童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
夏休みも終わり、2学期が始まった。巨体プリンを作ったり、友情ドラマになりそうな竹林君騒動があったり、フリーラーニングを使った訓練が始まったり......話題に事欠かない日々を送っていたが......
E組担任教師【殺せんせー】が下着ドロの容疑者になるなんて、誰が想像した。
黄色い頭の不審者情報が広まり、教室のあちこちから証拠品が出てくる。疑惑の目は強まり、黒に近い。潮田君、茅野さん、赤羽君、寺坂君、不破さんが真犯人をみつけたら......それは【シロ】による罠で、イトナ君は置き去りにされたらしい。そして現在行方不明。
イトナ君は触手を持った子どもだった。彼の素性を調べ、戸籍を確認した。名前は堀部イトナ。両親が夜逃げし、叔父さんに預けられるはずだったが、【シロ】に拾われ、触手を植え付けられた。
「どういうことですか?堀部イトナを保護しなくていいと?おれの任務は【生徒の安全の確保】でしたよね?」
『彼の保護者のシロ......あの男がどうやら防衛省にコネがあるようでな。......あとは言わなくてもわかるだろう』
「......つまり、堀部イトナを囮に使うわけですか」
自分でも想像以上に低い声を発した。
『察しがよくて助かるよ。彼は未成年とは言え、触手持ちだろう。生きていたとしてもあの子供はこれから一生監視がつきっきりになるさ......国家機密とはそういうものだ』
見捨てろ、と.....グッと唇を噛む。ミシリと受話器にヒビが入った。
『話をきけ、【飛鳥】......我々は防衛省の情報操作で流れた
「ふはっ......馬鹿は何処の組織にもいるんですね。貴方の言いたいことはわかりましたよ。おれは【飛鳥】として彼を回収します。あのタコも国家機密なんですから、同じ場所で目が届くところにいた方がおれの仕事の負担も減ります」
ガシャンと公衆電話の受話器を落とす。制服姿で周辺の携帯ショップを走り回り、イヤホンのスイッチを入れる。
「律、皆にイトナ君の場所を伝えて、来れる人だけでいい。......【シロ】もいるだろうと伝えて」
パッと短く切ると、律が予想した地点に彼はいた。イトナ君は網で捕らわれ、苦しそうにもがいている。
蛍光色のライトが殺せんせーに向けられ、周囲の木には何人か気配がした。......どうやら間に合ったようだ。律のカウントダウンにあわせ、一斉に相手を制圧する。おれは一目散にイトナ君のもとへいき、彼の前に屈む。触手が溶けかけていて、痛ましい。
「皆さん、よく来てくれました。......去りなさい、シロさん。イトナ君はこちらで引き取ります。貴方はいつも周到な計画を練りますが、生徒たちを巻き込めば、その計画は台無しになる。当たり前のことに早く気づいた方がいい。」
殺せんせーはそう言い切って、シロを追い返した。シロは去ったが、まだ問題は残ったままだ。
「......イトナ君の病的な執着があるかぎり、触手細胞は離れません」
深刻そうな面持ちで殺せんせーが言う。
「なんとか切り離せないのかな?」
「彼の執着を切らなければ......そうなった原因も知らなければなりません」
執着か......
そういえば、鷹岡の件で潮田君が危ないとき、寺坂君が彼の殺意を引き留めたんだっけ......それを聞かされたとき、おれの胃にダイレクトダメージだった......
だったら、適任がいるじゃないか。
イトナ君に近づき、安心させるようになるべく優しく声をかける。
「......もう大丈夫」
そっと彼を抱き抱え、お姫さまだっこをする。......うわ、軽いな。ぽかんとしたマヌケ面に笑いそうになるのを抑え、近くにいた寺坂君たちに預けた。「はぁ?」とキレ気味だったが、半ば強引にしっかりと持たせた。
「シロの駒だったよしみだし、話があうかもね」
***
イトナ君の触手細胞は取り除かれ、彼はひとまずクラスに受け入れられた。
「村松、金がない。吐くの我慢するからラーメン食わせろ」
「はぁ!?」
あとでお昼のおにぎりわけてやるか。
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報告書
堀部イトナはE組に正式に加入した。殺せんせーによって、触手細胞が取り除かれ、落ち着きを取り戻しつつある。