童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
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side 伊達 航
ふと警察学校の思い出が蘇った。あの男は人好きのする笑みを浮かべて、答えた。腹黒いヤツだと称されるが、人一倍優しくて、ナイーブなところがある。
休憩時間にやれやれと言った様子で口にした。今日も何かやらかしたらしい。
「......【If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.】......タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない。......伊達くらいタフガイになって、たまに善行でも心掛けてみるよ」
俺は「お巡りさんは悪行しねぇぞ?」と苦笑しつつ軽口を返した。
それから同期の三人と連絡が取れなくなった。便りがないのは元気な証拠だというけれど、さすがに心配だ。
その心配が嫌な形で当たった。突然アイツは死んだと聞かされた。
馬鹿野郎......!
アイツの幼馴染の二人は大丈夫だろうか?メールを送るが、返信は返ってこない。アイツの墓は中身のない空っぽで、死んだ実感がわかない。涙は流れるが、死んだと認めたくない。
俺はまだ墓参りにさえ行けていない。
side 松田 陣平
はたから見ればさわやかな青年だが実際はかなりの腹黒。
生きがいは【からかうこと】で、萩原や降谷をよく煽っていた。たまに俺も巻き添えを食らった。アイツの上司になる人は苦労すると合掌した。
昼寝をかまし、毎回降谷に叱咤されているが全く懲りていない。昼寝をするときは必ず変な目のアイマスクを使用している。
「目の前に豚がころがってんなら、食っちまうのが狼だろ?」
交番研修で子供相手に【三匹のこぶた】を捏造し、弱肉強食を説いていた。......何でこいつは警察官なのか。その疑問は同期の中で七不思議に数えられている。
死んだと人づてに聞いて、「嘘だ」と溢れた。数年前の公安でゴタゴタがあったらしいが、あの部署は秘密主義。当然、何があったか知るなんて難しい。アイツの死が信じられず、俺なりに調査した。難航して、空振り続き。それでも意地と執念でアイツの影を辿った。蜃気楼のようにボンヤリして、やっと掴んだのはアイツと知りあいらしい7つ下の少年。
爆弾事件で萩原と知り合い、警察志望の少年を萩原なりに可愛がっているらしい。その繋がりで俺も顔を会わす機会があったが、ガラの悪さではじめは怯えられた。
そんななか、警察内部で激震が走った。
アイツの上司だったサッチョウのお偉い爺さんが逮捕された。
アイツの身内が絡んだ事件が掘り起こされ、アイツが掴んだ証拠が発見されたらしい。
アイツは虎視眈々と寝首を駆ろうとずっと張っていた。誰にも悟らせず、自ら懐に入り込み、機会を窺ってた。
お前はそれでよかったのか?
狼が共食いしたなんて笑えねェ冗談だ。
side 萩原 研二
アイツが死んだなんて、正直今でも信じられない。卒業してアイツが最後に送ってきたメールはさっぱり意味がわからなかった。
それからその年の11月、どういう引力があったのか、制服に身を包み、髪を黒くしたアイツと鉢合わせた。
爆弾が仕掛けられたマンションで。
まだ避難していない住民がいると無線が入り、俺がそのインターフォンを鳴らすと、アイツがいた。
お互い黙りで、無言が続いたが、アイツにとっても予想外の事態だったらしい。大人しく避難しようとしたが、飛んできた黄色いタコが爆弾を解除した。......【殺せんせー】というらしい。この喋る生命体は自分のことを黙っていてほしいと土下座した。アイツは頭を抱えていた。
......なるほど、と察した。あの意味不明のメールはこのことか。空気が読める俺は承諾した。
久々にあったし、聞きたいことが山ほどあったが、アイツはすっとぼけて他人のふりをしていた。眼が【逆らうな】【聴くな】と訴えていた。この瞳に逆らって良かった試しなどない。意趣返しにアイツにあわせてみたが、外行きの好青年の面が剥がれそうになっていた。......やり過ぎたか?
普段のやり返しだ。中学生扱いして、心配を装って連絡を交換した。文化祭に突撃して今までの分を弄ろうとしたら、連続爆弾事件が発生し、あえなく頓挫。
それから数年が経ち、アイツが死んだらしい。
伊達は塞ぎこんで後輩や嫁さんに心配されている。
松田は血走った眼で、アイツの仇を捕ろうとしている。
俺は空っぽの墓でアイツに語りかけている。
そしてアイツの上司だったサッチョウのお偉い爺さんが逮捕された。
なんとなく降谷と諸伏が手を回したのだろうなと思った。
アイツは公安絡みの事件で亡くなった。連絡が取れない二人。秘密部署の公安。
この数年仲良くなった年下の友人に話せる範囲で教えた。なんとなくこの子もアイツのことを知りたがっていたようだから。
それからアイツのことを知る年下の友人が何人か俺たち同期の元を訪れた。俺の知るアイツとこの子たちの知るアイツはまったく印象がちがって、何回も別人だろそいつ!と突っ込んだ。
暗い雰囲気だったが、アイツのことを話していくうちに、やっと気持ちに整理がつき始めた。
こんなに喋ったのは共通の知りあいだからだろうか。