謀っ子世にはばかる〜織田信奈の野望   作:☆蛇☆

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出来れば今回の話で終わらせることとしたかった伊勢平定戦。

時間が足らず、投稿日時も差し迫る事になったため投稿させていただきます。

少しづつではありますが、話を進めて行くので、これからも当小説をよろしくお願いします。


伊勢の敗北

 

 

 

「鈴鹿山麓!斎藤龍興様優勢!六角軍潰走!」

 

「長野城攻め!斎藤義龍様優勢!長野軍が敗走を始めたとの由!」

 

皆光は、床几の上で各軍の早馬を静かに聞いていた。

皆光率いる織田軍は、敵城であるはずの木造城を背に布陣していた。

しかし、これには訳があった。

 

「皆光殿、木造城城主、木造具政の籠絡は済んだぞ。何が悲しくて男の籠絡などと・・・今後二度と俺をこのようなくだらない事に呼び出さないでくれまいか」

 

見目麗しい女性・・・に扮した前鬼が、小言を漏らしながら陣の中に入ってきた。

入るなりすぐさまぽふんと気の抜ける音と共に何時もの美男子姿に戻る。

その顔は些か不機嫌に濡れていた。

 

「仕方ないではないですか。五右衛門と半兵衛が私が行くのは危険だと言うのですから。かと言って両方とも幼子・・・行かせるには危険が過ぎまする」

 

「皆光さんが行くと半ば脅しを仕掛けそうなので・・・くすん・・・」

 

私・・・もっと頑張ります・・・と何やら不穏な決意を新たにする半兵衛。

その視線は、自らの身体を見詰めている・・・どこか哀愁漂う立ち姿。

何を頑張るのかは、本人にしか分からないことではあるが。

 

「早急に、この守り易い木造城周辺の地形を抑えたかったもので。いざとなれば、脅し殺してでも、この地を奪う気ではありましたが」

 

物騒な事を・・・と半兵衛にジト目を向けられる中、飄々と殺してでもと言い切った皆光。

 

「殺しでござるか?すぐにでも準備するでござるが・・・」

 

最近活躍の場が不足しつつあり、不満げであった五右衛門がここぞとばかりに懐から苦無やら手裏剣やらどこから出したのか焙烙玉を無造作に地面に転がし数を数え始める。

無表情だがどこか嬉しそうなその姿に、皆光は少しばかり引く。

 

妖しげな雰囲気を醸し出し始める五右衛門を無視して、皆光は前鬼に言葉を進める様に促す。

 

「前鬼殿、子細は?」

 

「木造具政は不干渉を貫くそうだ。だが我らが不利になれば・・・」

 

「手柄欲しさに背後から強襲・・・って訳ですか」

 

「如何にも」

 

「扱いやすくて良いでは無いですか。ああいう手合いは、適当に相手をしておけば事足りるでしょう。それよりも、この地形を借り受けることが出来たという事実さえあれば、この戦の一手はこちらから打つことが出来る」

 

皆光が目を付けたのは木造城・・・その周辺の地形である。

木造城周辺は、泥地を混じえた湿地帯となっており、大軍の運用には向かない地形をしている。

そして、元々北畠家の領地であったがために、少なくとも具教の代では木造城周辺で戦はしていないはずである。

伊勢の泥地は伊勢国内ではこの地域のみに見られる特殊な地であり、長らく争っていた長野家の周辺地形は農村部に近い。

対して、皆光の軍は美濃兵と尾張兵の混成部隊である。

言わずもがな美濃と言う湿地帯での戦を得意とする美濃兵に、それに対抗してきた尾張兵であれば、兵力差があろうと均衡出来ると皆光は考えた。

だからこそ、この地を奪ってでも拠点にしようと皆光は行動を起こした訳だ。

 

「地の利を奪うは戦の基本、おそらくこの地であれば、不慣れな戦を強制することが出来るかも知れません。流石は皆光さんです。ですが、未だ背後の憂いが消えないのは事実ですし、嫌な予感もします。あまり楽観視しない方がいいと思いますが・・・」

 

半兵衛の言うことはもっともだろう。

背後は少なくとも味方足りえない敵城。

前方は皆光達が陣を建てた場所から遠目だが、それでも見える程、今にも忙しいと伊勢兵が蠢いている。

むしろ安心出来る要素は皆無と言えよう。

 

だが、皆光は笑った。

目に鋭い光を宿し、口角を上げながら口を開いた。

 

「ここは敵の要害。守りの最前線と言えましょう。地の利もありますが、それよりも大事なのは、ここが敵の要地だと言うことです。この地を守護する木造具政は元を正せば北畠具教の実の弟。実の弟に地を渡す・・・それほどまでに、この地は重要なのです。だからこそ・・・必ず敵はここに押し寄せる。まずは・・・敵を我らと同じ土台に引き摺り下ろす・・・」

 

さすれば・・・勝利は揺るぎなく。

何処か猟奇的な笑みを浮かべる皆光に、半兵衛は少し体が震えたが、それは恐怖によるものでは無い。

どちらかと言えば、武者震いだ。

これから始まる戦いへの昂り。

半兵衛にとっての皆光は、憧れの象徴・・・輝かせたい光なのだ。

 

逸る気持ちを抑えきれず、半兵衛は皆光に声を掛けた。

 

「我が殿」

 

たったそれだけの言葉。

だが、その言葉に呼応する様におもむろに皆光は立ち上がり口を開いた。

 

「触れを!木造具政が織田に寝返ったと北畠軍に流布するのです!」

 

ははっ!と言う勇ましい声と共に陣内が慌ただしくなる。

 

「半兵衛。まずは大河内城に張り付いている北畠具教を引きずり出します。尾張軍師の戦ぶり、ご覧に入れて差し上げましょう」

 

自信満々に言い放った皆光を眩しそうに見詰める半兵衛。

そんな半兵衛に、皆光は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

木造城城主・木造具政謀反!

 

情報は瞬く間に北畠軍に広がった。

そしてその報は、当然の如く北畠具教の元にも伝わる事となった。

 

「なんだと!?叔父上が・・・」

 

その報告に拳を握り、唇を噛み締めたのは北畠具教の娘、北畠具房である。

鋭い視線は、それだけで人を射殺す事が出来るであろう剣幕を放っており、報告に来た鎧武者が具房の前でがたがたと体を震わせる程の物だった。

具房はちらりと、未だ地平線を見つめている父、北畠具教へと視線を向けた。

その視線に気付いてか気付かずか・・・おもむろに具教は口をを開いた。

 

「それもまた、賢き選択であると言えよう」

 

「ですが!一門衆でありながら父上を裏切るなどと!織田が何か吹き込んだに違いありません!」

 

「具房よ」

 

ずっと地平線を向けていた具教の視線が、具房へと突き刺さる。

名を呼ばれ、視線を向けられただけである具房は、父の射抜くような視線に口を閉じた。

 

「意地、心、情に縛られてはならん。一門とは言え、利する側に着くが最善であるはこの乱世において当然の帰結。血を残し姓を守るには、あやつのとった選択が正しい」

 

「我らが・・・織田に敗北すると?」

 

「織田が勝とうと、あやつは助命され我が姓は残る。俺が勝てば、やつは死すれど我が家は安泰の時を得よう。頭を冷やせ。思慮深く冷静になるのだ。さすれば自ずと道は見えよう」

 

「・・・申し訳ありません。出過ぎた真似を・・・」

 

「良い。若者は猛ってこそよ。だが勢いに身を任せるなと言いたいだけだ。見えるものも見えなくなる」

 

ここで初めて、具教は地平線へと視線を戻さず、報告をしに来た鎧武者へ視線を向ける。

鎧武者は、思わずぶるり・・・と体を震わせる。報告に来たはずの鎧武者は哀れ・・・北畠親子は揃って鋭い目をしている為、内心は早くこの場を去りたかった。

だが、何処か見透かされているような視線に鎧武者は身動ぎすら出来ない。

 

「どうやら報告はそれだけのようだな。出陣の支度をしておけ」

 

「はっ!」

 

ようやく解放された鎧武者。

彼は急いでその場を逃げ去った。

 

「何かお気になる事でも?」

 

具房の言葉に、一度深く瞳を閉じた後、再度開いた具教は、鋭い視線を今一度地平線へと向けた。

 

「恐らく、六角からの援軍は来ないであろうな。具藤も同じく。情報を殺すとは、誠にやり辛い相手よ」

 

「まさか!織田は僅か五千・・・兵を割いたとてそのような真似は・・・」

 

「兵より将を見よ。大将、諸将、忍びに兵・・・随分と織田は恵まれたようだ。具房・・・出るぞ」

 

素早く身を翻した具教に、具房は追従する。

 

「如何様に?」

 

「全ての兵を木造城へ向かわせよ。あの地は我が領の要地、易々とは渡せぬ」

 

「編成は如何なされますか?」

 

「言ったであろう。全てだ。あやつらも出せ。織田には良い一撃となろう」

 

「御意に」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

総勢八千の軍勢が木造城前に布陣する織田軍に侵攻してきた。

対する織田軍は千。

木造城城主、木造具政は城門を固く閉ざし、織田軍、北畠軍を寄せ付けまいと不干渉。

皆光率いる織田軍は迎え撃つ為、陣を広げず方円の陣の半分・・・つまり半円の陣にて迎え撃った。

種子島を用いる部隊、そして騎馬隊を一益、嘉隆両名に貸し与えているため、皆光率いる織田軍は現在、攻撃力が大幅に低下している為である。

 

本陣からでも見える北畠軍の大軍を、皆光は表情を変える事無く静かに見据えていた。

その立ち姿を心配そうに見詰める半兵衛。

 

嫌な予感がする・・・と半兵衛が思わず皆光に話しかけようとした時。

 

北畠軍の前線が動きを見せた。

隙間なく並んでいた槍足軽の合間から、ぞろぞろと二百ばかりの兵が真っ直ぐ横に並び始める。

 

その兵たちの持つものを見た皆光は思わず叫んでいた。

 

「っ!? 伏せなさいっ!! 」

 

直後、聞き慣れた轟音と風を切る音が織田軍の最前列にいた兵達に襲いかかった。

 

種子島である。

 

斉射を食らった前線部隊は皆光の声に途端に姿勢を低くしたものの、有効射程距離で放たれた種子島には為す術もない。

初手で百ほどの兵がその種子島の犠牲となった。

その威力は織田軍誰もが知る所。

たった一斉射であれど、織田軍は容易く小恐状態に陥った。

 

半兵衛が言っていた嫌な予感。

原因が何であれ、それは的中した。

北畠軍は種子島を戦線に配備できるほどの数で揃えていたのだ。

 

なんとしても二斉射目は防がねばならない。

種子島の銃弾を防ぐ竹束も、千という軍勢を守るには心もとない数でしかない。

 

皆光は拳を握りしめ、本陣を後にしようとするが、その裾を半兵衛が掴む。

 

「皆光さん!ここは兵を引くべきです!敵は強大、我が軍の士気は下がり、まともな戦は出来ません!」

 

半兵衛の言っていた嫌な予感、種子島と言う原因を言い当てていた訳では無いが、その予感は見事的中していた。

今や自軍は自慢の士気も統率もなく、北畠軍の種子島により小恐状態。

まともに戦うには状況が悪すぎた。

だが、皆光とて引けない理由があった。

 

「我々が引けば策を行うはずの滝川一益殿、九鬼嘉隆殿両名が窮地となり生存は不可能となりましょう。斎藤両名により背後の憂いが消えた今、一刻・・・それだけ持ちこたえることが出来れば、おおよそ四千の兵が援軍となり駆け付ける。それだけの時間を稼ぐ必要があります」

 

「ですが、とてもではありませんが今の状況で攻勢に出るのは愚策です!」

 

「ではどうすれば良い?このままでは我が軍はいたずらに種子島で討ち取られていくばかりです」

 

皆光は血が滲むほど拳を握りしめ、敵の前線へと忌々しげに視線を向けた。

半兵衛も同じく、敵の前線へと視線を向けるが、直ぐに皆光に視線を戻し口を開いた。

 

「ここは一度兵を引きます。追撃は恐らくありません。敵はこの地を取り戻す事を目的としているはずです。恐らく木造城を攻めるでしょう。既にこちら側の流言によって、敵はこの城が織田の手に落ちたと思っているはずです」

 

「その隙に体制を建て直し、今一度北畠軍を攻めると?」

 

「はい。そうすれば、木造具政は皆光さんに完全にお味方すると思われます。木造具政にとっては、お城を攻められている中、唯一の援軍として映るはずです。敵にとっては、これが木造具政の謀反として、決定的なものになるかと」

 

皆光は、握りしめていた拳を解いた。

ポタリ・・・と垂れる血を痛々しげに見つめ、その手を取る半兵衛。

皆光は、その反対の手で半兵衛の頭を撫でた。

半兵衛がくすぐったそうに、目を細める。

 

「流石は半兵衛です。私もまだまだ軍師としては未熟ということでしょう」

 

皆光の言葉に、静かに首を横に振る半兵衛。

 

「皆光さんの策が無ければ、織田軍は伊勢を期限内に平定することは難しいと思います。完璧な戦はありません。足りない部分もありましょう。その足りない部分を支えるために、私は皆光さんのお傍にいるんです」

 

皆光は嬉しそうに、笑みを浮かべた。

 

「半兵衛の進言を元に、今一度立て直しましょう。皆の者!一度陣を捨て撤退するのです!」

 

皆光の言葉に助かったとばかりに急いで撤退を始める織田軍。

 

「五右衛門!」

 

「小早川氏は最近拙者を蔑ろにしているでござる。元はと言えば・・・」

 

何やらブツブツと呟きながら、五右衛門が皆光の前に跪く。

そんな彼女の姿に皆光は苦笑いを浮かべながら、五右衛門の頭を撫でる。

 

「にゅや!ななななななにをするでごじゃ・・・ござるか!」

 

「失礼・・・思わず拗ねているあなたが可愛らしかったもので、つい」

 

「拗ねてはござらん!ただ最近の小早川氏は少しばかりおにゃごの影が多いでござれば・・・はっ!?」

 

自分は何を口走っているのだろうと、その場ではっと驚く五右衛門。

聞かない振りをするが吉か。

皆光は優しく五右衛門に微笑みかけ、命令を下した。

 

「五右衛門、長野軍を攻めている義龍殿に伝令を、至急軍を返し我が軍の後詰にあたるべし・・・と」

 

「未だ戦の途中であれば?」

 

「致し方なし、終わり次第でいいとお伝え願えますか?」

 

「かしこまったでござる」

 

「頼りにしていますよ」

 

皆光の最後の言葉に少しばかり呆けるも、口布を上げ赤くなった頬を隠すような仕草をする五右衛門。

そのまま何も言うことなく、五右衛門は皆光の前から姿を消した。

 

「さて、我らも種子島に蜂の巣にされないうちに、一度引き上げるとしますか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

北畠軍の鉄砲隊により、僅か一撃で撤退した織田軍。

布陣する敵がいなくなったことで、北畠八千の兵により、木造城への攻撃が始まった。

 

 

 







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