うそつきダーリン   作:茜崎良衣菜

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紅の鼓動

 

 

 

Roseliaのメンバーにアタシたちの関係を話してからちょうど一週間が経った。アタシたちの関係を最初は不審に思っていた紗夜だけど芹沢くんと話してみて彼が悪い人ではないことをわかってくれたみたいだった。あこに関してはめちゃくちゃなついていた。友希那と燐子はあまり不安そうにしていなかったし大丈夫だろう。

 

 

この普通じゃありえない関係を認められている不思議な空間。みんなアタシたちなら心配ないと思ってくれて安心だ。

そんな彼との関係は始まったばかり。

 

 

 

「入ってよ芹沢くん」

 

「う、うん。お邪魔させてもらうね」

 

 

 

今日もまた、初めての経験をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりはつい昨日。芹沢くんと一緒に帰っている時だった。

 

 

 

「今井さんって普段何してるの?」

 

「普段?」

 

「バンド練習がない日、学校から帰って何してるのかなーって」

 

 

 

突然の芹沢くんからの問いにアタシは頭を悩ませた。

何って言われてもいつも決まって何かやっていることがあるわけではない。そりゃあ宿題だとかはやるけど、特別なことは何もない気がする。もちろんベースの練習はするけどきっと求められている答えはそれではないだろう。

 

 

 

「んー……」

 

「そんな深く考えなくてもいいんだけど……」

 

 

 

後頭部を掻きながら考えているアタシに芹沢くんは苦笑していた。

じゃあ趣味とかある?と返答しやすい問いに変えてくれる。

 

 

 

「趣味かぁ……」

 

「何かあったりする?」

 

「ん~。ベースもそうなんだけど、お菓子作りはよくしてるかな」

 

「お菓子作り?」

 

「そう」

 

「何作るの?」

 

「クッキーが多いかな。簡単だし、友希那にあげると喜んでくれるから」

 

「そうなんだ」

 

 

 

ちなみに友希那が一番好きなのははちみつ入りのクッキーだ。それを持って行けばいつだって美味しそうに食べてくれる。それが嬉しくて、友希那の笑顔が見たくてアタシは何度もはちみつ入りクッキーを作ってきたのだ。色々試行錯誤して、友希那が好きなはちみつの割合を見つけ出した。

 

 

そう話せば芹沢くんは優しい笑みをアタシに向けていた。

 

 

 

「どうかしたの?」

 

「ううん。改めて今井さんって湊さんのことが大好きなんだなーって」

 

 

 

その意見にはアタシも頷いた。

 

今までアタシが行動してきたことは全部、友希那が笑顔になれるように計らった結果だ。

友希那のお父さんのバンドが解散して、音楽を己の力の証明に使おうとしていた。楽しいだとかそういう感情を置き去りにして技術だけを磨いて、自分の歌を好きになれなかった友希那。そんな友希那の隣にずっといたのにアタシは何もできずにいた。

それを変えたのは間違いなくRoselia。紗夜と燐子とあこ。音楽に縋り付いていた友希那にバンドで奏でる音楽の楽しさを教えてくれた。友希那のことを諦めず、待ってくれた。このメンバーで頂点を取りたいと願ってくれた。感謝しかない。

アタシ一人では絶対にこうはならなかった。今のメンバーだから、アタシたちは今もこうして活動できているのだと思う。

 

アタシがやってきたことは無駄ではないと知った。アタシがみんなと親睦を深めるためにと持って行ったクッキー。それは始まりだった。

いつの間にかみんなのまとめ役になっていたアタシ。普段なら紗夜がどうにかしてくれるようなことでもアタシを頼ってくれるようになった。

 

アタシは必要とされている。その事実が嬉しくて。

 

日々の努力の結晶。昔のアタシのおかげで今、アタシは友希那の隣にいられる。

ただ純粋に嬉しくて。技術もまだまだなアタシをRoseliaにいさせてくれる。その事実がアタシの心を動かして、そして今もみんなのためにできることを探している。

 

 

 

「友希那もそうだけど、Roseliaが好きなんだ」

 

「うん。伝わってくるよ。幸せそうな顔してる」

 

 

 

緩む頬は隠し切れなくてすぐにバレてしまう。それでいい気がした。

 

 

 

「そう言えば僕、今井さんのベースの演奏ってあんまり見たことないんだよね」

 

「あれ、そうなの?」

 

「うん。ライブに行く機会もなくて全然見たことないんだ」

 

 

 

けどまあ同級生でライブハウスに通ってたりする子は多くないから仕方ない。むしろ知ってくれているだけで感謝ってくらいだし。

というかそれはアタシのベース演奏が見たいって意思表示ってことでいいんだろうか。そう言うことだろうか。

 

 

 

「芹沢くんはアタシの演奏見たい?」

 

「うん。できれば見たいかな」

 

「この後時間ある?」

 

「え?あるけど……」

 

 

 

困惑顔の芹沢くん。その手を引く。

 

 

 

「ならうちに来てよ」

 

「……へ?」

 

 

 

見たことない驚いた表情にアタシは笑いかけた。

 

そんな芹沢くんを引っ張ってアタシは家への帰路を歩く。歩いていたのは家の近くだったからすぐに着いた。

 

 

 

「ここがアタシの家なんだ~」

 

「そ、そうなんだね……」

 

 

 

芹沢くんから手を離してカバンから鍵を取り出し鍵穴に差して回す。扉を開いて芹沢くんを連れ込む。防犯のために鍵を掛けた。

 

 

 

「芹沢くん。先に部屋に行ってもらってもいいかな。階段上がってすぐの部屋だから」

 

「わ、わかった」

 

 

 

アタシは芹沢くんに持っていたカバンを手渡してリビングに向かった。

冷蔵庫から作り置きしている麦茶を取り出して二つのコップに注ぐ。棚からお菓子を出してコップと共にお盆の上に置いた。

テーブルの上にはお母さんからの置き手紙。内容は夜遅くまで帰って来れないから自分で夕飯を作って食べてほしいというもの。お父さんは昨日から出張で地方に行っているから今日は家に一人で間違いなさそうだ。

今は芹沢くんがいるからいいけど、あとで友希那と話でもしようかな。

 

階段を上がって部屋の扉を開く。

何故かカバンを持ったまま座りもせずそわそわしている芹沢くんがいた。

 

 

 

「あ、い、まいさん、おかえり」

 

「うん。えっと……?なんで立ってるの?」

 

「いや、別になんでも」

 

「そう?あ、カバンありがとう。芹沢くんも好きなところに置いてていいからね」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 

アタシがローテーブルの上にお盆を置き座れば同じタイミングで芹沢くんも座った。部屋中をきょろきょろと見回していて落ち着かない様子だった。

そんなことされるとアタシも落ち着かない。

 

 

 

「せ、芹沢くん。あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだけど……」

 

「ご、ごめん!……女の子の部屋に入ったの初めてで……」

 

 

 

緊張しちゃって。という芹沢くんは恥ずかしさと苦笑いが混ざったような表情をアタシに向けた。そんな顔するんだ、と驚く。

麦茶とお菓子の入った入れ物を差し出せばお礼の言葉が返ってきた。

 

 

 

「芹沢くんって彼女いたことないの?」

 

「うん。今井さんに頼んだのが初めてだよ」

 

「いやいや。これは数に入れていいの?」

 

「いいんじゃないかな。一応形式的には付き合ってるんだし?」

 

 

 

にしても芹沢くんに彼女がいたことないなんて。よく告白されてるからいるもんだとばかり思っていた。

 

 

 

「あの日聞きそびれてたんだけど今井さんは今好きな人とかいないの?」

 

「それ、いるって言ったらどうするのさ」

 

「……他の子に頼む?」

 

「多分そんなことしてくれる子、いないと思うよ?」

 

「だよね……」

 

 

 

芹沢くんのことを好きでもない子がそんな話を受けても困惑するだけだということは目に見えている。芹沢くんを好きな子たちなら喜んで、って感じだろうけど三か月だけの短期間の間だけ付き合ってほしいって言う願いを聞き入れてくれる保証はない。それにそれが仮に受理された時、その話が出回って芹沢くんに変な噂が立つのは困るだろう。

アタシはカレシも好きな人もいない。あくまでも芹沢くんへのお礼として付き合っているだけに過ぎないのだ。

 

 

 

「そもそもアタシは好きな人がいたらこの話断ってるからね?」

 

「まあ、それもそうだよね」

 

 

 

好きな人にアプローチをしつつ芹沢くんの恋人のフリをするなんてむちゃぶりにもほどがある。それができちゃう器用な子はいるんだろうけど少なくともアタシには無理な話だった。

 

 

 

「ていうか、そういう話しに来たんじゃないじゃん。アタシのベースの演奏、聞きに来たんでしょ?」

 

「うん。早速だけど聞かせてもらってもいい?」

 

 

 

了承の言葉を返しアタシはケースに入れていた深紅のベースを取り出す。床に座りながらだと弾きにくいからベッドに腰掛けチューニングを始めた。ちょうど芹沢くんの頭がベース本体と並ぶ。

 

 

 

「そ、そこで弾くの?」

 

「近くの方が音も聞こえるから。いいでしょ?」

 

 

 

いくらアンプに繋ぐからと言って遠くにいく必要はない。それほど広くはない室内なのだから隣にいるのも離れるのも大差ないだろう。なら近くで見せた方がいいと言うものだ。

 

 

 

「まあ見ててよ。こんな近くで演奏を見せるのはバンド仲間以外だと初めてなんだから」

 

 

 

イタズラっ子のように口角を上げるアタシはベースを奏でる。

ベースの音と激しく高鳴る心臓の音が響いていた。

 

 

 

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