次の話を執筆しながら、近々前半後半に分けてある話を統合しようかなと考えております。
また、ここちょっと・・・や、ここすごく面白いよ!の様な、具体的な意見を聞きたいな・・・と思いますので、是非とも感想よろしくお願い致します。
死ぬ・・・死ぬ・・・。
苦悶の表情を浮かべながら、迫り来る手裏剣を見つめる。
体が動かない。
先程まで、感じていなかった恐怖、痛みがまとめて襲い来る。
刀を持つ手が震える。
火事場の馬鹿力とはよくも言ったものだと、皆光は天を仰ぐ。
目に映る半蔵の仕草、風を切る手裏剣の音、自身の鼓動。
ただ・・・ゆっくりなのは皆光の体も同じこと。
体は動かそうと言う意思に反して、ピクリともしない。
(終わったか・・・)
これで・・・・・終わるのか・・・終わってしまうのか。
カン、キン、キンッ!
今にも刺さるだろう距離の手裏剣が、横合いから伸びてきた朱槍に薙ぎ払われた。
次の瞬間、皆光の時は周囲と同じ速さに戻った。
「はっ、はっ、はっ・・・」
皆光は、思わず地面に膝を着く。
脳内麻薬で何とかなっていた思考も、体の時間も、全てが元に戻る。
あまりの疲労に、思わずえずく皆光だったが、自らを助けた人物が気になり、視線を上げる。
皆光の正面には、見慣れた後ろ姿が・・・なかった。
「姫さまの危機と聞き、ただいま帰り新参として参上つかまつり候」
真っ赤な朱槍にド派手な虎の毛皮を頭に被り、南蛮風にかぶいた小柄な少女。
「まさか・・・犬千代?」
「そう・・・犬千代。・・・皆光は運がいい。実は夕べからこの山で野宿していた」
なんともまぁ随分と変わりましたね・・・と皆光は呟くが、犬千代は気にすることもなく朱槍を振り回す。
「全く・・・ですが、確かに運が良かったですよ。犬千代、助かりました。この忍び、お強くてね」
「・・・犬千代も強い」
「なるほど・・・確かに・・・」
犬千代・前田利家とは後世にまで語り継がれ、比類なき槍の名手として槍の又左の異名を持つ武将だ。
そんな槍の名手と、これまた歴史に名を残してしまった伝説の忍びが激しくぶつかり合う。
目で追えるものではない高度な撃ち合いだが、この世界での槍の名手は・・・少女である。
実力は拮抗していたとしても、膂力に差があれば、いずれ崩れる。
「早く・・・信奈さまのところへ」
犬千代の槍は徐々に鈍くなり、半蔵の刀は徐々に速さが上がっていく。
「あなたを置いては行けません・・・」
(このままでは・・・私を助けたばかりに犬千代まで死んでしまう・・・)
【知識に賭ける】
皆光はゆっくりと二人に向かって足を進め始める。
「あなたの主は松平元康でしたか。確か・・・今川の犬だったかと存じますが」
「何が言いたい・・・」
犬千代との打ち合いをやめ、こちらを鋭く見つめる半蔵に、皆光は背筋を震わせた。
力なく地面に倒れ込みそうになるのを必死に槍で支え、犬千代が困惑しながら皆光を睨み付ける。
「はてさて・・・今川はどうやって京へ登るのでしょうね。この先激化して行く戦いに・・・あなたの主君は何度戦わされるのでしょうか。先ず織田を破ったとして?齋藤、浅井、六角、朝倉、松永・・・全てを破った頃には、あなたの主君は生きているのでしょうか?」
「だからどうした?強大な今川相手に謀反でも起こせと?」
「謀反なんぞ必要ありませんよ。今川は今宵、地に堕ちる」
「織田勢ごときが今川に勝てるわけがなかろう。何処にそんな根拠がある」
「美濃では勝ちましたぞ」
そう言ってクスクスと笑う皆光を見て、半蔵は思い出した。
さきの美濃での戦で、迫り来る大軍を敗走させた者がいる事を。
【その者が織田にいる事を】
半蔵はまさかと訝しむ。
「貴様・・・名は」
「小早川皆光と申します」
どうぞお見知りおきを・・・そう言って笑う皆光に、半蔵は確信した。
先の戦を勝利に導いた者がこの男だと。
「確かに貴様ならば勝つやもしれん。だがその後勢いに乗った織田勢が三河に攻めてくれば、我が姫は上洛戦と同じ道を辿るとは思わんか?」
「私ならば逆に、姫様に盟を結ばせますが。美濃の蝮、斎藤道三が織田家にいる以上、必ずや織田は美濃を攻略にかかるでしょう。が、背後が敵国であれば、軍を動かすに動かせない。ならば、尾張の背後に位置する三河には、必ずや味方になってもらわねば、美濃を攻めることは不可能。ゆえに織田が今川を破れば、あなたの主君は晴れて自由となる。まぁ、私がこの場から生きて帰れれば・・・のお話ですがね」
未だに笑いながら話を紡ぐ皆光に、半蔵は言葉を発することが出来なかった。
(この男・・・どこまで先を・・・)
この男は危険だ。だがこの男ならば・・・。
「その言葉に偽りはないか?」
「必ずや、成してみせましょう」
「今回だけは貴様の言葉を信じてやろう。だが約束を違えれば、どこへでも忍び行ってその首を貰い受けるぞ」
「ご自由に」
会話が終わると、溶け込むように消えていった半蔵を見届けて、皆光は膝を折った。
「さすがに・・・死んだかと思いましたよ」
「助かった?」
「えぇ・・・なんとか・・・」
そう言って四股を投げ出し、倒れ込んだ二人は、暫し休憩をとる。
そして、木々の上で各々傷だらけになりながらも忍び達全員が皆光の元へと帰ってきた。
「さて・・・もうひと仕事です」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
皆光は、犬千代と共に忍びたちの治療を受けて八で駆け、なんとか熱田神宮にある織田軍の本陣へ足を踏み入れた。
本陣の中央に置かれた床几には、不機嫌そうな顔をした信奈が座っていた。
最近皆光を見る度に不機嫌そうな表情を見せる信奈に、皆光はやれやれと言ったふうに謁見する。
「あんたの秘策、借りに来てやったわよ。全く、参拝しろなんて分かりずらいったらありゃしないわ」
「今川方に忍びが居ることを思っての言葉ですよ。逆にあの場でこうしましょうなんて言っては、相手にご丁寧に教えて差し上げるようなものでしょう?」
「だからってあんな冷たく言わなくても・・・」
「どうかされました?」
「なんでもないわよ!」
思わず信奈がぼそっとつぶやくが、聞こえていなかったのか、皆光は首を傾げる。
思わず顔を赤くしてなんでもないと言った信奈だったが、途端に表情を引き締める。
「で、なんで犬千代がいるの?あんたは放逐したはずでしょ?」
「まぁまぁ・・・犬千代が悪い訳でありませんし、むしろ頼んだのは私ですから」
「・・・・・・分かったわよ。犬千代は今日で織田家に帰参、わたしの小姓としてもう一度迎えるわ」
口ではそう言いながらも、嬉しそうな信奈に皆光も笑みを浮かべる。
犬千代は静かに臣下の礼をとると、静かに了承した。
「さてと、残念ながら時間はそう残されておりません。私と配下の者達で今川方の本陣を突き止めました。周囲に他の隊の影はなく、完全に孤立した状態で桶狭間山の東の麓、通称桶狭間と呼ばれる平地にて、五千の兵と共に休息しております。津田信澄殿とその配下の者達が酒を振る舞い、足止めをしています」
「勘十郎が?」
「あの御仁も中々に。私の秘策はもう言わずともよろしいですね?」
そう微笑みかけた皆光に、不敵な微笑みで返す信奈。
「全軍で桶狭間へ突撃よ!わたしの全部を、この奇襲にかけるわ!」
一斉に兵達が鬨の声を上げる。
信奈が神に祈りともつかぬ不遜な物言いをかまし、皆光は若干呆れたが、不意に肩をつつかれて背後を振り向く。
「おや、五右衛門。お早いお戻りですね」
そう言った皆光に、五右衛門は少し腹立たしげな表情をするが、何やら懐をゴソゴソとまさぐっている。
そして、何やら不安げな色をした軟膏を皆光と犬千代に塗りたくって消えていった。
なんだったのだろうか・・・。
「大将!わしらも行くみゃあ!!」
我に返ると、馴染みの騎馬隊の皆が皆光に向かって叫んでいた。
「姫様・・・休ませておやりなさいよ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
織田軍が一斉に桶狭間へと動き出した。
出来うる限りの速度で猛進する中、急激に天候が荒れ始めた。
雷と豪雨、そして背後から吹き付ける暴風に、織田軍は押されさらに進軍を加速させる。
天の怒りか!神の怒りか!と軍がどよめくが信奈がそれを黙らせる。
「これぞ我が天運!この雨に乗じて一気に桶狭間を襲うのよ!雑兵は捨ておきなさい!狙うは今川義元ただ一人!」
そもそも神をなんだと思っているのだろうかと皆光は激しく疑問に思うが、ぶっちゃけ史実の信長も案外こんなものなのかもしれないと思うと、なるほど、的を得ているとひとり納得する。
豪雨の中、不意に今川の本陣に雷が落ちる。
本陣の横断幕が燃え始めると同時に、一気に織田軍は今川軍の本陣へ逆落としをかけた。
「全軍!かかれぇぇっ!」
今川軍は皆一様に油断しきっていた。
「一番槍はこのあたしが!」
勝家が馬上で槍を振りかざし、本陣を守ろうとしていた今川兵を吹き飛ばす。
「はっはっは!これが桶狭間か!」
勝家が大軍へと割って入る中、皆光も負けていられないと背後を確認する。
皆光の騎馬隊が足並みを揃えて背後に着いてきているのを確認した皆光は、刀を抜き放った。
途端に騎馬隊の雑多な陣形は、皆光を先陣とした蜂矢の陣形を形作る。
「さぁ!突貫せよ!」
真っ直ぐに本陣に突っ込んだ皆光の隊は、容易く今川の本陣を守っていた今川兵達の陣形を真っ二つに切り裂く。
豪雨の中、天の恵みか神の怒りか。
背を風に押され、豪雨に姿を消され、音が雨音で掻き消された織田軍の勢いは凄まじかった。
そんな中で、皆光も気分が高揚していた。
皆光とて、現代人とは言え、この時代に憧れた身。
高揚しない訳がなかった。
今更、人を殺める事に忌諱感など持ちようがなかった。
むしろ、間接的に大勢を殺した身だ。
戦の中、皆光はただ我武者羅に刀を振るう。
当たってしまったものは、容易く手首が飛び、首が割れ、血の花が咲く。
楽しい・・・?
ふと、皆光は我に返り、流れる視線が周囲を見渡す。
泣き叫び、友だったであろう亡骸を抱きかかえた今川兵が背後から織田軍の足軽に貫かれる。
楽しい?
必死の形相で逃げる者が、騎兵に斬りつけられる。
楽しい?
足を引き摺りながら、逃げようと試みた者の頭が馬蹄で砕かれる。
楽しい?
皆光は、己の手を見た。
雨水が血と混じり合い、薄明るい赤が目に映る。
「なんだこれは・・・」
この時代を待ち望んだはずだった。
この時代に来て役に立てる事が嬉しかった。
現代に住む人達とは気が合わず、話しかけられもしなかった。
しかし、この時代の人達は自分を見てくれた。能力を買ってくれた。成果を上げる度に喜んでくれた。
溜めに溜め込んだ自らの知識を振りかざすのが楽しかった。
この時代が、自分の生きる場所なのかもしれないと思えた。
だから、そんな自分を召し抱え、ある程度の信頼を置いてくれた信奈に忠誠を誓った。
そんな自分に、忍び達は着いてきてくれた。
だから知恵を奮った。
だから歴史を変えた。
死ぬべき者を生かした。
それで満足だった。
はずだったのに。
目の前で、泣きながら命乞いをする今川兵が織田兵に討ち取られていく。
はずだったのに。
目の前で、溢れ出た臓物を掻き集める者が槍で貫かれ、貫いた足軽が喜ぶ。
皆光は思い出した。
自分がこの時代に来て初めて思った事を。
まるで、創作物の様だ。
自分は無感情に、ただ物語に引き込まれた読み手の一人だと。
そんな自分が、少し嫌だった事を。
これのどこが創作だ?
これのどこに楽しみを見いだせる?
これのどこに満足出来る?
様々な感情が皆光の心を駆け抜ける。
後回しにし、この時代に溶け込もうとした結果がこれか。
気付いた時には遅かった。
もう戻れない所まで来てしまった。
ならば、進むしかないか。
沢山殺した。
この先も沢山殺すだろう。
「もう、帰りたいとは言うまい」
どうか、後世に伝わりませぬ様に。
目の前にいた今川兵を、皆光は斬り殺す。
容易く飛んで行った首は、そのまま地面に転がる。
「それが戦国の世の習わし・・・でしょう?」
今ここに、皆光は戦国の世を生きる事を、自らの意思で決めた。
「先ずは今川の首を上げましょうか」
皆光は次々と足軽を斬っていく。
今更恐怖に慄いた雑兵が何人束になろうとこの時の皆光にかなうものはいなかった。
もとより弓道をしていた身、素早く動くものに対して、目で追う癖が既についていたのが幸いし、雑兵の槍や刀程度なら何とかなった。
義元は容易く見つかった。
本陣の床几の上で呆然と周囲を見渡している。
八から降り、ゆっくりと義元の本陣へと足を踏み入れた。
血に濡れた皆光の姿は、見る者が見れば悪鬼に映るだろう。
さらに皆光の意思が固まったからか、酷く冷徹な笑みを浮かべている。
「ひっ・・・無礼者!わらわを誰だと思っていますの!」
「お初にお目にかかります、今川義元殿。
私は織田軍の軍師、小早川皆光と申します」
こんな状況なのにも関わらず、ご丁寧に挨拶をかまし、あまつさえお辞儀をする皆光を義元は呆然と見つめる。
「つきましてはその首を貰い受けに参りました」
その言葉と同時に、義元の首に刀が据えられる。
「死にたくない!こ・・・殺さないでくださいまし〜・・・」
(これも・・・戦国の世の習わし・・・か。本当に斬らねばならないのか・・・?)
そこでふと皆光は気付いた。
信長であり、今世の信奈の野望は天下布武。
一般的な解釈として、天下を武を持って制する事を天下布武と思っている人が多い印象だがもう一つ・・・意味がある。
【天下に七徳の武を布く】
七つの徳とは、暴を禁ず、戦を禁ず、大を保つ、功を定める、民を安んじる、衆を和す、財を豊かにするという意味がある。
これすなわち天下布武・・・と。
ならば、情けをかけても良いのではないだろうか。
既に大勢死んだ。
私が殺したのだ。
「義元殿、降伏をするつもりはありませんか?」
皆光が、そう告げた瞬間義元は気の強そうなツリ目をさらにつり上げながら
「誰があなた達尾張の山猿どもに降伏など!降伏するくらいなら潔く死を選びますわ!」
と叫んだ。
それを聞いた皆光は義元を斬る様子もなく刀を腰に収め、目線を義元に合わせるように膝を着く。
「義元殿、この戦はあなたの負けです。敗北を認めぬは愚将のする事。あなたは愚将ではない。美しく気高き勇将でした。私は、そんなあなたを斬りたくはないのです」
そう言って、優しく微笑みかける皆光を、義元はボーッと見つめる。
「そ・・・そんな事を言われましても・・・」
少し赤くなりながらも視線は皆光から動かさない義元を、負けじと見つめる皆光。
そこでとうとう義元が折れた。
「仕方ありませんわね。あなたの顔を立てて、今回だけはこの程度で勘弁差し上げても構いませんことよ」
そう言った途端、皆光から視線を逸らした義元に、皆光はにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。さ、お手を」
そう言って手をかざした皆光の手のひらを、義元はそっぽを向きながらとった。
こうして、桶狭間の戦いは終わった。
わずか四半刻と言う時間だったが、皆光はこの戦を忘れないだろう。
信奈の覇道の始まりを告げる戦。
しかし、このわずかな時間の戦は、まさしく地獄絵図だった。
史実にそった、史実を元にしたと言い訳をするつもりは、皆光にはなかった。
この戦は、皆光をいい意味でも悪い意味でも変えた。
この戦国乱世に生きる心構えを、そして、現代を捨てた非情さをこの戦は皆光にもたらした。
「これは私が起こした戦いだ」
「何か言われましたか?」
先程から随分としおらしくなった義元に、なんでもありませんよ、と声をかけ皆光の兵に御輿を探しに行かせる。
とりあえず、救える命は救ったのだ。
皆光の心は決まった。
信奈の野望を叶えると共に、自身の野望も叶える。
誰になんと言われようと、皆光は自身の野望を変えようとは思わない。
【天下布情】
助けを乞う者には温情を。
慕ってくれる者には友情を。
大切な者達へは愛情を。
悪意には非情を。
この信念のもと、私は織田信奈に仕えよう。
いつの間にか、豪雨は収まり、空は快晴になっていた。
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