謀っ子世にはばかる〜織田信奈の野望   作:☆蛇☆

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こんばんは。作者です。
なんとか一区切りと1章目が終わりました。
気付けばお気に入りも大変増えており、皆様からのコメントも沢山頂き大変嬉しく思うと同時に、大変参考にさせて頂きました。
これからも執筆を続けさせて頂くので、これからもこの作品をよろしくお願いします。


第二章 美濃
不穏


 

 

 

 

夢を見た。

だが、その夢は奇妙だった。

時代は現代ではなく、古い時代の葬儀の様だ。

少なくとも、家族の夢ではない。

見知った顔もいない。

 

【ただ一人を除いて】

 

目の前で咽び泣く少女。

否、少女だけではない。

年老いた老齢の者、妙齢の女性。

皆が一様に泣いている。

 

皆光は泣いている者達の背後に立っていた。

 

声は聞こえない。

それでも、悲痛な叫びが聞こえて来るような気がした。

 

そして、皆の視線の先には、一人の青年が生気の感じられない静かな姿で、寝かされていた。

 

風景が歪む。

 

最後に・・・聞き慣れない・・・少なくとも皆光は知らない声で、一言その者の名が呟かれた。

 

「××」

 

皆光の名前ではない。

だがしかし・・・皆光が最後に見たその亡骸は。

 

皆光自身だった。

 

そこで皆光は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織田信奈率いる織田軍は、駿河の大大名、今川義元率いる本隊を桶狭間にて破った。

今川義元は降伏し、丸根砦を攻め立てていた松平は三河へ撤退。

鷲津砦を攻めていた今川の先鋒朝比奈も駿河へ撤退。

今川軍がそのまま残した膨大な軍資金と、武具、兵糧が織田へもたらされたが、国主を失った今川義元の本国、駿河の地は甲斐の虎・武田信玄が横からかっさらう形で奪い取っていった。

 

長良川の戦いからわずか二日しか経っておらず、それでもなお、桶狭間にて今川を破った尾張のうつけ姫。

 

織田信奈の名は天下に轟いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

皆光は、見慣れぬ部屋で目を覚ました。

(嫌な夢を見ましたなぁ・・・)

寝惚け頭で少しばかり理解に時間がかかったが、先日、信奈に褒美で貰った屋敷かと一人で静かに納得した。

 

皆光が貰った褒美は三つ。

 

一つ目は長良川の戦いでの勝利による褒美として、正式に信奈の家臣団入りを果たしたのだ。

それに伴い、屋敷を貰い私兵の増加、俸禄などの増加となった。

とは言え、今まで仕えてきた者達からの大反対(主に前当主、父 信秀からのお抱え)もあったが、有能な者にはそれ相応の褒美を与えると言う信奈は、それを一蹴した。

またもや織田家が割れるかもしれないと言う皆光の疑念の声も、勝家や長秀、犬千代といった若い世代の筆頭家臣達の声で鎮火。

かくして、見事出世を果たしたのである。

 

そして、桶狭間の戦いの褒美では、三河との同盟、そして川並衆が正式に皆光のお抱えとなった事による武具やお金が少し送られた。

 

結果、皆光は仕官してからの僅かな時間で見事、五右衛門との約束通り大出世をかましたのである。

 

そこまで広くはない屋敷だが、今や庭に井戸が掘られ風呂もある。

が・・・一つだけ・・・不満ではないが疑問はある。

 

天井を見ると、コウモリよろしく天井から釣り下がっている五人の幼女達。

そして、隣の部屋では未だに静かに寝息を立てる、これまた幼い犬千代。

そして、抱き着かれなかったこと幸いと、義妹となったねね。

 

論功行賞の際に、夜、信奈の部屋へ行き、語り合った日の事を執拗に持ち出してくる信奈を少しばかりからかったからか、さて新居に居を移したら既にねねがいた。

義妹として皆光様をお支えしますぞ!と元気よく迎えてくれたが、むしろもう幼女はお腹いっぱいである。

文句を言いたかったが、案外前半の褒美がまともすぎて言おうに言えず、なんだかんだしっかり者のねねに助けられたのもおり、皆光は了承するしか無かったのである。

というか、帰るように言おうとすると、大号泣をかまし、泣き止まなかったのもある。

 

後日、この屋敷が近隣から幼女屋敷と呼ばれている事を知った皆光は、ため息を漏らすことになるが。

 

皆光はいつもと同じ煌びやかな服装に着替えると、目を擦りながら犬千代も起きてくる。

 

むしろ犬千代もなぜ着いてきたと皆光は思うが、正直ずっと一緒にいたのも相まっていない方が違和感である。

 

「あにざまぁぁぁぁぁ!」

 

ああ・・・また始まった。

 

ねねを放っておくと、寝起きに必ずと言っていい程寝惚けて泣き出すのをすっかり忘れていた皆光は、また騒がしい一日になりそうだと、半分日課になりつつあるねねのお守りをしに行くのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

皆光は犬千代と共に買い出しに出ていた。

あっちへフラフラ、こっちへフラフラと都度飯を催促する犬千代に、皆光は手にういろうをぶら下げながら、犬千代が近づく度に投げると言うまるで犬の散歩の様な買い出しをしていた。

 

「皆光・・・味噌煮込みうどん・・・」

 

「はいはい・・・ういろうですよ〜」

 

むしろ何故ういろうで釣れるのか・・・犬千代釣りと言う屋台があれば、皆光はその屋台を店仕舞いさせることが出来るだろう。

 

皆光は犬千代で遊んでいると、ふと視界に見慣れぬ侍衆が写った。

 

何やら信奈について話しているようだが、旗印からして織田のものではない。

諍いを起こそうものなら現代なら警察沙汰で済むものをこの時代では合戦だ。

 

(三盛り亀甲・・・浅井の・・・そんな時期でしたかね・・・)

 

浅井・織田の同盟。

織田信長が血を分けた妹、お市を浅井に嫁がせ京へと登る経路として近江口を確保するのだったが・・・。

 

(今は捨ておきましょう)

 

だが言い方が気に入らないのも事実。

皆光は密かに、浅井を敵と定めた。

 

「・・・どうかした?」

 

気付かずのうちにどうやら、険悪な雰囲気を発していた皆光を犬千代は心配そうに見つめる。

皆光は肩を竦めてはぐらかした。

 

 

 

昼が過ぎた頃。

 

清洲城の大広間に信奈、元康、犬千代、皆光と勢揃いしていた。

 

皆光は、元康を見ると、まさかのたぬき娘である。

戦国の大たぬきと囃された徳川家康、まさかの時代逆行で少女化&たぬき娘化していた。

なんとも可愛らしい見た目をしているが、何度も言う。

あの肖像画の人物である。

皆光は目元を揉みこんだ・・・まぁ、姿は変わらなかったのだが。

 

なにやらぶるぶると震えている元康だったが、皆光と目を合わせる度にさらにぶるりと身を震わす。

 

大方、半蔵からなにやら言い含められているのだろうと当たりつけるが、まさしく正解であった。

 

元康は半蔵に、皆光は注意されたしと忠告を受けた上でこの場に望んでいたのだ。

故に、皆光が口を開けば何を言い出すか・・・と元康は戦々恐々としていたのである。

とは言え、皆光はこの会談に口を挟むつもりは無い。

 

皆光からすれば、三河なぞいつでも飲み込めると楽観視していたのもあるが、今川を落とし、三河独立と言う大恩を受けた上での同盟ならば、元康は言いなりになるしかない。

 

まぁ、ああだこうだと言いつつ、己を逃がした半蔵に、個人的な恩がある皆光は、半蔵との義理を果たすためと無言を貫いただけだったのだが。

 

同盟会談はつつがなく進行し、お互いの利害の一致も相成り対等な同盟関係を築くことに成功した。

 

終始静かな皆光に怪訝な表情をしていた信奈だったが皆光はそれをおくびにも出さず欠伸を零した。

 

かくして、清洲同盟が成立したのだが・・・顔色を変えた小姓が慌てて駆け込んできた。

小姓がその来訪者の名前を告げた途端、信奈が明らかに狼狽える。

 

「今すぐ、ここに通しなさい」

 

静かに告げられた名は信奈にしか伝えられていないが皆光には心当たりがあった。

 

程なく単身大広間に姿を現した来訪者に、皆光の予想は的中した。

元康と犬千代は、そのあまりの美少年っぷりにおお〜と感嘆の声を上げるが、皆光は静かに殺気立っていく。

ギクリっと二人が皆光を見つめるが、皆光が殺気をおさめる気配はない。

 

流石の信奈も、皆光に注意をしようとするが、それよりも先に皆光が口を開いた。

 

「何者でしょうか?」

 

「これは失礼。私の名は、浅井長政。近江は小谷城より、はるばるやって来ました」

 

皆光は返事を返すことも無く、静かに腕を組み黙りを決め込む。

 

明らかに機嫌が悪そうな皆光に、思わず信奈も首を捻るが、それはそれ、これはこれである。

 

兎にも角にも話が進まなければ何故機嫌が悪いのかも分からない。

信奈は会談を終わらせるために口を開いた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

最初こそは、信奈のご機嫌とりのような美辞麗句を並べ立てていた長政だったが、最終的には政略結婚と言う案を持ち出した。

 

しかし、愛もなく、いたわるでもなく、ただただ政治の道具として結婚をしようと持ちかける長政に終始信奈はたじたじであった。

 

何度も助けを乞う様に皆光へと視線を向ける信奈に、流石の皆光も助け舟を出した。

 

「そこまでに、浅井長政殿。政略結婚とは言え、当主同士の縁談、些か早急に進めるには事が大きすぎましょう」

 

「あなたは?」

 

「失敬、私は小早川皆光。以後お見知りおきを」

 

そう言って頭を下げる皆光に、長政は言い様のない不安にかられた。

 

「小早川殿、勿論この場でお返事を頂こうとは思っておりませぬ。信奈殿もしばし時間が必要でしょう?」

 

「時間も何もいりませぬ。返事はこの場で否・・・と出させて頂きたいのですが」

 

そう言い放った皆光に、長政は何を、とせせら笑った。

 

「ふん、それは信奈殿が決めること。貴殿が決めることではないでしょう?」

 

思わず語気が強くなる長政だったが、まるでこちらの心を覗き込むが如く暗い瞳を向ける皆光に思わず目を背ける。

 

「ならば、今この場でその婚姻同盟の利を説いてもらいたいですな」

 

「よもや分からぬと申されるか・・・。我ら織田家と浅井家が結び付けば、美濃も容易く落ちましょう。美濃を落とせば天下など容易い・・・そうは思いませんか?」

 

「そうですなぁ」

 

長政は皆光が納得したと思い込み、得意げに語り出す。

皆光は笑みを浮かべているが、むしろこれは相手を馬鹿にした嘲笑だ。

 

「確かに、聞くだけであれば理想の婚姻同盟でしょうな」

 

「おお!ご理解が早くて助かります」

 

「ちょっと!あんた何勝手に・・・」

 

危うく皆光も賛成かと信奈も焦るが、皆光はそんな信奈と違い涼しそうに口を開く。

 

「だがしかし。重要な部分が入っておられませぬな」

 

「小早川殿・・・何を・・・」

 

「はっきりと申せばよろしいでしょう?尾張の姫をたらしこみ、尾張を我が手に・・・と。今ならば確かに、国力が浅井家よりも劣る織田家と同盟を結んでも浅井が上にたちましょう。ですがもしも美濃が落ちれば姫様は他の大大名と轡を並べる・・・それを危惧しているのでしょう?」

 

これには思わず長政も何を根拠にと畳を叩いた。

 

「何を根拠にそのような事を申される!」

 

「おや、街中で仰っていたではありませぬか。愛など不要、せいぜい利用させてもらうと。たとえ街中であっても、発言には気をつけていただきたいですな」

 

ニヤニヤと嘲笑う皆光に、思わず長政も歯噛みする。

 

「確かに、政略結婚はこの乱世において当たり前となりましょう」

 

「それが分かっていて何故・・・」

 

「そもそも美濃なんぞ我ら織田だけで落とせるのですよ。ならば美濃へ対する二国間の共同戦線などそも必要ないと申しましょう」

 

「織田が美濃を?」

 

長政は訝しむが皆光はその表情を見て大笑いする。

 

「はっはっ!そう言って侮ったが挙句織田に手痛いしっぺ返しを食らったのは大国を誇る美濃、駿河の大名達ですぞ」

 

「ならば浅井も敵と言われるか?」

 

勝ち誇った顔で皆光を見る長政だったが、次の瞬間、皆光の言葉を聞いて息を飲んだ。

それは、固唾を呑んで見守る信奈も、犬千代も、元康も同じだった。

 

皆光はそう言われてもなお涼しげに言葉を発した。

 

「浅井も敵と思っております。言わば潜在敵。同盟なんぞ、当てにする方が間違い・・・違いませぬか?」

 

そう言って、皆光は怪しく笑った。

 

 

 

結果として、浅井長政は諦めるつもりはないらしく、折を見て返事を貰いに来る・・・とだけ言い残して去っていった。

とは言えども信奈にはしこりを残していったあたり、一概に皆光の勝ち・・・とは言えない。

むしろ美濃を落とす事に期限が定められた事で最悪婚姻同盟を結ばねばならぬ時が来る。

そう思うと、むしろ今回の会談は皆光の負けである・・・と言える。

 

恐らく信奈もそれに勘づいただろう。

しばらく一人で考えさせて・・・とそのまま自室に引っ込んでしまった。

犬千代もそれについて行ってしまいこの場にな元康と皆光が残される。

 

皆光がふと考え込んでいると元康がふるふると震えながらこちらを見つめているのに気がついた。

 

「何か?」

 

思わずトゲのある言い方をしてしまった皆光に、ぶるりと一際大きく震えながら元康が疑問を投げかけた。

 

「う・・・うぅ・・・皆光さんは三河も敵と思っておられるのですか?」

 

「・・・何を持って敵と見なすかによりますが、浅井は確かに、同盟として必要なのでしょう。ふむ・・・ところで浅井古くからの同盟相手を知っておられますか?」

 

皆光は静かに元康に問う。

 

「浅井・・・と言われますと〜・・・朝倉ですか?」

 

「いかにも。私が警戒しているのは浅井単体ではなく浅井と朝倉の両家です。

古き繋がりがあるからこそ見えない・・・。

故に潜在敵と称したのです。が三河は同盟先の今川を失っております。

故に同盟は二国間のみのものとなっており、同盟は織田、松平の両家の采配でどうなるかが決まります。

しかもその位置は東国から尾張を背後から守る位置にある。

むしろ、味方でなくては困るのは織田の方。

それを考えれば、三河を敵と見据えるのはむしろありえない話ではないでしょうか?」

 

順序だてて説明をした皆光に、元康はホッと胸をなでおろしたと同時に半蔵の忠告が正しかった事を悟る。

 

「なるほど〜。半蔵さんが忠告を出した意味が分かりましたぁ」

 

「ところでどんな忠告を?」

 

皆光はふと気になって尋ねてみた。

 

「それはもう・・・まるで蝮の再来だ〜とか、あの男は危険だ〜とか」

 

蝮・・・死んでませんけど。

皆光はその後も続くもはや悪口に近い半蔵の忠告に、聞かなければよかったと少し後悔した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

後日、清洲城へと主だった家臣達の招集がかけられた。

 

浅井との縁談はとりあえずは美濃を盗った暁にと持ち越しとなったが、しかし。

皆光は一人、清洲城への道すがらこれからの事を考えるが、正直言うと浅井のこれからの行動が気が気ではなかった。

 

織田が美濃を盗るまで待っているはずがない。どこかで邪魔をするか恐らくは無理矢理共闘を迫ってくるだろう、と皆光は予想している。

ただでさえ向こうの優位な状況で織田を取り込もうとしているのだ。

美濃を織田単体で落とした場合逆に近江が国力で劣る。

むしろ焦って手を出してくれた方がこちらとしては破談で済むものを・・・と皆光は唇を噛んだ。

 

皆光が大広間に入ると、既に主だった家臣達が集まっていた。

 

どうやら最後は皆光のようで皆光が入ると同時に背後の襖が閉じられ、皆光は定位置に腰を下ろした。

それを見届けた信奈が元気よく口を開く。

 

「じゃ、本格的に美濃攻略に乗り出すわよ!」

 

「いよいよ天下盗りのおおいくさが始まるんだな!あたしの腕がなる!」

 

「とは言え稲葉山城は斎藤道三どのが設計した難攻不落の山城。攻略は容易ではありません。三十三点」

 

「・・・帰り新参・前田犬千代。姫さまにご奉公つかまつる」

 

「義龍も張り切って防衛に当たってくるでしょうねぇ」

 

皆、気合十分と言った口振りで道三を見る。

難攻不落と名高い稲葉山城の生みの親。

しかし先程から当の本人は渋面を浮かべて手元の扇子を弄んでいる。

 

「甲斐の虎、日ノ本最強の甲州騎馬軍団を率いる武田信玄の勢力が急激に膨張しているわ。何年も美濃の攻略に手間取っている余裕はないのよ!」

 

「まさしく、今や駿河をも飲んだその勢力はまさしく東国一と言った所でしょうな」

 

信奈も皆光も道三を焚き付けるが一向に渋面を崩さない道三。

 

「正義は織田方にありよ!蝮からの譲り状もこちらにあるし、養父である道三を稲葉山城に帰還させて上げたいという立派な大義名分もあるわ。斎藤義龍は、養父の道三を追い落として美濃一国を奪い取った不忠者よ」

 

「しかし、美濃は斎藤義龍どのを正式な主として認め、国人どもが一丸となっております。なかなか結束は崩せますまい。二十点」

 

「とは言えそもそも道三殿も前国主である土岐氏を落としたが故の国主。今さら謀反で国主が変わったからと言って正義がこちらにある訳ではありますまい。言わば勝った者こそが正義となりましょう」

 

「坊主の言う通りじゃ。今や義龍こそ国主と認められては、ワシこそ不忠者。そうおいそれとは防衛戦を破れまいて」

 

主に知略が得意な信奈、長秀、皆光、道三は揃ってため息を吐いた。

 

「えっと・・・ただ攻めるだけじゃダメなんですか?」

 

最近になって少しはマシになったと思えた勝家だったが、相変わらず脳に筋肉が詰まっている勝家らしい強硬策を進言した。

皆光はやれやれと勝家含む全員に説明をする。

 

「そも稲葉山城を一概に攻め落とすと言うのは難しいやも知れませんな。兵糧攻めを出来るほどの日数は無く。強行出来るほど柔くもない。道三殿に集うようにと調略でも仕掛けれれば良かったんですが・・・」

 

「ワシ自身の改革で国人共はむしろこぞってワシの首を狙うじゃろうのう」

 

「と・・・言う訳です」

 

「皆光殿でも難しいですか?」

 

恐らく、一手、一手を確実に進めていく事が苦手な信奈と勝家ではまず無理だろう・・・と皆光は悩むが、唐突に長秀から問いかけられた皆光は、裾に腕を通しながら少しばかり悩む。

 

「火計でも仕掛けることが出来れば・・・何とか。むしろただの城攻めであればこうも悩むことはないのですが・・・」

 

「火計!?稲葉山城を燃やすの?ダメよ!絶対だめ!」

 

皆光は信奈を親指で指差しながら

「姫様がこれですからねぇ・・・」

とおどける。

 

「これって何よ!これって!じゃあ何?自分じゃできません〜って素直に言いなさいよ!」

 

「姫さま、皆光殿も真剣にお考えなのです。全く・・・十点です」

 

肝心の知の要の二人がこれでは・・・と信奈もガッカリする。

むしろ信奈の無茶ぶりのせいだと皆光は声高々に指摘したかったが。

 

「ぬぅ・・・道三どの、一見難攻不落の稲葉山城にも、弱点があるんだろう?」

 

勝家のその言葉に、その場にいた道三と勝家本人を除いて全員が少し飛び上がった。

((((賢くなっている?))))

 

「あんまりじゃないかぁ・・・」

 

思わず肩を落とす勝家だったが、むしろ毎回強行といった案しか出さないのだ。

仕方ない。

 

「そうがのう、勝家どの。なくもなかったがの・・・今は・・・」

 

ー甲斐の虎、越後の軍神をもってしても落ちぬじゃろうー

 

設計者本人がいる事で幾分か楽観視していた美濃攻略だったが、東国の両雄でも落ちないと言う道三の言葉に皆、絶句した。

もちろんそれは、皆光も含まれる。

 

しかしなるほど・・・と皆光はひとり納得する。

 

稲葉山城が落ちぬ理由と稲葉山城を落とす方法を。

 

「堅牢な城、優秀な将、精強な兵、そして最後は・・・」

 

道三は何やらガビーンとした表情をしているが、皆光は隠してはいるが未来人である。

様々な参考文献を読み漁った生粋の歴オタである。

 

「軍師・・・の存在でしょうか?」

 

全員がひとしきり悩んだ後、最初に答えを出したのは長秀だった。

勝家はまだしも、信奈には気づいて欲しかった皆光だったが。

 

「それも・・・道三殿以上となりましょう。恐らく私でも・・・いえ、比べるのもおこがましいでしょうな」

 

「あんた以上の軍師なんているの?」

 

「姫様、私も未だ若輩ながら数多の知識を飲み込んできた身。その者が私の予想通りでありますれば・・・恐らく長良川の戦い、その者がおれば私はこの場にいますまい」

 

皆光の目は至って真剣。

と、言うよりかは何やら目を爛々と輝かせている。

 

「その者、三国の伝説として語られる大軍師、諸葛亮孔明と並び今孔明と称されるほどの者。いつかは知恵を交えたいと思っていましたので」

 

その熱意に皆若干引くが、それよりも重大なのは・・・

ー皆光が敵わないー

それほどの天才軍師が相手にいると言うこと。

 

「ふぉっふぉっふぉ。流石は東海の謀将。実際やつはこれまで世に出ることを嫌いずっと隠れておった、その者の名は竹中半兵衛。ワシが伏して臥龍と呼んでおったものよ」

 

「ちょっとお待ちを。私はそのような名で呼ばれておりますので?」

 

皆光は半兵衛よりも、自分の称号に疑問を抱いた。

 

「うむぅ、坊主は今や、引く手数多の大軍師としての名を世に知らしめた。むしろよくぞここまで頭角を隠しておったと思うておった所よ。結果としてはまぁ、当然じゃの」

 

いつの間にやら世の軍師と並び称される自分に、皆光は気恥しさからか少しばかりしかめっ面をする。

 

「この日ノ本には、実は二人の大軍師が隠れておる。この二人を味方に付ければ、天下は容易く盗れるであろう。まずは美濃の竹中半兵衛が臥竜、もう一人が鳳雛、鳳の雛じゃ。そやつが播磨の黒田官兵衛じゃ」

 

その名を聞いてまたもやいきり立つ皆光に、またもや家臣一同若干引く。

 

両方とも後世に名を残す大軍師である。

両兵衛とも称され、秀吉の天下があったのはこの二人を召し抱える事が出来たからとも言われるほど。

 

そこで皆光はふと一人気付いた。

この時代・・・というよりもこの世界では木下藤吉郎、後の豊臣秀吉は戦死している。

ある意味皆光はその後釜の位置にいるのだ。

 

粛々と話し合いが続き、とうとう信奈の堪忍袋の緒が切れた。

竹中半兵衛が陰陽師であるとの情報に、古めかしい物や異能、神を信じない信奈は美濃へ出陣すると言い始めたのだ。

 

颯爽と席を立って駆け出して行った信奈を追う家臣達。

しかし最後まで残っていた道三と皆光は意味深気に目配せをする。

 

「坊主。信奈どのは恐らく破れるじゃろう」

 

「分かっております。ですが私は軍師、お諫めは出来ずとも、知略を働かせるのが私のつとめでありましょう」

 

「じゃが別働隊も欲しい・・・違うかの?」

 

「よくお分かりで。川並衆と私の私兵を半分、忍び衆をお貸しします。最悪はそれで」

 

「すまぬな」

 

信奈の知らぬところで、男二人静かに背中合わせで打ち合わせをする。

それはひとえに、信奈を死なせないが為に。

 





ようやくもう少しで半兵衛ちゃんが登場する当たりまで来ることが出来ました。

これもひとえに皆様のおかげでございます。
誠にありがとうございます。
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