アタシたちは高校を卒業後別々の大学に進んだ。大学に進んだ後もRoseliaは続いている。活動はあの頃から変わっていない。
曲を作って、練習をして、ライブをして。
相も変わらず充実した日々を送っている。
もちろん大変な時期はあった。特に大学一年生の頃はみんな新しい学校に、紗夜と燐子に関しては一人暮らしを始めたからそれに慣れるのに大変で、Roseliaの練習に参加できなくなることなんてしょっちゅうだった。
あまりにも集まれなくて活動を一時的に停止させていたこともあった。
当時応援してくれていたファンの悲しい顔は今でも鮮明に思い出せる。それでもアタシたちが活動を再開すればまた応援してくれた。その時に見た表情はみんな笑顔だった。それが何よりも嬉しくて、ステージに立った時の帰ってきた感覚は今でも忘れられない。
よく考えてみたら高校生の時のように衝突することはなくなっていた。
感情任せに発言することはない。全員が全員のことを尊重し、意見を出し合っていた。
みんながみんなの状況を把握して冷静に対処するだなんて、昔のアタシたちにはできなかったこと。みんな大人になったもんだと思った。結果、誰も文句を言わずにここまで来れた。
曲の数は増えた。演奏の技術も上がった。メンバーの仲も深まった。ファンの数も、あの頃とは比べ物にならない。だからこれは当然の運命だったのかもしれない。
アタシたちが大学三年生最後の日に開催した主催ライブ。そのライブがアタシたちがプロになるきっかけだった。
巷で話題になっていたアタシたち。主催ライブをやると知った音楽会社のプロデューサーがアタシたちのライブに足を運んでいたのだ。ライブが終わってから直々にスカウトされた。その日では何も答えられなかったから後日予定を合わせて会うことにした。
後日会ってきちんと五人で話を聞いた。その話に友希那は意外とよさそうな反応をしていた。あこは難しい話に頭を悩ませていたけど。
「少し考えさせてほしい」と友希那は言った。一週間後にまた会う約束を取り付けてその日の話は終いになった。
「皆、今日の話を聞いてどう思ったのかを教えてほしい。……とは言っても突然だもの。すぐに自分の意見がまとまるとは思っていないわ。
六日あげる。六日後のRoseliaの練習。その日に改めて問うわ。これからのRoseliaをどうしたいか。それまでに自分の意見をまとめておいてちょうだい」
みんなその言葉に頷いて、そしてその日は解散になった。
それからアタシたちはこれからのRoseliaを、これからのアタシたちを想像した。
授業を受けながら、友だちと遊びながら、Roseliaの練習に参加しながら、夜ベッドで横になりながら。この六日間はずっとRoseliaをどうしたいかを考えた。
そして、自分なりの答えをちゃんと見つけた。
Roseliaはアタシにとってかけがえのない居場所。だから迷いなんてなかった。
「意見は、まとまったかしら」
六日後、練習を始める前に行ったミーティングで友希那はみんなに問う。
「私から言うわね。
正直な話、最初このメンバーを集めた時は誰でもよかった。FWFに出られるのならどんなメンバーでも、どんな形でもよかった。それが昔の私だった。
だけどその考えは早々に変わったわ。今まで組んだバンドの中で貴方たちが一番良かった。演奏もだけど、人としても。関わりやすくて心地のいい空間。そんな場所は今までなかった。私は今の空間を壊したくはない。それにRoseliaはこれからも貴方たちでなければいけないと思っている。
だから私はどんな形であっても受け入れる覚悟はできているわ」
「私は、ここで大切なことを学んだわ。ギターだけしかないと思い込んでいた私に他の道を示してくれた。人間的に成長させてくれた。だからこそ一方的に遠ざけていた日菜とも今は仲良くなれた。貴方たちは私の力だというかもしれない。けれど私が日菜と向き合うことができたのは貴方たちと出会って変われたからだと思っているわ。だからこそ貴方たちには感謝以外の言葉が見つからない。そしてそれは口で伝えるだけでは足りないものだと思っている。
完璧な演奏で、私はそれを返していきたい。これまでもこれからも、私は貴方たちと共に歩んでいきたいわ」
「……ずっと、人前に出るのが苦手でした。……何をやるにも、一人じゃできなくて……誰かの役に立つなんて、できないと思っていました。…………人の視線が、怖かった。
……だけど、ここは違います。……私に居場所をくれた……私に勇気をくれた……私に、最高の音を奏でさせてくれた……他にもいろいろな経験をさせてくれた……皆さんは笑顔で私のことを受け入れてくれる、初めての居場所だったんです……。
だから私は……皆さんと、Roseliaと一緒なら……何も怖くないです」
「最初始めたのはさ、幼なじみとして友希那が心配だったから。関わってみたらみんな個性的で纏まりなくて。みんなはアタシのことを認めて『いてくれなきゃいけない人』って言ってくれたけど技術のないアタシがここにいていいのかなって正直不安だった。
だけど今は違うよ。みんなが認めてくれてるのはわかるしアタシもみんなを認めてる。これまでにないくらい最高で最強の五人が集まったって思ってる。
だからアタシは、その期待に全力で応えたいんだ」
「プロになることが今までの活動と比べてどれくらい変わるのか、あこにはわかりません。どれくらい忙しいのかも、何があるのかも、想像がつかない。
それでも!あこはみんなと一緒なら!超かっこいいRoseliaのみんなと一緒ならどんなことでもできちゃう気がします!
だからあこ、これからもずっとみんなと一緒にバンドができるならRoseliaに永久就職しちゃいますよ!!」
意見は三者三様、十人十色。だけど答えだけは全員が同じだった。
「これから大変になるわ。覚悟はできてる?」
「当たり前です」
「むしろ気合入りまくりだよね」
「わ、私は……実感わかないですけど……」
「大丈夫だよりんりん、あこもよくわかってないから」
こうしてRoseliaのプロ入りが決定した。正式にプロになったのはアタシたちが大学四年生、あこが大学二年生の年だった。
プロになりたての頃は、右も左もわからなくて苦戦だらけ。
雑誌のインタビューにCDのジャケット撮影、テレビやラジオの出演。何から何まで初めての経験だった。だけどその辺のことは業界的には先輩にあたるパスパレのメンバーに教えてもらうことでどうにかなっていた。
デビューしたての頃にパスパレとテレビに出れば紗夜と日菜が姉妹って話題で持ち切り。日菜は紗夜のことを話しすぎて怒られて。けど怒ってる紗夜もどこかまんざらでもなさそうだった。
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友希那は大物アーティストさんとの対談、紗夜は日菜と二人で弾き語り、あこはバラエティ番組に出て、燐子はオンラインゲームを取り上げた番組のゲストに呼ばれ、アタシはファッション誌にモデルとして参加させてもらった。
本当に楽しい日々を送っていた。
そうしているうちに彼と別れてから六年の月日が経っていた。
彼のことを忘れた日はない。ずっと頭の片隅にいて、会えないことが寂しくて。それでもアタシたちの活躍をどこかで見てくれていることを願って頑張ってきた。
そして今日はライブの日。プロになって三度目のワンマンライブ。日付は八月二十五日。偶然にもアタシの二十三回目の誕生日の日。バースデーライブと呼ばれる日だった。
ファンからのフラワースタンドにもアタシも祝う言葉は多くて、アタシは気合が入りまくっていた。
曲終わり観客席からは五色のペンライトが波を作る。その波を見るのがアタシは好きだった。
「いやー。三曲続けて聞いてもらったんだけどどうだった?」
「やっぱりライブって楽しいね!だってあこたちの演奏でみんなの笑顔が見られるんだもん!」
「……うん。そうだね」
上がる歓声はアタシたちを熱くしていく。
「Roseliaは今年で結成七年目なの。今でこそ仲がいいけれど今まで色々なことがあったわ」
「そうね。ぶつかり合うことなんてしょっちゅうで解散しそうにもなったわね」
「それでもアタシたちはここまでやって来られたもんね~」
「……はい……このメンバーでなければ、ここまで来られなかったと思います……」
MCでは次の曲へのフリとして今までの思い出を軽く語ることになっていた。友希那たちの言葉を受けてアタシは言葉を繋げていく。
「えへへっ。リサ姉がいてくれたからだね!」
「へ?」
突然のフリにアタシは思わず斜め後ろを振り返った。
あこはいつもの眩しい笑顔をアタシに向ける。燐子も、紗夜も、友希那も、優しい微笑みを向けていた。
「リサがいなければいい雰囲気で練習なんてできていなかったわ」
「貴方は私たちにとってかけがえのない人よ」
「リサがいい雰囲気を作る努力をしてくれていなければ今ここに私たちはいない。断言できるわ」
「そ、そんな大げさだって。突然どうしたの?」
あまりにもアタシのことを褒め称えるもんだから照れてしまう。
カウントを取るスティックの音。戸惑うアタシに答えるように聞こえて来たのはギターとキーボードのメロディーだった。それらが合わされば何度も聞いてきた音楽が完成する。
「ハッピーバースデートゥーユー」
友希那が歌い出す。続いてファンも友希那に続くように歌い出す。アタシの側に近づいて笑顔でバースデーソングを届けるメンバーに涙腺は崩壊していた。その涙腺にさらなる追い打ちをかけたのはスタッフさん。台車に大きなケーキを乗せてステージに向かってくる。
ライブ前にしてもらった化粧はボロボロ。あとでメイクさんに謝らなきゃ。
「リサ」
「「「「誕生日おめでとう」」」」
涙で前なんて見えなくて。口元を抑えたままみんなのことを見ていた。
「もう、泣きすぎよ。昔からサプライズに弱いんだから」
「だ、だってぇ~!これは泣いちゃうって!」
「ほらこれで涙は拭いてください。バースデーガールが泣いたままじゃ進まないわよ」
友希那と紗夜にそんなことを言われ涙をタオルで拭きながらステージの中央に移動する。
見たことないくらい長方形の大きなケーキ。その真ん中には「ハッピーバースデーリサ」と書かれていた。
「リサ姉おめでとう!」
「……良い一年にしてくださいね」
「あ~もう!みんな最高だよ!」
アタシはあこと燐子に抱きつく。背中を撫でられ泣くアタシに歓声は上がったままだった。
「リサ、せっかくなんだし今年の抱負でも言ったら?」
「えー抱負かぁ。突然言われても思いつかないな~」
頭を悩ませるアタシ。だけどすぐにピンっと来た。
「やっぱりRoseliaとしてこれから精進していくことでしょ~。それから色んな場所で色んな人と出会うこと!会いに行くこと!かな」
「それは抱負になっているのかしら?」
「ま、細かいことはいいんだよ。気にしたら負けだって」
「あいかわらずそういうところは適当ね」
アタシの言葉の中に彼と会いたいという気持ちが混ざっていること、みんなはわかったのかな。聞かないし聞く必要もないから言わないけどね。
アタシは、キミに会うためならRoseliaを続けるよ。そしてずっとキミを__。
「それじゃあ時間も迫っているのだから次の曲行くわよ。この曲はリサのことを思って書いたの私たちの陽だまりを貴方たちも感じてくれると嬉しいわ。
リサ、曲紹介一緒にやってもらえる?」
「もちろんだよ」
スタッフさんがケーキを片付ける。
アタシはタオルの代わりにベースを取った。準備は万端だ。
「それでは聞いてください」
「「陽だまりロードナイト」」
その真っ赤な景色は忘れられない宝物になった。
Roseliaの三度目のライブは大成功で幕を閉じた。
楽屋に戻ってそこでもスタッフさんに祝われて、けどその時は涙よりも笑顔を見せることができた。きっとステージが最高に楽しかったからだ。
衣装を着替えてケーキを食べてみんなから大量のプレゼントを貰って。忘れられない一日になったのは事実だった。
「ごめんね友希那。荷物持ってもらって」
「別にいいわよ。行き先は同じなんだから」
ライブ終わりは友希那と歩いて帰った。スタッフさんは送ると言っていたけど丁重に断った。歩いて帰れる距離だったし、ライブの余韻をまだ感じていたかった。
「それにしてもリサはやっぱり人気者ね。誕生日にあんなにプレゼントを貰うんだもの」
「あはは。嬉しいけど、さすがに持って帰るのが大変だよ……」
メンバーとスタッフさん、それからファンの子たちからのプレゼントは紙袋にまとめても五つはあって正直驚いた。
半分は友希那に持たせてしまっているしやはりスタッフさんに送ってもらうべきだったかもしれないと今更後悔する。
「……楽しかったわね今日のライブ」
「友希那がそんなこと言うなんて珍しいね」
「本音を言ったまでよ」
友希那からライブの後に楽しいという言葉を聞くのは初めてだった。いつもはもっとこうすればとか反省の言葉ばかりなのに。
アタシの誕生日だから、特別だからだろうか。それなら嬉しいんだけど。
「リサは?」
「え?アタシ?もちろん楽しかったよ!今までで一番、何よりも嬉しかったかも」
「そう。それならよかったわ。だけどこの後、もっと嬉しいことがあると思うわよ」
「え?」
意味深なことを言う友希那。イタズラな笑みを浮かべる幼なじみを見るのは初めてだった。
「え、どういうこと?」
「すぐにわかるわよ」
「なにそれ……っ!」
家に帰るために曲がった道。その先にはいつも通り家が見えた。アタシの家、その隣には友希那の家。だけど不思議なことに家の前には誰かが立っていた。いや、「誰か」なんて括ってしまうわけにはいかない。
「やあ。久しぶりだね」
「芹沢くん……」
ずっと待ち続けた彼は突然アタシの元に現れた。
「それじゃあリサ。私はもう行くわ。おやすみなさい」
友希那はアタシに荷物を渡して早々と家の中に入っていった。扉の閉まる音はこっちにも届いていた。
「ライブよかったよ」
「聞きに来てくれてたんだ」
「うん。こっちに戻ってきて、すぐに友希那から連絡が来たんだ」
「アタシにも行ってくれればいいのに」
「だってそんなこと言ったら今井さん、ライブに集中できないかもしれないから」
「集中くらいできるよ」
「あははっ。それなら会いに行けばよかったかな」
あの頃と変わらないやりとり。
久しぶりに見たキミは前よりも数段かっこよくなっていた。
イケメン、というよりも男前って感じ。
「今井さん、あの日手紙読んでくれた?」
「うん。読んだよ。何度も何度も」
「それは少し恥ずかしいな」
「あれ芹沢くんのラブレターだもんね」
「やめてよ。その言い方は恥ずかしすぎる」
「けど事実だよ」
「まあ、それはそうだ」
どちらにせよ、笑顔はあの頃のままで止まったはずの涙が溢れそうだった。
「ね、今井さん。手紙の答え聞いてもいいかな」
「……言わなくても、わかってるんじゃない?」
「僕は今井さんの言葉で聞きたいんだ」
「わかってるのに聞くのはタチ悪いよ?それに自分からは言ってくれないし」
「……やっぱり僕から言わないとダメかな」
「アタシはキミの口から聞きたいよ」
「今井さんに言われたら仕方ないね」
彼はすぐに真剣な目つきになる。あの頃と何も変わらない。
アタシはその瞳が好きで好きでたまらなかった。
「今井リサさん。僕は君のことが好きです。僕の恋人になってもらえませんか?」
その告白はあの日教室でされたのと似ていて、少しイタズラゴコロが湧いていた。
「それは、ニセモノの恋人?」
アタシはキミに問いかける。
キミは驚いた顔をして、クスッと笑った。
「ホンモノになってくれませんか?」
「もちろん」
荷物をその場に置いてアタシは彼の胸に飛び込んだ。
大きな身体は簡単にアタシのことを包み込む。
顔を上げればキミと目が合った。笑いかける。
「大好きだよ翔」
クシャッと笑うキミの表情はかわいくて、迫る顔に自然と瞼は落ちていく。
重なった唇はあの時のように事故ではない。キミが謝ってくることもなかった。
キミの腕が首に回る。唇が離れた時には首に冷たい金属の感覚があった。
「誕生日おめでとうリサ」
今年のプレゼントはネックレスみたい。どんな形かはアタシから見えない。だけどキミが選んでくれたのだから嬉しかった。
「ありがとう。今年は一日遅れだね」
「あはは……それは勘弁してよ」
「仕方ないなー。来年は当日に祝ってくれるんなら許してあげる」
「来年だけじゃなくてこれから先、おじいちゃんおばあちゃんになっても隣で祝ってあげるよ」
始まりはニセモノだった。
ニセモノが嫌になってホンモノになりたくて。
そのことで奮闘してきた日々。
それもこういう結末なら最初がニセモノでよかったのかもしれない。
ううん。これは始まりだ。
終わりなんてない、アタシと彼、二人だけの物語。
これからは今までの空白のページを埋めていこう。
これからは新たなページを埋めていこう。
きっと二人ならあっという間だ。
「翔」
「なぁに」
「すきー」
「僕は大好き」
「ならアタシは愛してる」
「なら結婚しちゃう?」
「気が早いな~」
「冗談だって」
「アタシは冗談じゃなくてもいいよ。ダーリン」
キミとならどこまでもいける。
どこまでだって羽ばたけるよ。
ホンモノになったアタシたちの物語が幕を開けた。
これにて「うそつきダーリン」は完結となります。
今まで翔とリサの物語を応援してくださりありがとうございました!
これからも彼らが幸せな人生を送れることを祈っています。
本当にありがとうございました。