童顔系潜入捜査官   作:くりっぷ

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ギムレットには早すぎる
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side 木村 正義

 

「あれ、飛鳥は?」

 

最初に気付いたのは、カルマだった。キョロキョロと教室を見渡すと、飛鳥の座席はポツンと机と椅子があるだけで、肝心の本人がいない。昨夜の別れから眠ったせいか、みんな幾分か落ち着きを取り戻しつつある。

 

 

「全員で教室に戻ったはずだし、飛鳥もアルバムとこれ、読んでたのは見たよ」

 

「......どうしたんだろ?」

 

「傷口が開いちゃったとか?」

 

「でも、殺せんせーが細胞くっつけて、治したじゃん」

 

 

ざわざわと飛鳥の憶測が飛び交う。今日は3月14日。椚ヶ丘中学の卒業式だ。ただでさえ、殺せんせーと別れた直後なのに、今度はクラスメイトがいなくなるのは、今の俺たちにとって少なからず不安を与えた。そんなとき、入り口に近い俺の席は、ちょうど烏間先生が入ってくるのがみえた。

 

「烏間先生、飛鳥は?」

 

 

皆の視線を一斉に向けられた烏間先生は、言いよどむように口を開いた。

 

 

 

「......飛鳥君は、念のため入院することになった。......腕の怪我のことやそうなった経緯を含めて面会謝絶になっている」

 

 

 

殺せんせーのことは口外無用だから、複雑な事情が重なって、烏間先生がそういう措置をとったのだろう。たしかに飛鳥は一時期意識不明のせられた重体だった。殺せんせーが応急処置をしたとはいえ、経過観察が必要なことは理解できる。卒業式にみんなで出られなかったことは残念だけど、致し方ない。

 

 

このときは、誰も烏間先生の説明に疑問を持たなかった。そのうち、ころっと退院して、またいつもの笑顔で会えるとE組の誰もが信じていた。

 

 

 

***

 

 

 

賞金の使い道を磯貝と片岡が中心になって話し合って、俺たちは旧校舎があった山を買い取ることにした。

 

それから月に数回、交代で旧校舎の掃除をすることになったけれど、依然として、飛鳥からの連絡はない。飛鳥はいつの間にかE組のクラスLINEを抜けていたし、直接会おうにも飛鳥の進学先を誰も知らなかった。飛鳥の家についても前に住んでいたマンションは爆弾事件に巻き込まれたらしく、わからない。律を辿っても完全にネット遮断されているらしく、たどり着けない。

 

 

 

――――何かがおかしい。

 

 

 

 

異変に気づいたクラスの何人かが、E組のグループチャットで召集を呼び掛けた。場所は、懐かしいE組の教室。飛鳥以外のクラスメイトと、烏間先生、ビッチ先生も来ていた。

 

 

「烏間先生。俺たちに何か隠していませんか?」

 

頼れる委員長、磯貝が開口一番にそう投げかけた。

 

 

「クラスの誰も、律さえも連絡が取れないんです。......飛鳥君に何かあったんじゃないですか?」

 

 

片岡が続けて言う。

 

「お前ら大ごとにしすぎだろ。どうせ、イトナ(こいつ)みてーに家出なり、グレてんだろ?」

 

 

寺坂がイトナの頭をワシャワシャかき回し、それをイトナが鬱陶しそうにしている。

 

 

「とか言って、寺坂も心配してるくせに」

「......でもさ、飛鳥がマジモンの不良になったら......」

「「「それはそれで引くわ」」」

 

 

和やかな空気に烏間先生は「......君たちには酷かもしれないが......」と、蟀谷を押さえ、言いよどむ。烏間先生のこの表情は以前にも見たことがあった。やがて、ギリッと眼を鋭くさせ告げた。ピリッとした糸が張ったように、自然と背すじが伸びた。

 

 

 

 

 

「彼は政府から特殊任務を言い渡された潜入捜査官だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......は?

 

 

 

何を言っているのか、わからなかった。

 

 

 

 

「俺も詳しくは知らないが......彼は【Need not to know】と言ってたな。おそらく──」

 

「あのガキ、警察関係者(スパイ)だったの?」

「ああ」

「東洋の神秘ってマジなのね......これだから日本人って......」

 

ポンポンと烏間先生とビッチ先生のやり取りが左の耳から右の耳へ抜けていく。

 

 

 

つまり......飛鳥は実は潜入捜査官で、俺たちより歳上ってことだろ!?

 

 

 

「「「「「「えぇぇぇぇぇ!!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

あれから何度かE組で通称【飛鳥会議】が開かれた。はじめのうちは皆それぞれ飛鳥に対する想いが複雑になったり、言い合いになったりして、会議が進まないこともあった。

 

なんやかんやあって、E組【暗殺教室】の標的は【殺せんせー】に代わって【飛鳥 進】になった。

 

 

そしてあれから数年経つが、まったく音沙汰がない。

 

 

 

「木村ジャスティスさーん!」

 

 

 

グハッ......!

 

 

久々の公開処刑だ。

 

 

俺は風邪を拗らせて、今日は米花中央病院に診察に来ていた。

 

待合いの椅子の下に紙袋が置いてある。誰かの忘れ物か?パッと中身をみると

 

 

 

 

 

 

爆 弾 が あ っ た......

 

 

 

カチカチとタイマーが起動する。

 

 

 

 

嘘だろォォオ!?

 

 

 

 

オロオロしながら、慌てて110番にかける。暫くすると、チャラっとした雰囲気の人がやって来て、俺はそのまま避難誘導された。

 

 

 

数十分後、爆弾を処理し終えたチャラそうな人が電話をしている。なんか、あの人前原みたいだな......

 

 

 

すれ違いざまに、会話が聞こえた。

 

 

 

「おー......陣平ちゃん。此方の爆弾、見つかったから......大丈夫、大丈夫。ちゃんと防護服着てるって!......そうそう、アイツそっくりな中学生と黄色いタコに叱られちゃってさァー......え?タコはタコだよ......気にすんなって~」

 

 

 

......ん?いま、聞き覚えのあるフレーズが......

 

 

 

 

黄色いタコ......だと......!?

 

 

 

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