童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
side 降谷 零
始めは同じ犯罪組織に潜入した幼馴染の景光だった。あれは今でも脳裏に焼き付いている。暗い夜道を駆け回り、景光の元へたどり着いたかと思えば、目の前には血濡れに染まり変わり果てた姿になった【スコッチ】......
その横にバイクのサドルを握り、佇む【みりん】......
誰がスコッチを殺したか、真っ赤になったライダースーツをみれば明白だった。みりんの向かい側には、見覚えのある男。どうして彼がここにいるのか......
「彼が教えてくれたんだ。スコッチが鼠だってね」
―――つまり、この男が裏切った。
感情が煮えたぎり、それでも【バーボン】を崩さないようにした。
***
次は、もうひとりの幼馴染だった。殉職したと聞いた。信じられなくて、自分で辿っていくと、【潜入した組織で みりん に殺された】と無機質な文字で書かれていた。
何かが壊れた音がした。
【みりん】は僕の仇。大事な幼馴染を葬った憎い仇。
この頃から【バーボン】の仮面は板についてきた。
***
―――ドゴォンッ!
瓦礫が崩れ、僕が居た場所と入れ替わるようにみりんがいた。
「僕は君が憎いです。何で僕を庇ったんですか」
みりんは頭を怪我したのか、少し呻いて下を向いていた。その態度に腹がたつ。
「......その仮面の下を暴いて、お前を―――」
みりんの黒いマスクに手を伸ばし、力強く剥ぎ取った。
ゆっくり時が刻まれたようだった。仮面の下にはありえない人物がいた。
「......ッなんで......その顔を......」
それは死んだはずの幼馴染の顔だった。
自分でもコントロールできないくらい混乱し、空色の瞳が大きく開き、ひどく動揺している。
「君はアイツだったのか......?生きてたのか?......なんでスコッチを」
川の激流のようにポロポロと口から言葉が流れていく。
「....久しぶりだな」
懐かしい友人の声だ。何年振りだろうか。
まさか......本当に?
微かに溢れた名前は音になる前に封じられた。
「―――なんてね。変装はベルモットの専売特許じゃない」
途端に表情が抜け落ちた。
よりにもよって、そいつまで玩具扱いか!その面で二人を殺したのか!?
「......彼らは......君が殺したのか......?」
ぎゅっと握った拳はこれ以上ないくらい力んだ。血管が浮き出ている。
「......バーボンは今まで食べたトーストの枚数を数えてる?......答えは聞かないけど」
みりんは冷たく淀んだ瞳で、いつもの幼さの残る声でそう返した。
追手はすぐそこまで迫っている。瓦礫が埋まり、このままでは二人とも脱出不可能になる。時間がない。
裏社会に潜入して、目の前で命が消える瞬間はみたことがある。助けられない自分が悔しくて、情けなくて、嫌悪感と罪悪感に苛まれた。
この場で何が最善の選択かはわかる。【みりん】は犯罪者だ。人殺しだ。法で裁いて罪を償わせるべきだ。でも、それは二人揃ってこの場を切り抜けられたらの話。
現状は【みりん】は怪我をしていて、満足に体を動かせない。でも、僕ひとりでなら......いや、その前に僕は警察官だ。だから......
支離滅裂な僕の葛藤を【みりん】はバッサリ切り捨てた。
「......ボクは足手まといだ。置いていけ......」
チッ!と大きく舌打ちをして、僕は出口へ急いだ。
――――僕は【みりん】を見捨てた。
***
警察庁まで急ぎ、先程の一件を報告した。【みりん】の生死不明と、死亡を示唆すると、上層部の顔つきが変わった。
嫌な予感がする。
聞いてはいけないと脳が警鐘を鳴らす。
バタバタと慌ただしく作業が指示され、死んだはずの二人の幼馴染の名前が飛び交う。
「諸伏の安否確認できました!」
「......■■はまだです」
「■■の信号が消えましたッ......」
どういうことだ?
何がどうなって、これは何が起こっている?
バタンッと乱暴に扉が開いた。
「どういうことですか!?■■は死んだはずじゃ......!」
また
「......、ヒロ......?」
また変装かもしれない?......本人なら僕をきっとこう呼ぶ。確認するように呼んだ僕の声は掠れていた。
「......ゼロ......!」
久々に顔を会わせれば、お互い涙が止まらなかった。
***
瓦礫の音で聞こえづらい声だったが、あのときのみりんはたしかに僕の名前を呼んだ。
何故【みりん】はあのとき「降谷」と呼んだ?
―――彼は極秘に潜入していたスパイ......警察官だ
僕を気にかけていた。心配しているような声色だった。
―――バーボン、ちゃんと寝てる?
お前に構ってる暇はない。
―――いつも怒ってばっかりじゃん
お前が怒らせてるんだ。
―――降谷ッ!!
めずらしく声を荒げていた......
「【みりん】は、■■は、僕が殺した......」
アイツはもう僕の名前を呼んでくれない。データ上で、目の前で、あいつは消えていった。