謀っ子世にはばかる〜織田信奈の野望   作:☆蛇☆

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いつも、この小説をご覧頂き、ありがとうございます。
仕事の合間・・・という事と、何とも難産だった事もあり、少しばかり投稿に時間をかけてしまった事を謝罪させていただきます。
書いた日にちが違うため、筋書きメモや、文のつなぎがおかしい所があるかもしれませんが、そういった場合はご報告をお願い致します。
アンケート結果が素晴らしくハーレムに寄りつつあることに冷や汗を流しつつ(作者はとにかく恋愛描写が苦手なため)これからも頑張って執筆させていただきます。




平定

 

もう少し・・・もう少しで・・・届く。

 

朦朧とする意識の中、暗闇に閉ざされる前に・・・と皆光は一歩、また一歩と確実に歩みを進める。

そして・・・皆光の手は・・・目的の物を掴んだ。

 

「・・・・・・届いた・・・さぁ・・・合図を」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「まだ、皆光達からの合図はないの?」

 

緋に染まる金華山・・・稲葉山城を見上げながら、信奈少しばかりの心配をその瞳に写し足を揺すっていた。

周囲の砦を落とし、完全に包囲された稲葉山城、しかし、その立ち姿は未だ沈黙を破らず。

 

「姫さま・・・皆光達は大丈夫でしょうか・・・」

 

・・・・・・そんなもの・・・自分が知りたいとばかりに勝家へと目を向ける信奈。

彼女とて、生存の確率が低い策に、自身の家臣を旅立たせてしまった事に負い目が無いわけではない。

 

その直後・・・・・・。

 

パァーン・・・と何かが炸裂する音がした。

種子島か?!と思わず皆姿勢を低くし頭を抱える。

しかし、信奈だけは、そんな喧騒の中床几から立ち上がり稲葉山城を見つめる。

 

「勝ったわよ、六!今こそ、総攻めよ!」

 

「えっ・・・ちょ!姫さまぁ〜!皆の者!姫さまを追いかけろぉぉ〜!」

 

勝家を置いてすぐさま本陣を飛び出した信奈。そんな自身の主君へと、情けない声を上げながら追い縋る勝家。

しかし、そんな皆の表情は、・・・笑顔に濡れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稲葉山城・本丸〜城門

 

皆光は・・・ズルズルと門を背に崩れ落ちた。

正面から受けた刀傷は、肩から脇腹へと皆光の体を引き裂いており、その場所は・・・奇しくも柴田勝家に斬られた刀傷の上をなぞる様に走っている。

 

「小早川氏!手当てを!」

 

五右衛門が急いで駆け寄り、何処に隠し持っていたのだろうと疑問になるほど、綺麗な布や薬などを取り出した。

奏順は任務の完了を、焙烙玉を天に投げる形で知らせる。

 

「・・・・・・何故・・・首を狙わなかったのかな」

 

皆光が五右衛門の手当てを受けていると、ふと・・・皆光へ声が掛かる。

そこには、肩を斬られ・・・地面に倒れ込んでいる少女がいた。

斎藤龍興・・・此度の美濃動乱の真の首謀者であり、土岐市から道三へ・・・そして道三から義龍へ二度に渡った美濃・斎藤家下克上・・・そして・・・義龍から龍興へと下克上三度目を引き起こした人物である。

 

皆光と龍興の一騎打ち。

皆光は経験の浅さから、龍興はその体力の無さか、何とか互角へと持ち込み最後の斬り合いを果たした。

結果は見ての通り。

皆光は正面から龍興の刀を受け、龍興もまた、皆光の刀を受けた。

 

龍興の傷は、左肩から左の肩甲骨を大きく斬り裂かれており、その傷は・・・致命傷ではないものの肩の筋肉を大きく損傷させ恐らくは腕の神経までも断ち切っているであろう事が容易に想像できる。

そんな痛ましい姿で・・・血溜まりに沈む龍興は、未だ意識を保ち、長井道利の手当を受けていた。

 

「さぁ・・・首を狙ったはずだったのですがね・・・」

 

龍興の問いに、皆光ははぐらかす様に言葉を濁す。

実際皆光は、龍興首を跳ね飛ばすつもりで、お得意の不意打ちを放った。

正面から斬り結ばず、自身も一太刀を受けるつもりで仕掛けた不意打ち。

しかし、皆光はこの少女を斬ることが出来なかった。

首を狙った一撃は、皆光の気の緩みから刀へと伝わり、太刀を支える力を失わせた。

結果、太刀は軌道を首から肩へと変え、その肩を深く抉った。

龍興とて、皆光を殺すつもりで斬った。

しかし、一太刀を受けるつもりで重心を後ろに向けた皆光によって、その一太刀は浅くは無いものの皆光の命を斬るまでには至らなかった。

 

「僕も・・・君も・・・結局は甘かったというわけだね・・・」

 

「・・・そのようで・・・」

 

龍興は、殺すつもりで放った一撃・・・しかし、素人である皆光が重心を下げるだけで殺せなくなる一撃を、全力とは言わない。

 

互いに・・・沈黙が被る。

稲葉山城へと攻め入る連合軍の鬨の声が、徐々に稲葉山城を侵食しつつあるのがよく分かる。

 

「僕は・・・負けたんだね」

 

「・・・・・・はい・・・」

 

「・・・結局は・・・斎藤家は織田に勝てなかった訳だ・・」

 

父は、志で負け。

息子は、器で負け。

娘は、勝負に負けた。

美濃斎藤家は、誰一人として・・・織田のうつけには勝てなかった。

龍興は、そう言いたかったのだろう。

 

「・・・それもまたいいさ。うつけ姫と揶揄される彼女のその姿に・・・僕達は騙されただけなのだから・・・」

 

「・・・騙しては・・・あ〜・・・いないと思いますよ」

 

信奈はうつけでは無い。

そう言えるのは、信奈の夢を真の意味で理解する者たちだけなのだから。

信奈の夢は、この時代のもの達には異端過ぎるのだ。

普段の彼女しか見ぬもの達にとっては、信奈の夢も、行動も・・・うつけに見えるのは仕方なきこと。

 

「・・・君に・・・一つだけ頼み事があるんだ・・・」

 

「・・・頼み事?」

 

「・・・僕の処遇は問わない。どうせ僕は、織田信奈の処断を待つ身だ。出家すれば命は助かるけど・・・僕はそんな生き恥を晒すのはごめんだからね。けど・・・道利だけは、守ってやってくれないかな」

 

そう言いつつも、少しばかり晴れ晴れとした表情をうかべる龍興。

 

「道利はきっと・・・君の役に立つ。それに僕と同じ夢を抱いた親友なんだ・・・だから・・・」

 

「姫さま・・・私は姫さまに・・・一生着いて・・・」

 

思わず龍興の言葉に己が言葉を被せる道利。今の彼女の表情は・・・いつもの無表情ではなく・・・涙に濡れ・・・唇を噛んでいた。

 

「・・・道利・・・彼は僕と似た所がある。彼について行ってやってくれないかい?・・・彼がもし・・・僕のように道を違えそうなら・・・助けてやってくれないかい?」

 

「姫さま・・・私は・・・」

 

その時・・・本丸の城門が開いた。

そこには、皆光の主君・・・織田信奈を筆頭に、柴田勝家、丹羽長秀、犬千代・・・そして・・・何故か浅井長政・・・。

最後に入ってきたのは、斎藤道三。

 

信奈は・・・五右衛門から治療を受ける皆光へと歩み寄る。

 

「・・・良くやってくれたわね。皆光、あんた達決死隊のお陰で、稲葉山城は落ちたわ。どうやら・・・敵の大将に手酷くやられたみたいだけど・・・それは向こうも同じみたいね」

 

皆光の傷を痛ましそうに見ながらも視線はしっかりと皆光に合わせ、信奈は皆光に労いの言葉を投げかけた。

 

「・・・ありがたく・・・。しかしうかうかと寝てはいられませんので・・・」

 

「そう・・・なら早く立ち上がる事ね」

 

そう言って・・・信奈達は皆光の元から立ち去って行った。

 

そして、皆光は未だ地に沈んだままの龍興へと視線を向けた。

龍興のすぐ側には、道三がいた。

 

「何の用かな・・・美濃の蝮・・・」

 

表情を変えず・・・天を仰いだまま道三へと問いかける龍興。

そんな彼女の表情は、懺悔も、後悔もない。

 

「・・・・・・愚かな娘よ・・・。儂を謀り、義龍を謀り・・・そして自らを偽る。お主も義龍と変わらん。大うつけじゃ」

 

「・・・・・はははっ・・・あなたには、この未来が見えたとでも?・・・」

 

「少なくとも・・・貴様が織田信奈に勝てぬ事は分かっておったがな。こやつを連れて行け・・・」

 

道三の背後にいた美濃兵が、龍興を捕え、動けない彼女を無理やり立たせ、連れて行く。それを黙って見送ることが出来なかった道利は、道三に土下座し、懇願した。

 

「待っ・・・道三様・・・姫さまは大きな怪我をしておりまする!ここは何卒御容赦を・・・」

 

しかし、道三はそんな道利を一瞥し、自身も信奈の元へ向かっていった。

 

そして、道利とて龍興と同じ謀反者。

尚も道三に縋ろうとする道利を、美濃兵が拘束していく。

 

そんな中、一人の男が皆光の傍に立った。

竹中半兵衛の式神・・・前鬼だ。

前鬼は涼しい顔で、その様子を見つめていた。

 

「あれもまた一つの結末か」

 

悲痛な表情を浮かべる皆光に前鬼は事もなさげにそう告げた。

 

「・・・前鬼殿・・・という事は半兵衛も?」

 

「主は荒くれ者どもがお嫌いな様子。故に俺が、影武者として信奈どのにお目通りいたそう」

 

「・・・そうですか」

 

「五右衛門・・・もう良いですよ」

 

未だせっせと皆光を治療していた五右衛門。

そろそろ止めておかないと、皆光が布で覆われ白い布の何かになってしまうので、程々で止めておく。

 

「小早川氏・・・しかし・・・」

 

「五右衛門のお陰で・・・血は止まりました。あとは少し養生するだけで済みそうです。本当に・・・ありがとうございますね」

 

そう言って皆光は五右衛門を少しばかり撫でる。

皆光にとっては、少し頼りになりすぎる相方だが、五右衛門にとっては、そうでは無い。

ボンっと言う擬音が聞こえそうなほど、顔を赤くした五右衛門は、うにゅ〜・・・と言って顔を伏せると、ポンッと消えてしまった。

 

その時・・・皆光は何処からか視線を感じた気がしないでもないが・・・。

 

(五右衛門さん・・・羨ましいです・・・くすん、くすん・・・)

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

五右衛門からの応急処置を受けた皆光。

とりあえず血は止まるも、未だ傷は少しの刺激で開くだろう。

そんな中、身を押して向かった先は、稲葉山城の城内。

この頃は、天守という概念が存在せず、城・・・と言うよりは三階層に別れた巨大な館である。

皆光は、背後に前鬼を連れ立って織田家家臣団や此度の美濃内応により織田へと願った美濃の各諸侯も集まる評定の間へと足を踏み入れた。

 

皆光の傷を痛々しい目で見る皆の視線を、皆光は全て無視し、信奈の前へと跪いた。

 

「美濃国軍師・・・竹中半兵衛重虎、お連れ致しました」

 

「この俺が竹中半兵衛重虎にござる。このたびはお見事な戦ぶりで稲葉山城を落とされ祝着至極」

 

前鬼は涼しい顔で自らの身分を偽り、ニヤニヤとした笑みを浮かべているが、信奈は不機嫌そうな顔を崩す事はなく、前鬼を睨みつけた。

そして、その視線が皆光へと向けられ、皆光は思わず気圧された。

そんな皆光を気にすること無く、信奈は小姓が抱えていた種子島をひったくるように奪い取ると、皆光へと銃口を向けた。

既に火縄は炊かれており、引き金を引くだけで弾は発射されるだろう・・・と皆光は冷静に考えながらも冷や汗が止まらない。

 

「皆光・・・そいつは替え玉でしょう?偽物を連れて来て私を謀るつもりなのかしら?」

 

何故か酷く気が立っている信奈に・・・どう釈明すればよいのか。

確かに偽物を連れて来てしまった皆光に非があるのは確かだが・・・。

すると、いつぞやのようにおずおずと柱から顔を覗かせた本物の竹中半兵衛がとことこ・・・と歩いてきて皆光に種子島を向けている信奈へと平伏した。

 

「た・・・たたたたた・・・竹中はは・・・半兵衛です。信奈さまをお試しした事はしゃ・・・謝罪したします。ですから皆光さんをい・・・いぢめないで・・・」

 

まるで壊れたラジオのような喋り方をする半兵衛だが、しっかりと信奈と視線を合わせ許しを乞うていた。

 

「ふん!ったく。木箱に隠れていたやつね」

 

不機嫌そうに鼻を鳴らした信奈は、傍に控える小姓に種子島を投げるように渡し、定位置へと戻った。

なるほど・・・バレていたならばこの対応も納得・・・出来るわけないでしょ・・・と皆光は一人心の中で突っ込むが、勢いで出てきてしまった半兵衛にとってはそれどころでは無いらしい。

信奈が離れたことにより、平伏した姿勢を正座に変えた半兵衛だが、がちがちぶるぶると震えていない部分がないほど震えており、怯えきっているのが目に見えて分かる。

 

「それで?半兵衛、誰に仕えるのか自分の口でさっさと言いなさい。私が直接小姓として雇って上げてもいいけど?」

 

「わ・・・わたしは・・・皆光さんを殿と仰ぐことを自らに誓いました。み・・・皆光さん以外にお仕えするつもりはありません」

 

そう信奈へとはっきり?と言い切った半兵衛。信奈の視線が半兵衛から皆光へと向かうが、決して皆光は信奈と視線を合わせない。

皆光はなんだか、無性に帰ってふて寝したくなった。

 

「はぁ・・・まあ、いいわ。軍師同士、これからは私の為に知恵を振るいなさい」

 

「あっ・・・ありがとうございます!」

 

なんとか信奈を納得させた(恐らくはしていない)半兵衛は、これにて、正式に織田家への仕官と相成った。

 

そして、信奈は家臣一同をそのままに、本格的な評定に入る。

皆光は、何故浅井長政が信奈と共にいるのか、それは些か気になる所ではあったが、かの御仁が無策で突入してくる訳はないだろうと少しばかり警戒しながら、皆光は聞く姿勢を整えた。

 

先ずは、降伏した美濃・斎藤家の処断から始まった。

 

巨漢を揺らし、死を覚悟した白装束で信奈の前に現れた斎藤義龍。

 

些か辛そうながらも、一切屈服の意思は見せず、所々赤く染る血の滲んだ白装束を纏い、信奈を真っ直ぐと見つめながら現れた斎藤龍興。

その二人に鋭い視線を向ける信奈。

信奈は表情を崩さず、二人に尋ねる。

 

「斎藤義龍、並びに斎藤龍興。何か言うことは?」

 

「儂はそなたと蝮に敗れた。家臣領民の命を助けてもらえるのであれば、何も言うことは無い」

 

「・・・生き恥を晒すつもりはないよ」

 

二人とも特に何もなし・・・と口を揃えて言う。

しかし信奈は、自身で決める前に、まずは二人の父である道三に声を掛けた。

 

「蝮は、何か意見ある?二人ともあんたの子でしょう。意見があれば聞くわよ」

 

道三は、苦々しげな表情で二人の処遇を信奈に進言した。

 

「義龍は・・・顔に似合わぬ知恵者。放逐すれば後々、信奈どのの天下とりの障害となろう。龍興も同じく。生かしておけばいずれ信奈どのに仇なす者共よ。始末せよ」

 

道三は二人を斬れと言った。

皆光は、内心・・・同じ気持ちである。

仇なす者としての芽が芽吹かぬ内に斬ってしまわねばいずれは大小あれど障害となる・・・その可能性を潰す為に。

父である道三は、この二人を殺す・・・と言っているのだ。

気付けば、皆光は血が滲むも構わず拳を握りしめていた。

 

「あんたはどう思う?」

 

ふと・・・皆光に声が掛かった。

思わず固まってしまう皆光。

そんな皆光に構うことなく、信奈は二の句を告げた。

 

「私達の中でもっとも二人と戦を交えたのはあんたよ。皆光」

 

そんな事を言われても・・・と皆光は顔をゆがめる。

一介の将である自身に聞いた所で、結局は殺生権を持っているのは信奈なのだ。

高々自分の思いを告げただけでは、各将は納得しまい・・・と皆光は目を伏せる。

皆光の口が乾く。

死を覚悟した二人と目線が合う。

顔立ちは似ていないはずなのに、その瞳は全く同じだった。

《余計なことは言うな》

そんな事は・・・分かっている。

だが・・・頭では分かっていても、皆光の心は分かってくれなかった。

自身の心が皆光の言葉に蓋をし、皆光の頭が自身の心に蓋をする。二つの相反する信号を司る部分が、互いの邪魔をし合っている。

 

信奈の視線が皆光を刺す。

 

その時・・・皆光はまるで信奈が、二人を生かそうとしているように感じた。

まるで、彼らを生かすような策を・・・考えなさい。

そう言っているような・・・気がした。

ただ生かすのであれば、放逐してやればいい。ただ、その場合どう足掻いても後に大きな障害になるのは分かりきっている。

特に・・・龍興・・・彼女は信奈と同じ夢を見ながら、行き着く先が全く違うのだ。

とは言っても、皆光は龍興の野望をしっかりと聞いた訳では無いし、確信がある訳でもなかった。

だが信奈が己が野望を力として動くように彼女もまた、野望を力として動く・・・ともなれば、すぐにでも彼女は力を蓄え、いつか必ず激突する。

その時には・・・せっかく生かしたとしても、その生かしたぶんだけの被害があるのは確実だ。

龍興は生きた分だけ・・・戦が増えるのだ。

戦の世を憂う二人が・・・自身の野望のために戦を増やす。

そんな下策を・・・彼女は犯そうとしているのだ。

ならば・・・先を見据え・・・可能性を全て予想し、その上で最善となる策を組み上げる。

それが今できる最善として。

 

(まさか・・・龍興殿に諭された事が・・・今必要になるとは・・・あるいは宿命・・・あるいは運命・・・もしかすれば・・・会うべくして出会ったのかも知れませんね。私達は・・・)

 

皆光は一呼吸入れ落ち着いた様子で真正面から信奈と視線を合わす。

 

「私はこの二人を生かすべきかと。しかし、放逐をするくらいならば殺すべきかと」

 

反応は二つ。

織田に仇名した逆賊を斬らぬのかといきりたつ者。

一先ず二の句を待つ者。

しかし、皆が言いたい事は同じである。

どういう事だと言う視線が、皆光に突き刺さる。

 

「まずは何故殺すべきか・・・。簡単です。彼らを生かして放逐するよりも、殺した方がその分危険が減ります。実は義龍殿は龍興殿に利用されておりました。三度に渡る下克上・・・しかし注目すべき点はそこではありません。ひとつは国人衆を手中に収める義龍殿の手腕・・・そしてもうひとつはそれら全てを計算して事件を起こした龍興殿の知恵でございます。誰もがご理解されていると思われますが、この二人を放逐すれば必ずや再度勢力を盛り返し・・・今一度織田の障害となることが容易に想像出来ることかと」

 

「次は生かすべきにあたって・・・現状織田は破竹の快進撃を続けていますが、現状・・・主立った家臣達はこの美濃の地を攻めるために出払っていると言っても過言ではありません。現在尾張に残っている戦力は姫様をよく思わない連中ばかり、今大人しいのは信澄殿と言う担ぐ神輿がないからと言うのが最も有力でしょう。勿論全くいないと言っている訳ではありませんが、この先こういう事態に陥った時・・・人員がいないというのは非常にまずい。そんな中に敵将の首が転がり込んできた・・・これを上手く使わずとしてどうしましょう?今ならば容易く首を落とすことも出来ますが、それよりも戦力として迎えた方が圧倒的に価値がありましょう。あまりやりたくはありませんが・・・幸いにも斎藤家と我らが姫・・・織田家は親族同士・・・ならば結び付きを強固なものにするため彼らを抑えることの出来る人物と無理やりではありますが誼を結ばせることをおすすめ致します」

 

「なっ!皆光、貴様姫さまの婚姻に反対していたじゃないか!」

 

思わず勝家が皆光に向かって叫ぶ。

そんな中のほほんと呑気そうに欠伸をかましていた信奈は、ジロっと義龍を一目見て鼻を鳴らした。

 

「嫌よ。長政よりいや。あんな髭だるま絶対嫌」

 

「別に婚姻を結ばせるとは一言も言ってはおりませんが・・・」

 

皆光も思わずまぁまぁ・・・と信奈を宥めるが、義龍は何か刺さる物があったのか

 

「髭だるま・・・・・・」

 

と一人ショックを受けていた。

皆光は、自分で振っておいてなんだが、少しばかり義龍を気の毒そうに見つめる。

 

「じゃ、勘十郎を上げるわ。斎藤龍興だったかしら」

 

えっ!僕ですか姉上っ!と信澄が声を上げる。

声を上げた信澄を龍興は一瞥し、こちらもまた鼻を鳴らして首を横に振った。

 

「僕は嫌だね。顔だけの馬鹿と婚姻なんて」

 

「顔だけの馬鹿・・・」

 

こちらもまた、信澄を沈められる。

と言うか男ども・・・もう少しメンタルどうにかならんのか。

 

「だいたい龍興。あんたは選べる立場にないんだから信澄で我慢しときなさいよ。せっかく命を助けてやろうとしてるのよ?」

 

信奈が不機嫌そうに口を開く。

 

「負けた上に恥の上塗りとはまた、陰湿な事だね。僕は織田に屈するつもりは無いと言っているんだ。この言葉の意味も分からないの?うつけ姫じゃなくて馬鹿姫にでもあだ名を改名したらいいんじゃないかな」

 

不機嫌な信奈を思い切りのよい言葉で煽り始める龍興。

 

「言ってくれたわね・・・」

 

思わず信奈の手が種子島に伸びる。

流石の皆光も慌てて止めに入る羽目になった。

 

「まぁまぁ、ともかく・・・私は信澄殿と龍興殿をくっつけるのは反対です。信澄殿では龍興殿を抑えることは出来ないでしょう・・・信澄殿では頭の出来が足りませんし・・・あまりおすすめはしません。利用されるのが目に見えていますので」

 

「何故だろうね。全く関係の無いところで僕がすごく馬鹿にされているようにしか聞こえないんだけど・・・僕泣いていいよね」

 

知らず知らずのうちに信澄に止めを刺してしまった皆光だが、今は心底どうでもいいのでとりあえず無視する。

 

「一番良いのは、龍興殿に負けぬ知恵と義龍殿を抑えることの出来る器量を持った人物が良い。それに態々婚姻なんてものを結ばなくとも・・・誼とは様々な意味がありましょう?姉兄、親子・・・姫様は既に道三殿の御息女、帰蝶様を妹に迎えられています。ならばそれと同じように、織田の有力な家臣と何かしらの誼を結ばせ押さえつけるのがよろしいかと」

 

そういった所で、何故か皆の視線がひとつに集中する。

その皆の視線の先には、今まさにそれっぽく講釈を垂れている皆光に向かってだ。

皆光は一人一人と顔を合わせる。

そして、最後に・・・小難しい顔をした道三と視線があった。

 

「道三殿はどう思われますか?」

 

「儂は・・・儂は反対じゃ。後々の憂いの為に斬っておくべきであろう」

 

「斬る・・・斬らないの理由に姫様を使わないで頂きたい・・・。私はあなたの思いを聞いておりまする」

 

「儂は・・・・・・」

 

道三は言い淀んだ。

道三とて、本音を言えば馬鹿な我が子等を叱り付ける程度で済ませたかった。

だが戻れぬところまで来てしまったのだ。

彼らは戻れぬ所まで行ってしまった。

ならばどうするのが最善なのか。

旧美濃の領主・・・土岐氏を追い落とし自身もまた我が子に負けた。

 

「あなたは、上しか見なかった。下を見ずに自らの子を見誤った。だがまだ幸い・・・あなた達親子はやり直せる。何せ・・・生きているのですから」

 

皆光は、ふと自身の両親を思い出した。

皆光は自身の父と道三が重なって見えた。

何処か頑固で、言葉少なにその場の正しい事を結論だけ言う。

父にそんな怒られ方をしていた皆光は、何処か似ている道三に苦笑した。

 

「結果だけ伝えられても子は理解致しませぬ。時には砕き、意を交えながら話をしてみるも一興。あなたには・・・それがない」

 

道三は悲痛な表情を浮かべ、縄に繋がれている二人を見やる。

二人は何ともなしに道三と視線を合わせる。

まるで、拗ねているかのような我が子の姿にこの時初めて、道三は我が子をしっかりと見た気がした。

 

「皆光よ。お主・・・先程こやつらを抑えることの出来る者に誼を結ばせることを勧めておったな」

 

「や、例えばの話ですが・・・姉妹の誓いでも姉兄の誓いでも・・・とりあえずは縁を強固にすべきと・・・」

 

皆光は、嫌な予感がした。

 

「皆光よ。儂の息子になれい。龍興と誼を結べば、こやつら二人を下したお主が言う理想も・・・現実になろう」

 

「兄妹としてでしょうか?」

 

「夫婦(めおと)としてじゃよ」

 

「いえ・・・それだと身分から何から全てが問題でしょう。私以外ならば・・・」

 

「ふぉっふぉ・・・儂も元々は京の油売りよ。いまさら身分など気にはせぬ。それにこやつらを押さえつけるのならば、我が斎藤家の家督も必要となろうぞ」

 

いえ・・・あなたはそう呼ばれているだけであって武家ですよね?とは言えなかった。

何処か頼み込むような表情をした道三の視線に思わず皆光は狼狽える。

皆光は助けてもらおうと信奈を見て後悔した。

般若を通り越して・・・無である。

 

(あ・・・これはダメだ・・・)

 

「皆光・・・どういう事かしら?」

 

「いえ・・・や、あのう・・・二人の命は助けていただけると・・・」

 

非常にまずいことになった・・・と皆光は冷や汗を流す。

何とか道三の説得は出来たものの余計なものまで着いてきてしまった。

捕らえられている二人を見ると、なんとも間抜けな表情をしている。

 

「蝮・・・あんた本気で言っているの?」

 

表情がないまま・・・グリンと信奈の首だけが曲がる。

思わず道三も少しばかり身構える当たり、余程予想外のだったらしい。

 

「本音で言えば・・・斬った方が後々の憂いはあるまい。処断は信奈どのにお任せする」

 

「しかし欲を言えばこの二人はどちらも一流の将・・・天下を狙う姫様の大志の役に立ちましょうぞ」

 

ビクビクと何を言われるかと身構える男二人・・・なんと情けない姿だろうか。

この世界の男は皆・・・弱かった。

 

「・・・・・・はぁ・・・とりあえず・・・命は取らないでおいてあげる。後はあんた達で何とかしなさい。わ・か・っ・た・わ・ね?」

 

「・・・道三殿・・・あとで話が」

 

「奇遇じゃな。儂もじゃよ」

 

とりあえず・・・いくつか皆光に突き刺さる殺気の出処をなんとなく予想しながら・・・皆光はもう一度道三と考えを煮詰め直す事とした。

 

 

席を外した敵将二人。

後で彼らとも話をせねば・・・と皆光は思案顔で唸った。

 

そしてとうとう、お待ちかねの論功行賞の時間である。

とは言っても粛々と活躍した将の名が呼ばれ、それに対して信奈が褒美を下賜するだけである。

時折謎な褒美などが混ざり(ういろう一年分や味噌煮込みうどんの店出店の権利)合っているが・・・。

美濃三人衆は領地の安堵、一部利権が取り上げられるも信奈直属の家臣となった。

 

そして皆光が呼ばれた。

皆光は信奈の前に跪き信奈の言葉を待つ。

 

墨俣一夜城、美濃三人衆・竹中半兵衛の調略、築城された城の防衛、敵の真の大将首となる斎藤龍興の撃破。

これらすべて、皆光の成した戦功である。

それらを粛々と読み上げた信奈本人の表情が徐々に苦々しい物へと変わっていく。

それは単純に、褒美をケチるためなんてものではなく、これ対する対等な褒美が思いつかない為だ。

 

城を与えるにしても、領地を与えるにしても今はまだ傍に仕えさせておきたいと言う信奈の思惑がそれらを却下していく。

 

(大変有能なのは結構だけど、戦が終われば考えものよね・・・)

 

信奈は頬に手を当て考え込み始めた。

 

ちなみに皆光本人はあまり褒美に頓着せず、あの二人をどうするか・・・と心の中で算段をたてていたりするのだが。

 

不意に皆光の膝元に何かが投げられた。

皆光はそれを危なげなく受け取る。

 

「・・・なんですか?これ」

 

皆光がそう言って掲げたのは、信奈がいつも持っている千成ひょうたんだった。

皆光は、はて?と首を傾げひょうたんを眺める。

 

「あんたの褒美」

 

「え?あぁ・・・そうですか・・・」

 

皆光は別段、気落ちすることもなく受け取った千成ひょうたんを一体何に使えば良いのか考えていたがなるほど、これはこれでいいかもしれない、と皆光は感じた。

 

史実では稲葉山城を攻める際、木下藤吉郎が背後からの奇襲を宣言、そしてそれを実行した際の合図がひょうたんだったそうな。

そしてそれを見た信長が後にそのひょうたんを木下藤吉郎の馬印として使う事を許可したという。

 

つまりはそういう事でしょうか・・・と皆光はひょうたんを眺めながら少しばかりの感動をその身に感じていた。

 

ちなみにだが木下藤吉郎にはひょうたんを収集する癖があったそうな。

単なる豆知識である。

 

「そのひょうたんを旗印に、いつまでも私の傍に仕えなさい。それと・・・あなたのお家をたてて上げてもいいわよ?」

 

ぼけ〜っとひょうたんを見つめていた皆光だったが、信奈のその言葉に驚き、ひょうたんを取り落としてしまう。

もちろんそれは皆光だけではなかった。

柴田勝家は絶句。

丹羽長秀はその場で身を固め、犬千代は首を傾げ、道三は目を見開いた。

他の家臣達(特に織田家)の反応も似たり寄ったり。

それは何故か。

それは、皆光の出自にある。

皆光はこの時代・・・何処の馬の骨とも分からぬ人物である。(現代では先祖代々続く家系であり、由緒正しき家柄ではあるが分家の家系である)

そんな彼を、【尾張小早川家】として取り立てるということだ。

信奈が直臣である彼女らは驚きに身を固めただけであるが、そんな事柄を古き良きを未だに守ろうとする織田の古き老害達が黙っていなかった。

 

「姫さま!何を血迷われましたか!このような何処の馬の骨とも分からぬ小僧を取り立てるなど・・・」

 

それもそうだろう。

この者たちは、皆光が家老の中では最も身分が低いとは言え、若家老として出世した際にも反対を起こした連中だ。

そんな彼らが、反対しない訳が無かった。

しかし、皆光はなるほど・・・と一人微笑んだ。

 

「謹んで承りましょう」

 

「皆光ならこの意味・・・分かっているわよね?」

 

「少しばかり、呆気にとられましたが」

 

信奈は、皆光の考えを読んだ上で、皆光に助け舟を寄越した・・・それは皆光にとっては何よりの褒美だ。

皆光の思い描いていた結末。

それを最高の形で実現することが出来る。

 

ちなみに後々・・・信奈は自身の考えがきちんと皆光に伝わっていなかったのを知り、怒りに震えるがこれはまた後日。

 

そして、論功行賞は終わりを迎えた。

しかしそんな中、皆光は一人だけ名を呼ばれることも無く部屋の端で苦悶の表情を浮かべている御仁に目がいった。

そんな皆光の視線に、信奈は嫌な事を思い出したとばかりに顔を顰め、そしてわざとらしく口を開いた。

 

「あら、いたの?長政。遠路はるばるご苦労様。もう近江に帰っていいわよ」

 

「なっ!私との婚姻同盟はどうなされるおつもりか!」

 

「そんなの〜もう美濃も盗っちゃったしい〜あんたとの縁談は無かったことにしましょう?」

 

なるほど・・・まるで今までの屈辱を全て返してやろうとでも言うように、嫌味ったらしく言い放つ信奈。

その後は圧倒的有利をとった信奈にマウントを取られ、結果は織田家の姫を浅井長政が迎えることとなった。

苦々しい表情で場を後にする長政の後ろ姿が消え、広間は歓呼の声で満ち溢れる。

 

しかし、皆光ははて?と首を傾げた。

 

織田の姫・・・となると、お市が世間一般的には広く知られているが、皆光はこの時代に来てから一度も顔も合わせていないどころか、一度も名前が出た覚えがない。

 

しかし、そんな疑問も立ち所に消えていった。事もあろうに信奈は・・・庭で宴会芸として花魁踊りに興じていた弟の勘十郎を籠に押し込め、北近江へと送り出したのだ。

 

流石にそれは予想だにしなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、美濃は織田信奈により平定された。

 

信奈はこの稲葉山城、井ノ口の町を丹羽長秀の案を取り、岐阜の城、岐阜の町と名を変え天下を狙う織田の礎となる。

 

【天下布武】

 

天下を武力を持って制すると共に、天下から戦(戈)を無(止)くすと言う大志を抱く信奈・・・その先待ち受けるは修羅の道。

 

 




徐々に一ページ一万文字がデフォルトとなりつつある今日この頃。

意外と書くのって・・・大変なんですね。
ちなみに光秀さんを忘れていましたが、次話に登場致しますので、ご安心してくださいませ。
本日も本日とてキャラ紹介をサボりつつ。
コメント、評価等々お待ちしております。

ー追記ー

斎藤龍興、ぽっと出オリキャラから、レギュラーへ昇格させていただきます。
容姿は、織田信奈の野望〜帰蝶〜でご検索ください。
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