皆様方の評価、コメント、大変嬉しく思っております。
此度の話は、何度も加筆修正を行った上に恐らく三分の一程度は書き直しております。
が、何度も読み返しても無理矢理感や違和感が拭えなく・・・なんとか楽しく見ていただけるでしょうか?程度には調整を終わらせたものでございます。
ぶっちゃけ言います。超難産でした。
そして、文字数が初回に+3000文字・・・1万弱程です。
参考【ハンニバル将軍 カンナエの戦い】
道三軍の本陣
未だに動きを見せない義龍軍を正面に見据えながら、皆光は道三と共に本陣に腰を据える。
「して、坊主。この状況、どう乗り越える?」
信奈は人選を間違ってはいないかと、道三は頭を抱えた。
何せ、撤退かと思い腰を上げた道三に対して、皆光はニッコリと正面からぶつかります、とのたまったのだ。
流石の道三も、正面切って戦っては勝算はないと皆光へ訴えたのだが、頑なに首を縦に振らない皆光に、やはり己の死に場所はここであったかと悟りを開きそうになった。
「既に各将に、陣形は伝えておりますよ。それと、道三殿の美濃兵、全てお借りしますね」
とは言え、わずか五百余り、援軍の織田軍と合わせても、千七百。
対する義龍軍は、先の先鋒を撃ち破ったとしても、本隊一万が残っている。
その戦力差、五倍をゆうに超える敵軍と正面からぶつかると言う皆光に、先程まで似たような状況で義龍軍に完膚無きまでに叩きのめされた美濃兵も、渋々と言った表情だ。
それぞれ隊を率いる将達が、兵の配置完了を伝えに本陣へと入ってきた。
「配置は完了したが、本当にやるのか?」
勝家を筆頭に、奏順、治宗、右衛門、定治が陣に入ってくる。
勝家以外のほか四人は、信じて疑わずといった表情で早々に完了を伝え、出て行ってしまったが勝家だけは流石の数の差に心配そうに皆光に問いかける。
「えぇ、ただし勝家殿。絶対に攻めてはなりませんよ?少しずつ、少しずつ中央陣のみ後退しながら、自分の身を守る事だけを考えてください。兵達にも、その事を伝えてください」
勝家が未だ不安げな表情をしながらも、陣から出ていく。
「義龍は、ワシが自ら軍略を手解きをしておる。我が息子ながら、そう容易いことではないぞ」
「心配であれば、少し陣を覗いて見ましょうか」
そう言って、道三を促し、渋々と言った表情で道三が皆光の後に続く。
道三は本陣を出て、目を見開いた。
所々で、異様な配置をされただけのただの横陣だったのだ。
一万の兵に包囲されぬように、やたらと横に長く、陣自体も細い。
本陣を出て直ぐに兵の間から義龍軍が見えるくらいに薄い・・・。これでは、味方陣中央を抜いた時点で、本陣へと敵兵が雪崩込む。
美濃兵と合わせ、総勢千の槍兵がズラっと並んでいる。
先頭は柴田勝家。
皆、不安げな表情をしている事から、この戦がいかに無謀な事かが分かるだろう。
そして、その槍兵の背後にいかつい男達川並衆、数は百余り、全員が弓を手に持っている。
そして、両翼に槍兵よりも遠く引くような形で百五十の騎兵が陣取っており騎兵の後ろに槍兵がさらに百五十、先頭に奏順と定治が馬に乗って待機している。
鉄砲隊は、両翼に槍兵よりも前に、それぞれ右衛門、治宗が指揮をする。
いくらなんでも、義龍軍とこの横陣でぶつかれば一瞬で瓦解することも考えられる。
それだけの兵力の差がある。
道三は、再三、皆光へと陣をとき全力で撤退すべきと説いた。
が、それでも皆光は首を縦に振らない。
そこで流石の道三も本陣の外である事を忘れて、怒鳴り散らす。
「現実を見ろ小僧!これは既に負ける戦じゃ!何故撤退をせぬ!」
皆光は、静かに口を開いた。
「撤退をしたとして・・・はて、いくら兵が残りましょうか?
今この場で撤退したとして、あなたの首を欲する義龍が、そのまま尾張へ進行してこないとどうして言えましょう?
今川が上洛の機を狙っている以上、この場で最低でも義龍の道三殿を追う気概だけでも折る必要がございます。
私が想定する最悪の状態は、姫様、義龍、今川が、尾張国内で衝突することです。
そうなれば、尾張は荒廃し、例え勝てたとしても、その結果立て直すこともできず、二度目の進行で国主である姫様は勿論、織田家は滅亡するでしょう。
例え、国境で義龍軍を抑えたとしても今川に背後を突かれれば、同じ道を辿ることになる。
私が頑なに義龍と戦うと言っているのは、尾張に十全な守りをしいた上で、姫様が今川を牽制し、最低限の兵力で私が義龍を破り追われることなく尾張に戻る。
それが出来なければ、姫様が危ないからですよ」
道三は、そう言った皆光の目と同じ目をした者を知っていた。
未来を見据えている目、正徳寺にて道三に夢を語った時の信奈と皆光は同じ目をしていた。
そして、皆光の言うことが最善手であることを道三は悟った。
だが、所詮は最善手、むしろ理想だ・・・それを実現出来る者が果たしているのだろうか。
「ここで戦わなければ、勝たねば・・・尾張は滅びる!
確かにあなたの首と、自国とでは、姫様に自国をとって頂きたかった!
だが、姫様はあろう事が全軍美濃へと号令をかける手前だったのですぞ!」
道三は絶句してしまった。
まさか信奈殿がそのような事を・・・と。
長良川の戦いと、桶狭間の戦いが同時期に起こると言うことへの最悪の懸念を皆光は道三へ告げた。
「私は・・・あなたのせいで姫様がおられる尾張が滅ぼされるのはごめんです。
ですが、道三殿を心から愛しておられる姫様に、見捨てよと進言することが出来なかったのは私の不始末。
ならばその不始末、私が片付ける」
そして、本陣の外であったが為に、何事かと聞き耳を立てていた織田の将兵は、まさか自分達の双肩に、尾張の未来が乗っている事を意図せず知ってしまった。
戦が始まればおりを見て敗走してもいいだろうかと考えていた兵達は、先程まで無能な若造と思っていた皆光への認識を改め、自分達の大将として認めた。
「まさかそのような事まで・・・流石は、尾張一の知恵ものじゃの・・・そこまで先を見据えておるとは・・・この道三、未だにお主をはかれなんだか」
そう言った道三の瞳には、強い決意が宿っていた。
「それを聞いてなおも、撤退せよとは言わぬ。何としてもこの場、乗り越えるぞい」
「勿論。そのために私はここにいますから」
わしらもいるみゃあ!
流石は親分の大将だ!男気が溢れてやがる!
何としても、道三様と皆光殿を尾張へ送り届けてみせます!
そう言って、勝手に沸き立つ兵達に、先程までのお通夜みたいな雰囲気は何処へ?と皆光は激しく疑問に思ったが、ここが本陣でないのに気付き、静かに苦笑するのであった。
「やっぱり皆光は姫さまが大好きなんだな!あたしもだよ!」
そう言って自慢の怪力で肩を叩いてくる勝家に皆光はゲンナリする。
「ふふふ・・・流石は拙者が認めた男。拙者の目に狂いはなかっちゃでごじゃる」
でた!舌足らず!
親分が噛んだ!
堪らねぇぜ!
と五右衛門が噛んだ事で勝手に沸き立つ川並衆。
「全く・・・戦の前だと言うのに・・・」
ありがとうございます。
幸運な事に、勝ちを諦めかけていた織田、道三軍の士気は格段に上がっていた。
もはや負ける事なんて、見えないと言ったように、皆が笑い合い、励まし合う。
【そして・・・霧が晴れた】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
合図は義龍軍の鬨の声だった。
一斉に進軍を始める義龍軍に一切の乱れは見られない。
今度は義龍自らが軍を率いているようだった。
織田、道三軍に緊張が走る。
流石に、緊張した様子の皆光を道三は叱責する。
「しっかりせい。お主の決めた道じゃろう」
すると、一瞬キョトンと道三を見つめる皆光だったが、直ぐにその顔に笑みが籠る。
「おやおや。私が姫武将だったら思わず惚れてしまうところでしたよ」
「ふん、抜かせ」
皆光はおどけるが、道三に冷たく返されてしまい肩をすくめる。
「勝算はあるのか?」
「さぁ?義龍が最後の兵が倒れるまで戦うというのなら、別ですが・・・後は義龍本人が前線に出てきてくれればなお良しですが・・・まぁ期待薄ですかね?」
「義龍に限って、それはなかろう。だがある程度持ちこたえれば、義龍が前線に出てくることは十分ありえるじゃろう」
「そうですか・・・ならば、十分。では先手は頂きましょうか」
本陣を出て、戦場を油断なく見据える皆光。
道三も、それに着いていき、義龍軍を見据える。
そして、まずは射程距離内に入った義龍軍に対して、両翼の鉄砲隊が、銃撃を浴びせる。
そして、道三は気づいた。
種子島を撃った鉄砲隊が、下がり、次の鉄砲隊が前に出る。
【長篠の三段撃ち】
史実ではそんなものはなかったと言われているが、今は実際にそれと同じ状況を作れば再現出来る。
それをそれぞれ、右衛門、治宗に策として授け、指揮を任せたのだ。
「なんと・・・」
道三は驚きで口が塞がらない。
次々と放たれる銃弾は、密集している義龍軍に次々と当たり、兵が倒れて行く。
流石に種子島が連続で飛んでくることを想定してなかったのか、歩みが鈍くなって行くが、今度は撃たれる前に肉薄するつもりなのか、一斉に駆け出す義龍軍。
ギリギリまで撃っていた鉄砲隊が下がり、遂に両軍が激突する。
しかし、攻める必要はないと既に伝えてあった織田軍は、槍を目一杯突き出し、ハリネズミの様に防御を重ねる。
前衛兵の間から後衛の兵達の槍が伸ばされ、まさにハリネズミと化していた。
流石の義龍軍も、勢いが落ち、槍を弾いては弾き返されるの繰り返す。
騎兵に至っては、馬を集中的に狙われ、次々と落馬し次々と討ち取られて行く。
が、正面が無理ならばと、左右から溢れ出てくる義龍軍に対して、またもや種子島が火を噴く。
しかも三段撃ちで立て続けに火を噴く種子島に、次々と包囲しようとする兵達が討ち取られていく。
敵陣中央では、川並衆から矢を射掛けられ、敵と戦うまもなく義龍軍の兵達が倒れていく。
負けじと義龍軍の弓兵から矢を射掛けられるがこちら側の陣が薄く、密集して居ないので、あまり被害は出ていない。
が川並衆達は楽しそうに、次々と敵の密集地へと矢をいかけていく。
が、流石に一万、如何に士気が高くとも、数の差は覆せず、徐々に中央が下がっていく。
更に苛烈になって行く中央の攻めに、開始から僅か四半刻で、本陣があり、これ以上下がれない程織田、道三軍は後退してしまう。
目先に本陣があるのを目にした義龍軍は、さらに、攻めようとするが、何故か進まない。
「小早川氏。柴田勝家隊、所定の場所へ後退したでござる」
「では、例の策を始めましょうか。それぞれ四人衆に指示を出してくれますか?」
「御意でござる」
そう言って五右衛門は消えていった。
道三は、益々訳が分からないと言った表情を浮かべる。
「お主、何をするつもりじゃ?」
「何って・・・攻めるのですよ」
そう言った皆光の笑顔は、ゾッとするほど冷たかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何故敵の陣は崩れぬのだ!」
軍の中央で義龍は家臣達を怒鳴り散らしていた。
最初に敵の陣を見た時、これならば一瞬で敵をたたきつぶす事が出来るだろうと、敵の軍略を嘲笑っていた。
並の軍勢ならば既に瓦解し、敗走しているはずだったが・・・。
実際は、徹底的に防御を固め、攻めあぐねている。
我が軍ながら何だこの体たらくは・・・と義龍は頭を抱えた。
敵は徹底して守りを固め、討ち取られていくのはこちらの兵ばかり。
特に敵の種子島を集中的に受けている両側の兵達の中には離脱し始めている者も出ていると言うではないか。
踏み潰して終わりと思っていたが存外にしぶとい。
「えぇい!もう良い!儂が出る!」
そう言って、敵陣中央へと馬で駆ける義龍だったが、その敵陣中央で激しく暴れ回る姫武将が目に入る。
「なるほど・・・突破出来ぬのも納得だ」
【鬼柴田】
それに、織田の兵は弱いと良く言われるが、野戦に関して言えば、むしろ強い。
鬼柴田と野戦の強い尾張兵達・・・。
故に雑兵の足軽共では、突き崩せなかったのかと義龍は一人で納得した。
だが、如何に野戦が強くとも数の差は覆すことは難しい。
故に今暴れている柴田勝家を崩せば、陣は崩れる・・・そう認識した義龍は、自ら前線に出て
まずは勝家から突き崩せばいいと笑みを浮かべる。
「貴様が大将か」
そう言った義龍に、勝家も動きを止める。
六尺五寸の巨漢が、馬に乗り前に出る。
「いいや、大将はあたしじゃないよ。だがここを通りたければ・・・」
「ふん。斬っていくまでよ」
そして、勝家と義龍はぶつかった。
激しく火花が散り、甲高い金属音がほとばしる。
猛将同士の戦いに、少しでも横槍を入れようとした者は居なかった。
が、両軍の士気が一気に上がり、あちこちで戦いが激化していく。
その一方で、皆光と道三は本陣にて鋭く両軍の動きを観察していた。
「お主、先程攻めると言っておったが、このままでは攻めるどころか守備ですら危ういと思うがの」
「勿論、今守りの姿勢を崩せば我が軍は一瞬で荒波のごとく迫る義龍軍に飲み込まれましょうぞ。
ですが、何も無理矢理攻める必要は御座いません」
そう言いながら、皆光は陣を指さす。
道三はその指の先を見つめるが、いまいち分からなかったのか皆光へと視線を戻す。
「まだ分かりませんか?」
「ふん。何度わしがお主に言い負かされておると思っておる。
今更お主の考えが指先ひとつで分かれば義龍相手に負けておらぬわ。
既に義龍の大軍を前に、この僅かな手勢でこれだけ持ちこたえておるのじゃ。
これにもし援軍がおれば・・・・・・・・・お主・・・まさか?」
道三は皆光を凝視すると、その視線に皆光は首を縦にふる。
「当たらずも遠からず・・・と言ったところでしょうか。
勿論、援軍なんて来ませんが・・・来ないならば自軍で作れば良いと思いませんか?」
「分からぬ・・・分からぬな。この僅かな兵力のどこにそんな余力がある」
「前線に義龍が出てきた・・・引っ張り出すつもりはありませんでしたが流石は道三殿・・・よく分かってらっしゃる」
そう言いながらクスクスと笑う皆光だったが、道三の鋭い視線に肩をすくめ、おどけるのを辞める。
そして、指で三日月を描きながら口を開いた。
「今の我らの陣を、どう見ます?」
道三は陣を今一度見つめる。
中央はこれ以上後退はできない。むしろ勝家が負ければ、本陣は十数歩歩くだけで到達出来る。
しかし、道三はふと、何かに気付いたように右から左へ何度も視線で陣をなぞる。
そして、未だに笑みを浮かべながら、三日月を指で描いている皆光を見つめる。
その目は、まるで信じられない物を見たように、驚愕に染まっていた。
「義龍は・・・既に包囲されておる?」
皆光は、更に笑みを深めた。
「気づかれましたか?」
横長の陣は、中央のみが下がっており、右翼、左翼共にそれに合わせるように斜めに後退しつつも、鉄砲隊の支援もあり、合間合間で攻撃に出ていた。
そして、両翼の鉄砲隊に至っては槍兵の横へと陣取って、槍兵よりも下がりながらも、敵を撃ち続けている。
両翼がそんな状態なのにも関わらず、敵軍は後退していた中央の陣に集まり、無理矢理突破してこようとしているのを決死の覚悟で中央が押さえ込んでいる。
つまり、戦いの最中で、ただの横陣が鶴翼の陣となり、敵の半分を半円形で包囲しつつあったのだ。
しかも中央を突破すれば本陣まではもはや目と鼻の先、目先に戦功一番がぶら下がっているのに気付いた義龍軍は、兵力が中央へと集中していた。
が、1度に戦える人数は限られており、人が集まる分、怪我人や死体が中央で激的に増えていく。
そのせいで、むしろ中央を攻める兵達は動きが制限されていた。
それが原因となり、徹底的に防御を固めた織田、道三軍により義龍軍は徹底的に攻めることが出来ず、なおも増える死体や怪我人が織田、道三軍の擬似的な盾となり突破出来ないでいた。
それに加え、義龍自身が前線に出てきてしまったが故に、自軍に置かれている状況をいまいち把握出来ず、更に五右衛門による早馬の暗殺によって情報が制限されており、もはや義龍軍の陣形はコントロール不可能となっていた。
つまり、戦闘中に意図して陣形を敵に悟られない形で変形させ、横陣か、鶴翼の陣へと変わっていたのである。
そしてその結果義龍軍は・・・。
【烏合の衆】
まさしく、義龍軍はその烏合の衆へと成り果てていた。
末端の兵、特に右翼、左翼側の離脱も相次ぎ、義龍軍は確実にその数を減らしているのだ。
その全てを聞いた道三は、皆光に対して驚きではなく、恐怖を感じていた。
陣形、ただの一兵卒、鉄砲の一丁、忍び一人たりとも無駄に使わず、その全ての能力を十全に生かす手腕。
そして、それを平然とやってのける知謀。
「お主は・・・一体・・・」
道三はなんとか口を開いたが、その声はかすれていた。
「ただの軍師ですよ」
皆光は、未だに笑いながら道三へそう返した。
「それよりも、この戦もそろそろ終わらせねば。如何に耐えるだけと言えども、恐らくそろそろ限界を迎えるでしょう」
未だに固まったままの道三を前に、涼しげに語る皆光に、まだ何かあるのかと些か疲労感に塗られた表情を浮かべる道三。
皆光はおもむろに本陣に焚かれた篝火(かがりび)に近ずき、背から弓を外し、腰から矢を取り出す。
その矢に巻かれている布を取り払うと、鏃の部分に油を染み込ませた布が巻かれている。
それは、火矢であった。
が、それ単体ではなんの効力もない。
それでも、皆光は火に矢をかざし、鏃部分に燃え移ったのを確認すると、本陣中央で思いっきり矢を引き絞る。
矢の熱が、指先を軽く炙るのを感じ、手早く皆光は、空高く敵陣に向けて打ち上げた。
道三は、その矢を目で追い、皆光は矢を放った体制のまま、静かに口を開いた。
「策は成った・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
皆光が射った火矢は、味方陣営を飛び越え、敵の中央へと落ちた。
不幸な兵士が、それを胸に受け倒れる。
義龍軍の兵士は、流れ矢に当たっただけと誰も目に止めるものはいない。
が、織田、道三の連合軍にとっては、それは合図であった。
飛び交う矢の中、一本だけ火に巻かれた矢が飛来しているのを、一人の槍兵が気づいた。
そして、その兵は左右の兵にそれを伝える。
そして、それを聞いた兵と、それを見た兵は声を張り上げ、鬨の声を上げる。
ちらほらと、周囲でも同じ事をしている兵が見て取れる。
そして、鬨の声は一気に伝染し、全員が声を上げた。
義龍軍は、何事かと一瞬おののく。
前線で勝家を討ち取る為、槍を振るっていた義龍も、急な出来事に振るう槍を止め、荒い息を吐きながら勝家から距離をとった。
そして勝家も、荒い息をなんとか整えようとしながらも、その表情には、笑みが張り付いている。
そして、周囲よりも一際大きな声を上げた勝家は、今度は義龍へと自ら槍を突き出した。
その槍を受け、弾いても尚勝家は、義龍に槍を振るう。
義龍は、ふと違和感を感じ、そして直ぐにその違和感に気付いた。
先程までしていた一騎打ちでは、守りの姿勢が多く、まるで足止めしているかのような槍捌きを見せていた勝家だったが、ここにきていきなり攻勢に転じてきたのだ。
そして、それは周囲の兵達も同じであった。
先程までハリネズミの様だった連合軍が、義龍軍に向かってそのままの状態で前進してきたのだ。
その急な行動に、ずっと攻める側だった義龍軍で前線を戦っていた兵達は、不意をつかれ、なおかつ背後の兵のせいで下がることもままならず、なんとか槍を弾いても兵の合間から除く後衛の槍を受けることとなり、ハリネズミ状態の連合軍により前線が一斉に討ち取られていく。
だが、前が倒れても、後ろに下がれる訳ではなく、次第に近付いてくる何本もの槍の穂先に、その後ろの兵も犠牲になっていく。
しかし、義龍軍も守勢に出ようとするが、ここである事が起こる。
指揮系統もズタズタで、もはや烏合の衆と成り下がった義龍軍は、徹底的に防御を固めた連合軍により、攻め疲れを起こしていたのだ。
そして、義龍軍右翼、左翼では、種子島により、死屍累々の惨状が生み出されていた。
右翼、左翼両翼の義龍軍は、右翼五十丁、左翼五十丁の種子島によってもはや壊滅的な被害を受けていたが唐突に銃撃が止む。
遠巻きに見つめていた義龍軍の兵達は、好機と連合軍の裏へ一斉に回り込もうと鉄砲隊へと向かって突撃して行く。
しかし、鉄砲隊は構えたまま動かない。
義龍軍の兵達は、まさかと思い勢いが衰え始める。
すると、鉄砲隊の背後から、休息十分、無傷の織田軍が一斉に躍り出た。
陣形の無かったそれは、前進している最中に【蜂矢の陣】へと姿を変える。
そして、既に士気も衰えていた義龍軍は急な陣形変更に対応する事ができず左右からの蜂矢の陣の一点突破により、いとも容易く食い破られた。
そして、騎馬隊が中央を叩いている間に、鉄砲隊は更に敵後衛を狙える位置に移動、更に銃撃を加えていく。
そして、散発的に騎馬隊が遊撃とした走り回り、様々な方向から一撃離脱戦法を用いながら中央の敵を確実に減らしていく。
義龍軍は、たった1700の兵力によって、擬似的な包囲戦を仕掛けられていた。
急に守りの姿勢のまま、攻勢に出た連合軍により、前線は徐々に後退。
右翼、左翼側は壊滅的な被害を受け、そして、その原因である種子島が、今度は後方へ牙を向いた。
更に騎馬隊により食い破られ手薄になった部分には未だに無傷であった後詰の織田軍槍兵が両側から攻勢をかけ、散発的な一撃離脱を仕掛けてくる織田軍騎馬隊により、全方位が攻撃可能と言うあまりにもありえない状態になっていた。
何度も陣中央の将達から、義龍へと早馬が向かうが、その都度五右衛門が義龍にたどり着く前に暗殺している。
そして、とうとう義龍の目前で、逃げ出す兵士が出てきた。
しかも一人、二人ではない。
何事かと怒鳴り、声を荒らげる義龍だったが、それも虚しく、敗走して行く兵が増えるばかり。
ふと、義龍は我に返り、一度勝家から距離をとり、周囲を見回す。
馬上から見る光景は酷い有様だった。
あちこちで局地的戦闘が起こり、前線は崩壊、未だに聞こえる種子島の銃声。
所々で敗走する兵達。
何故このような事になるまで儂に報告しなかったのだと義龍は憤慨した。
それと同時に、僅かな手勢と思い無策で突撃した事を悔やんだ。
無策で戦った結果、二重、三重に重ねがけされた敵の策に溺れたのだ。
高々二千程度の軍勢に、一万の兵と言う圧倒的兵力差がありながら・・・。
【負けたのだ】
義龍は悟った。
何故最初から敵は撤退を選ばなかったのかを考えなかった?
無策で戦ったから?
敵の兵の方が上手だったから?
いいや、自身が驕ったからだ。
義龍は唇を噛んだ。
「おのれぇ、覚えておれよ・・・」
腹の底からなんとか捻り出した言葉だったが、それでもなお、義龍の怒りは消えなかった。
「なんだ?逃げるのか?」
勝家は義龍を挑発する。
しかし、義龍はその言葉に苦虫を噛み潰したように歯を食いしばり、槍を持つ手が震える。
「此度の戦・・・貴様らの勝ちだ」
それだけ言い残して、義龍は去っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
清洲城にて、信奈は皆光からの報告を今か今かと待っていた。
そして、遂に皆光からの早馬が清洲城へ到着した。
早速通すように命じた信奈だったが末森城の時のように敗戦の報告だったらどうしようと、信奈は一人震える。
そして、信奈の隣には扇で口元を隠した一人の姫武将、丹羽長秀が控えていた。
そして、一人の鎧武者が駆け込んできた。
「申し上げます!」
信奈はゴクリ・・・と一人喉を鳴らしながら、思わず立ち上がる。
「小早川皆光殿率いる織田軍は、長良川にて齋藤道三殿と合流したのち、義龍軍と激しい合戦を繰り広げ・・・」
信奈の心臓が高鳴る。
「義龍軍一万を撃破!お味方の勝利でございます!」
信奈は力無くへたりこんだ。
傍では、扇を膝へ落としたまま固まっている長秀。
「皆光が・・・勝った?蝮は!?蝮はどうなったの!?」
「は!小早川皆光殿は陣を引き払い齋藤道三殿を伴い、尾張への帰途についております!」
一万の軍勢を二千もいない兵力で打ち破った・・・信奈はその報告が信じられなかった。
信じていなかった訳では無い。
だがまさか撤退してくると思っていたのを打ち破るとは思っていなかった。
「デアルカ・・・」
信奈は、そう言うのがやっとであった。
なんか、好き放題やってしまい大変申し訳なく思います。
オリジナル展開・・・書いているうちは楽しかったんですが・・・。
もう少し上達させたいと思います・・・。