童顔系潜入捜査官   作:くりっぷ

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よっす!胃がキリキリする【みりん】だ。

 

理由はわかっている。我が幼馴染、バーボンだ。アジトですれ違うたびにギロリと睨まれ、俺の渾身のボケにはスルー、もしくは嫌味が返ってくる。今なら、殺せんせーが烏間さんにボケを相殺された気持ちがよくわかる。

 

 

あの羽虫をみるような視線がこわすぎる。

 

 

 

歳が近いからって理由で監視役を任されたおれはシェリーのところへ避難した。事情を説明してシェリーに胃薬を処方してもらった。塩対応でツンツンしてる子だが、根は優しい子だ。

 

 

「貴方の悪戯、最高よ」

 

シェリーはライ逃亡の一件以来、態度がちょっとだけ軟化した。シェリーが改名するなら、塩はどうだろうか......「嫌よ」......署名は貰えてない。手厳しい。

 

 

***

 

 

組織のアジトをあっちへフラフラ、こっちへフラフラしていたら驚くべきことが見つかった。

 

 

この組織、軍事兵器を所有していた!ライフルとかヘリはみたことあるけど、マジモンの戦争道具まで手を出していたとは......

 

 

オスプレイなんて何処から盗ってきたのだろう。基地か?匿名で防衛省に報告するべき案件である。外交問題に発展しかねない。防衛省で知っている顔と言えば、烏間さんだな。7年前のアドレスだけど、おれのツテの中で話が通りやすい人選はこの人だろう。ポチッと送信する。

 

 

 

ポケットの奥にある携帯を握る癖は直らない。

 

 

 

 

***

 

 

 

組織から任務の召集がかかった。

 

 

こんなときにかぎってバーボンが今回の相棒だった。やりづらいったら仕方ない。この真っ黒い仕事が終わったら、スコッチを誘ってゲームでもしようか......

 

 

「............」

「............」

 

 

無言の重圧。視線はあわないが、こいつの動きは手に取るようにわかる。幼馴染やってきたからこそ、行動パターンはよめる。侵入した敵組織の機密データは取れた。後は撤退するだけ。

 

 

ほんの少しの気の緩みが出てしまった。

 

前を走るバーボンに瓦礫がふりかかる。彼の襟元を掴み、後方へ引っ張った。

 

「降谷ッ!......」

 

焦ったおれの声が瓦礫といっしょに重なった。

 

 

――――ドゴォンッ!

 

 

 

視界がグラグラ揺れる。頭をぶつけたようだ。頭に手を伸ばすと血の感触がする。

 

 

「僕は君が憎いです。何で僕を庇ったんですか」

 

 

何も言わず俯いて黙っていると、バーボンの影がかかった。

 

 

「......その仮面の下を暴いて、お前を―――」

 

 

いきなりバーボンがおれが被ってる黒マスクを剥がそうと手を伸ばしてきた。ちょ、無防備なときに反則だろ!

 

 

 

おれの抵抗は歯が立たず、呆気なく素顔に空気が触れる。

 

 

 

「......ッなんで......その顔を......」

 

 

バーボンの皮が剥がれ、降谷の顔がみえた。空色の瞳が大きく開き、ひどく動揺している。

 

 

「君はアイツだったのか......?生きてたのか?......なんでスコッチを」

 

 

降谷の疑問はスラスラとあふれでてくる。

 

「....久しぶりだな」

 

おれの本来の口調で語りかける。パッと感情の波が溢れ、おれの名前を呼ぼうとする降谷を遮った。

 

 

 

「―――なんてね。変装はベルモットの専売特許じゃない」

 

 

途端に降谷の表情が抜け落ちる。チクッと刺さる胸の痛みに気づかないふりをして紡ぐ。

 

 

二代目死神の変装スキルは顔の皮ごとだったな。おれの変装は変装と言えるのか微妙だったけれど。......頭の中でひとり愚直りつつ、冷静になるように努めて告げた。

 

 

 

今のおれは【みりん】だ。【みりん】らしく振る舞わないと......

 

 

【みりん】は無邪気さゆえの残酷さを持ち、何を考えているのかわからない悪党で、降谷の憎い仇。

 

 

「......彼らは......君が殺したのか......?」

 

 

迷うように降谷の瞳が揺れる。【みりん】ならどうする?考えろ。こいつの目の前にいるのは【みりん】......

 

 

「......バーボンは今まで食べたトーストの枚数を数えてる?......答えは聞かないけど」

 

 

 

 

憎々しい顔をしたバーボンに戻った。

 

 

そうだよ。降谷の想像通りだ。

 

 

 

ボクが殺した。景光も【おれ】も【みりん】が殺したんだ。

 

じっとお互い睨みあうが、時間は迫っている。瓦礫が崩れ、十分な足場がない。おれは怪我で負傷している。八時の方角から人の気配がする。恐らく出口にも人がいるだろう。バーボンが生きてここから脱出するためには、おれを置いていく方が最善手だ。きっと降谷もわかっている。だから、降谷を生かすならこう言えばいい。

 

 

 

「......ボクは足手まといだ。置いていけ......」

 

 

 

チッ!と大きく舌打ちをして、バーボンは出口へ急いだ。

 

 

 

バーボンの背中が過ぎ去って行くのを見届け、左のポケットを探る。携帯の液晶画面には、懐かしい顔触れが笑顔で写っていた。

 

 

 

「......この子たちにもサヨナラだな......」

 

 

 

血が流れすぎたのか。意識が遠退いていく。こんなこと、前にもあったな。あのときは茅野さんを助けようとして、腕を怪我したんだっけ......

 

 

 

 

 

まぁ、でも降谷が生きてるから......いいや......

 

 

 

 

そんなこと言ったら、あんたはまた叱るだろうな......【殺せんせー】......

 

 

 

瞼が重くなる。

 

 

......少し、眠らせてくれ......

 

 

 

 

 

 

 

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