童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
ターゲットがエベレストに避暑していると確認がとれたので、この間に本庁に出勤することになった。ピンポンとチャイムが鳴り、インターホンを確認すると、保護者役の同僚が映っていた。顔を会わせると、慰めるようにポンと肩に手を置かれる。同情するなら代わってくれ......
車に乗せられ、久々にドーンと構えている建物をみて、自分が警察官だったと実感する。出向場所が中学校なものでね......(涙)
小さな会議室に入り、ドサッと資料を置く。
「ほぉ......それが今の中学生の夏休みのしおりとは......新手のテロかと思ったよ」
「テロだったら、このまま貴方の首が飛んだかもしれないですね。上司と心中なんてお引き取り願いたいですよ」
いつものように上司と嫌味の押収をして本題に入る。
「君の報告書にあった鷹岡という男が防衛省の金を持ち出し、行方知れずになったそうだ」
「......防衛省はとんだ失態ですね」
「上の連中が泣きついてきてな、いい気味だ。捜査網を張って最後に確認できたのは沖縄だそうだ。今ごろ海を渡っているか、島に潜伏しているだろう」
貸しができたと上司は機嫌良さげに言うが、おれは現場の仕事が増えたことに項垂れる。
沖縄にいるとは......どこでE組の情報が漏れたのやら......あぁ、そういえば、鷹岡は元防衛省のヤツだったな......
あのときの鷹岡は、たかが中学生に追いやられ、その後の元の職場でたいそう叩かれたらしい。それが余計に復讐心を煽ることになったのだろう。
「沖縄ですか......随分タイムリーでホットな所ですね。旅行先に逃亡犯が潜伏中だなんて笑えないですよ......復讐が目的だとしたら、標的はE組ですかね」
「君も含まれるな」
「......勘弁してくださいよ」
頭がいたい。額に手をあて、ハァと深いため息を吐く。
「上は捜査協力しろというが、例の暗殺計画中だと我々は手を出そうにも出せん。あくまで監視でいい」
「えぇ、了解しました」
言外に見逃してやると言いながら、結局は防衛省に押し付けている。その内心は鷹岡を泳がせて、防衛省の失態を助長させたいのだろう。
「例えば、旅行当日に不測の事態が起こり、そこで視たものや聴いたものは偶然居合わせたということで......」
「そうだな......偶然は重なると言うから、あり得ない話じゃない。お縄になる輩が増えるだけだ」
やっぱりこの人、ロクデナシだ。類は友を呼ぶっていうが、何でこの人が警察官になれたのだろう。......そんなこと言い出したら、おれにもブーメランがささるけれど。
***
沖縄リゾート暗殺旅行 in普久間島
上司から事前に政府が迂闊に手を出せないホテルがあり、警察の介入もできないときいた。
おれたちが宿泊するところは別のホテルなので、安心したが......裏社会ご用達のホテルで金があるのなら、十中八九そこにいるのだろうな......
エメラルドグリーンの海とキラキラ光る砂浜は立派なリゾート地にみえる。その裏は、闇の巣窟だから恐ろしい。
以前借りた漫画の続きを購入し、持参した。というか、全巻大人買いした。これぞ社会人の成せる業。6時間近くかかるというので、数冊、暇つぶし程度に持参した。
船から下りると、各班に分かれ、諸々作業する。おれは三村君の作業の手伝いだ。動画編集したそうで、ギリギリまでこだわって、ミスのないように二人で分担する。
......あのタコ、やらかしすぎだろ。
以前、不審者情報の連絡をきいたが、そのほとんどの証拠がこの動画に詰まっていた。三村君に後でこの動画を譲ってくれないか打診しよう......
「サービスのドリンクはいかがですか?」
腕を組んで「結構です」と拒否のポーズを取る。職業柄、怪しいものは飲めない身分なもので......
おれが拒否の姿勢を取ると、僅かに瞳が揺れた。ウエイターの男に違和感を覚える。何か疚しいことがあるのか、企んでいるのか......
警察官の勘か、数時間前に読んだ漫画と似たシチュエーションのせいか......
すでにドリンクは半数の生徒が口をつけている。そっとウエイターの男を追い、背後から声をかけた。