童顔系潜入捜査官   作:くりっぷ

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この前の報告書は怒りのままに手で握ったら、シワシワのヨレヨレになった。書き直すのも面倒で紙の無駄だと判断し、そのまま提出した。連絡員に「仮にも上に提出するものだから書き直せ」と、小言を言われたが、「あんたの眉間の皺にそっくりですよ」とスルーした。

 

 

 

 

学校に着くと、新しい体育教師を紹介された。【鷹岡】というらしい。デザートを振る舞い、生徒の懐に入り込もうとしている。警察の立場のおれからみると、「お菓子あげるから家においでよ、オジさんこわくないよ」みたいな常套句を言う不審者にみえる。

 

 

「赤羽君は次の体育どうすんの?」

 

「......オレはパス。なんか胡散臭いんだよな、アイツ」

 

赤羽業。彼は頭のキレる不良エリート少年だ。彼が集会や授業をサボることはそう珍しくない。

教室の窓から、鷹岡と生徒たちを眺める。今のところ、変な様子は見当たらない。グラウンドでワイワイ盛り上がっていて、教室の中は余計に静かに感じる。

 

 

「......そっか。そういえば、職員室の冷蔵庫にご当地限定のシュークリームあったからどーぞ」

 

「......サンキュー。飛鳥君って、そういうのしないタイプかと思ってた」

 

ホイッと、シュークリームを手渡す。職員室でこっそり何個か拝借させていただいた。居合わせた烏間さんには「暗殺の手がかりに」とでまかせな理由付けて、許可はとってある。

 

 

「外の殺せんせーたち見てみなよ。今も差し入れのデザート食べてるのにこれ以上となったら、糖尿病になっちゃうよ」

 

「へぇ。オヤサシイ飛鳥君は心配なわけ?わざわざ恩師の健康まで気を使ってご苦労サマ」

 

肩をすくめて眉を下げたおれにニヤリと笑った赤羽君は、ひと口かじり、面白い玩具をみつけたような視線を向ける。おれは彼の言う『オヤサシイ飛鳥君』らしくニコリと笑う。

 

 

「知ってる?『いつも~三丁目の朝日~』って映画で、冷やしたはずのシュークリームを食べた子がお腹壊してたんだよね」

 

ゴホッと喉を詰まらせた赤羽君に、心配そうな顔を向け、彼お気に入りの煮オレジュースを差し出す。

 

 

 

「......飛鳥君、イイ性格してるよ。食べる気、失せたじゃん」

 

 

殺せんせーが持ってたものだから、食中毒の危険はない。ヤツの食欲は無限大だし、何気にグルメだし。そもそも生徒の安全を阻害するなんて、わざわざする動機もない。

 

 

げんなりした顔の赤羽君のサボりを見送って、教師陣の輪に近づく。鷹岡が実行にうつすなら、おそらく授業が始まってからだ。

 

 

「教師が交代させられて、『はい、そうですか』って、従えるわけない。......とくに貴方を慕ってる子は」

 

 

ポケットから職員室で偶然拾った写真を取り出す。バッと烏間さんは写真をとり、目を見開いた。写真には、鷹岡によって訓練された兵士が暴行を受けていた証拠が写ってある。いくらおれが警察であっても、今のおれは中学生。動こうにも動けない。殺せんせーはダメだった。ビッチさんもたぶん門前払いされそう。おれが動けなくても、動ける人にやってもらうしかない。

 

 

「その写真みても何も思いませんか?取り返しがつかないことになると思いますけど」

 

 

おれが言い切るより前に烏間さんは地面を蹴り、振り上げた鷹岡の腕を掴んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

颯爽と現れた理事長に解雇通知を受けた鷹岡はこの【暗殺教室】から去っていた。ある意味、はじめてのリタイア者だ。

 

 

それにしても、潮田君が本物のナイフを当てたのには驚いた。

 

ザ・草食系な子......人は見た目によらないってつくづく思った。そして、潮田君の力を引き出したのは......

 

 

「烏間さん。自分の影響力に自覚あります?」

 

 

クラスメイトに囲まれている潮田君はモミクチャにされている。烏間さんはそんな潮田君を呆然とみていて、信じられないと言った表情だった。でも、僅かに出た可能性に期待していて、その心は複雑そうだ。

 

 

「影響力?」

 

「自分の能力が周りから嫉妬されたり、憧れたり、利用されたり......ぼくは、少し潮田君が心配ですよ」

 

 

潮田君は、本人に自覚なさそうだけど、【暗殺】の才能がある。恐れてしまった事態だ。このまま、その才能が開花するにせよ、しないにせよ......彼が自覚したとき、【暗殺者】の道を選んだら......

 

 

先が思いやられる。......任務がハードすぎる。生徒の進路まで......なんとか安全で全うな職種に誘導できたら......いや、そこはあのタコに任せよう。

 

 

チラリと横目で烏間さんをうかがうと、苦い顔をしていた。

 

 

烏間さんの場合、本人の知らぬところで揉め事になってそうだな。

 

鷹岡には憎悪に近い感情を向けられている。それにこの人は気づいていたのか......この分だと、気づいてなさそうだな。お堅い軍人さん上がりで、妙に感情に鈍そうだし。一回り離れた生徒との交流も、ちょっとギクシャクしてた。

 

 

「貴方と鷹岡って、どんな仲だったか知りませんけど、同期なんですよね?」

 

おずおずと曖昧に頷かれた。

 

おれたちが特種だったのか?畑違いだから?防衛省と警察じゃ、付き合いがちがうのか?

 

わりと同期の繋がりって切れないものだけど。同期のチャラ男と天パ男とガハハ系男から「飲み会しよーぜ」って誘われる。ついこの前もその誘いのメールが来てたけれど。

 

......悲しいかな、中学生に擬態している今は、アルコール飲めないんだよ。あの超生物にすぐバレる。ヤツは鼻がいいらしい。来世、ヤツが警察犬になることを期待しよう。

 

 

 

「気を付けた方がいいと思いますよ。あの人、貴方に並々ならぬ執着を抱いていそうですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

=============

 

報告書

 

防衛省の鷹岡の不祥事が発覚。暴力を訓練の一貫として日常的に振る舞っていたらしい。詳細は同封の写真データを確認。

防衛省の内部の問題として片付けられる見込み。鷹岡と烏間は同期であり、鷹岡の烏間に対する劣等感と対抗心が煽られ、生徒が負傷した。

 

 

 

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