うそつきダーリン   作:茜崎良衣菜

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新しい時

 

 

高校三年生も始まり、みんなが新学期に慣れだした六月中旬。

段々とRoseliaが認知されてきてライブにもたくさんの人たちが見に来るようになって。バンドとバイトと、それから今年は受験もあって。

両立するのは大変だけどやりがいもあるからとても充実した最上級生の始まりだった。

Roseliaの夢であるF(Future) W(World) F(Fes)出場に向けて気合の入るアタシたちは今日の放課後もスタジオに向かうつもりだった。

 

 

 

「まさか日直の仕事任されるなんてね…」

 

 

 

いつもなら大した仕事もないのに。そう思いながらため息をつく。

HRで担任の先生が言っていたのはこの間の文化祭のこと。アタシたちのクラスでは猫耳カフェをやっていて、そこで使った衣装は全部借り物だった。今週中には貸してくれた業者に返さないといけないからそれの仕分けをしてほしいとのこと。

今日日直に割り振られていたアタシとクラスメイト。けどそのクラスメイトは今日は休みで。友達から「手伝おうか?」と言われたけど申し訳なかったから全部断った。

少しばかり面倒ではあるけど今回は仕方ない。そう割り切ってアタシは衣装の入った箱が置かれている倉庫に移動した。

扉を開いて中を覗けば段ボールが二箱。その前にはアタシたちのクラスを示すアルファベットがあったから間違いない。

 

仕事を早く終わらせて練習に行きたかったアタシは往復して時間を割きたくなかったからその段ボールを一気に持って行くことにした。

二箱しかないから大丈夫だと思っていたが段ボールの中身は結構詰まっているらしくだいぶ重たかった。視界が遮られあまり前が見えない。それでも教室までは階段を上がってすぐだし大丈夫だと思っていた。

 

細心の注意を払って階段をゆっくり上がっていく。隣を運動部の下級生が数名かけ降りていった。階段を上り切り、難所を越えたと安心した時。

 

トンッと目の前から衝撃が来た。後ろは階段。バランスを崩せば確実に階段の上から真っ逆さまだ。ダンス部で鍛えた筋力を使ってどうにか耐える。

 

 

けど、悪いことは続く。

 

 

腕が限界で上の段ボールが傾いた。バランスを崩してアタシの方に落ち____。

 

 

 

「っ、危なかった」

 

 

 

段ボールが落ちそうになった瞬間伸びてきた手。片手で段ボールを、そしてもう片手でアタシの身体を支える。落ちなかったという事実に一安心だ。

 

 

 

「今井さん、大丈夫?」

 

「あ、ありがとう芹沢(せりざわ)くん。助かったよ……」

 

 

 

段ボールの間から見えた知っている表情にお礼を言う。

助けてくれたのは同じクラスの芹沢(かける)くんだった。もし彼に助けてもらっていなかったら階段から落ちていた、という事実に身震いする。彼は安心したという顔をしていた。

 

 

 

「これ、もしかしてさっき先生が言ってた文化祭の時の衣装?」

 

「う、うん」

 

「友達でも呼べばよかったのに」

 

 

 

それに関しては少し後悔していたところだから言わないでほしかった。

 

 

 

「半分持つよ」

 

 

 

そう言って芹沢くんは上に積んでいた段ボールを持つ。半分になっただけでだいぶ腕が楽になった。だけど少し重たいことに変わりはない。それを軽々しく持っている芹沢くんはさすが男子、と言ったところだ。

 

 

 

「これ二つ持ってたの?結構重かったでしょ?」

 

「いけるかなーって……」

 

「教室まで運べばいいの?」

 

「うん。お願い」

 

 

 

アタシも大変だったからその提案はありがたかった。

芹沢くんはクラスでも明るくて気遣いができる分類の人でクラスのまとめ役。優しい口調だから話しやすくて、そのうえイケメンで人気者。全学年や他校の生徒、女子大生等々、何度告白されたという噂を聞いたからわかりやしない。だけど高嶺の花、って感じでもないのが不思議だ。どんなに引っ込み思案なクラスメイトでも芹沢くんとは話せていた。これに関しては芹沢くんの才能なのだろう。

アタシは見た目がギャルだから不真面目だと思われ、話しかけにくいと言われることも少なくないからうらやましい限りだった。

 

 

 

「今井さん。今度からは誰かを頼らないとダメだよ?」

 

「うん。善処するね」

 

「確かこれ仕分けもしないといけないんだよね?」

 

「そうらしいね。けど文化祭が終わって衣装をしまう時に分けてたはずだしそんなに時間はかからないと思うよ?」

 

 

 

教室に着いて教卓に段ボールを置く。疲れた手をパタパタ振った。

「お疲れ様」という声が耳に届いた。

 

 

 

「今井さん、今日バンド練習あるの?」

 

 

 

アタシたちRoseliaは文化祭でも演奏したこともあって全校生徒に知られている。あこはRoseliaを通して友達が増えて嬉しいと言っていてアタシたちも頷いたのは記憶に新しい。

 

 

 

「うん。これからすぐ練習なんだ~」

 

「なら仕分けは僕がやっておくよ」

 

 

 

彼はどこまでお人好しなのか。さすがにその提案は承諾できなかった。

 

 

 

「いやいや!もともとアタシが頼まれてたやつだし、むしろここまで芹沢くんに手伝ってもらうわけには……」

 

「なら二人でやろうか。それならすぐに終わるだろうし」

 

 

 

善意で行動してくれているのにそれを無下にはできなくてお願いすることにした。段ボールを開けて中身を出して仕分けていく。

 

 

 

「本当に芹沢くんは優しいね。ここまで手伝ってくれる人もなかなかいないと思うけど」

 

「そんなことないって。僕は当たり前のことしかやってないよ?」

 

 

 

そこが優しいのだと彼はわかってないみたいだ。

当たり前だなんて。根がイケメンだよね。モテるわけだ。

けど助けてもらったんだし、何かお礼がしたかった。

 

 

 

「ねえ芹沢くん。手伝ってもらったんだし何かお礼がしたいんだけど……」

 

「え?いいよ別に。僕は見返りが欲しくて手伝ったわけじゃないんだし」

 

「それじゃあアタシの気が治まらないんだって!何でも言ってよ!」

 

「……本当にいいの?」

 

「うん!アタシに叶えられることだったら何でも言ってよ!」

 

 

 

言われるとしても何かを奢ってだとか、そんな感じのことを想像していた。それなのに。

 

芹沢くんの表情が真剣なものに変わった。どれにドキッとする。何故か手が震えていて、アタシは動揺した。

 

 

 

「なら、僕のお願い聞いてもらってもいい?」

 

「う、うん……」

 

 

 

言いにくそうな声で芹沢くん。

ちょっと待って、何を言う気なの。

早く動き出した心臓。

準備のできていないアタシに芹沢くんは言い放った。

 

 

 

「今井さん。今日から僕の、恋人のフリをしてもらえませんか?」

 

「……へ?」

 

 

 

予想の斜め上。想定外すぎる方向から飛んできたボールをアタシはしっかり受け取ることができなかった。

ん?なんて言った?恋人のフリ…?待って全然状況が読めない。

 

 

 

「ど、どういうこと…?」

 

「……実は」

 

 

 

芹沢くんが話始めたのは今抱えている悩みだった。

 

先日、芹沢くんは二つ年上の女子大生に告白されたらしい。気持ちは嬉しかったが好きじゃなかったから断った。しかしその女子大生は諦めてくれなくてその後もしつこく迫られたらしい。

その時に諦めてもらうためにうっかり「恋人がいる」と嘘をついたそうだ。それを聞いた女子大生は証明してと言ったとか。

 

そこまで聞いてアタシはなんとなく察した。おそらくその女子大生にこれ以上付きまとってほしくないから諦めてもらうために恋人役を欲しているんだろう。そしてその役をアタシに頼みたいんだ。

 

 

 

「というわけで。本当に申し訳ないんだけど、期間限定で僕の恋人になってくれませんか?」

 

 

 

わかってる。これはただの提案。だけど真剣すぎるその眼差しにドキッとしたのも事実。

本当に彼は顔がいい。

 

 

 

「それは別にいいんだけど……期間は?いつまでやればいいとかあるの?」

 

「そうだね。あんまり長くても今井さんに迷惑だと思うし……じゃあ三か月でどうかな」

 

 

 

三か月。今が六月だから九月くらいまで。夏の間というのなら日程も合わせやすいし、何よりクラスメイトにバレても多少問題はない。

 

 

 

「うん。それなら」

 

 

 

肯定すれば芹沢くんはよかったって微笑んだ。

 

 

 

「それじゃあ今井さん。改めて。三か月間、僕の恋人になってくれませんか?」

 

「はい。喜んで」

 

 

 

こうして始まったアタシと芹沢くんの少し変わった関係。

ここからアタシの新しい時が動き出した。

 

 

 

 

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