童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
side バーボン
【みりん】
それは甘味のある黄色の液体であり、約40 - 50%の糖分と、約14%程度のアルコール分を含有している。主に煮物や麺つゆ、蒲焼のタレや照り焼きのつや出しに使う。
だが、この裏社会では【みりん】と言えばある人物を指す。
探り屋として収集した情報によると、
【みりんに目をつけられたら、玩具にされる】
【みりんは組織を乗っ取ろうと画策している】
【みりんの見てくれに騙されるな。ヤツは悪魔、いや魔王だ】
【屋根の上を走るのを見た!忍者の末裔らしい】
【あの緋色の瞳に惑わされるな】
【みりん】の悪名は裏社会に轟いていた。まだ年端のいかないティーンの少年が処刑人と名高いジンに拾われたらしい。そう語る情報屋の男は「みりん様」と盲信し、崇拝していた。カルト的な危うい宗教染みた言動に、【みりん】がただの少年なわけがないと、警戒した。
今日はその悪名高い【みりん】と顔合わせだ。ようやく【バーボン】のコードネームを得て、幹部と接触できるチャンスだ。同じく、幼馴染の【スコッチ】......それから気に食わない【ライ】もいるが......
「今日はやる気があるようね」
ベルモットがカクテルを煽りながら呟いた。ジンとウォッカは黙りだ。どういう意味かと尋ねようとすると
テー テー テー テッテテー テッテテー......
重厚のあるメロディが近づいてきた。これは帝国のマーチだ。ライがピクリと眉を寄せ、僕とスコッチは扉の向こうへ身構えた。
「......シュコー......シュコー......」
黒いマスクを被り、黒いスーツ、黒いマントと身体全体を漆黒の衣装で包んでいる。 絶えず呼吸音を発していた。
「......ベルモット、【みりん】というのは......?」
恐る恐るスコッチが確認すると、「あの子よ」と肯定した。スコッチの顔は盛大にひきつっていた。
「ボウヤ、何言っているか分からないから普通に喋って頂戴。」
「えー!もっと遊びたかったのに」
声変わりした少年の声がマスク越しに聞こえた。人好きのいい顔で自己紹介しようと、手を差し出すと、黒いマスクがこちらを向いた。
「新顔?......そうだ、ウスターソーストリオっていうのはどうかな?」
ピキリと表情が固まった。
ウスターソーストリオ......?
ベルモットが「......洗礼みたいなものよ」と疲れたように言った。殺伐とした空気のなか、【みりん】は気にも止めず、無邪気に「牛乳と~ コッペパン コッペパン~」と歌っている。
重苦しい室内が【みりん】の登場で、微妙な空気になった。
***
【みりん】は、ブッ飛んだ幹部だった。
何故そんな格好をしているのかと聞けば、
「黒い衣服着用が推奨されていて、組織のコンプライアンスに引っ掛かるからね」
社内規定(?)を気にしていた。
コスプレ紛いの服を褒めれば、
「そう?年下だから嘗められやすくってさァ......ここの連中と比べたら、ボクが一番マトモだと思うんだ」
......「それは勘違いなんじゃないか?」という言葉をのみ込んで、「それは頼りになりますね」と返す。まともとはいったい何なのか今すぐ辞書を引き直したい。
そして何故僕らが【ウスターソーストリオ】と呼ばれたのかと聞けば、
「これからは調味料の時代が来るよ!天下目指そう!」
とウキウキした声調で薦められた。
(三人ともそれぞれ丁重に断った)
その背中に背負った筒状のものは何かと聞けば、
「びっくりドッキリバズーカ砲さ......ボクも何が出てくるのかわかんないんだよね~」
とヘラヘラして、何ヵ所か突っこみたいのを我慢した。何で堂々とバズーカ砲をもちあるいているんだ?え?職務質問されない?......あぁ、子どもだったなそういえば。聞かれたら完成度の高いオモチャと通してる?何をやってるんだそいつは!保護するとかあるだろ!怪しいだろ!それでよく警察官が務まるな!!みりんは「変態技術国家JAPANサマサマだよなー」とヘラヘラ笑っている。聞けば、海外で日本出身だと伝えたら「あア、イカれたJAPANの新しい発明か。」と納得されるらしい。...くっ!ものつくり日本の弊害がここに...!
「......よく回る口だなァ、バーボン......テメェら三人、胡散臭ェ」
......まずい。ジンの機嫌を損ねた。ギロリと鋭い眼光で睨み付けられる。
「うるさいよ、ポエマー醤油」
「
一触即発。
ジンとみりんは、仲がわるいのだろうか?
こんなところで小競り合いをしないでくれ。ベルモットはいつの間にか颯爽と帰ってしまい、僕とスコッチ、ライ、ジンが取り残された。ジンに付き添っていたウォッカは「お前らも避難しろ」と僕らに目配せした。
―――――ズドンッ
みりんが放ったバズーカ砲はアジトを半壊させた。ちょうど運悪く柱に直撃したらしい。ジンは悪どい笑みを浮かべていた。ウォッカ曰く、いつもの戯れだそうだ。
これが組織の日常......
「これでボクたち、トモダチだよね?」
バズーカ砲を嬉々として、僕らに向けたみりんにNOとは言えなかった。みりんの背後にはアジトだった建物から煙と瓦礫の山がみえる。断ったら、どうなるかなんて一目瞭然だ。次は自分の番になる。
NOと言える日本人になりたい......
......僕はこの先やっていけるのだろうか。その日はスコッチと共にセーフハウスへ帰り、互いに士気を鼓舞した。
僕らは知らなかった。
黒マスクの下で【ライ】【バーボン】【スコッチ】をみる【みりん】が面白い玩具を見つけたように弧を描いて笑みを浮かべていたことを。
僕らが【みりん】に振り回されることになることを。
【みりん】爆誕の真相
殺せんせーアドバイスブックより
▼黒い衣服着用が推奨されていて、組織のコンプライアンスに引っ掛かるからね
→社会人としてのマナーを忘れないように。コンプライアンスを守るのは当然です。
▼年下だから嘗められやすくってさァ......
→幼い顔立ちは時には強みになりますが、弱点にもなりえます。逆転の発想をしてみましょう。刃は何も1つだけとは限りません。
▼ここの連中と比べたら、ボクが一番マトモだと思うんだ
→顔見知りと出逢った場合(顔見知りが潜入捜査官だった p.48へ)
自分は無害だとアピールしましょう。あからさまに告げると、共倒れになる可能性があるので慎重に。
▼びっくりドッキリバズーカ砲
→護身用に捜査で使えそうな武器の一覧です。初回限定特典で修理先を紹介します。詳細は下記に。