童顔系潜入捜査官   作:くりっぷ

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冬休みに入り、クラスの誰も【暗殺】の【あ】の字を出さなくなった。おれは殺せんせーを【飛鳥 進】の自宅に呼び出した。ベランダから入ってきたことにはこの際目をつむろう。

 

 

 

「明けましておめでとうございます、飛鳥君。相談とはいったい何でしょうか」

 

「単刀直入に言います。ぼくは潜入捜査官です」

 

バッサリと遮るようにいい放った。

 

 

「............せんにゅうそうさかん」

 

まじまじと上から下までつぶらな瞳でぼくを観察している。何も反応がないので勢いそのままに続ける。

 

「ぼくの任務は【暗殺教室の監視】です。具体的にいうと、生徒の安全と貴方にもたらされる悪影響ですね」

 

「......驚きました......そういえば君はどちらかというと暗殺に消極的でしたねぇ」

 

 

しみじみと語られるのは、なかなかつらい。......教室のおれはほとんど読書に費やしてたな......

 

「......曲がりなりにも【正義の味方】ですから。【殺す】なんてNGワードですよ」

「誰も気づいていないと思いますよ。......結局、君の自己申告があるまで私もわかりませんでしたから。君は優秀な捜査官です」

「......下手な慰めは結構です。時折、ぼくを探るようにみてきたでしょうに」

「もしや、あの爆弾処理の警察官の方は?」

「彼は何も知りません。ですが、【ぼく】と【おれ】を別人だと騙し......認識しているだけです」

「にゅやっ!?騙しているんですか!?」

「アイツはチョロいんですよ。殺せんせーのこともすんなり受け入れたでしょう」

「それでいいんですか?」

「いいんですよ。騙される方がわるい」

 

おれがしれっとした顔でコーヒーをひと口含むと、殺せんせーはう~んと頭を抱えていた。

 

 

「どうして今になって私に正体を告げたのですか?」

 

「貴方が生徒を大切に想っていることは誰だってわかりますよ。ですから貴方の目的とぼくの目的は、ほぼ同じだと判断しました。ぼくは生徒を守ることが優先事項ですから」

 

 

クッキーを皿に盛りつけ差し出す。チョコ、イチゴ、バニラ......迷うように触手が動いているのをみて、笑いそうになる。

 

「これは【取引】です。どんな真実であれ、現状貴方は危険人物です。ですが、ぼく個人は貴方に多生なり借りがあるのでね」

 

 

 

 

鷹岡の件......

普久間島のホテルの裏社会の情報......

一度切り捨てられたイトナ君に手を差しのべたこと......

瀕死の茅野さんを救ったこと......

 

 

【殺せんせー】がいなかったら、欠けていたピースばかり。おれは【一を棄てて九を拾う】ことを厭わないから。

 

 

「ぼくはどんな結末になるにせよ、彼らを見守ると決めました。見返りは【誰にもぼくのことを話さないこと】それだけです。交渉決裂なら―――」

 

カチャとティースプーンをおいて、眼前の怪物に目を見据えた。

 

 

「ぼくは暗殺教室から出ていきます」

 

 

きっぱりと告げた。しん......と緊迫が走る。

 

「貴方はあの教室を分裂させたまま、生徒たちを卒業させたくないでしょう?」

 

にっこり【飛鳥 進】の仮面で笑うと、「......君は存外、意地悪ですねぇ」と困ったように返される。

 

「オヤサシイ飛鳥君は正月休みでね。幻滅しましたか?」

「いえ、飛鳥君は私の【生徒】ですよ。.....何者であっても変わりません。それに、君の本心が聞けたようで嬉しいです。その様子だと『答え』もみつけたようですねぇ。教えてくれても?」

「【優しい世界を守る】......それがこの教室で、貴方たちと過ごしてみつけた()()の正義です。憎まれようと、恨まれようと、必要となれば悪役だって演じますよ」

 

 

ヌルフフフ......と独特の奇妙な笑いに、見透かされた気分になる。赤い円が顔模様になっているのが、ちょっと気にくわない。

 

 

ぎゅっと手を掴まれ、「残り二ヶ月半ですが、頑張りましょう」「お互いに、ね」と告げ、その日はお開きになった。

 

 

 

***

 

 

 

 

三学期が始まった。おれは無事に【共犯者】と手を組めたので、呑気にいつもと変わらずにいたが、教室の空気は重苦しい。あれから、あのタコは利害関係が一致しているというのに、潜入捜査で必要なアレコレを伝授してくる。恐らく、現役の殺し屋時代に身に付けたものだろう。......どこまで【生徒】の進路を考えていることやら......

 

 

そんなときに潮田君からクラス全員に招集がかかった。

 

 

「できるかどうかわからないけど、殺せんせーの命を助ける方法を探したいんだ」

 

 

それを聞いて、心優しい潮田君の将来とその気持ちを永遠に持っていてほしいと願った。彼には暗殺者の才能があるのだ。このクラスで最も犯罪者予備軍に近いといっても過言ではない。

 

 

......よしよし。それでいいんだよ。君たちに重荷を背負ってほしくない。難しいことは【大人】に任せときな!

 

おれはこの流れを逃すまいと、ニコニコ笑って「ぼくも」と乗っかる。次々と潮田君に賛同し、ぽわわんと温かくなるが、中村さんが冷ややかに言った。

 

 

「こんな空気のなか、言うのもなんだけど、私は反対。アサシンとターゲットが私たちの絆。そう先生は言った。この1年で築いたその絆、私も本当に大切に感じてる。だからこそ、殺さなくちゃいけないと思う」

 

 

 

 

......

 

............あのタコ、ほんっっっとに!!

 

まるくおさまりそうだったのに!!

 

......これはいよいよ空中分解、いや学級崩壊も視野に入れなきゃいけないのかもしれない......

 

 

 

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