うそつきダーリン   作:茜崎良衣菜

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イタズラ笑顔

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

「らっしゃっせ~」

 

 

 

店の開閉音が店内に響き渡ったのをきっかけにアタシは慣れた口調で挨拶をする。一緒の時間帯で働いている隣の後輩はまた謎めいたチャレンジをしているらしくテンプレートの挨拶をだいぶ崩していた。店内にかかるBGMを背にレジに並ぶお客さんの接客をする。

アタシの働いているこのコンビニはうちの学校から近いから夕方から羽丘の制服を着た人の数が各段に増える。顔見知りもよく利用するから勤務中に少し話すことも多々あった。

今年は夏前から外は暑くて、空調設備の整った快適な空間はとても働きやすい。

 

 

 

「リサさ~ん。最近Roseliaはどんな感じですか~?」

 

「んー?いい感じだよ。みんな今度のライブに向けて気合入ってるからさ」

 

「おおー!奇遇ですね。Afterglowも蘭なんて特に燃えてますよ~」

 

「あははっ。ほんと?」

 

「はいー。やっぱり湊さんがいるからですかね~?」

 

 

 

蘭ってなんだかんだで本当に友希那のことが好きだなーと思う。

RoseliaとAfterglowの対バンがあって、お互いに高め合って成長して、今ではいいライバルになれたはずだ。そりゃあ未だに勘違いして友希那と蘭がケンカしているところ、というか蘭が友希那に突っかかっているところをよく見るけどそれはあくまでも友希那のことを尊敬し認めているからだろう。友希那が嫌な顔せずに今も仲良くできているのはそういうことだ。アタシたちもAfterglowのみんなも遠目から見て微笑んでいるくらいだし。

 

 

 

「今回は久しぶりの五バンド合同開催だもん。アタシだってテンション上がるよ」

 

「パスパレ、今めちゃくちゃ売れてるのによくスケジュール合わせられましたね~」

 

 

 

確か学校で昼休みに日菜から聞いた話では、彩が香澄からライブ参加のお誘いを貰ったらしくて、それを千聖に相談して、その話を聞いた日菜が紗夜が出るし楽しそうだから参加したいって言いだして、だけど仕事の都合が……って言ってた千聖に阻まれて、だけどイヴや珍しく麻弥がノリノリだったことに折れて事務所に相談してくれたそう。

千聖も昔のままだったら絶対に出なかっただろうに。いい感じに軟化したみたいだ。

それを伝えればモカは納得したように頷いた。

 

 

 

「千聖先輩、意外と簡単に折れたんですね」

 

「パスパレも色々あったから成長したってことじゃない?」

 

 

 

自分の考えだけが正しいと信じすぎてはいけない。他のメンバーを信頼して、時には背中を任せる。それができる関係性は少なくて頻繁に出会えるものではない。だから出会えて、成長できたのは良いことだ。

てかまあ、なんだかんだ甘いよね千聖って。

 

 

 

「というか、パスパレ出るのに今回のライブハウスでいいんですかね。キャパ足りますか?」

 

「普通に足りないと思うよ。パスパレのファンが圧倒的に多いだろうし。けどそれはどうにかなるんじゃない?」

 

「まあファンの数で言えばRoseliaも結構いますからね~」

 

「それはAfterglowもでしょ?」

 

「否定はしませーん」

 

 

 

バンドを結成して一年近く経って、色々なところでライブをしているだけにファンも増えてきた。ライブの度に顔を見る子もいて嬉しい限りだ。

 

 

 

「そもそもRoselia、Afterglow、Poppin'Party、ハロー・ハッピーワールド、Pastel*Palettesの五バンドが揃ってライブをすること自体が恒例になりつつあるもんね」

 

 

 

昔CIRCLEでやった合同ライブが大成功してからというもの、定期的にこのメンバーでライブをやるようになったのは事実。パスパレは仕事の関係上参加できないこともあったけど、それでも出られる時は出てもらっていた。だからこそこの五バンドの演奏を見るために集まるファンも少なくない。チケットに関しては完売間違いないだろう。本来はもっと大きなライブハウスの方が良かったのだろうけどこれはライブハウスの予約の問題もあるし仕方がない。

 

 

 

「今回のセトリってどうなるんですかねー」

 

「いつも通りバンド単位で演奏して、最後に全体曲じゃない?」

 

「ということは今回も順番くじやるんですね~」

 

「それも恒例だからね」

 

 

 

前回はハロハピで始まってポピパで終わった。今回はどうなるのか来週の全体練習で決まる。それによって多少曲順の変化もあるんだしそれも含めて楽しみだ。

 

 

コンビニの自動ドアの開閉音。それに向かって挨拶をすればそこにいたのは最近見慣れた影。

 

 

 

「いらっしゃいませ~……って芹沢くん」

 

「やあ今井さん」

 

 

 

店に現れた芹沢くんはアタシに軽く手を振る。それを振り返せば芹沢くんは微笑んで店内を回り始めた。隣のモカが「ほほぅ」と企んだような声を出した。

 

 

 

「どうしたのモカ?」

 

「今のは芹沢先輩じゃないですか~。リサさん仲良しなんですか~?」

 

「え?まあ仲はいい方だと思うけど、モカ、芹沢くんのこと知ってるの?」

 

「そりゃあ知ってますよ~。芹沢先輩と言えば学年問わずファンの多い人じゃないですか~」

 

 

 

ファンクラブもあってうちのクラスの子がよく話してますよ?なんてモカは言う。正直ファンクラブなるものがあること自体初めて知った。芹沢くんどんだけ人気者なの。学年問わずなのはなんとなく察してたけど何したらそこまで認知されるわけ?

疑問は募るばかり。

 

 

 

「芹沢先輩と親しくしてる子がいるって言ったらクラスの子も気が気じゃなくなるんじゃないですかね」

 

「そ、そんなに?というか芹沢くんと親しくしてる人なんてたくさんいると思うんだけど……」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。何かやる時も率先して手伝ってくれるしむしろ親しくしてない子の方が少ないじゃないかな」

 

 

 

いくらモテていても人がいいから男子生徒であっても彼を嫌いだと言う人を見たことがないのが現実だ。

正直、ここまで完璧だと逆に怖いくらいだけど。

 

 

 

「……タラシなんですか?」

 

「モカ、言い方には気を付けた方がいいと思う」

 

「さーせ~ん」

 

 

 

多分その言葉は一番彼に似合わないものだろう。

……前半に天然という文字がつけば話は別かもしれないけど。

 

 

 

「けどリサさんはずいぶん仲良さそうでしたね」

 

「まあ同じクラスだからね。席も近いからよく話すし」

 

「あとは僕がRoseliaの演奏が好きだからだね」

 

「うわぁ!芹沢くん!?」

 

 

 

アタシたちのやりとりの間に割り込んできたのは芹沢くんだった。突然の登場にバイト中だということも忘れ驚いてしまう。隣のモカは「失礼しました~」と謝罪の声を上げていた。

 

 

 

「……ひどくない?」

 

「ご、ごめん。急に出て来たからびっくりして……」

 

「僕以外のお客さんにはやっちゃダメだよ」

 

 

 

苦笑い気味の彼にアタシは謝る。それを気にしていないのか彼は持っていたカゴを置いて「お会計お願いします」と言う。アタシは慌てて商品をレジに通していく。

 

 

 

「そうだ今井さん。今日のバイトって何時までなの?」

 

「へ?あーあと十分くらいで終わるよ?」

 

「そっか。なら一緒に帰らない?少しずつ日が落ちる時間が長くなってるとは言っても危ないし家まで送っていくよ」

 

 

 

芹沢くんはニコッと笑顔を見せる。確かにありがたい話ではあったけどさすがに恋人役というだけでそこまでさせるのは気が引けてしまう。

 

 

 

「いや、いいって。だってそれじゃあ芹沢くんの帰りが遅くなっちゃうし」

 

「僕が好きでやってる事なんだから気にしなくていいのに」

 

「そんなこと言われてもアタシは気にしちゃうの」

 

「じゃあさ……」

 

 

 

遠慮するアタシに対して芹沢くんはこちら側に身を乗り出した。アタシの耳元に初めて見るイタズラな笑みを向けながら近づいて、こそこそと秘密の話をするように口元に手を添えて言葉を発した。

 

 

 

 

「彼氏からのお願いってことにしといてよ」

 

「ぇ……」

 

「大好きなリサに、かっこいいところ見せたいんだ」

 

 

 

そう言って芹沢くんは離れる。やけに満足げな表情。

ズルいと思った。

 

 

 

「ダメ、かな?」

 

 

 

そう思っていた矢先打って変わって、少し困ったような表情で首を傾げていた。

本当にズルい。そんな表情でその言葉言われたらアタシは拒めないじゃん。

 

おそらく真っ赤になっているであろう顔をアタシは縦に振る。「よかった」なんて言って優しく笑う彼。

ころころ表情を変えて、人の心を左右して、だけどそれを悪くないと思ってしまっているアタシはきっと今の関係が好きなのかもしれない。

ただ一つだけ、撤回させてほしい。

 

 

 

「それじゃあ今井さん。僕は外で待ってるね」

 

 

 

芹沢くんは絶対タラシだ。

 

 

 

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