま、お前ユウカ今日夕飯なんか奢れよ」

「わかったわかったよ。ごめんて」

「あのっ!」

 

 緊張で裏返った少女の呼び声に、三人がほぼ同時にそちらへ振り向く。

 赤い帽子を目深に被り、浅く呼吸をしたアリサがそこに佇んでいた。前の、自信過剰な風体は消え、身体を縮こませて長い両足を竦ませている。

 

「その任務の過剰部分、私にやらせて貰えませんかっ」

「アリサっ?え、身体は大丈夫なの?」

「本日付で、原隊復帰になりました。また、よろしくお願いします!」

 

 風切り音が聞こえそうなほど勢いよく頭を下げたアリサに、コウタは若干慄き、ソーマは軽く瞠目している。

 

「実戦復帰の許可は?」

「ユウカとツーマンセルのみという限定範囲ですが、一応」

「そっか。じゃあ行こうか」

「っありがとうございます!」

「皆で」

「えっ」

「エッ」

「は?」

「いや当たり前でしょ。私たち、みんなで第一部隊なんだから。ソーマさんにも昨日言われて、私は考えを検めましたっ」

 

 仁王立ちして腰に手を当てたまま、ユウカは「どうだ偉いでしょ」といった様子で大きく頷いた。流れ弾が飛んできた男二人は勿論、アリサも唖然として間抜けに大きく口を開ける。

 

「いっ、いやいやいや、ユウカ!私、はっきり言って今は足手纏いで、」

「だからこそでしょ。私だけじゃなくて、皆に頼って」

「ですが、許可はツーマンセルのみで、」

「アリサ」

「えっ?」

「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ?」

「いや命令無視は犯罪ですよ!」

「違うよアリサ。犯罪はね。バレて、送検されて、沙汰が下ったら犯罪なの。沙汰下るまでは犯罪じゃないんだよ」

「犯罪ですよ!二人もなんとか言ってください!」

「……や、ユウカの言う通りだよ」

「は!?」

 

 援護射撃どころか背後から刺されたような心地で、アリサが険しい顔でコウタを見やる。

 

「オレたちさ、ユウカにいつも頼ってばっかだよ。新しく来たばっかのアリサのことも、……あのときも」

 

 今度はユウカが驚く番であった。コウタがそんな風に思っていたなど、そんな風に罪悪感を感じていたなど、思ってもみなかった。

 隊長職とは隊員を守り、導くのが役割だ。むしろ、頼られるのは喜ばしいとすら思っていた。

 けれど、そんなことは良いんだよ、気にしてないよ、と言ったところで、コウタは納得しないだろう。

 

「オレ、まだアラガミの事は勉強中だし、ユウカみたいに作戦も立てられんけど。でもさ、ユウカばっかり色々背負わせんのは、やっぱ、良くないって思う。アリサにも早く立ち直って欲しいし、元気になって欲しい。だからオレも、アリサの手助けしてやりたい、って思うんだ、けど……ダメかな?」

「――ダメなわけ、ありませんけどッ……」

 

 アリサはスカートを両手で握りしめて視線をうろつかせた。コウタの言葉は真っすぐで、そこには思いやりしか込められていない。茶化さなければ、コウタはこんなに良い奴なのだ。

 友人の良いところが顕わになって嬉しいやら誇らしいやらで、ユウカの唇は緩やかに弧を描いた。

 

「ソーマさんは?」

「……概ね同感だ」

「アナタ一人だけなんか違いません?」

「それな。後方彼氏面うぜー」

「はっ倒すぞ」

「ソーマさんはシャイだからね」

「これシャイか!?」

「うん。これ内心では自分も私の荷物を半分持てるくらいに頼り甲斐を身に着けるかくらいの事は考えて、」

「黙れ」

「あれ、当たってた?」

「やっぱお前エスパーだわ」

「ですね。しかも最悪なタイプです」

「デリカシーゼロ」

「最低なのはお前だったな」

「ドン引きです」

「ひどくない!?もー任務行くよ!」

 

 逃げた逃げたとブーイングする生意気な隊員達を引きずり、出撃ゲートに飛び込む。

 雨降って地固まる。リーダー不在の第一部隊だが、奇しくも部隊員同士の結束は固まりつつあった。

 

 

「……まあこうなるよな」

「そりゃね」

 

 前にユウカとタツミが腕立て伏せを命じられた廊下。今はそこに四人の男女が揃って腕立てしていた。

 筋トレを欠かさないソーマと慣れているユウカの一方で、コウタとアリサは一段ペースを落として息切れしながらノルマに手を伸ばしている。

 当然のようにアリサの限定外出撃がバレたのだな。

 ユウカ、ソーマ、コウタの悪ガキ三人は全力でスットボけたのだが、根がイイコなアリサが仇となった。

 

「最近腕の筋肉ヤバいんだよねー。出せないもん気軽に」

「逆になんでそんなに腕立てさせられてるんですか?反省して下さい」

「八割がたアリサの売った喧嘩の仲裁が罰則の原因だけどね」

「ブーメラン飛び交ってんなー」

「残り二割の原因がなんか言ってる!」

「は!?待て待て待てエントランスでフリスビー遊びした件はお前が言い出したんだろ!」

「貴様ら」

 

 アッ、と誰とはなしに声を上げた。背後の扉を開き、ガイナ立ちする教官をソォッと振り返る。

 

「追加二百。ユウカは追加で三百」

「……ソーマさん、私の腕がムッキムキになっても恋人やめないでね」

「程度による」

「ねえその返答は流石にひどくない!?」

「そうですよ。どんな姿のユウカでも愛せないなんて……ユウカ、そんな男やめて私と遊びましょう」

「どんな姿でもってなんやねん」

「百合百合しいなオイ。ってか腕はウンまあほら、男の矜持的なね?あんだよそういうの!俺にもわかる!」

「わかった、全員五百追加だな。返事」

 

 了解ッ、とヤケクソのような一同返答に、ツバキは今度こそ頭を抱えて大きな溜息を吐いた。そのこめかみは、今にもはち切れんばかりに血管が浮き上がっていた。

 




夏だ!ソマ主の季節だ!(?????)

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