童顔系潜入捜査官   作:くりっぷ

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side 潮田 渚

 

 

今までの暗殺とは明らかに違う!

 

殺った手応え......!

 

 

ばくばく音をならす心臓を抑え、海面に目を凝らす。

 

 

 

発見した殺せんせーの姿はまんまるい水晶になっていた。

 

 

完全防御形態。

 

 

 

やられた......ここに来ての隠し技。完全に完敗だ。

 

 

「ですが、君たちは誇って良い。世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。ひとえに皆さんの計画のすばらしさです」

 

 

殺せんせーはいつものように僕らの暗殺を褒めてくれたけど、かつてなく大掛かりな全員での渾身の一撃を外したショック......異常な疲労感とともに僕らはホテルへの帰路に着いた。

 

 

 

***

 

 

異変が起きたのは突然のことだった。だらんと上半身をテーブルに預け、うっすら熱がある。疲れすぎたとはいえ、おかしい。駆けつけた烏間先生が病院の手配をするが、小さな島に十分な治療ができる医療機関はない。

 

 

そしてprrr......と烏間先生の携帯が鳴る。

 

 

 

『やぁ、先生。かわいい生徒が随分苦しそうだね。俺が誰か、何者か......どうでもいい。賞金首を狙っているのはガキ共だけじゃない』

 

 

「まさかこれはお前の仕業か?」

 

 

『フフフ......察しがいい。人工的に作り出したウイルスだ。一度感染したら最期......潜伏期間や初期症状に個人差はある。一週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至る。治療薬は一種のみのオリジナルでね......生憎こちらにしか手持ちはない。渡すのが面倒だから直接取りに来てくれないか?この島の山頂にホテルがある。手土産はそこの賞金首だ。

 

 

 

 

そうだ。動ける生徒の中で最も背が低い男女二人に持ってこさせろ。こちらのフロントには話を通してある。だが、外部と連絡を取れば、治療薬は即座に破壊する。

 

......礼を言うよ。よくソイツを行動不能まで追い込んでくれた。

 

 

 

天は我々の味方のようだ』

 

 

プツリと犯人からの電話がきれた途端、烏間先生はガシャンと球形になった殺せんせーをテーブルに叩き付け、怒りを耐えている。

 

容態が悪い人を布団を敷いて寝かせ、これからどうするか烏間先生や防衛省の人が動いているが、なかなか打つ手が見つからない。

 

 

「どうすんだ!?俺たちこのままじゃ全員死んじまうッ!殺されるためにこの島に来たんじゃねーよッ!」

 

 

パニックになった吉田君が声を荒げ、「落ち着いて」と床に伏せた原さんが宥める。それを遮るように、場違いなほど綺麗な発音が心地よく響いた。

 

 

 

「......I brought you back your artillery. I cleaned it and loaded it up.

Take my tip-don’t shoot it at people, unless you get to be a better shot. Remember?」

 

 

椅子に腰かけ、ぺらりとページを目眩く音がする。甘いマスクにすらりと長い脚。シャツの上に白のパーカーを羽織った飛鳥君は、まるで教室にいるときと変わらず、いつものように本に目を通している。みんなが慌てているなか、おそらくこの場にいる誰よりも彼は落ち着いていた。

 

 

「【撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ】ですか......アメリカの小説家レイモンド・チャンドラーの小説【大いなる眠り】の主人公フィリップ・マーロウの台詞ですね」

 

殺せんせーが解説を始めると、飛鳥君はやっと本から顔を上げた。

 

「因果応報だね。自分は殺そうとしたのに、殺される由縁はないって?そんな我儘、殺し屋(プロ)に通用しないよね。今日仕留められなかったのも、第三者に横槍されたのも、毒薬を盛られたのも、甘さがあるから。その甘さが命取りになるって気づかないと......本当に死んでしまうよ?

 

淡々とした口調で話す飛鳥君はいつもの笑顔が削ぎ落とされ、妙な迫力があった。彼は殺せんせーに近づき、ボールを持つように触る。

 

「ッんだと!?」

 

「......やけに冷静だけど、飛鳥君が仕組んだの?これ」

 

飛鳥君に掴みかかろうとする寺坂君の腕を止めたカルマ君が静かに問う。瞬間、クラスに動揺が走る。何故なら彼には疑惑(・・)がある。律といっしょにE組にやって来た転校生で、これまで目立つような暗殺なんてしたことがない。その事実とクラスメイトを襲った異常事態。困惑に顔を染めたり、じっと睨んだり、みんなが彼の一挙一動に注目していた。そんなカルマ君たちに飛鳥君はきょとんとした顔をみせ、小刻みに肩を震わせ、吹き出した。

 

「ふはっ!......ひどい言い掛かりだよ赤羽君。こんなの常識だし」

 

 

飛鳥君はさっきまで読んでいた本のページを見開き、よく見えるようにした。飛鳥君の持っていた本は活字じゃなくて、表情豊かなキャラクターがコマに区切られてかかれている。

 

 

 

......漫画?

 

 

 

「休載率80%を超え、連載再開してはネットニュースにされ、休載宣言してはまたネットニュースになる伝説の......!!それは試験会場で下剤入りのジュースを配っているシーンね!」

 

興奮した様子の不破さんがぐいぐい漫画に詰め寄る。さっきまでの緊張感はなんだったのか、脱力感に見舞われた。一瞬でも同じクラスの仲間を疑うなんて...と僕は少し彼に申し訳なく思った。興が逸れたカルマ君は「紛らわしいことすんな」と飛鳥君に悪態をついている。漫画をよくみると、スケボーを持った少年がゴクゴクと何杯もお代わりしてジュース(下剤入り)を飲んでいる描写。

 

まさか僕たちがウイルスを盛られたときって......

 

ハッとして飛鳥君をみる。

 

「竹林君の診断によれば、このウイルスは経口感染が高い。犯人はすでにぼくたちに接触しているみたいだね」

 

飛鳥君は殺せんせーをバスケットボールのようにクルクル指で回している。無抵抗の殺せんせーはグルグル目が回され「にゅやっ!?ちょっ!」と飛鳥君に抗議している。

 

 

どうしよう。殺せんせーはこんな状態だし、下手に動けない。

 

病人を救うためには取引に応じた方がいい。

 

 

悩む僕たちに殺せんせーが告げた。

 

 

「いい方法があります。律さんに下調べしてもらいました。元気な人は来てください。汚れてもいい恰好でね」

 

 

 

 

 

 

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