Roseliaのスタジオ練習の日は基本火曜日と土曜日の週二回。Roseliaのスタジオ練が週二回しかないことを伝えれば大抵の人たちに驚かれていたがこれはRoselia結成一年目に決めたことだった。
理由としてはみんなの予定が思っていた以上に合わなかったことが挙げられる。友希那と燐子は基本どの日でも大丈夫みたいだったけど紗夜、あこ、アタシは部活やバイトがあって、時間が合うのがその日だけだったのだ。だけどこれは建前に近い。
主な理由はみんなの金銭面を考えた結果。バイトをしているアタシはまだしも他のみんなはお小遣いでどうにかしている部分があったから。さすがにお金は湧いて出てこないし、学生のアタシたちにとってはどうにでもきない問題だった。
無論、各自家で練習はきちんとしているしスタジオでやることと言えば全員で合わせることだけ。だから週二であっても問題はなかった。
もちろんステージが近くなればクオリティを上げるためにスタジオ練を増やすけど。
「みんな~おつかれ~」
「あ、リサ姉!友希那さん!お疲れ様です!」
「今井さん、湊さん、お疲れ様です」
「……おつかれ…さまです……」
「お疲れ様。全員集まってるわね」
スタジオ内に入れば見慣れた三人の姿。それぞれ担当の楽器を構えていて準備は満タンそう。アタシたちが来るまで練習していたのかうっすら汗をかいていた。
アタシと友希那も荷物を置いて友希那はマイクの調整を、アタシはベースのチューニングを合わせていく。
「今日って何から合わせるんだっけ?」
「今日は夏休み最初にあるライブの曲をセトリ通りにやる予定よ。だから『熱色スターマイン』からね」
「おっけ~」
七月十五日の祝日。アタシたちRoseliaはライブハウスでのライブが決まっていた。
色々なバンドが参加していて、参加者にはPoppin'PartyやAfterglowもいるからみんな気合が入っていた。
チューニングを終えたアタシは燐子の前、友希那の隣に並ぶ。目配せをして頷いた。
「それじゃあいくわよ」
友希那の言葉であこがカウントを取り、それを聞いてアタシたちも演奏を始めた。友希那がメインで歌い、アタシたちはコーラスを担当する。
友希那の決め台詞。それにテンションが上がっていく。
演奏が曲の疾走感とともに走りそうになるのを堪えながら丁寧に一音一音を奏でていった。
「はぁー。疲れたぁ……」
「……お疲れ様……あこちゃん……」
「あこおつかれ~大丈夫?」
「もうだめ……」
スタジオの外のカフェスペース。そこのテーブルに突っ伏すドラマーにアタシは買ってきたアイスココアを渡した。起き上がって飲んではいるがいつもの元気さが足りない。よほど疲れたんだろう。
「今日のあこ、頑張ってたもんね。えらいえらい」
「だって今度のライブはポピパとAfterglowが出るんだよ!あこすっごく楽しみなんだ!」
頭を撫でていれば段々元気が出て来たのかそんなことを言い出した。
あこ、Afterglowと何かできることが嬉しいんだろうな。巴いるし。他の四人とも仲いいから。
「今日練習終わったらクレープ食べに行こうよ。奢ってあげる」
「ほんと!?あこ頑張る!」
食べ物につられちゃうなんて、やっぱりあこは高校生になっても変わらない。
とってもかわいい後輩だ。
「燐子も一緒にどう?」
「…はい……ご一緒させて…ください……」
その回答にアタシは微笑んだ。
「よーし!それじゃあ残りの時間も頑張ろう!」
「うん!頑張る!」
「……はい……」
せっかくだから後で友希那と紗夜も誘ってみよう。丸くなったあの二人ならきっと来てくれるはずだから。
そんな思いを抱えながらアタシたちはスタジオ内へ足を運んだ。
スタジオ練が終わり、帰路に着いたアタシたち。いつもだったら分かれ道で二手に分かれているけど今日は分かれることなく進んでいく。
向かうのは駅前。美味しいクレープ屋さんができたことを知っていたアタシはそこにみんなを連れて行こうと思っていた。
「休憩明けの練習から宇田川さんの集中力が増したと思ったらまさかクレープ効果だとは……」
「あこもまだまだ子供ね」
「なんですかそれ!あこもう高校生ですよ!?」
紗夜と友希那の言いたいことがわからないわけじゃないからアタシと燐子は苦笑した。
うちのバンドの最年少は「不満です!」と言いたげに頬を膨らませている。そういうところなんだけどな~。かわいいからいいけど。
「あこは食べ物でつれちゃうからな~」
「そんなことないよ!」
「現状がそうなのによく否定できましたね」
紗夜からの手厳しい言葉にあこは言葉を詰まらせた。
「けどそういう紗夜は去年だったら考えられないくらいあっさり着いてきたよね~」
あこへの助け船を出すためににやにやしながらそう言えばあからさまに眉を顰められた。ため息を吐かれる。
「本当なら本番も近いのだからギターの練習をしたいわ。だけどこの一年で練習後の時間をメンバーに費やすことは無駄じゃないって知ったからそうしているだけよ」
「紗夜……」
「それに甘いものが食べたくなったんだから仕方ないじゃない」
それは紗夜なりのアタシたちと一緒にいたいという心の表れだろう。
不器用だけど紗夜がアタシたちに歩み寄ろうとしてくれているという行動の表れ。
それが嬉しくて、ついつい笑顔になってしまう。
一年前の紗夜に聞かせてあげたいくらいだ。
「リサ、そのクレープ屋さんというのはあとどれくらいで着くの?」
「そうだね~ここからなら五分もかからないと思うよ」
目的のクレープ屋さんまであと少し。混んでいないといいんだけど……。
そう思いふと周りを見渡した。
見覚えのある姿があった。何か年下であろう女の子と話しているよう。ただその姿は少しだけ困っているように見えた。
「今井さん!」
アタシの存在に気付いた彼はアタシの方にまっすぐ向かってくる。その表情は安心しているみたいだった。
「よかった。ちょうどいいタイミングにいて」
「どうしたの芹沢くん。何か話してたみたいだけど」
「実は、ちょっと大変なことになってて……今井さんが来てくれてよかったよ」
「芹沢先輩!その人誰ですか!?」
アタシたちの会話をぶった切って現れたのはさっき芹沢くんと話していた女の子だった。芹沢くんのことを先輩と呼んでる辺り後輩に間違いない。制服的にうちの学校の後輩だろう。後輩なのにアタシたちのことを知らないのは珍しいし、これは確かに大変だ。
「もしかして芹沢くん、また告白されたの?」
「う、うん。何回も断ってるんだけど納得してくれなくて……」
「なんて言って断ったの?」
「彼女がいる、って」
「写真見せてくださいって言って、持ってないって言われたら疑うに決まってるじゃないですか!」
あ、そう言えば水族館行った時に写真撮ったのに芹沢くんに送るの忘れてた。芹沢くんには悪いことしちゃったなーと反省する。
目配せをすればお願いと言われた気がしたからアタシはスマホをいじってその子に見せる。目を丸くした。
「な、なんですか……」
「これキミが見たがってた写真。よく撮れてるでしょ?」
「どういうことですか」
ありゃ、わからないんだ。写真見せればわかってくれると思ってたのに。
そう思っていると後ろから芹沢くんに抱きしめられた。首の前で腕を交差していて距離が近い。驚いた声が複数、アタシの耳に届いていた。
「この子が僕の彼女なんだ。僕がリサのことを好きってことに変わりはないから、僕のことは諦めてくれない?」
間違いはない。半分くらい間違っている。わからない。芹沢くんの本心がどこまでなのか。けど好きと言われて嫌な気分にはならなかった。突然の名前呼びに心臓がドキドキと音を立てていた。
相手に対する効果は抜群で、早々と逃げて行った。その後ろ姿を見て、芹沢くんは拘束していた腕を解いてくれる。
「ごめんね今井さん。急に抱きしめちゃって」
即座に謝られた。別に謝るようなことじゃないのに。彼は真面目だ。
「いいって。あいかわらずモテモテだね」
「気持ちは嬉しいけど断る身にもなってほしいよ……」
アタシが笑えば芹沢くんはわかりやすく肩を落とした。モテるってのも大変なんだと察する。特に芹沢くんは心優しいから告白を断るのにも苦労していそうだ。
「……あの、今井さん。色々説明してもらってもいいですか?」
「へ?」
名前を呼ばれて振り返る。
驚き、呆れ、赤面、どぎまぎ。それぞれが違う表情をしていてアタシは苦笑いを零した。