視界を覆う吹雪が晴れる。ようやく顔を出した太陽は、積もったばかりの雪をキラキラと照らしていた。
凌ぐために隠れていた岩陰から装甲に積もりかけた雪を払って僕は立ち上がる。
『やっと晴れたかな……?』
《突然でしたね…よくあることとはいえ災難でした》
『たまたま運が悪かったんだよ。ブリギッタ、おかしな反応はないかい?』
《付近のダーカー因子やフォトン係数の異常はありません。至って正常値です》
『そう。ならいいや』
オペレーターと緩い会話をしながら軽く助走をつけて脚部バーニアを噴かした。新雪の上を滑るように移動しながら目当てのものを探す。
惑星ナベリウス 凍土エリア。
普段白い毛皮の原生生物たちか【巨躯】の影響下にある海洋ダーカーが氷雪に紛れてちらほらといる以外、何も反応が無いはずの場所に「いきなり空間が少し裂けて何かが出現した」。
時空をとびこえて出現する存在はまぁそれなりに見てきたし戦ったりもしたけれど、そういうモノは大なり小なり周囲のフォトンへ影響を及ぼすものだった。
『にしてもこんな所で空間異常と生体反応かぁ…ねぇ、これが新しい服や武器を持ったニャウかラッピーだったら面白いと思わないかい?』
《超時空エネミーの可能性は検討しましたが、それならそれで周囲のフォトンへ影響が出るはずです》
『でもそれもナシ。……ねぇこれ僕が行く必要あった?』
《……………手が空いているのはあなただけでした》
『うわぁほんとに運が悪い』
雪に隠れた岩に脚を取られないよう移動しながら走査する。
と、その時だった。
《っ!止まってください!生命反応です!》
え、と強めにバーニアを噴かして急停止する。巻き上げられた雪とバーニアの熱で溶け生じた水滴が舞い上がった。
見回すまでもなく、雪が巻き上げられて露出した目の前の地面に黒い羽の塊のようなものが覗いている。
危ない。もう少しで轢くところだった。
『……鳥?』
《いえ、反応からして人型生命体のようです……ですが》
『うん、アークスじゃないんだろ?』
依然としてフォトンの反応やアークスや非戦闘員ですらあって然るべき識別反応はナシ。原生生物にしたってこの地域にこんな鳥の羽が生えた人型生物なんて居やしない。
使い慣れた短杖を構える。炎…は溶けた水でべちゃべちゃになるか。
『よっ』
中空へ放った渦巻くフォトンが緑色の閃光を放ちながら竜巻に変わる。本当なら内側へ閉じこめた敵へ攻撃を加えるものだけれど、手加減したそれは周囲の雪をごっそり空へ持って行って辺りへ散らす。
よし、上手くいった。
雪の下から出てきたものを見る。
うつ伏せに倒れたそれは褪せた空色の髪の毛を持っていた。鳥の羽を模したらしい外套から金属製の篭手とよく分からない素材のグリーブに包まれた手足が見える。
髪の隙間から見える肌は、青ざめたように白い。
『……ねぇブリギッタ。一体いつからナベリウスは人間が雪の下に住むようになったんだい?』
《メディカルセンターへ連絡します》
おぉ管制よ、ジョークをスルーとはなにごとだ。
『ひどいや。少しぐらいノってくれたっていいじゃないか』
《ふざけている場合ではありませんから》
つれないなぁ。軽口を叩きながら倒れたままのそれに近づいて簡単に検める。
男。成人男性だ。
背は高い。180cmはあるか。
随分と時代がかった服装や装具類を身につけている。
体温は低いものの呼吸はある。
頬を軽く叩いたり声をかけるけれど反応はなし。
よし。
『どうせワクワクして待ってるだろうし情報室にも連絡入れてといて。……あぁ、もしもしシエラ?』
《はいはーい!どうかしましたかルナールさん?私今データ整理でちょーっと忙しいって出発前に伝えたはずですけど……》
『緊急事態だよ』
そう言いながら僕はテレパイプを投げる。転がっていた彼を抱えあげて、できたばかりのキャンプシップへのワープポイントへ足を踏み出した。
『ナベリウスの凍土で行き倒れだ。それもアークスじゃない、一般人のね』
血のような、嗅いだことの無い香りが嗅覚センサーを掠めた。