うそつきダーリン   作:茜崎良衣菜

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デートと事故

 

 

 

アタシたちは今日もまたデートする。

目的地は遊園地。昔からあってハロハピの頑張りで最近盛り上がっているスマイル遊園地に行くことになった。

誘われた経緯はいつも通りで、だけど遊園地に二人きりで行けるなんてもうないかもしれないから嬉しかった。

 

 

 

「芹沢くん、最初は何に乗ろうか」

 

 

 

入場してすぐの場所でアタシは受付でもらったパンフレットを広げる。そのパンフレットを芹沢くんは覗き込んだ。

 

 

 

「どこも楽しそうだし迷っちゃうね」

 

「まあ、時間はたくさんあるんだし好きなところから順番に並んで行こうよ」

 

「あ、それならお互い交互にどこに行きたいか言っていくのは?」

 

 

 

それならいちいち揉めたり悩むこともないはずだ。

そう思っての提案は簡単に受理された。

 

 

 

「じゃあ今井さんからどうぞ」

 

「うーん。そーだねー……コーヒーカップから行こうかな!」

 

「わかったコーヒーカップね」

 

「それじゃぁしゅっぱーつ!」

 

 

 

地図を持ったアタシが芹沢くんを先導するように歩く。コーヒーカップは入ってすぐのところにあるから目的の場所にはすぐに着いた。

待機列も無いようで、 最大四人まで乗れるカップに乗り込んだ。

 

 

 

「芹沢くんって、コーヒーカップ回す派?」

 

「そうだけど、今井さんも?」

 

「……全力でやっちゃおっか」

 

「後悔しても知らないからね」

 

 

 

コーヒーカップが動き出しBGMが鳴り出した瞬間にアタシたちは中央にあるハンドルを全力で回し始めた。

数秒後には叫び、笑う声がアタシたちを包んでいた。

楽しくて楽しくて、お互いに必要以上にハンドルを回したことだろう。

 

コーヒーカップのBGMが止まる。その頃にはアタシは後悔しつつあった。

 

 

 

「……思った通りのことしたね」

 

「あ、ははっ……」

 

 

 

酔った。芹沢くんに支えられコーヒーカップから降りる。

「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれるスタッフさんに芹沢くんは「大丈夫です」と返してアタシのことを近くのベンチまで案内してくれた。

 

 

 

 

「とりあえず横になってて」

 

 

 

芹沢くんに言われるままアタシはベンチに横になる。

日差しが容赦なくアタシのことを攻撃してくる。これじゃあ日焼け止め塗っていても意味がなさそうだし焼けるよりも先に熱中症にでもなってしまいそうだった。

それを察してくれたのか芹沢くんはタオルをアタシのおでこと首にかけてくれる。そのタオルはものすごく冷たかった。

 

 

 

「……今井さん、大丈夫?」

 

「うん……ありがとう芹沢くん」

 

 

 

しばらくして気分の悪さのなくなったアタシはベンチから起き上がった。アタシの荷物を持ってすぐ近くに立っていた芹沢くんが声を掛けてくれる。

起き上がって腰から足元にかけてブランケットがかかっていることに気付いた。スカートを履いていたアタシへの気遣いは温かい。

 

 

 

「水、飲む?」

 

 

 

コクリと頷いてアタシはアタシと同じ目線までしゃがんだ芹沢くんから渡されたペットボトルを両手で持つ。既にキャップは空いていてそこにはストローがささっていた。それを使って水を吸い込む。だるかった身体は一瞬ですっきりした。

 

 

 

「……ごめんね芹沢くん。来て早々ダウンしちゃって」

 

「全然。僕からしたら遊園地で遊ぶことよりも今井さんの体調の方が大事だよ」

 

 

 

真剣な表情で伝えられた言葉。それは真剣すぎるくらいだった。

どうしてそんなこと言ってくれるんだろう。これ以上キミへの想いを膨らませたって苦しいだけなのに。

どうしてキミは、アタシに諦めさせてくれないの。

 

 

 

「それに、こういう遊園地デートがあってもいいでしょ」

 

 

 

芹沢くんは満面の笑みでそう言った。

本当に彼はアタシの恋を諦めさせる気がないらしい。

 

 

 

「そうだね!」

 

 

 

その笑顔で気分の悪さはどこかに吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

その後は色々なところに回った。

ジェットコースター、メリーゴーランド、ゴーカート。大きく分けるとこんな感じだけどその中でもくるくる回転したりスピードが速かったり、たくさんの種類に乗れた。

絶叫系のあまり得意ではないアタシは正直言って乗り物に乗っている間は怖くて仕方ない。だけど芹沢くんがいるからか不思議と怖さはなかった。

 

 

 

「着いたよ今井さん」

 

 

 

だけど、それはジェットコースターだとかの話。

 

 

 

「ほ、本当に入るの……?」

 

 

 

お化け屋敷は、また別問題だ。

外見からして怖いことがわかる。入りたくない。

まさか芹沢くんがリクエストする番でお化け屋敷というチョイスになるとは思わなかった。

 

 

 

「今井さんが無理だって言うならいいんだ。また今度にするし」

 

「の、乗る!乗るよ!」

 

「え?別に無理しなくても……」

 

「無理なんてしてないよ!大丈夫だもん!」

 

 

 

 

「行かない」とアタシが言い張れば芹沢くんは他の場所を選んでくれるだろう。けどそれじゃあダメな気がした。

芹沢くんの行きたいところなら行きたい。こうやってお化け屋敷に入ることはもちろん嫌だけど。それでも自然と彼と一緒にいられるのは、きっともう長くないから。

 

 

 

「わかった。もし怖かったら僕に掴まってていいからね」

 

 

 

強がりの言葉も彼はちゃんと受け止めてくれる。

苦笑い気味。それでも笑ってくれる。それが嬉しい。

 

結局お化け屋敷に入っている間はろくに目も開けられなくて。

そのおかげで彼とずっとくっついていられたというのは今はアタシだけの特権だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー!怖かったぁ……」

 

「今井さんずっと僕にくっついてたもんね。大丈夫?」

 

「うん。ありがとう芹沢くん。芹沢くんがいなかったら無事に出られなかったよ」

 

「それはいくらなんでも大げさだと思うけど……」

 

 

 

午後五時。時間もだんだんなくなってきた。帰る時間を考えても乗れるのはあと一つか二つ。

 

多分、芹沢くんも、そう思ったんだろう。

 

 

 

「今井さん。次、何がいい?」

 

 

 

優しい声だった。

まるで今日が終わったら会えなくなるみたいな雰囲気だった。

初めて感じるその雰囲気がアタシは少し苦手だった。

 

 

 

「……そう、だね……」

 

 

 

思い描いていたデートのラストはアタシの中では一択。

最後に乗っておきたいと思った。

だからアタシはその乗り物の名前を呟く。芹沢くんは頷いて、歩き出す。アタシはその後に続く。

 

周りの人は来た時に比べて少なくなっていた。当たり前と言えばそうかもしれない。

スタッフさんに案内されたゴンドラに乗る。

扉が閉まり次第芹沢くんが先にイスに座る。アタシはその反対側に座った。

しばらくして動き出したそれはだんだんと天に向かっていく。

 

 

 

「……夕焼け、キレイだね」

 

「そうだね。これだったら夜景も綺麗だろうね」

 

 

 

観覧車に乗るのは初めてで、その相手が彼であるということが興味深くて。そっと、キミに向ける視線が熱くなる。

 

 

 

「……ねぇ、芹沢くん。隣に座ってもいい、かな?」

 

 

 

緊張で少し震えた声。心臓の鼓動はキミに聞こえてしまっているのではないかと思う。

彼は夕日で顔を染め「いいよ」と簡潔に返した。その言葉を聞いてそっと隣に移動する。

 

二人の間は約十センチ。

あと少しで触れられるのにアタシは触れられない。

まるで何かがアタシたちを阻んでいるのか震えて動かない。

 

ゴンドラは四分の一まで進んでいる。

会話はない。けど気まずさは特になかった。

 

 

 

「今井さん」

 

「なぁに」

 

「今日楽しかった?」

 

「楽しかったよ」

 

「それならよかった」

 

「……芹沢くんは?」

 

「ん?」

 

「楽しかった?」

 

「もちろん。楽しかったよ」

 

「……ならよかった」

 

 

 

このやりとりでキミとの距離が縮まればいいのに。

心の距離も、物理的な距離も縮んでくれたらいいのに。

 

 

 

「……今井さん」

 

「どうしたの?」

 

「僕はキミに言わないといけないことがあるんだ」

 

 

 

向けられたのは今日二度目の真剣な眼差し。目が離せない。心臓が高鳴ってうるさい。

 

 

 

「あのね今井さん、実は……っ!?」

 

「__っ!?」

 

 

 

ゴンドラ内ががたんと揺れる。その衝撃で体勢を崩した芹沢くんがまっすぐアタシに迫る。

 

触れた柔らかな感触は初体験。

目を開けばすぐそこにキミがいた。

ゆっくりと離れたキミは真っ赤な顔で口元を抑える。

アタシの目からは涙がこぼれていた。

 

 

 

「ご、ごめん!わざとじゃないんだ!」

 

 

 

芹沢くんがわざとでないことくらいわかっていた。

これは嫌がっているわけじゃない。

ただ嬉しかったから。

例え事故だとしても芹沢くんからのキスは嬉しかった。

 

 

だけどそうだと彼には伝わってくれない。

それどころか何度も謝るばかり。

伝わらないことにもっと涙がこぼれる。

抱きしめてはくれない。

彼は隣でゆっくり背中をさすってくれるだけ。

恋人未満のアタシが相手ではそれ以上進んでくれない。

 

 

 

わかっていた。芹沢くんが先に進んではくれないことを。誠実だから過ちなんて犯してはくれないことを。

それでもアタシは進んでほしかった。

遊びでもいいから、なんてのはおかしな話かもしれない。けどそう思ったのも本心だから。

 

 

 

観覧車が終わるまでアタシは泣いていた。

降りる頃には目が腫れていたのかスタッフさんに驚かれた。

芹沢くんがアタシの名前を呼ぶ。

それを無視してアタシは走り出した。

理由もなく走った。

 

彼が追いかけてくることはなかった。

 

 

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