童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
side 木村 正義
風邪を拗らせた俺は米花中央病院へ診察に行ったが、そこで爆弾事件に巻き込まれた。同日に観覧車にも爆弾が仕掛けられていたらしく、危機一髪だった、らしい。
爆弾を見つけた第一発見者として事情聴取を受けた。待ち合いのロビーでクラスのグループチャットの【3-E TALK!】を開く。
【殺せんせーと童顔詐欺師の関係者っぽい人がいた】
すぐさま既読がついた。
【やっと見つけた手がかりだ!】
【よくやった木村!】
【俺らのジャスティス!!】
こっちは爆弾事件に巻き込まれて散々だというのに......調子がいいやつらめ。でも、俺もやっと見つけた飛鳥の足跡に浮き足が立っている。
【逃がすなよ。話を聞き出せ】
【ビッチ先生直伝のチューで落とせ】
ピロンッという通知音が鳴れば、脅しのようなメッセージまで届いた。
【......いや、あの......その人、警察官なんだけど】
......あれ......既読はつくのに急に反応が鈍くなった。
【警官相手にそれはわいせつ罪で捕まるんじゃないかな】
【むしろ取調べとか聞き込みのプロ相手だから警戒されないようにすべきじゃ......】
渚と磯貝がやんわりと苦言を呈した。
【木村が仕掛けにいって、捕まる方向で接点もてばいいんじゃね?】
カルマッ!!......お前はそういうところだよ!!
***
「へぇ。木村君、飛鳥君の中学クラスメイトなんだ」
ニコニコ笑うこの人は萩原研二さん。爆発物処理班の所属らしい。結局、無難にお礼をしに行くという形でこの人に接触しに行った。自己紹介で将来、警察官志望だと話したのが、好印象だったようだ。その流れで中学でお世話になった恩師の話になり、飛鳥が共通の知りあいであると判明した。
「世間って狭いな」
「はは......そうですね。......あの、飛鳥が何処にいるか知りませんか?」
直球で質問をぶつけた。じっと口を引き結んで萩原さんをみる。萩原さんは目をパチクリさせて、ヘラリと申し訳なさそうに答えた。
「俺もわからないんだ......力になれなくてゴメンな」
やっと飛鳥の尻尾を掴んだと思ったのにな......またふりだしに戻った。殺せんせーも長期戦になるって助言していたけれど......やっぱりガッカリした気持ちは隠せなかった。
***
それからまた数年が経った。俺たちは大学に進学する歳になっていた。萩原さんとはたまに連絡を取り合い、警察官のイロハを教えてもらっている。
俺たちも酒が呑める歳になり、時間があるメンバーは集まって近状報告したり、飛鳥のことを話し合ったりしていた。
「俺、このヤマを終えたら婚約者の両親に挨拶しに行くんだ」
隣席から二人組の男がそんな会話をしている。
そこに酔っ払った不破が隣席に座っていた爪楊枝をくわえた男に絡み始めた。
「それ、【死亡フラグ】ですよ~」
不破はネジが外れたようにペラペラと漫画語りをし始めた。
「漫画でよくある展開ですよ!今まで悪役だったキャラが愛や友情に目覚めて『ここは俺に任せて先に生け』とか、バトル漫画で『この戦争が終わったら結婚するんだ』っていうのは、真っ先に死んでご退場しますね!」
「さっきのそれも典型的な死亡フラグってわけか......」
千葉の神妙そうな声がポツンと響いた。微妙に白けてしまった空気に申し訳なくなって、シラフのメンバーが謝罪した。爪楊枝の男は気にするなと広い心で汲み取ってくれた。取っ組みあいの喧嘩の騒動にならなくてよかった。
***
俺たちが中学を卒業して7年が経った。時間の流れは早い。萩原さんに呼び出された場所へ行くと、萩原さんとグラサンをかけた男がいた。萩原さんは困惑する俺にチラリと視線を向け、「まぁ、座って話そうか」と促した。
正直、ガラがわるい。萩原さんの同僚だという口添えがなければ、ヤのつく自由業とかチンピラだと誤解していた。
「【飛鳥】について知っていること全部吐け」
ギロリとサングラスを光らせ、凄んだ声で尋問が始まった。腰が引いた俺に萩原さんが「ちょっ!陣平ちゃん!怖がってるから!」と宥める。松田さんは「クソ原、うるせェ!」と暴言を吐いている。
「んーと......飛鳥君と松田は悪友みたいな間柄でさ......ちょっとコイツ気が立っててね......恐がらせてゴメンな」
その日は萩原さんが間に入って、解散になった。というのも、俺たちは飛鳥と約1年の付き合いだったし、話せることもちょっとしかなかった。むしろ、俺たちも飛鳥の手がかりを探している状況で、教えてほしかった。
「......実は―――」
***
ひどい虚無感が襲う。
【友達は君たちと会うことを望んでいません。それは君たちを蔑ろにしているのではなく、寧ろ危険から遠ざけるために姿を消したと推測します。】
考えなかった可能性じゃない。
飛鳥が死と隣り合わせだということは殺せんせーが本に書き記していたし、だからこそ慎重に行動し危ないと思ったら決して深入りしないように注意を促された。
顔色のわるい俺を皆が心配そうにみつめた。俺は皆に報告しなければならない。
グループチャットで皆に報告することがあると書き込み、あの懐かしい校舎に召集した。
教壇に立つとウロウロと視線が泳ぐ。磯貝が「大丈夫か?」と気遣い、短気な寺坂が「さっさと言えよ」と吐き捨て、倉橋が「何かあったの?」と緩い口調で言う。
ずっと黙ったまま、下を向く俺に何人かがサッと顔色をかえた。片岡が「......飛鳥君のことよね?」と震えた声で確認した。
「......飛鳥は......飛鳥が......死んだ......」
絞り出すような声で打ち明けた。
「............は......何、言って」
動揺した前原が乾いた声で言う。
「......知りあいの警察官から聞いたんだ!あの飛鳥の関係者だっていう人にッ!」
半ば叫びながら俺は前原のそれを否定した。ぽろぽろと目から涙が垂れ、ポツンと床に落ち染み渡る。
それは教室全体に感染していき、まるであの日のようで、殺せんせーが亡くなったときのようで......
やるせなさ や 自分たちの力の及ばない無力感......飛鳥が遠い存在だったと突きつけられたみたいだった。