うそつきダーリン   作:茜崎良衣菜

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キミのついたウソ

 

 

 

 

「それじゃあライブ成功を祝って、かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「「乾杯」」

 

「か、乾杯……!」

 

 

 

グラスのぶつかる音が響く。

元気な声で乾杯の声が聞こえたのは後輩の一つだけ。他は静かに淡々とした声の乾杯だった。苦笑いしつつも、それがアタシたちらしくていいと思った。

 

 

今日は昨日のライブの打ち上げ。昨日の夜急遽決まった予定だった。

幸い朝から用事が入っている人はいなくて、話し合いの結果昼過ぎから集まることになったのだ。

場所はいつもお世話になってるファミレス。

反省会も兼ねて集まったはずだけどやっぱり関係ない話の方が多い。一年前なら絶対にありえない光景。あの頃のアタシに教えてあげたいくらいだ。

 

 

 

「ライブ、楽しかったですね!お客さんみんな盛り上がってたしペンライトキレイだったなぁ!」

 

「宇田川さん、気持ちはわかりますがあまりはしゃがないでください。周りの迷惑になるわよ」

 

「ちょっとくらいなら大丈夫ですよ!」

 

「あははっ。あこはあいかわらず元気だね~。昨日あんなに演奏したのに疲れてないの?」

 

「確かに。結局お客さんからのアンコールでやる予定のなかった曲が三曲も増えてしまったからね」

 

 

 

どうしてもお客さんがアンコールと声を上げるのをやめなくて、結局やる予定のなかった三曲が増えてしまったのだ。

ただでさえ曲数多かったのにあれは楽しかったけどきつかった。

 

 

 

「……疲れ、ました……」

 

「けどまさかリハーサルでもやっていなかった曲をやることになるとは思いませんでしたよ」

 

「ね。友希那がそれやるって言うとはアタシも思わなかった」

 

「だけどあの曲は最初仮でできたセットリストにも含まれていた曲なのだから弾けることはわかっていたもの。現にちゃんと成功したじゃない」

 

「まあ、結果としてはそうだけどさ」

 

 

 

友希那がリハーサルでやらなかった曲をやるとは全員が想定外だった。最近アタシの幼なじみはみんなが想像してないようなことをやるのが好きみたいだ。

 

 

 

「今の貴方たちの技術なら絶対に成功すると思っていたもの。信じて正解だったみたいね」

 

「友希那……」

 

「友希那さん!!」

 

「ちょっとあこ!急に抱きつかないで!」

 

 

 

いつもと違う席順だから友希那の隣にはあこが座っていた。なんでもあこが隣がいいと志願したから。さっきからずっと友希那に向かって話しかけてるし楽しそうで何より。燐子なんて優しい笑みで見守っててお母さんみたいだ。

 

 

 

「そう言えば今井さん。どうだったんですか?」

 

「どうって何が?」

 

 

 

唐突な紗夜にアタシは首を傾げた。そのままドリンクバーで取ってきたジュースを飲む。

 

 

 

「芹沢さんに告白できました?」

 

「ぶふっ!」

 

「え!?リサ姉、芹沢さんに告白したの!?」

 

 

 

紗夜の唐突な言葉でアタシはむせてしまった。そしてその言葉に反応したあこが食いつく。テーブルに手をついて身を乗り出すその姿に苦笑いしかできなかった。

 

 

 

「いつ!?ねえリサ姉!いつ告白したの!?」

 

 

 

あこはこの手の話題すきだからなぁ……。食いつき方がいつも以上だ。

 

 

 

「あ、あこ落ち着いて。ちゃんと話すから」

 

 

 

とりあえずあこを落ち着かせてアタシはみんなと向き合う。そして昨日のことを順を追って話すことにした。多分、隠していてもすぐにバレてしまうだろうからそれなら言った方がいいと思った。

 

 

ライブに芹沢くんを誘ったこと。

そのライブの後に芹沢くんに告白しようとしていたこと。

告白しようにもどんな言葉を伝えればいいのかわからなかったこと。

それでもストレートな言葉で彼に想いを伝えようとしたこと。

タイミング悪く伝えきる前に電話が掛かってきたこと。

二度目は、上手く伝えられなかったこと。

だから今日改めて伝えに行くということ。

 

全部全部、話した。

アタシの想いを全部、話した。

 

 

みんな何を思ったんだろう。そう思って顔を見渡せば一つ、明らかな動揺があった。

 

 

 

「ちょっと待ちなさい。ということは昨日、何も伝えられてないの?」

 

「あはは……。友希那と紗夜に背中押してもらったのにかっこ悪いよね。だけど今日はちゃんと……」

 

「なんで昨日言ってくれなかったのよ!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

 

突然の友希那の大声にアタシたちは肩を揺らす。お客さん数名がこちらを覗いていたがそれを無視して友希那はアタシに言葉を投げ続ける。

 

 

 

「昨日知っていたら私は!ここで呑気に過ごしていなかったわ!!」

 

「み、湊さん!?」

 

「ちょ、落ち着いてよ友希那!」

 

「落ち着いていられるわけないでしょう!?」

 

 

 

訳がわからない。どうして友希那は告白できなかったことに怒っているの。確かにアタシは昨日告白できなかった。けど今日告白するって話をしてたのに。

 

何を、取り乱しているの……?

 

友希那はスマホを突然操作し始める。そしてそれが終わり次第立ち上がってアタシの手を掴んだ。

 

 

 

「行くわよリサ!今ならまだ間に合うかもしれないわ!」

 

「間に合うって何の話?ていうかどこ行くの!?」

 

「空港よ!!」

 

 

 

困惑するアタシたちを放置し友希那は紗夜にお金を預けた。預け次第アタシのことを引っ張る。こんなに強引な友希那は初めてだった。

紗夜の呼び声にも友希那は反応しなかった。反応してる場合じゃないって感じだった。

 

 

ファミレスから出て、数分待っていれば友希那のお父さんが車で現れた。さっきのはおじさんに連絡していたらしい。だが今のアタシにはその行動ですら疑問だらけ。

 

 

 

「お父さん空港までお願い!」

 

「ああ。任せろ」

 

「ちょっと友希那!いい加減に説明してよ!なんでアタシは空港に連れて行かれてるのさ!」

 

 

 

そうアタシが説明を促せば友希那は焦り顔のままこちらを向いた。そして衝撃的なことを言い放つ。

 

 

 

「翔が今日日本を発つからよ」

 

「……え?」

 

 

 

芹沢くんが日本を発つ?それはどういうこと。そんな話一度も。

 

 

 

「その反応はやっぱり翔が海外に行くって話は聞いてなかったのね」

 

「どういうこと!?なんで芹沢くんが海外に!?」

 

「順を追って説明するから落ち着きなさい」

 

 

 

友希那はファミレスにいた時と違って冷静だった。ふぅーと息を吐いて話し始めた。

 

 

 

「翔のお父さんはプロのギタリストなの。そして昔、私のお父さんと同じバンドで活動していた。解散してからも翔のお父さんはギタリストとして活動を続けていたの。そして今回、海外進出が決まった。これはすごいことよ。そして私たちにとっては悲しいことにも繋がった。

 

翔も海外についていくことにしたの。そして今日が出発の日」

 

 

 

芹沢くんがアタシについていたウソが、剥がれ落ちていく。

 

 

 

「す、すぐに戻ってくるんだよね!?」

 

「わからないわ。二、三年で戻ってくるかもしれないし、もう戻ってこないかもしれない」

 

 

 

突然のお別れにアタシは何一つ納得できていなかった。

 

 

 

「ま、待ってよ!海外についていくのはわかるよ!?けどなんでアタシには言ってくれなかったの!?だって芹沢くんはアタシの!」

 

「リサは知らないでしょう。翔がリサについた最大の嘘を」

 

「ウソ……?」

 

「翔は貴方に恋人役を頼んだ時に『女子大生に告白されてそれを断るために期間限定で恋人になってほしい』とそう言われたんでしょう」

 

「う、うん。そうだけど」

 

「もし、翔がそんな女子大生に告白されていないって言ったらどうする」

 

「え……」

 

 

何を言っているのだろうと思った。

だって、そんなのこの関係を作る必要がない。そんなこと、する必要が全くない。

ならなんで芹沢くんは……。

 

その時、アタシの脳裏には一つの可能性が浮かんだ。

だけどそんなことありえるわけがないと首を振る。

だってそんなのアタシの妄想に過ぎない。

 

そう考えないとアタシはいいようにとらえてしまう。

 

 

 

「……翔が何をもってリサを必要のない恋人役に任命したのか。言わなくてもわかるでしょう」

 

 

 

認めざるを得ない状況だった。アタシは下唇を噛みしめる。

 

わかるよ。そこまで言われたら、わかっちゃうよ。

だけどどうして今なの。どうして今、その事実に気づいちゃったの。

 

気づくチャンスなんて、いくらでもあった。芹沢くんはアタシと一緒にいてくれたんだから気づくチャンスなんていくらでもあったのに!!

 

 

 

空港に着き次第アタシはおじさんにお礼を言って走り出した。友希那の案内に従って国際線の中を走り回る。

だけど芹沢くんの姿はどこにもない。

そして友希那が電光掲示板を見て、足を止めた。

その行動に、アタシはすべてを察した。

 

 

 

あぁ。間に合わなかった。

 

 

 

アタシ、今まで何してたんだろう。

芹沢くんと一緒にいられる時間は有限じゃない。

そんなこと、わかっていたくせに。

また、あの日常がやってくると思っていた。

また、芹沢くんの隣にいられると思っていた。

また、あの笑顔を近くで見られると思っていた。

 

 

全部、アタシの驕りだ。

絶対なんてもの、この世にはないのに。

 

大切なものは、いなくなってから大切だと気づく。

大切で悩みすぎていたからこそ、気づくことはあまりにも遅すぎた。

 

 

 

空港内で泣き続けるアタシ。

友希那は何も言わずに抱きしめてくれた。

 

 

 

 

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