はー?二分でプリティヴィ・マータ片付けないといけないってマジ?
任務開始と同時にヒバリに告げられた情報に、ユウカは胸中で心底項垂れた。
二分後にディアウス・ピターが作戦エリアに侵入する。それまでに、エリア内を既に闊歩しているプリティヴィ・マータをどうこうしなければ、二体同時攻略を迫られる。新種相手にそこそこな自殺行為だ。
なんとなーくコウタの視線が気にかかったので、今回はコウタと入れ替わりでソーマに来て貰った。精神状態が安定してない隊員は危険を呼ぶ。
「ユウカ、どうしますか?」
「早急にプリティヴィ・マータを全力攻撃。無理そうなら分断。以上!総員ダッシュ!超ダッシュ!」
「アハハ」
「了解です!」
頭を抱えるユウカにサクヤが軽く笑って、アリサが元気よく良い子のお返事をした。
建物の陰へ消えていく氷色の後ろ姿へバレッドを撃ちこみながら接近する。
直撃もそこそこにプリティヴィ・マータは軽く跳躍して射線を避け、一つ遠吠えする。まさか呼んでいるわけじゃあるまいだろうが、それでも不安なので黙らせるようにショートブレードでその口を斬り裂く。
軽く怯んだ獣は、邪魔なコバエを振り払うように前足を振り回した。バレッドを撃った反動を利用してその爪から逃れ、きちんと足から地面に着地する。
白目の無い双眸がぎらりと光り、ユウカは咄嗟に背後へ「全員後ろへ飛んで!」と呼びかけた。
直後、ノーモーションで氷山と見紛う巨大な氷塊が瞬く間に次々と地を埋め尽くすほど出現する。特にファーストアタックをしたユウカへ向けられた氷は一際堆く現れ、天を劈くほど聳え立った。
天高く跳んでいたおかげでそれを避けられたユウカであったが、着地する場所に困って顔を引き攣らせた。何しろ地面が全部氷であり、すべてアラガミの一部だ。触れただけでも強靭なゴッドイーターの身体を容易に蝕む。
氷が消えるまでおよそあと三秒。
無難に盾から着地するしかないか。そうしようとした矢先、直感に従って神機をフルスイングした。
重い感触と冷気。
続けざまに氷の礫が飛んできたらしい。
連射の方じゃなくて助かった、っていうかいや着地!
背中から氷に叩きつけられる間際、弾丸みたいに真横から飛んできたソーマに回収される。どっからどう飛んだらそんな軌道になるんだ、と若干引きながら逞しい腕にしがみついた。
ソーマは軌道の先、ぶつかる筈だった壁へ物凄い音と共に神機を深く突き刺した。ハリウッドもドン引きのノンワイヤーアクションである。救出された身として文句は言わないが、ワケわからん機動のせいで腹へのGがやばかった。
「無事か」
「ちょっと酔った。でもありがと!」
「もうこんなどこぞの何某スーパーマンみてェなことしねェからな」
「あは。ごめーん」
そんなこと言ってー、いつでも助けてくれるくせにー。とか死ぬほどウザく絡みたかったが、流石にTPOを弁えた。
氷が消えると同時に、ユウカを小脇に抱えたまま神機を壁から引っこ抜いて地面へ着地する。
ディアウス・ピターに触発されているのか、前戦った個体より判断能力が高い。
「いくよ!」
「了解」
上段と下段にそれぞれ構え、合図もなしに同時に駆け出す。
ソーマは思いきり神機を振り下ろし、ユウカは素早く捕食した。バーストで漲った身体で、すぐさま後退して吹雪を避ける。
僅かに止まったその脚を、サクヤとアリサのバレッドが撃ち抜いた。鎧の端が欠けるが、結合崩壊とまではいかない。
捕食で手に入れた弾を味方へのバースト強化に使い、自分のバースト維持の為に捕食形態を隙あらば食らいつかせる。
次々と飛び掛かってくる巨体と爪、吹雪と氷の合間を縫って、空き地を文字通り飛び回った。攻撃するのも困難な中、着実に味方へバースト受け渡しをし続ける。ユウカの武器はショートブレードなので、自分で攻撃するより高火力のソーマやアリサの攻撃力を底上げする方が効率的だ。
全員がバーストマックスになってようやく、ユウカはプリティヴィ・マータの攻撃へ本格参戦と成った。
冬の化身が、狂った女神の顔をして、剣を突きつけるユウカへギョロリと銀色の目玉を向ける。
氷の礫を四方へ飛ばさんと動きを止めたその獣の懐へ一思いに飛び込んだ。はらわたを引きずり出すように斬りつける。
堅固なアラガミの肉体は鉄を弾くような音で軽くユウカの剣戟を受け止めた。柔い攻撃だとせせら笑うように、プリティヴィ・マータが大口を開けて吠える。その咆哮ですら攻撃だ。衝撃で地を転がる。
戦場が空き地から廃工場の中へ移動し、狭い空間で鎬を削り合う。
「私のメテオでとっととトドメにするッ、動き止めて!」
了解ッ、と三方からドスの効いた返答が響いた。
こまめにリザーブしていたOPを開放するため、銃形態に素早く換装する。
アリサが最前線へ出てアラガミの眼前をちょろちょろ動き回り、振りかぶられた前足をソーマが打ち上げた。空かさず、サクヤがその角度を上げる為に晒された顎へレーザーを撃ちこむ。堪らず後ろ足のみで仰け反って、無防備な腹へ弱い陽光が当たる。
バーストしたユウカは素晴らしい瞬発力で突っ込み、ゼロ距離でトリガーを引いた。焔のような赤い衝撃波と共に花火ほどの大きな火花が散る。
悲鳴を上げたプリティヴィ・マータは、荒い息を吐きながら地に伏せる。虫の息、もう一息だ。
『ディアウス・ピター、作戦エリア内に侵入しました!』
ヒバリの緊迫した声。
何処に!?マップを確認するまでもなく、プリティヴィ・マータを囲んでいたユウカ、ソーマ、アリサは咄嗟にトドメに振り上げていた神機を退いて盾を構えた。
正面から衝撃。
「クソ」
「わーーッ、ウッソぉ!」
「キャアッ」
勢いを殺し切れず、ユウカとアリサが後方へ吹っ飛ぶ。
地面へ伸ばした掌の表面が削れたものの、ユウカは両脚でしっかりと踏ん張った。アリサは吹っ飛んだものの、運よくボロ布類が山となっていた場所へ転がった為大きな怪我とはならなかったようだ。
二匹の獣が吼える。
まるで番いのようなそのアラガミたちは、互いを守り合うように佇んでいた。
地面が紫と白に発光する。ヴァジュラと似たパターンに、泡を食ったように全員廃屋から飛び出した。
背後が、爆弾が落ちたように強く輝く。
神の雷霆。
ヴァジュラと比べるのもバカバカしいほどの力強い雷。
瀕死とは言え、追い詰められて活性化したプリティヴィ・マータ。無傷の新種のアラガミ、ディアウス・ピター。
二体はまるで互いの行動を予見しているかのように、こちらが息を吐く間もなく連撃を仕掛けて来る。反撃どころか避けるだけですら精神をすり減らす。
このまま同時に相手するのは絶対無理。
サクヤさんは支援型、論外。
頼むならアリサかソーマさん。
プリティヴィ・マータは瀕死だ。なら。
「……ソーマさん!」
「ハ、」
当然だな。と滲ませた笑みでユウカを流し見る。
冬の空みたいな色をした瞳が一瞬で正面へ戻され、展開されていた盾を解除した。
ユウカの呼びかけひとつで命令内容を把握したソーマは、防御を捨ててディアウス・ピターへ真っすぐ斬りかかる。
それに合わせて、ユウカもプリティヴィ・マータの横っ面を神機でブン殴った。苛立ちを含んだ銀の眼を引き付けるように、揺れるような足さばきで注意を逸らす。
プリティヴィ・マータに集中するユウカの背中へ攻撃は当たらない。ユウカよりよっぽど誘導が上手なソーマが、巧みにディアウス・ピターを別エリアへと誘い込んでいるからだ。
完全にその姿が見えなくなった事を視界の端に捉えて、間近に迫った礫を弾き飛ばす。
これで心置きなくこのクソッタレをぶちのめせる。
「支援します!受け取って!」
「ユウカ走って!」
「ありがと!」
切れかかっていたバーストがアリサからの受け渡しによって、再び強く輝き漲った。
フッ、と息を短く吐き出して、バレッドの雨の間を抜け跳躍する。
傘のように振り回される青色の鬣を神機で弾き、その度に火花が散って肌を掠めた。
それを知覚すれども振り返る事はせず、ユウカは一直線に跳んで、神機を振り上げた。
鋼のような肌を裂き、鬣と鎧の隙間、曇った白い首を、血飛沫と共に刎ね飛ばした。
高い放物線を描いてくるくると重い首は軽やかに飛び、やがてどしゃりと地面に落ちた。
「よし!さあすぐソーマさんの所に行こうすぐ行こう!」
「了解!」
「了解です!」
すぐに走り出したユウカに遅れず、サクヤとアリサも後ろに続く。
マップを確認するまでもない。先程から派手な戦闘音が遠く土煙と共に高らかに上がっている。
それらを目印に駆けつけたと同時、すぐ後ろに立っていたアリサとサクヤを地面に引き倒す。
ハラ、と髪の先が宙に舞ったそこ、一瞬前まで自分たちの腹があった場所に黒い爪が突き出されていた。
伏せていなければ確実に団子三兄弟みたいになっていただろう。
恐怖に慄きつつ盾をすぐに開いた。盾の外側がすべて白く染まる。景色が戻って来た頃には、自分たちが盾を構えた以外の地面が真っ黒に染まっていた。完璧に黒焦げである。
転がるように其処を脱し、素早く捕食しながら距離を取った。
アラガミを注視しながらも、青いフードの影を探す。ディアウス・ピターの丁度後方、得物を振りかぶる姿に安堵した。
しかし、いつにない余裕のない表情に内臓が縮む。
早く仕留めないといけないような気がする。ディアウス・ピターの動きを翻弄するように、ユウカは素早く跳び回ってすれ違いざまに斬りつけ続けた。
全員で集中攻撃している内、アリサの赤い刀身がディアウス・ピターの仮面にヒビを入れる。
空気が揺れた。
赤い、血のように赤い光がディアウス・ピターの身体に揺らめく。
え。声を漏らしたサクヤの姿が掻き消えた。
「サクヤさん!?」
「バカ、アリサ!」
よりにもよってなタイミングで余所見したアリサを背中で押し倒す。
だが致命的に遅かったが故に、神機で受け流し切れなかった赤い何かが、ユウカの胸元から右肩までを切り裂いた。片手で盾を構えながら、片手で回復錠改を患部付近に打ち込む。
盾の向こう側、ヴァジュラを黒く厳めしくしただけだったような姿は変わり果てていた。
地獄の業火より尚赤い、紅の両翼がその背中から花開いている。黒かった体躯も、全身に血を纏っているかのように鈍い赤に輝いていた。赤い稲妻が迸る。
ようやく、第二ラウンドが始まったのだ。
『サクヤさん、行動不能です!』
ヒバリの声に引き戻され、ユウカは咥内を噛み締めて脚を叱咤する。
翼に吹っ飛ばされ、サクヤは遥か後方の壁にめり込んでいた。
嘘みたいに広範囲の赤い稲妻を避けながら、サクヤの元に駆けつける。
リンクエイド。傷を分け合えるゴッドイーターの特性の一つ。
彼女が受けたダメージを肩代わりしながら、アリサとソーマが引き付けてくれているディアウス・ピターの動きを観察する。
ノーモーションで繰り出される雷。ただ飛び回るだけで抉れる地面。通りがかりにあった廃墟が、翼が掠っただけで容易に切り裂かれ、紙細工みたいに呆気なく壊れる。
両翼はその羽根のようなひとつひとつが剣となっていて、しかも攻撃のときは力強く、大きく広がり、届かない筈の距離までもを切り裂く。
死刑執行人の斧ほどに血に飢えていて、死神の鎌ほどに逃れ難い。
「ウ、はァ。ごめんなさい、ユウカ……」
「大丈夫です。サクヤさんは必ず距離を取っていて下さい」
構造上盾のない遠距離旧型は相対すること自体無茶だ。
サクヤの脚に力が戻った事を横目に、今まさに飛び掛かられたアリサの加勢に飛び込む。
弾こうとしたが膂力が強すぎて殺し切れず、地面に跪いて攻撃をモロに受け止める形となった。しかしアリサの串刺し回避には成功したようで、フッ、フッ、と短い息が隣から吐き出される。
「下がって回復!」
「っはい!」
「ユウカどけ!」
ソーマの声で素早く横へ転がる。
ガキィン!と高い音がして、翼が大きく弾かれた。
だが動いたのは片翼だけで、続けてもう片方の翼が振り翳される。ユウカは思いきり地面を蹴って跳躍し、その片方の翼を神機の刃で受け止めた。チェーンソーでも当てられているかのように、神機の表面が荒く削られる。受け止めただけで。
両方の翼による攻撃を凌がれ、ただの一瞬の隙間でソーマは本体へと肉薄し、髭面の仮面へ一撃を叩き込んだ。
しかし、如何にバスターブレード、如何にソーマと言えど一撃のみで罅が入っているだけの仮面を割るには至らず、赤い双眸が僅かに顰められるのみであった。
バーストの強化がないと死ぬ。
烈風のような翼の猛撃を耐え忍びながら、ユウカは少し笑いたいような気分だった。死の恐怖を前にすると人って笑っちゃうんだよね。最近知った一生知らずにいたかった知識が脳を過ぎる。
予測のつかない、トリッキーな動きのディアウス・ピターは、対応しきれずに傷だらけになる我々を正しく嘲笑っていた。絶対的強者にのみ許された傲慢な余裕。
ユウカの胸に気づいてはならない感情が湧き上がってくる。しかし、それはユウカには許されていなかったので、見ないフリして気付かないフリして歯を食いしばった。
ディアウス・ピターが身体を振り回すだけでダメージを喰らうので、ポーチからは次々とアイテムが消えていった。
僅かながら反撃は叶っているというのに、一向に何処も結合崩壊しない。
距離が遠い為に攻撃力の低いバレッドしか撃ちようがないサクヤが回復弾を前衛三人へ懸命に撃っているというのに、笑えるほどに全員傷だらけだった。
「いやー。ヤバいね、コレ!」
ハサミのように交差される翼の右をユウカ、左をソーマが受け止める中、意識して余裕があるように装って笑う。
足元に臥せったアリサをリンクエイドし、その傷を引き受けた。アリサの千切れかかった左腕がじわりとくっつき、代わりにユウカの左腕に傷が刻まれて血が溢れ出る。肋骨かどっかの骨も折れていたのか呼吸も苦しくなって吐き気もしてきた。
シールドを展開して雷を防いでいたソーマが、後ろ手にユウカの肌の露出した箇所へ回復錠を打った。器用すぎる。
「俺のアイテムはこれで最後だ」
「だよね!私もラスイチ!アリサ起きて!」
「う゛。ハ、……すみ、ません。すぐに、」
「来るぞ!」
ソーマの警告に思考も放棄してアリサを抱え、とにかく滅茶苦茶に逃げ続ける。
最早目で巨体を追わず、気配と空気の震えのみで攻撃を紙一重で避けていた。ていうか早くアリサ立てるようになって!
片腕に抱えながら、少しだけ疲労でよろめいた隙を逃さず捕食してとにかく切り刻む。
『前足、結合崩壊!アラガミ、活性化です!』
まだ活性化してなかったんだ!?
信じ難い事実に打ちのめされたその時、目の前、本当に目と鼻の先に、顔面が其処にあった。白い吐息が視界に映り、口元が歪められる。
伏せるか、後ろ、いや横へ跳ぶか!?
突然すぎる命の危機に混乱したユウカの肩口から銃口が突き出る。
閃光が弾けて視界がまっ白になったユウカの首根っこを、浅黒い掌が引っこ抜く。
「ボサッとしてンじゃねえ!」
「ユウカアリサ無事!?」
「だ、いじょうぶです!マジ本気でありがとうございます!アリサっ」
「はいっ!もういけます!」
サクヤお特製の強力なメテオバレッドを顔面に喰らったディアウス・ピターは流石に効いたようで、仮面を完全に砕けさせて顔面を苦痛に歪めていた。苦虫を噛みつぶしたような顔にも見える。不快そうな表情だった。
「私のOPも、もうガス欠。貴方達の支援に徹するわ」
「はい。皆、ここまできたらもうゴリ押しでいくよ。相手の攻撃範囲を絶対に見誤らないこと、死ぬのだけはナシ!いいね」
「お前もな。リンクエイドし過ぎだ、死ぬぞ」
「考えとく。さあ行くよ!」
血に濡れなかった場所はないんじゃないかな、というぐらい全体的に赤黒い痕を振り払う。
ディアウス・ピターと全く同じように飛び掛かり合い、黒い体躯の表面に赤白く光る傷口を更に抉った。赤い翼の先が掠ったこめかみから赤い線が引かれる。流れ出た血が目に入って物凄く邪魔。
やはりユウカの武器じゃいまいちダメージにならない。ハッキリ言ってスピード特化のユウカじゃ分が悪かった。
雷を盾で弾き、翼と爪相手に斬り結ぶ。傷口を執拗に狙ってヘイトを稼ぎ、猫じゃらしのようにぴょんぴょん眼前を左右に跳ねる。
咆哮しかけた口の中へバレッドを叩き込むと、ようやくディアウス・ピターの動きが鈍った。
『アラガミのオラクル反応、低下しています!』
ヤるならここしかない。
動きが止まった右前足を、直上から刺し貫いて地面に縫い留めた。叫び声が上がり、左前足の猫パンチを神機の柄を支えに伸身して回避する。薄皮一枚のみ切れてまた血の玉が散った。
「ソーマさん!アリサ!お願い!」
ユウカの呼びかけと同時、二人が神機を振りかぶった。赤と鈍色の残像。
渾身の一撃と呼ぶに相応しい、絶死の剣。
一拍置いて、朽ちた街中に断末魔が響き渡った。人間のものではない、化物の絶叫。
神機を引き抜き、地面に膝をついた。ふらふらと各々足取りおぼつかない中、互いの無事を確かめ合うために歩み寄る。
「あのさ……あの、ほんと、バカじゃないの?」
「第一声がそれ?わかるけど」
「確かに、ちょっと、いやだいぶ、強すぎですよね……」
荒い呼吸を落ち着けながら、疲労しきった傷だらけの身体を休める。互いの無事を確かめ合う為、自然と冬の朝のスズメたちみたいに寄り集まった。
「こっちに寄れ。凭れかかって良いから」
「………固い………」
「文句言うな」
「あはは。でも、あったかいよ……」
今度こそ死ぬかと思った。最近そんなんばっかだな。
身体もだが精神的にも疲労が限界である。ユウカほどにはぼろぼろでないソーマに擦り寄ると、フーッと頭上から長い息が吐かれるのがわかった。ソーマも張り詰めていた緊張感等をすこし弛めたようだった。
ソーマの腕の中はいつも通り熱いくらいあったかくて硬くて力強くて、今はちょっとだけ汗くさい。その動きの澱みのなさや重心の位置から、彼に大きな怪我がない事を改めて確認して、ユウカ自身も強張っていた何某かがほどけたような感じがした。
だがまだやるべき事は残ってる。
ずっとこうしていたかったけど、ユウカは微かに熱を持つ額を抑えながら、ソーマから身体を起こした。
ふらつくユウカを咎めるように「おい」と声で留められるが、流石に仕事を誰かに押し付ける事もできないので、大丈夫だよ、と微笑んで見せる。
『……腕輪反応の、確認をお願いします』
躊躇いがちなヒバリの声音に「はいはい、わかってるよ」と常よりも軽く明るい調子で返した。
その気遣いが嬉しいとは思う。だが、だからこそ心配をあまりかけたくなかった。重荷にならなければ良いと思うから。
神機を握りしめて、倒れ伏す巨体へ更に歩み寄る。
腕輪の反応は大雑把なGPSレベルにしか位置を把握できない。つまり、本当にこのアラガミの中に存在していることを確認するには、アラガミをアジみたいに開いて、肉を掻き分けて対象物を引きずり出すしかない。
この工程がユウカは死ぬほど嫌いだ。いや、戦場であってユウカが嫌いじゃない事など無いのだが。
ぬち、と重い粘着質な音。生温かくて重い肉の感触。
死んですぐの死体は、当然だが生きているときとあまり変わらない。ただし横たわる事実が覆ることもない。そのちぐはぐさがより一層不気味で、なんとも言えない気味の悪さを醸し出しているのだった。
ディアウス・ピターは巨大だ。だが、腕輪はともかく、神機は決して小さくはない。
だから、割かしすぐに、それは見つかった。
ずるり、と主の消えた神機を引き抜く。背後で息を呑む音が響いた。
チェーンソーを模した神機、ブラッドサージ。アラガミの体液まみれになっているが、その形は少しも損なわれていない。
その先端に、見つけようとして、でも決して見つからないようにと願っていた赤い腕輪がひっかかっていた。
無言のまま、サクヤに手渡す。
「――……ええ。間違いないわ。これは、……あのひとの、……」
腕輪を握りしめ、その場で頽れる。
声を押し殺し、懸命に涙を零さんと堪えて。悲痛さを奥歯で噛み締めている姿は、絵画のように美しくて、なのにどうしようもなく現実だった。
ブラッドサージを呆然と眺めていたアリサが、ふらふら後退してストンと地面に腰を下ろした。ソーマはジッとブラッドサージを見つめた後、不意に視線を他所へ逸らす。
サクヤがリンドウの名前をか細く呼ぶ。愛する人の名前を。返答を期待していない、なのにただもう呼びかけるしかできない。そんな、愚かで哀しい声だった。
自分の神機とブラッドサージを地面にブッ刺し、ユウカは膝を折ってサクヤを抱き締めた。
サクヤが本当に抱き締めて貰いたいのはユウカではない。そんなことは百も承知で、だが唯一のひとを失ってしまったひとにしてあげられることが、ユウカにはもうこれくらいしか思いつかなかった。
リーダーとして、あの日リンドウを切り捨ててしまった罪悪感。姉のように慕うひとに元気になってほしいという厚意。そのどちらも間違って何かなく存在していて、前者のみを上手に覆い隠して、ユウカはサクヤをつよく、労わるように抱き締めた。
ついったのトレンドに上がってて嬉しすぎて投下。GE4待ってます!(血涙)