童顔系潜入捜査官   作:くりっぷ

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【暗殺】に日々挑む生徒たち。だが、学生の本分は勉強。つまるところ、E組生徒たちは期末テストに追われていた。

 

 

殺せんせーが触手を破壊する権利と引き換えに生徒のやる気に火をつけた。さらに本校舎の生徒と売り言葉に買い言葉で賭けをし、あとには引けないらしい。

 

 

必死でテスト勉強をする彼らにターゲットの分身は付きっきりの状態だ。

 

テストに関しては特に手を出すこともない。この学校の教育システムを考えたら、()()()()()()本校舎に目の敵にされ、逆に()()()()()()てもあのタコにみっちり教え込まれる。雑踏に紛れ込む程度でいい。目指すはaverage―――平均だ。

 

 

おれが1位を狙わなくても、おれじゃない誰かが1位を取れば問題ない。あのタコは確かに【各教科トップに触手を破壊する権利を与える】と言ったのだから。指定された条件の隙間を掻い潜るなら、中学生履修済みのおれが一枚上手だ。

 

 

 

「ちょっと一泡ふかせてみないか?」

 

 

 

料理本を幾つか手に持ったおれは不機嫌そうな彼らに声をかけた。

 

 

 

***

 

 

 

通称【寺坂グループ】はおれの話に怪訝そうな表情で聞いた。

 

⎯⎯「この教室を将棋の駒に見立てると、ぼくたちは歩兵なんだよ」

⎯⎯「ンなこと今さらだろ」

⎯⎯「そうね。私たち、お世辞にも優等生ってガラじゃないし...」

 

⎯⎯「歩兵って一見やる気ないようにみえるだろ?でもさ、歩兵が化けたら『と金』になるんだ。つまりは戦力外通知を受けそうなぼくたちでも充分に戦える可能性がある」

⎯⎯「ケッ!下手な慰めはケッコウだ!そういう善人ぶった物言い腹立つンだよ」

⎯⎯「ちょっ、寺坂」

⎯⎯「やめろって。寺坂。飛鳥はカルマとはまた別な方向で──」

 

⎯⎯「君の言う通りだよ、寺坂君。たとえ本当の事だとしても、言い方が悪かったよ。戦力外通知だなんて、言い方が生易しかったよね。馬鹿には馬鹿なりのプライドがあるのに」

⎯⎯「アァ!?」

 

⎯⎯「──方向で厄介って、言うの遅かったか...」

⎯⎯「見ろよ、寺坂を。馬鹿って自覚があるからこそある意味正論だから言い返せない。飛鳥は無自覚なんだぜ?あれで」

⎯⎯「見た目優男のくせして煽り癖が見え隠れするときあるわね」

 

 

 

途中キレたもののおれの提案に食い付いた。殺せんせーが出した条件を都合のいい解釈し、

 

⎯⎯「何の教科か指定範囲されていなかったよね?」

 

⎯⎯「誰もぼくたちをマークしていない。予想外のダークホースになって、動揺を誘える」

 

 

ぺらぺら言葉巧みに話し、セールスマンのように彼らにおれの営業(暗殺)を売り込んだ。おれのプレゼンを聞いた彼らは、内密にテスト勉強を進めた。おれはあくまでも流行りの健康食や過去問からテスト作成者の好みを予想し、口添えをする程度に留めた。今この作戦がバレたら、水の泡になる。そうなったら、五教科に家庭科を含めない、なんて条件を付け加えられる可能性もある。「いきなり親しくなったら勘繰られ、殺せんせーに言い含められる。」と言い繕い、試験日を迎えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

テスト結果は、三人が触手を破壊する権利を得た。あからさまにホッとした様子のターゲットをみて、ニコニコ飛鳥君が早くも降臨しそう。盛り上がりがおさまってきた教室で、寺坂君たちが席をたち、答案用紙を殺せんせーに見せびらかす。

 

「にゅやッ!?家庭科は五教科ではなく」

「それ家庭科さんに失礼じゃね?」

「そうだそうだー」

 

......ここぞとばかりクラス一丸となって、触手破壊をゲットしていた。

 

 

「飛鳥も加えたら5本の触手だったのにな」

 

ボソッと言った吉田君に「でも飛鳥が殺せんせーを引き付けてくれたおかげで俺ら家庭科に専念できたし、そういう作戦だったろ?」と村松君が言う。「影武者みたいね。フフフ」と不適に狭間さんが言う。ガバッと立ち直った殺せんせーはおれに向き直る。

 

 

「ごめんね?」

 

ヘラりと机に頬杖をついて形だけ謝罪する。ガックリした殺せんせーは試験期間中の行動を回想しながら確認するように問う。

 

「質問にしょっちゅう来るようになったのは......?」

 

「グループでテスト勉強の共有していたから邪魔しないように」

 

「全教科の過去問が欲しいと言ったのは......?」

 

「対策の練りようがなかったからね」

 

「俺たち過去問なんて、捨てたからなー」

「やっててよかったぜ家庭科」

 

おれにとっては平均点を取るためだったけれど。

 

してやったり、と顔をした彼らはたいそうご機嫌だった。

 

 

 

***

 

 

 

ピッタリ平均点が書かれた自身の答案用紙をみながら、小さく折り畳む。試験なんて、学生以来だった。

 

 

終業式を迎え、夏休みが始まる。あのタコからもらった分厚い本はもはや楽器のアコーディオンだった。持ち帰るこっちの身にもなってほしい。嫌がらせかよ。スクバに入りきらなくて、電車に乗るときすげー周りの視線が恥ずかしかった。隣に座ったおばあさんに「今日のラッキーアイテムなんですよ」と答えたおれはたぶんひきつった笑いになっていった。

 

 

駅前の自販機で、冷たい缶コーヒーのボタンを押す。ヒンヤリした面を首に当てると、少し体感温度が下がった。

 

 

通知音が鳴りやまないクラスのチャットを開く。

 

【すげーじろじろみられてる。ツラい】

 

 

わかる。ものごくわかる。

 

 

【いじめの心配されたんだが......】

 

おれなんて、隣に座ったおばあさんに楽器と勘違いされて1曲リクエストされそうになった。

 

【刑事さんに呼び止められた。はじめて警察手帳みたわー】

 

 

 

......!?

 

 

 

 

 

嫌な予感がしてメール画面を開く。

 

 

=============

 

件名:定期連絡

 

報道で不審者として危険人物らしき目撃情報が相次いでいる。近日、本庁に顔を出すように。

 

 

椚ヶ丘の制服を着た生徒がアコーディオンのような本を持ち歩いているのはどう説明するのか納得のいく答えを期待する。

 

 

=============

 

 

 

 

 

 

ほんっっっとに、あのタコは!!!

 

 

 

 

仮にも教師なら不審な行動するなよ。はっちゃけすぎだろ。命狙われてるってことを自覚しろ!

 

 

ミシリッと缶コーヒーが音をたてたのはやむを得ない犠牲ってやつだ。

 

 

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