謀っ子世にはばかる〜織田信奈の野望   作:☆蛇☆

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更新が大変遅れたこと、誠に申し訳なく思います。
楽しみに待っていてくださった皆様方。
更新が無くなったかと気落ちしてしまった方々。
誠に、申し訳ございませんでした。
本日をもって、正式に投稿を再開させていただきます。
ストックしていた分に関しましては、全てデータが消えてしまっているため、執筆完了次第、投稿となります。
引き続き、この小説を楽しんでいただけると幸いでございます。


美濃の軍師と尾張の軍師

 

 

 

 

ガヤガヤと人が歩き周り、あちこちから喧騒が聞こえる。

尾張とはまた違った雰囲気の町。

美濃国、金華山・・・稲葉山城の麓に広がる井ノ口の町。

 

いつもの煌びやかな狩衣では無く、きちんと武士が着るような羽織を身に付け、腰に刀を差した皆光が、動き辛そうに歩いていた。

共には、毎度お馴染み、無愛想だが優しい少女 犬千代。

そして、皆光の懐刀であり相棒 五右衛門。

皆光、そして五右衛門の配下として頑張ってくれている奏順、治宗、右衛門、定保。

 

流石にゾロゾロと色物集団で町中を闊歩してしまうと、職質ならぬ御用が来るので、尾張から連れてきた川並衆五十名は、近場の森で待ってもらっている。

 

とはいえ、今この場を歩いているのは皆光、犬千代、そして無理やり姫武将らしく変装させた五右衛門だけだ。

今回の五右衛門の任務は忍びらしさよりも、町中に溶け込む案内兼用心棒な為、目立つ忍び服よりも、それとなく町中を歩ける衣装の方が都合がいい。

最初は嫌々と首を横に振るだけだった五右衛門だが、では他の者に頼もう・・・と皆光が言うと、渋々皆光の元から衣装を奪って、現代のイリュージョン顔負けの早着替えを披露していた。

そのせいか、未だにもじもじと落ち着かない様子の五右衛門に、皆光はやれやれと苦笑する。

 

そんな五右衛門を微笑ましそうに見つめる皆光に、本人の知らぬ所で犬千代は頬を膨らませていた。

 

ちなみにほかの忍び達は、付かず離れずで護衛をしてくれている・・・と信じたい。

奏順辺りはサボっているかもしれんが・・・。

 

皆光が一人どうでも良い心配をしていると、目的地を通り過ぎようとしたのか五右衛門に裾を引っ張られる。

反射的に前を歩いていた犬千代の頭を掴んでしまい、三人が奇妙な格好で急停止する。

 

「ここでござるよ。小早川氏」

 

「おっと・・・あ〜・・・失礼ですが本当にここで間違いないので?」

 

「間違いないでござる」

 

そう言われ、その地にある建物を見る皆光。

看板には、【鮎屋】と書かれている。

至って普通の茶屋だ。

だが、その店中や、店先は何やら目付きの鋭い者達で溢れかえっており、ただの客には見えない者達が鎮座している。

 

「店側からしたら迷惑だろうに・・・」

 

皆光の感想はそれだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

茶屋の最上階。

景色の良い、言わば指定席のような所に陣取る三人組。

まぁ、ぶっちゃけちょっとした小金持ちの皆光が、店主に金をチラつかせたらここに案内されただけだが。

 

ちなみに注文も聞かれていないのに続々と鮎料理が運ばれてくる限り、ここの店主もいい性格していると思う。

 

 

 

「さてと・・・では頂きましょうか?」

 

「・・・いただく」

 

まぁ・・・支払いはできますし・・・と一人こぼす皆光に、目の前の料理に目を輝かせる犬千代。

 

しかし、五右衛門だけが私控えてますけど何か?と首をかしげている。

 

「五右衛門は食べないのですか?」

 

「拙者は・・・」

 

「お金ならば、要らない心配ですよ?」

 

うにゅうにゅ・・・と言い淀む五右衛門に、皆光はやれやれと言った表情だ。

 

「せっかくの美濃です。今回くらいは気を楽にしてもよいのですよ?」

 

「にゅう・・・そうでごじゃるか?」

 

「えぇ、一緒に頂きましょう」

 

皆光の言葉に、なんだかんだと言いつつも嬉しそうに、そそくさと料理に近づいた五右衛門を微笑ましそうに見やりながら、皆光も箸を持つ。

 

各々が食べ始め、皆光も鮎の塩焼きに手を伸ばし、口に入れる。

 

基本的に、肉より魚な皆光だが、その鮎を食べた途端涙が出そうになるほど感動する。

焼き加減は絶妙で、身が崩れると言うよりかは解けるような食感。

程よい加減の塩味。

海産の魚とくらべても、全くない臭み。

塩の飾り焼きなのか塩が多いと思いきや、あっさりとした粗塩の塩加減が絶妙で、むしろ骨にまで味があるのではないのかと錯覚できるほどしっかりと、しかし辛過ぎず薄過ぎない塩加減。

 

 

 

一匹、二匹と次々に平らげていく皆光だったが、その正面では熊の如く鮎を飲み込んでいく犬千代。

そして、思いのほかお上品に食べていく五右衛門。

 

三人静かに料理に舌づつみを打ちながら、楽しんでいると、見慣れない男性が座敷の前で会釈をしてきた。

 

てっきり他の座敷の客かと思い、丁寧な方もいるもんだなぁ・・・と皆光は思いながら、会釈を返す。

しかし、通り過ぎるどころかそのまま皆光達が座る座敷へ上がり込んできた。

刺客か?と皆光は思ったが、あからさまな敵意が見られない。

皆光は警戒しながら、その男性の所作を観察する。

 

すると物腰は柔らかそうで愛想が良い男性が、唐突に口を開いた。

 

「お若いの、半兵衛に仕官するために来られたのかな」

 

違う・・・と言いかけて皆光は考え込む。

ぶっちゃけ仕官よりも、浅井の対抗馬として邪魔するために出てきた皆光。

とは言え、嘘をついても良いのだろうか・・・と思うが、ぶっちゃけ言うと謀略なんぞ嘘まみれだ。

 

皆光が軍略特化なだけであって、戦だけで全てを解決できる訳では無い。

ここは少し、練習とするか・・・と皆光は結論付ける。

 

「えぇ、お初にお目にかかります。私はしがない素浪人・・・あ〜皆光・・・とお呼びください」

 

皆光は道三の話を思い出し、姓を伏せた。

 

「・・・犬千代」

 

「蜂須賀五右衛門でござる」

 

各々が自己紹介を済ませると、上がり込んできた男性も名を名乗った。

 

「わっちは半兵衛こと竹中重虎の叔父でな。父母を早くに失った半兵衛にとっては育ての父じゃ。名は安藤伊賀守守就。美濃三人衆の筆頭にして斉藤家の元家老じゃが、今では隠居の身よ・・・なにぶん、わっちはかつての道三殿の片腕だったのでな」

 

と半兵衛と自分の身を語る。

 

しかし皆光は驚いた。

何せ、安藤伊賀守守就と言えば、半兵衛と共に謀反した人物であったからだ。

守就は、訝しみながら皆光を見るが、話を続ける。

 

まぁ簡単に言うと、半兵衛に出世をしてもらいたい。

だが、安藤氏は義龍に信用されるどころか、謀反を疑われているという。

そして、直属の臣下がいない半兵衛に、侮られないようにと家臣を募ったらしい。

 

「なるほど・・・しかし貴方ほどの者を自身から遠ざけるとは・・・義龍の程度が知れますな」

 

「ほほぅ・・・何故そう思う?」

 

唐突に口を開いた皆光に、遠ざけられているとはいえ義龍の臣下である守就は、怒るどころか面白そうに笑みを浮かべながら、皆光に問い掛ける。

 

「義龍は謀反で父である斎藤道三から座を奪ってはおります。言わば新しき主君。多くの者が義龍に付いたとはいえ、少ないながらも斎藤道三に付いたものもいる・・・。言わば今の美濃は、まとまりに欠けるのですよ。そんな中ある程度の影響力のある者を斬るでもなく、牢につなぐでもなく・・・遠ざけるのみとは、謀反を起こしてくれと言っているようなものでしょう?」

 

「つまりわっちが謀反を考えているとでも?」

 

守就の目に鋭さが宿る。

 

「いえいえ、そういう意味ではございませぬよ。あくまで可能性の話・・・義龍が起こすことができる状況を作った・・・と言う意味です。そもそも美濃三人衆が一人であられる貴方様が旗本になれば、少なからず兵は集まりましょう?」

 

道三の片腕であったはずの守就は道三を裏切り、義龍へと寝返っている。

そして、一度寝返ったものは・・・。

 

【状況次第で何度も寝返るだろう】

 

もしかすると・・・。

 

(稲葉山城は容易く落ちるかもしれませんね)

 

ふふふ・・・と皆光が怪しい笑みを浮かべる。

 

険しい顔をしていた守就だが、皆光の話を聞いて、面白そうに険悪な笑みを浮かべた。

 

「お主ら・・・腕に自信は?」

 

「刀、弓、槍と広く浅く・・・ですが私の武器は、知恵でございます」

 

「犬千代は・・・槍なら・・・負けない」

 

「拙者は忍びでござる」

 

守就は満足そうに頷いて、

 

「よし・・・雇うとしよう」

 

と言い放った。

 

(上手く行けば・・・美濃を二つに割ることが出来るかも知れませんね・・・)

 

織田の軍師は、一人怪しく微笑んだ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

仕官が決まり、三人は守就に案内されて、半兵衛の待つ奥の屋敷へと向かう。

 

急に人気が無くなりましたね・・・と一人思う皆光に、犬千代が袖を引っ張って、どういうつもりか?と目線で合図してくる。

 

ここを出る前、浅井の邪魔をすると言う名目だった半兵衛への接触が、あれよあれよと仕官の話になっている事についてだった。

 

「安心してください・・・。私の主君は姫様のみです。ですが今は少しばかり・・・お付き合い願います」

 

そう言った皆光に、渋々といった犬千代。

 

そんな犬千代と、なにか不審なものはないかと目を光らせる五右衛門と共に、皆光は奥座敷へと足を踏み入れた。

 

そこには、行商人・・・・・・成金趣味っぽさを出した行商人の格好で正座をする美青年が一人で座っていた。

 

「おやおや・・・やはりと言った所でしょうか・・・」

 

「貴方は・・・」

 

皆光は予想通り・・・と涼しい顔。

それに反して美青年・・・浅井長政は顔を顰め、まるで出会いたくないものに会ってしまったと嫌そうな表情をうかべる。

 

「あいも変わらず・・・悪知恵を働かせているようですね」

 

「なんの話やら。私は貴方と初対面だ。私は近江商人・桝屋の一子、猿夜叉丸と申すもの」

 

「左様でしたか。これはこれは失礼を・・・私は素浪人・・・お気軽に皆光・・・とお呼びください」

 

お互い腹を見せるに至らず。

しかしながら、浅井長政は、皆光へ何やら苦手意識を持っているのか、少しばかり渋い顔をしている。

 

(浅井長政・・・謀(はかりごと)にはあまり向いていない・・・か)

 

皆光が口を開くと何を言い出すか分からないと、長政は静かに心を落ち着かせ、半兵衛を待つこととした。

 

皆光も、これ以上の詮索は無用・・・と静かに座り込む。

共に来た配下の五右衛門と、皆光の配下ではないが、一応お目付と言う役目の為に、皆光より一歩引いた位置で二人が座る。

 

「それではわっちは下の階に集まっている貧乏浪人共を解散させるとする。ああ・・・もうじき半兵衛が来るじゃろうが、命が惜しくば、決して半兵衛を怒らせぬようにな。キレると何をしでかすか分からぬからな。」

 

そう言って出ていった守就を後目に、座敷の中に気まずい雰囲気が流れる。

お互い初対面と言う設定上、容易に話しかけることもままならない。

それにここは敵地である。

情報を落っことそうものなら、どうなるか分からない。

しかも相手は半兵衛である。

 

皆光は、久々に体が震える。

 

皆光にとっては、アイドル的存在の竹中半兵衛。

 

ただ・・・願わくば・・・。

 

(幼女でありませんように・・・)

 

これだけは願っとかねば・・・と皆光は強く祈った。

 

 

気まずい雰囲気が続く中、不意に目の前に風が吹く。

 

 

 

はて?こんな室内に風が?と皆光が不思議がった時、気付けば白面長身の青年が目の前に寝そべっていた。

 

「お初にお目にかかる。いかにも、俺が竹中半兵衛重虎」

 

「ほほぅ・・・」

 

「この私が気配を感じ取れぬとは?いつの間に?」

 

「・・・腰が・・・腰が・・・」

 

「・・・なんと・・・」

 

各々が様々な反応を見せる中、半兵衛のくすくすと言う声が、異様に響く。

 

(今孔明!竹中半兵衛!寝てる!孔明みたいですね!劉備もこんな気持ちだったのでしょうか!?)

 

一人興奮する皆光に、油断なく半兵衛を見つめる五右衛門、へたり込んでしまい、腰をさする犬千代、驚きのあまり、開いた口が閉じきらない長政。

 

姿勢を正し、冷めやまぬ興奮に身を震わせながらも、皆光は口を開いた。

 

「お・・・お初にお目にかかります。私は皆光と申します。どうぞ、お見知り置きを」

 

「・・・犬千代・・・皆光の妻・・・」

 

「はいはい。冗談はそこまでにしておいて下さいね」

 

「・・・でも一緒に住んでる」

 

「はぁ・・・こちらは居候の犬千代です」

 

皆光は胃の辺りを抑えた。

 

「拙者の名前は蜂須賀五右衛門ともし・・・申す」

 

どことなく一気に機嫌が悪くなる五右衛門。

 

「私は近江商人桝屋の一子、猿夜叉丸。しかし・・・半兵衛どのはおなごだと聞いていたが・・・」

 

ふん・・・やはり常套手段に出るつもりだったか・・・と皆光は腹立たしそうに長政を見やる。

 

「ふ、ふ、ふ。俺はこのとおり、水もしたたる美男子だ。あてが外れたな、浅井長政どの」

 

どことなく悔しそうな表情を浮かべる長政。

 

「そして・・・そちらはどうやら珍しいお客様のようだ・・・。尾張・織田家の軍師・・・小早川皆光殿」

 

「おや、バレていましたか」

 

まぁ・・・偽名どころか名前は本物ですしね・・・と皆光は肩をすくめる。

 

「なに、俺は一度皆光殿の指揮する姿をこの目に収めておりまする」

 

「なるほど・・・そういう事でしたか」

 

はて・・・どのタイミングだろうか・・・と皆光は考えるが、逆に多すぎてさっぱり分からない。

 

「皆様方。遠路はるばる、井ノ口までよくぞお越しなされた。まずは、みたらし団子と粗茶をどうぞ」

 

そう言って半兵衛が手を叩くと、町娘姿の少女が一人、ふらりと部屋に入ってきて、目の前に団子とお茶を置いていく。

 

「獣耳?」

 

世が世ならどこぞの葉原で大歓声間違いなしな姿をした少女は、そのまま退室していく。

 

「その娘はわが式神の後鬼ですよ」

 

「ほう・・・人形(ヒトガタ)では無いのは初めて見た気がしますなぁ」

 

「ほう?人形をご存知とは珍しい」

 

「様々な知識を蓄えてきましたが、その中には、安倍晴明なる陰陽師の者の事も含まれますゆえ・・・」

 

「我が始祖・晴明公をご存知とは、流石は皆光殿だ」

 

ま・・・まぁ映画で見ただけですが・・・と言えるはずもなく、微妙な顔で賛美を受け取る皆光。

 

そして、差し出されただんごを食べるように勧める半兵衛に、皆光は静かにだんごを見つめる。

 

長政は嫌そうに皿を押しやっていたが・・・・・・。

静かにだんごを見つめる皆光に、犬千代は怪訝そうに皆光を見つめながら、だんごに手を付ける。

 

「別に毒なぞ入れてはおりませぬ。さぁ、温かいうちに」

 

勧められるがままに、皆光もだんごを手に取る。

そして・・・・・・。

 

犬千代が口にだんごを入れる直前、皆光が犬千代の口を手のひらで塞いだ。

 

「・・・むぅ〜・・・まぅまぅ・・・」

 

犬千代が講義の声を上げるが、皆光の目は鋭い。

 

「半兵衛殿?これはなんの冗談で?」

 

皆光のその言葉に、後ろで静かにだんごを食そうとしていた五右衛門の手が止まる。

 

「冗談などと・・・」

 

「このだんご・・・手に持った途端、何やら表層がブレましたぞ。毒は入っていないかもしれませぬが・・・何やら術が入っておられるのでは?」

 

実際、皆光がだんごを手に取った時は分からなかった。

しかし、持ち上げた途端、少しばかりだんごに残像のような物が目に入ったのだ。

持ち上がるだんごが一瞬だけ・・・まるで皿にだんごが置いていかれたかのように・・・。

 

皆光の言葉に先程から笑みを浮かべていた半兵衛の顔が少し強ばる。

 

皆光はどうしたものか・・・瞳を閉じながら考える。

半兵衛の表情に緊張の色が伺える上に本人は否定の言葉を発する事も無い。

 

(暗殺・・・にしては雑・・・やるならば毒でも入れた方がよっぽど確実ですが・・・陰陽術に何か利点があるのでしょうか?だとすれば私如きに見破られる程度のものを使うでしょうか・・・)

 

無言で半兵衛を見つめる皆光に、何か命令が下っても直ぐに動けるように腰を少し浮かし、忍刀に手を掛ける五右衛門と朱槍に手を添える犬千代。

 

そんな二人を気にする様子もない皆光に、二人の視線が突き刺さる。

 

(暗殺は恐らくない・・・何せこの御仁は私と浅井長政の正体を見破った上でこのだんごを出した・・・。長政と私を暗殺すれば織田所か確実に浅井長政の父・・・久政が出てくる・・・。下手をすれば両国同盟国・・・朝倉、松平と四つの国から攻められるとなれば流石の大国・・・美濃は滅ぶ。それは流石の半兵衛も望む所ではないはず・・・)

 

長考していた皆光は閉じていた瞳を開いた。

 

「ま、死ぬ訳でも無さそうですし、陰陽術がかかった物なんて次にいつ出会えるか分かりませんしね。ここは潔く・・・頂きましょうか」

 

これは賭けだ・・・と皆光は覚悟を決める。

皆光は五右衛門と犬千代に二人は食べないように・・・と伝えた。

 

皆光はこれも何か・・・ひとつの挑戦であると受け取った。

故に食べても死なない・・・何かしらの作用はあるかもしれないが、そう考えた皆光はだんごを手に取ると、すかさず犬千代と五右衛門が皆光の腕を掴んだ。

 

「ダメでござる小早川氏!小早川氏が死んでしまっちぇは拙者は川並衆はどうしゅればよいでごじゃるきゃ!」

 

「・・・食べないで・・・皆光が死んだら・・・みんな悲しむ・・・」

 

幼女に抑えられるという珍妙な姿の皆光は、優しい笑みを浮かべながら、二人を見つめる。

 

「大丈夫・・・死にはしませんよ」

 

一体なんの自信があってそう言うのか、と二人は皆光を見つめるが、皆光はそれ以上何かを言うことは無かった。

 

皆光を抑える二人は、かなり強く抑えているが、皆光もそれを無理に解こうとはせず徐々にだんごを口に運ぶ。

 

 

 

 

 

ーそして、口に入る直前ー

 

 

 

 

 

 

三つ目の手が・・・皆光の腕に添えられた。

 

皆光は、驚きに目を見開く。

 

手を差し伸べたのは・・・長政・・・

 

 

 

ではなく、だんごを勧めた張本人・・・竹中半兵衛その人だったのだから。

驚きで固まる皆光の手から、五右衛門がだんごを奪い取る。

 

「何故・・・貴方が・・・」

 

五右衛門と犬千代は、どういうつもりかと半兵衛を睨みつけているが、半兵衛は何やら呟く。それを皮切りに、だんごと傍にあったお茶が、その見た目を変貌させた。

 

味噌だんごは、異臭を放つだんごへ、お茶は黄色がかったこれまた異臭を放つお茶へ。

 

一瞬で姿形を変えたその姿に、流石の皆光もすぐさまだんごを皿に置く。

 

「何故・・・止めたのですか?」

 

そう問う皆光に、少しばかり目を伏せた半兵衛は、呆れた表情で皆光を見つめ口を開いた。

 

「なに、簡単な事よ。・・・・・・もう良いか?半兵衛」

 

皆光は、一瞬目の前の半兵衛が何を言ったのか分からなかった。

竹中半兵衛ならば自身の目の前にいるではないか・・・と。

しかしこの男は、ここにいない誰かを半兵衛と呼んだ。

 

皆光は、ギョッとして周囲を見渡すが共に来た犬千代と五右衛門、そして同じように惚けている浅井長政・・・そして、まるでイタズラが成功した時の子供のように口角を歪める竹中半兵衛、そして柱の影からこちらを見つめる少女。

 

「ん?」

 

今一人多かったような・・・。

 

皆光は首を傾げ、もう一度周囲を見渡す。

 

犬千代、五右衛門、長政、半兵衛、いない。

犬千代、五右衛門、長政、半兵衛、少女。

犬千代、五右衛門、長政、半兵衛、少女。

 

「んんん?!」

 

思わず皆光は唸った。

すると、先程から柱の影からこちらを覗いていた少女が、声を上げながら柱の影に隠れた。

 

「・・・・・・きゃっ・・・い、い、いぢめないで・・・ください・・・」

 

「声を上げてしまっては意味ないのでは?」

 

思わず突っ込んでしまったが、まさか彼女が半兵衛とは言うまい?と皆光は柱を凝視するが、出てくる気配はない。

 

見かねた半兵衛(男)が柱に向かい、柱の裏から少女の背を押してこちらへと戻ってきた。

 

その少女は、泣きそうな顔で背後にいる半兵衛(男)に助けを乞うような視線を向けているが、それを意に介さずに少女の肩をその場で固定した。

 

大きな黒い瞳に小柄な体躯、まるで子栗鼠のような可愛らしい少女は、少し震えながらこちらに向かって挨拶をした。

 

「竹中半兵衛重虎・・・十四歳です・・・い、いぢめないで・・・くださぃ・・・」

 

「はいぃ〜?」

 

「は?」

 

「なんちょ・・・」

 

「ちっちゃい・・・」

 

皆の反応は様々なれど、ひとつだけ・・・皆共通して思ったこと・・・それは。

 

((((まさか・・・この子が竹中半兵衛?))))

 

そのまさかである。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「まさか私達織田が手をこまねいていた相手である竹中半兵衛がこの子とは・・・では、あなたは?」

 

「俺は竹中半兵衛の影武者こと前鬼、普段は酷く人見知りな我が主こと竹中半兵衛の代わりに人払いをしている」

 

皆光は頭が痛いと頭を抑えながら、半兵衛(男)・・・ではなく前鬼と話していた。

その間もずっと半兵衛は前鬼の前で震えながら、皆光を刀で突き回しては、いぢめるかどうかを問うていたが。

すると襖が開き、浪人達を帰し終えたであろう安藤伊賀守が戻ってきた。

 

「どうやら半兵衛との顔合わせは無事済んだようじゃの」

 

「これで無事に見えるのならば医者に行った方がよろしいと存じますが」

 

先程から突き回され、少しばかり赤が目立ってきた皆光は、安藤伊賀守をジト目で睨みつける。

 

「申し訳ない、皆光殿。この子は幼き頃から病弱・気弱・ちびっ子といういじめられっ子の役満大三元とも言うべき娘での。初対面の相手に式を打ったり罠をかけたり不意打ち攻撃したりして、相手が怒って自分をいじめる人物かどうかを試す癖があるのじゃよ」

 

「むしろそこまでされれば正当防衛成り立ちませんかね?」

 

とまぁ、そう言いつつもやり返さないあたり、皆光も理解はしていたのだろう。

 

(そのような子が・・・憧れの半兵衛殿とは・・・少しばかり複雑ですね)

 

皆光にとって、この少女は日ノ本の大軍師。

憧れの存在であるが、幼女に憧れるとは少しばかり胸中複雑なのだ。

決して・・・皆光はロリコンではない。

 

確かに、未来で伝えられた通り、病弱で色白そうな美青年・・・と言う特徴は捉えられている。

だが、病弱そうで色白の部分に足して、いぢめられっ子な上にちびっ子で気弱で美青年ではなく美少女?幼女?になっているとは誰も思わないだろうが。

 

「あの・・・いい加減つんつんするのやめて貰えませんか?よしよし・・・」

 

「いぢめたくなったでしょう?・・・くすんくすん・・・」

 

先程からつんつんが徐々にサクサクに変わりつつあるのを恐れ、思わずやめて貰えないかと頼み込みながら半兵衛の頭をよしよし撫でるが、半兵衛は半泣きで撫でられながら皆光をつんつんしている。

 

「お四方!いきなり一足飛びに斎藤家の軍師となった半兵衛を妬む家臣は大勢おる!明日の稲葉山城出仕の際に半兵衛が虐められて切れぬよう、くれぐれも守ってやってくれい!」

 

「勿論・・・お任せ下さい・・・いただただ」

 

「・・・怒りましたか?・・・ぐすん・・・」

 

「怒ってませんよ・・・」

 

 

 

 

 

 

(はぁ・・・この時代はどうなっているのでしょうか・・・)

 

とにかくまた味の濃い幼女が出てきたな・・・と皆光は困り顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

翌朝、半兵衛一行は、通称稲葉山と呼ばれる金華山を登っていた。

斎藤義龍の居城・稲葉山城は、この金華山そのものを天然の要塞と巨大な山城で、標高三百三十メートル。すぐ北には清流・長良川が流れ、東には恵那山と木曾御岳山。更に西には伊吹山・養老・鈴鹿といった山々。城下町の井ノ口から南へ下ると急流・木曽川が流れている。

天然の城塞として現代でも有名な稲葉山城。

山々は天然の要塞と化し、また、伏兵や遊撃戦を得意とした地形。そして川幅の広い長良川、龍が如き激流の木曽川により、兵要らずの前線を構築する事も可能であるとも言える。

また、陰陽道の理にかなった方角に立てられた稲葉山城には、京の北東、鬼門の方角を守護する比叡山に比すことができる。

まさしく難攻不落。

 

(全く・・・なんとも厄介な城塞であることか・・・)

 

 

半兵衛による新参家臣達への稲葉山講座を聞いた皆光の稲葉城に対する感想はそれだった。

 

「井ノ口の町を王城と見立てればまさしく【背山臨水】。井ノ口の町と稲葉山城は、陰陽道の理にかなった王都と言えます。天下の望む蝮さまや、織田信奈がこの城にこだわるのも分かりますね」

 

「なんとも厄介な城を建てたものです。山城の弱点とも言える火攻めは、近場の巨大な水源のせいで効果は薄く・・・兵糧攻めを仕掛けようにも、こうも山々ばかりでは攻城側の陣が薄くなってしまう。その最中で中濃の斎藤家家臣達の援軍が到着すれば、織田は程なく滅ぶ・・・これ程攻めずらい城は滅多にないでしょうね」

 

「よくご存知ですね。流石は長良川の英雄と謳われる方です」

 

皆光は思わずニヤけそうになる顔を抑えながらも、半兵衛が己を知っていてくれた事を素直に喜んだ。

 

「たまたま、私の策が上手く嵌っただけですよ。二度もやれと申されますと、流石に無理でございましょう」

 

「それでも、かの戦ぶりはこの半兵衛・・・感服致しました。一度こうして、お話をしてみたかったんです」

 

「それはまた何故?」

 

「私はまだまだ未熟ですから・・・新しい知識をもっともっと知りたいんです。新しいことって、素敵だと思うんです。皆光さんの長良川でのご采配、もしあの場に私がいれば・・・と思うと・・・胸が踊るんです」

 

「勘弁してください・・・。あの場に半兵衛殿がおられれば、私も道三殿も、生き永らえる事は不可能だったでしょう」

 

実際、あの場に半兵衛がいた・・・そう考えるだけでも、身震いする皆光に、半兵衛はクスリと笑った。

 

「皆光さんは不思議です」

 

「何故?」

 

「怖くないんです。先代の蝮さまはそれはもう・・・ぶるぶる・・・新しい国主の義龍さまはおっきいですしで怖いです。でも、皆光さんは初めてお会いするのに・・・怖くないんです。前鬼さんに試してもらったり、刀で突いたりしても怒りませんし、むしろ笑顔で・・・その・・・すいません・・・くすん・・・」

 

「ふふふ・・・貴重な体験をさせて頂きましたし、傷もさほどですし、おあいこですよ。確かに、私の道三どのに怒鳴られた時は少しばかり怖かったです。ですが、人は見かけによりません。お話をしてみれば、ただのお優しい茶好きのひひ爺ですよ」

 

皆光と半兵衛が話している背後から、五右衛門が

「道三どのに怒鳴られても飄々としていたのは誰でごじゃったか・・・うにゅうにゅ・・・」

と言葉を漏らすが、その言葉を皆光は無視する。

五右衛門は後ろでむくれているが。

 

「仲のよろしいことで、何よりですな、さて、そろそろ登り終えますぞ!半兵衛が虐められぬよう、しっかりお頼み申す」

 

「ひっ!?いぢめるんですか?ごめんなさい・・・いぢめないで・・・」

 

「安藤伊賀守・・・あなた口を開かぬ方がよろしいのでは?」

 

とにかく、ようやく

 

この時代、未だ天守閣なるものは存在せず、稲葉山城の見た目はどちらかと言えば大型の館のような佇まいだった。

だが、それでも充分な貫禄を放つ稲葉山城に、皆光は思わず喉をならした。

 

皆光は静かに背後にいる五右衛門に、文をチラつかせる。

五右衛門は不自然にならぬよう、静かにその文を受け取ると静かに読み、それを合図に、今まで忍びらしく物音立てずに歩いて着いてきていたのをやめ、足音を立てて普通に歩き始める。

 

皆光は、背後で四人の忍びが散ったのを確認し、足を止めた。

 

(知恵を出すにはまず情報から・・・)

 

皆光の稲葉山城攻略に向けた足取りは、既に始まっているのである。

 

「・・・必ず落として見せましょう」

 

「何か言われましたか?」

 

独り言を呟いた皆光に、半兵衛は首を傾げて問いかけるも、皆光は笑顔で口を開いた。

 

「いえ、なんと壮観な城でしょう・・・と零しただけですよ」

 

皆光は、一人静かに笑みを深めた。

 

 

 

 

 





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