謀っ子世にはばかる〜織田信奈の野望   作:☆蛇☆

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いつもこの作品を読んで頂き誠にありがとうございます。
投稿期間が少し短いですが、それには理由があります。
明日から五日間程、出張に行くことになっておりますので、その間残念ながら執筆活動をする事が出来ません、そのお知らせをさせて頂きます。
誠に勝手ながら、次回の更新予定は、七月十二日以降となってしまいますので、ご了承お願い申し上げます。


尾張と美濃の知恵比べ

 

 

 

義父・道三が奪われた美濃を奪回する。

 

信奈率いる総勢千二百の尾張勢は夜影に乗じ、木曽川を渡って美濃領へと侵入した。

 

先鋒は尾張一の猛将・柴田勝家

中軍は本隊として大将・織田信奈

他 丹羽長秀・犬千代

後詰は尾張最弱・津田勘十郎信澄

 

皆光は、中軍に軍師として従軍していた。

皆光の元には、五右衛門と奏順、そして私兵二百が居るが、いざと言う時の全軍指揮権は皆光にある。

 

目指すは堅城・稲葉山城。

 

パラパラと美濃勢が散発的に攻めてきてはことごとく打ち破り、まさに破竹の勢い。

尾張勢は、先の戦勝もあり、異常な程士気が高い。

 

だが、皆光は嫌な予感を胸に抱かずにはいられなかった。

 

(尾張勢が・・・勝ち過ぎている)

 

「順調ね。まさしく勝ち戦。このまま行けばすぐにでも稲葉山城は落とせるかもね」

 

先鋒の戦勝報告に、能天気そうな口振りでそうこぼす信奈だったが、皆光はむしろその連勝報告が、織田の敗北のカウントダウンの様に聞こえる。

 

「お味方の士気も高い。今がまさしく、攻め時でしょう。七十点」

 

信奈の発言に肯定的な意見を出す長秀だったが、それに待ったをかけたのは皆光だった。

 

「ですが、些か勝ちが過ぎまする。ここは敵地、言わば敵に地の利があります。今までは散発的な攻撃でしたが、ここからどのような策が待ち受けるか」

 

「何よ?あんたらしくもない。その為にあんたがいるんでしょ?」

 

信奈の発言に思わず青筋を立てる皆光だったが、言っていることは正論である。

軍師は皆光・・・ならば、敵の策を看破するのが皆光の仕事なのだ。

 

「ですが・・・皆光殿の言い分も分かります。確かに破竹の勢いで進軍する我が軍ですが今この状態で背後でも取られたら・・・と言うことを考えるとお味方の状況は五十点です」

 

五十点、確かに高くもなく・・・低くもなく、曖昧だが的を得ている・・・と馬上で皆光は考え込む。

 

(背後を取られる?だが、背後には後詰の軍がいる。問題は連勝していること。敵を誘い込むならば死力を尽くして戦う薩摩の釣り野伏が主流・・・ならばあっさり引いていくのは何故だ?)

 

一人考え込む皆光は、ふと思い出した。

 

(竹中半兵衛が美濃へ攻めてくる信長を打ち破ったのは確か・・・)

 

「戦勝報告の敵軍の被害は?」

 

唐突に皆光が口を開く。

 

「え?被害?」

 

信奈はキョトンとしているが、長秀は違った。何やら真剣に考え込むと、それを皆光に教える。

 

「敵方は負けると分かると直ぐに敗走した・・・と聞き及んでおりますが、どうかされましたか?」

 

皆光は、静かに口を開いた。

だが、表情は笑っている。

胸の中を占める感情は歓喜。

思わず皆光は武者震いする。

 

「もう少し早く気づくべきでした。姫様、申し訳ありません」

 

「どういうこと?相手は負け続けているのよ?」

 

「そこがまさしく。最近の勝ち戦で余韻に溺れる織田軍は負ける事を考えておりませぬ。先の連勝に疑問を持たず、我々は勝てると思い込んでいます」

 

「つまり・・・誘われていると言われるのですか?」

 

皆光達が話し込んでいると、ふと急に進軍が止まる。

気付けば、濃霧に遮られ、闇夜に乗じたのもあり、先の全く見えぬ空間へと誘われていた。

 

そう・・・誘われていたのだ。

 

「申し訳ありません!姫様!指揮権を頂きますぞ!全軍!全力で撤退せよ!理由を考えてはなりませぬ!とにかく逃げるのです!」

 

皆光はそう叫んだ。

長秀と信奈は急に何を・・・と困惑するが、皆光はそれを気にすることなく周囲を急かす。

 

「ちょ!あんた急に何を言い出すのよ!稲葉山城は目の前なのよ!」

 

「皆光殿、何故そのような事を・・・まさか臆されたのですか?」

 

だが、皆光はそれに応える余裕はなかった。

と言うよりも、信奈も長秀も、周囲で一斉に上がる鬨の声に困惑するばかり。

 

「伏兵です!これはまさしく奇策中の奇策・・・十面埋伏の計!恐らく撤退している最中でも常に伏兵は湧き続けましょう!とにかく今は逃げるのです!殿は私にお任せ下さい!」

 

撤退しつつある織田軍の本隊、既に霧に飲まれ切ってしまった先鋒は恐らく程なく壊滅するだろう。

ならば、先鋒が死に絶えきるまで持たせることが出来れば、被害はまだ三分の一で収まる。

 

だが、それを是としない信奈は、その場に居続けようとする。

 

「この程度の伏兵なんか、うち払ってやればいいのよ!」

 

「姫様のお心は関係ありませぬ!もはやここは死地!撤退路を塞がれる前に脱出せねば姫様だけではなく、家臣諸共死に絶えましょうぞ!とにかく納得出来ずとも今は逃げるのです!五右衛門!奏順!姫様の退路を開きなさい!!私の兵はこの場を死守するのです!」

 

「ちょ・・・だから勝手に!」

 

「姫!今は皆光殿の言う通りに!このままでは策を看破した意味がなくなります!お味方が壊滅してしまっては元も子もありません!零点です!」

 

歯を噛み締めながら、信奈は悔しそうに表情を歪めるが、再度長秀に、姫!と呼ばれ渋々長秀と共に撤退していく。

 

「我々は今!この場を死守します!車掛りの陣形を!」

 

そう言った皆光の部隊は、瞬時に円形を組む。

四方八方から襲いかかってくる美濃勢に、皆光は軍神、上杉謙信を真似た、車掛りの陣形をとった。

 

皆光は、この攻守に優れた陣形ならば、防衛しつつ撤退路を作ることができると思ったが、未だに慣れぬ陣形からか、思うように兵が動けていない。

 

徐々に削れ、円形が保てなくなっていく。

 

だが、見慣れぬ陣形に手間取っているのは美濃兵も同じようで、なんとかこの状況下で均衡を保つことに成功した。

 

霧も深く、本隊や先鋒がどうなっているのかが分からない中、必死に陣を回転させ続ける小早川軍に対して、容赦ない全方位攻撃が続けられる。

 

「道三殿・・・まだか・・・このままでは・・・」

 

不意に美濃勢がどよめく。

道三による、偽兵の計が成ったのだ。

 

「来たか!全兵よ!この陣形を維持したまま撤退するのです!」

 

ゆっくりではあるが、所々が欠けたままの陣形がゆっくりと撤退を始める。

 

しかし、たかが二百が霧に乗じた兵数不明の半兵衛が指揮する美濃勢相手に容易に撤退できる訳もなく、不慣れな陣形をとった小早川軍はまるで破裂するかのように陣形が弾けた。

 

「これ程とは・・・流石は竹中半兵衛ですね・・・」

 

そう言い残した皆光と兵達は、僅かな手勢で這う這うの体で尾張へと敗走した。

 

その数、・・・・・・・・・僅か十数人であった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

敗北した織田軍は、一週間の準備期間を与えられ、皆光は、その間は全て忍びによる諜報活動や、今や夢であった兵法書、兵の鍛錬、道三との会話などで忙しく日々を過ごしていた。

 

十面埋伏と言う奥義に等しい計略を最初から使ってくるあたり、未だ同等の計略を持っている可能性が高い・・・と皆光は一人頭屋敷で頭を悩ましていた。

 

あの霧が自然発生した物で無ければ、あれは陰陽術で起こした物と言うことになる。

しかし、半兵衛の厄介な所は知恵や陰陽師としての能力もそうだが、その知略を十全に発揮する指揮能力にあると見ていた。

指揮能力で言えば、織田勢は皆光よりも指揮能力に優れたカリスマの塊、信奈がいる。

信奈と同等の指揮能力か、皆光が大将として出陣するならばまだやりようがあるが、信奈がいる事によって皆光の指揮では、兵にどうしてもバラツキが生じてしまう。

つまり、戦に重要な指揮の部分がガタツキ、皆光が進言したとしても信奈は現実主義者。

皆光の進言に最初から素直に従ってくれるかと言えばそうではないのだ。

つまり、相手と比べ、兵の動きが一拍遅れてしまうのが一番の問題だった。

だが、信奈が大人しく待ってくれるかと言えばそうではない。

信奈自らが稲葉山城を落とす事を目標にしている以上、大将は信奈がするしかないのだ。

 

尚も悩む皆光の元に、信奈からの遣いが来た。

その遣いは、皆光に再度、美濃攻めに出陣されたしとの信奈からの命を伝える。

 

もはや史実なぞに意味は無いかもしれない・・・と皆光は思いながらも、了承を伝え、支度を済ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尾張勢、総勢二千五百。

 

今回は、皆光とて十全を期す為、自らの兵に川並衆、忍びを全て出し、皆光の部隊だけでも五百余りの兵力を擁する事となった。

 

「みんな、今回は行軍する路を変更するわ。美濃勢が伏せられない平原を進むの!細作(斥候)をこまめに出しながらね」

 

先鋒は、今回津田信澄。まさかの人選であるが、理由は体のいい囮である。

中軍第二軍・柴田勝家・小早川皆光

中軍第三軍・織田信奈・丹羽長秀

 

 

「姉上!この信澄、姉上の期待に応えて見事先鋒を務めてみせまする!」

 

「死に兵ですけどね」

 

皆光はおどけてみせると、信澄もさすがに慌てる。

 

「皆光も、今回だけは相手の策を看破する事だけに務めなさい!」

 

「もちろんそのつもりです」

 

その後も信奈が各重臣たちに指示を出し、朝方、織田軍は清洲城を出立した。

 

程なく木曽川を渡り、伏兵が潜みそうな野原に片っ端から織田兵が火をつけて行く。

 

それ見て、皆光は感心した。

だが皆光は何も言っていない。つまりこれは信奈の作戦だったのだ。

 

伏兵が出てきても、包囲殲滅できるように部隊を分け、方円の陣の陣を描く織田軍。

 

だが・・・その歩みはゆっくりであった。

 

 

 

 

 

幾分か進んでいくと、またもや霧が行く手を阻んだ。

しかも、嫌な風が吹き荒れている。

まるでこの霧の中が死地のようになっており、霧その物が殺気を放っているようだ。

先鋒は既に入っているだろうが、皆光はここで一度進軍を停止させるように信奈に早馬を出した。

 

「なんでこんな所で止まるんだ?」

 

疑問に思った勝家が皆光に問いかける。

 

「嫌な予感・・・と言うよりかは、この霧に威圧感があります。

この霧に入ってはならないと本能が訴えているのです。

私は唐国のある文献にて、今と似た状況を見た覚えがあります。

この先が死地になっている可能性があるのですよ」

 

「臆病風に吹かれた・・・と言うわけではなさそうだな。今回は皆光の指示に徹底的に従うように姫さまからも言われてるし、皆光に任せるよ」

 

「それはありがたいですね。誰か縄を持ってくてくれませんか?それと・・・五右衛門はいますか?」

 

「ここにおりまする」

 

皆光は五右衛門を呼び出し、五右衛門以下四人の忍び達が目の前に現れる。

一人の足軽が、麻縄を持ってくる。

皆光はそれを受け取ると、五右衛門達に腰に巻くように指示する。

 

「これでいいでござるか?」

 

何やら顔を赤くしている忍びたちだが、皆光は首をかしげ、あっ・・・と声を漏らした。

 

「いえ!私にそんな趣味はありませんからね?これにはちゃんと理由がありますから!」

 

「大将、いくら何でもこんな場所でしなくてもいいダロ」

 

「変態さんです?」

 

「・・・・・・ポッ・・・」

 

「全く、主をからかうのもそこまでにしておきないな」

 

忍び達が各々皆光をからかうが、勝家の早くしろ・・・という目線に皆光も思わず肩を落とした。

と言うよりも、何故か奏順だけは首に巻いているあたり、霧の中で締めてやろうかと皆光は一人青筋を立てる。

本人は悪戯な笑みを浮かべているが、皆光本人は最近ロリコン認定されつつあるのもあって、割と洒落にならないのでやめて欲しいと思っている。

と言うか、顔を赤くしながら、ポッなんて口で言う人は初めて見た、と皆光は心の中で右衛門に突っ込む。

 

「この霧の中を探ってきてください。私の予想が正しければ・・・この中は死の陣となっておりましょう。散!」

 

皆光の号令で、各々が霧に向かって飛び込んで行ったが、忍び達はすぐに戻ってきた。

 

「小早川氏の予想は正しかったでござるな。霧の中は、あちこちに怪しい石積みがたちぇりぇ、霧がそにょ石積みにみっちゅーしているよーでごじゃった」

 

「地面はぬかるみ過ぎて、進むのも一苦労だろうナ」

 

「入ってすぐに確認できた事から、この霧に入っていれば危なかったです」

 

「こっちも・・・・・・」

 

「つまりはこの先その石積みはかなりの範囲に及ぶ・・・という事ですね」

 

皆光は、忍び達の報告を聞きながら、やはりか・・・とひとり納得した。

 

石兵八陣・・・かの三国、孔明が使ったとされる架空の陣。

敗走する劉備を守るために敷かれた陣で、それを見た陸遜が陣から放たれる殺気に、追撃をとりやめたと言う。

その石兵八陣の中は、異なる配置で並べられた石積みにより、直進することが出来ず、石積みにより、独自の気流を生み出された風により暴風が吹き荒れ、直進できないが故に入ったものを迷わせると言う。

 

 

「なんだ?どうしたんだ?頼むから分かるような会話をしてくれよ」

 

「分かるような説明をした所で理解して頂けるとは思っておりませんよ」

 

ピシャリと言い放った皆光に、最近扱いが悪いとぷりぷり怒っている勝家であった。

 

「とはいえ、このまま湿地帯に入るのはあまりにも危険。少しばかりこの陣を崩しましょうか」

 

そう言った皆光は、目を爛々と輝かせていた。

ぶっちゃけ人生で一度も会うことは無かった憧れの陣形が目の前にあるのだ。

皆光自身は早く飛び込みたくて仕方なかったが、それをしてしまうと味方諸共なので、流石に自粛する。

 

「ではまず石積みをばらし、足元に敷き詰め進軍路を確保しましょうか。足軽の皆さん、手前からお願いします」

 

これで、ぬかるんだ地面を埋め立て進路を確保しつつ、石兵八陣に生み出された独自の気流によって寄せられた霧を晴らすことも出来るはず。

 

皆光は一人・・・微笑んだ。

 

 

 

 

石積みを崩し、地面に敷き詰め始めた織田軍を見詰める一人の男。

その男は目を細め、静かに織田軍を見つめるが、その心中は驚きに充ちていた。

 

「まさか石積みを逆に利用して悪路を埋め立てるとは、面白い輩もおるものよの」

 

だが、その男は焦ることは無い。

むしろ、石兵八陣は単体ではただ迷うだけの陣。

敵を叩くには、策を二段重ねにするのが定石である。

 

「だが、何故その地がぬかるんでいるのか。そこに気付かぬ限りは、我が策は破れんよ」

 

人海戦術により、石積みを道へと変えた織田軍を見つめる男。

 

「小早川皆光か・・・我が主に一度会わせてみたいものよ」

 

男は、軍扇を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

石兵八陣を崩す途中、迷っていたらしい先鋒を率いる信澄と合流し、先鋒隊と共に舗装を完了させ、ぬかるみに足を取られることなく進む織田軍。

 

「半兵衛ってやつも大したことないんじゃないか?」

 

「いいえ、先日の十面埋伏の計や、石兵八陣を見る限り、中々に手強い相手。むしろ私も素の知恵比べでは勝てぬでしょうしね」

 

「あたしは皆光の方がすごいと思うんだけどな」

 

「嬉しいことを言ってくれますね」

 

馬上で談笑をする皆光と勝家だったが、不意に足元から水を踏む音が聞こえることに皆光が気付いた。

 

「この水は・・・」

 

次の瞬間、急激に水位が上がっていく。

 

「まさか・・・水攻め?!だがら地面がぬかるんでいたのか!」

 

「なっ・・・なんだこの水は!?」

 

織田軍が先鋒、中軍、後詰・・・全員が湿地帯に入った瞬間のタイミングで、水を入れた上に、石積みが無くなったことで遮るものが無くなった水は、勢いよく織田軍を飲み込んでいく。

 

不意に、先鋒から悲鳴が上がる。

 

皆光が悲鳴につられ、先鋒を見ると、急な水攻めに対応出来ず、棒立ちとなっていた先鋒に向かって、美濃兵が矢を射かけているのが見える。

 

「二段構えの策・・・まさかあのような複雑な陣形を組んだ上で水攻めなど・・・」

 

だが、相手の策が成功してしまった以上は、知恵ではどうにもならない。

幸い水は動きを阻害する程度であって、泳がねばならない程の水位がある訳では無い。

 

「織田軍の進路が何故予想されたのかを考えるべきだったか・・・」

 

「皆光!どうすればいい!」

 

「水の中では姫様の誇る種子島もただの荷物・・・打開する策はありません・・・撤退です・・・」

 

 

織田軍は、この日・・・二度目の敗北を喫した。





本日も誠にありがとうございます。

未だにヒロインを決められない今日この頃。
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