謀っ子世にはばかる〜織田信奈の野望   作:☆蛇☆

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あ、皆様・・・どうも・・・更新遅れて申し訳なく思います。
原作通りにするのも・・・なぁ・・・と思い悩んだ結果・・・皆光さんははっちゃけます。
あと・・・話の最初は気にしないでくださいね・・・決して・・・ロリ贔屓ではありませんから、京に行けばきちんとお姉さんとイチャイチャさせますから・・・まだ二千文字くらいしか書けてませんが。。。


尾張の軍師

 

この日は、珍しく雨だった。

激しくもなく、かと言って少なくはない雨量。

ポツポツと皆光の頬を優しく伝う。

さながら涙の様に、いや涙なのか。

木々に残る夥しい乾いた赤を洗い流す様に雨は優しく木々を穿つ。

地に流れる小さな水流がそれぞれ残ったものを消し去っていく。

まむし谷・・・急勾配の崖の様な場所の頂上に皆光は傘も被らず差さずに立っていた。

地を細く穿った跡、木々を何かが抉った跡、未だにそこら中に突き刺さった矢は水を滴らせ矢羽根から地に落ちる。

 

戦が終われば遺体は即座に始末される。

それは腐乱による疫病を恐れるためだ。

遺体は遺族に帰ることは無い。

即座に雑多に集められ遺体は纏めて火にくべられ、天へと昇る噴煙へと変わっていく。

 

戦評定が終わり、皆光達は即座に後処理に奔走した。

同盟締結の書状を主君である織田信奈に送り、また、各豪族達や北畠から派生し独立していた諸氏を纏めあげる。

今の伊勢は北、中、南・・・それに加え郡、町、村と言った競り合いから成る群雄割拠を終わらせ誠の一国と相成った。

伊勢一国五十六万石・・・それら全てが北畠の元に集約されたのだ。

これは一重に北畠具教の能力の高さ故か、それとも国司と言う地位故か。

 

安寧を享受する伊勢・・・だが、皆光は彼等という英雄を忘れはしなかった。

彼等が居たからこそ、彼等がこの城を命を捨ててまで落としたからこそ・・・皆光は僅か二日と言う短い期間で北畠を破り、伊勢を一国として統一する事に成功したからだ。

 

皆光は躊躇いもなく持っていた酒と花を谷へと置いた。

 

「死した貴方達へ・・・渡せる手向けはこれくらいしか出来ませんが・・・どうか・・・安らかに」

 

皆光はその場で静かに手を合わせる。

 

皆光が手を合わせていると、背後から水でぬかるんだ地面を踏む音が近付いてきた。

足音の軽さからして、一益だろうか?と皆光が振り返ると、そこには見慣れた顔・・・黒く艶のある髪を右肩から前へと出し濡れないようにしながら、傘を差した龍興が共である道利も連れずに皆光へと歩み寄って来ていた。

 

雨音が、一層強くなる。

 

滴る水滴を払う事もせずに、皆光はその顔に微笑みを貼り付けながら龍興へと視線を向けた。

そんな皆光の姿に、少しばかり表情を曇らせた龍興は、静かに雨に打たれる皆光を自分の傘の中に入れた。

龍興と皆光の身長差故か少しばかり高く掲げた傘を、皆光は受け取り彼女から傘を外すこと無くその場に留まる。

 

「大丈夫かい?」

 

何処か・・・心配そうに気遣う龍興の声色に、皆光は笑みを崩すこと無く言葉を発した。

 

「えぇ。・・・ここで立ち止まってしまっては・・・彼等に怒られてしまいますから」

 

皆光のその言葉に、龍興は静かに・・・違うよ。と否定した。

龍興の言葉の意味が分からなかったからか、皆光は首を傾げる。

 

「君の意志の話をしているんじゃない。君の心の話をしているのさ」

 

龍興の言葉に途端に皆光の顔が曇る。

まるで、つつかれたくない物でもつつかれたかの様に。

いつも飄々としながらも笑みを絶やさず、口先手先で相手を程よくからかっては戯ける・・・そんな皆光が珍しく弱っている・・・。

龍興はやれやれと肩を竦めた。

本当はいつもの意趣返しをしたかった所なんだけどね・・・と内心残念に思う龍興。

 

「全く・・・君は戦に強いのか弱いのか。ま、それはともかく、いつまでもうじうじとしている方が彼等の安寧の邪魔をする事になるよ。自らが命を捨ててまで命令に従った主君が、今度は自分達のせいで気を病むことになってしまった。さぁ、そんな君を見て・・・彼等は喜ぶのかな?ま、屍を踏み越えて行けなんて言わないよ。だから屍をそっと道から退かして進むんだ。動かない屍をそっと抱いたまま進むなら・・・君はいつか必ず重みで動けなくなる。だから、今は置いておくんだ。想うことなら・・・君が忘れない限りいつでも出来る。でも進むなら屍を抱えては行けない」

 

龍興の言葉を、皆光は静かに聞いていた。

つい最近までは敵であった彼女が、まるで心を見透かすかの様に言葉を紡いだ。

その事を、少し可笑しく感じてしまう。

五右衛門・・・半兵衛・・・龍興・・・一益。

世の女性・・・と言うよりかは幼女だが、彼女らは一体何が見えるのだろうと皆光は一人苦笑する。

 

「君はどうするんだい?」

 

龍興からの問い掛け。

皆光はしっかりと龍興の瞳を見た。

きちんと、悪戯気に笑みを浮かべることも忘れずに。

 

「決まっているでしょう?」

 

「そうかい」

 

皆光は龍興を伴って歩み始めた。

最後に一度、まむし谷を振り返る。

 

(お疲れ様でした。私が死んだら・・・また・・・あの世で共に駆けましょう)

 

心の中で、そう呟きながら皆光はまた歩を進めた。

全く・・・一度ならず二度までも・・・と皆光は心の中で零しながら横を歩く龍興の頭に手を乗せた。

 

「ん・・・ほんと・・・君って人の頭に手を乗せるのが好きなんだね」

 

そう言って龍興が皆光を茶化すがその顔は少しだけ朱に染まっている。

ふと、皆光が龍興に目線を向ける。

なんだい?と言う龍興の問い掛けに、皆光は少し迷った表情を浮かべるが、肩を竦めて龍興から視線を外す。

 

「煮え切らないなぁ・・・」

 

「龍興殿」

 

「ん?」

 

「逢瀬でも行きます?」

 

逢瀬・・・所謂はデートだ。

皆光が誘うなんて・・・と龍興は舞い上がる気持ちと、少しばかりの疑いの気持ちを浮かべる視線を皆光へと向けた。

 

「一応・・・その・・・まぁ礼の気持ちを込めてですね・・・」

 

言ってから後悔したとばかりに皆光は顔を顰める。

そんな慌てふためく彼の姿が可笑しかったのか、龍興はくすくすと小さな笑い声を上げると視線を皆光から外す。

 

「そうだねぇ・・・近江・・・なんでどうだい?琵琶湖が綺麗だよ?」

 

「となると、もう少し先ですかね」

 

「ま、期待せずに待っているよ」

 

「おや、手厳しい」

 

掛け合いをしながら歩く二人。

皆光の歩みには・・・もう迷いも戸惑いもない。

 

「ありがとう・・・」

 

「何か言ったかい?」

 

「なんでもありませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

伊勢北畠との同盟締結により、新たに皆光の元に参じた姫武将が一人。

 

名を北畠具房。

史実では、大腹御所の餅食いなどと揶揄された肥満体型の武将・・・だった筈なのだが。

 

スラリとした長身にまな板の如き胸。

猛禽類を思わせる眼力のある目元に、鷹を思わせる焦げ茶色の髪を乱雑に後頭部でまとめあげている。

 

ちなみに余談だが、幼い頃は肥満体型であったらしい。その事を家臣に餅娘と馬鹿にされ奮起・・・今では薙刀の名手として北畠三勇士を纏める立場になったとか・・・。

 

皆光の元に参じたのはどうやら父である具教からの指示の様で、皆光の元へ顔を出した時には、再三「お前を同盟相手と認める気は無い」と言い放ち、皆光はこの娘をどう扱えばいいのやらと頭を悩ませている。

 

そして、それと同時に北畠具教は具房に家督を譲り、自分は国の統治に専念すると言っていた。

史実から引き離そうとしても徐々に史実に近付いて行くあたり皆光は少しヒヤッとしたとか。

 

一緒に着いてくる事となった一益は、これを機に九鬼海賊衆を使って安濃津(伊勢安濃郡に位置し三津七湊と謳われる日本有数の港)より種子島を大量に仕入れ当の本人は甲賀侍の伝手を使い甲賀より人足を調達。

延べ二千人の大将として一時的に皆光の指揮下に入った。

とは言え、おそらく本隊と合流すれば、一益の指揮権は信奈に移るだろうが。

一益は一時的に京に登るだけらしい。東国に不穏な動きがあれば即座に軍を返し東国への牽制として動くと言っていたが、時折海を眺めてはこちらを見つめニコニコとしている辺り全く関係ない理由で軍を返しかねない。

 

ちなみに九鬼嘉隆についてだが、一益の巫女服の染み抜き、鉄砲調達と言った雑事に徹底的に扱き使われている。

一益曰く「これは仕置きじゃ」との事だが、何の話かさっぱりな皆光が問い質しても、一益は答える気配が無いので、もっぱら放置している。

ちなみに上洛の際は志摩に置いていくとの事だ。

哀れ九鬼嘉隆・・・皆光には理由はさっぱりだが、一益が置いていくと言った時は真っ白に燃え尽きていただけに、少しばかり哀れに感じてしまう皆光であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

九月七日。

 

「全軍・・・京へ!」

 

とうとうその日は来た。

伊勢北畠家からは北畠具房以下伊勢兵が五千人

織田四天王が一人、滝川一益以下甲賀衆延べ二千人

計七千の兵力を加えた皆光率いる織田・斎藤・滝川・北畠の混成軍は総勢一万二千の大軍勢となって、大河内城を出て伊勢を北上。

 

程なく東海道へ差し掛かり、中三道の合流口で皆光は軍を止めた。

遠くから聞こえる山鳴り。

耳障りな甲冑を擦る金属音がまるで龍の唸りの様に空気を震わせる。

 

中三道を堂々と下る大軍勢。

龍が降ってくる・・・と言えば、今ならば信じるかもしれない程の圧倒的とも言えるその光景。

正しく圧巻。

翻る紋は、織田・浅井・松平と言った史実通りの旗ぶれだ。

 

五万と一万二千・・・大軍勢が向かい合うその姿に、思わずこのまま攻められたら・・・なんて考えてしまうあたり、軍師としてこの世界に毒されている事を皆光に感じさせる。

 

南蛮兜に赤いビロードマントの伊達姿。

相も変わらず奇抜な信奈の格好に皆光は苦笑する。

傍には織田の二大家老・丹羽長秀・柴田勝家の姿があり、信奈の背後には犬千代が。

さらに恍惚とした表情で信奈を見つめる明智光秀もいる。

 

今川義元の御輿を護衛している松平元康に、何やら憑き物でも取れたかのように清々しい表情をした浅井長政。

駕籠(かご)に乗っているが、何時もの好々爺の姿は既にない美濃の蝮・・・斎藤道三。

その傍には、美濃三人衆の姿もある。

 

武将好きがこの場にいれば、正しく発狂死するのでないだろうか。

まぁ、一部は少女幼女だが・・・

 

「お久しぶりで御座います。姫様」

 

皆光は馬を降り、信奈の前に跪く。

信奈は背後にいる皆光の兵を見て、満足そうに頷いた。

 

「久しぶり・・・って程でもないわよ?ま、いいわ。貴方の伊勢での働き・・・流石の一言よ。褒めて遣わすわ!」

 

「勿体なきお言葉」

 

「だけど・・・なんで戦に勝ったのに伊勢を奪わなかったの?」

 

まるで、なんでもないかの様に皆光に尋ねる信奈だが、尋ねる内容がぶっ飛びすぎて一瞬皆光の表情が強ばった。

背後にいる具房の表情も固い。

しかし、信奈の問いに答えがない訳では無かった。

 

「伊勢をそのままかっさらってしまっては、要らぬ犠牲が多様に増えましょう。伊勢は北畠家以下多数の北畠家の諸氏が点在しております。それらを纏めあげるには、伊勢の正式なる国司・・・北畠家の威光があってこそ。北畠家の協力が無ければ、伊勢に広がる戦火は留まることは無かったでしょう」

 

しっかりと罷り通る理由を述べ、更に北畠家を下げる事ことはせず、むしろ持ち上げる。

そうすれば、信奈とて北畠家は重宝すべきと思考するだろう。

そして、皆光の考えは当たった。

 

「なるほど・・・確かに、あなたの言う通りね。で、あなたが北畠具教?」

 

信奈の意識が具房に向かう。

具房は先程の皆光のよいしょのお陰か硬い表情は取れている。

とはいえ・・・元が目付きが悪いので相手の印象が悪いのは変わらないかもしれないが・・・。

 

「いや、北畠具教は私の父・・・私は北畠具房だ。父は貴公ら織田軍との戦に破れ家督を私に譲った。今は私が伊勢の国主としてこの場にいる」

 

「あら、そう。ま、織田家と同盟を結ぶんだから、私の言う事には従ってもらうわよ?」

 

「ふん、言われなくとも。敗者は勝者に従う・・・それだけだろう?」

 

「そう言うなら・・・」

 

信奈の視線が皆光へと向かう。

皆光は信奈と具房の互いが互いに挑発しあっているかのような会話に冷や汗を流していたが、信奈の視線を受けるとまた厄介事を押し付けられそうな・・・そんな嫌な予感と共に口を開いた。

 

「何か?」

 

「敗者は勝者に従う・・・あんたの言うことは最もだわ。だから・・・皆光に負けたあんたは、皆光の指揮で動きなさい」

 

その信奈の言葉に、すぐさま待ったをかけた者がいた。

 

「姫様!それは流石に悪手かと!尾張、伊勢の国主として互いに協力すべきです!今は無用な亀裂を避けなければいけないのですよ!全く・・・五点です!」

 

皆光が口を開く前に、鋭く指摘を飛ばした長秀に内心感謝しつつ、皆光も肯定した。

 

「姫様・・・流石に私も口を挟ませて頂きます。長秀殿の言う通り・・・今は勝ち負けの対価を論議している場合ではありません。ここは公の場・・・三河・・・北近江の国主もいる場です。その中で唯一伊勢の国主を蔑ろにしたとなれば、無用な亀裂を生むは必須。要らぬ意地は捨てなされ」

 

まぁ確かに、北畠具房の言い方にも多少問題はある。

だが口調が気に入らないからとその立場を軽んじては、後に不要な亀裂を生みかねないのは必須。

それでは、皆光が北畠家を立てて伊勢を制圧ではなく平定にした意味が無くなってしまう。皆光としても、それは避けたかった。

 

「わ・・・分かっているわよ。済まなかったわね・・・具房」

 

「いや、こちらこそ非礼を詫びよう。幼少からの口調のせいか・・・どうにも強く口を開いてしまう様だ」

 

流石にこの場で仲違いすることは無かったが、皆光はこれから先が非常に心配になり少しばかり胃痛を感じ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三河の松平・北近江の浅井・伊勢の北畠・尾張・美濃の織田家。

五カ国の間で行われる上洛・・・その総兵力はなんと・・・六万にも昇った。

 

京への道を塞ぐは南近江の雄・六角承禎ただ一人。

相も変わらず、書状も使者も突き返し、織田の上洛を拒絶している。

北畠具教は一国では他国侵略により美濃を切り取った織田に対抗するすべは無しと六角承禎と同盟を結ぼうとしたが、六角承禎にとっては不運なことに今では織田家に助勢する事になった北畠家。

 

六角家は佐々木源氏の流れを汲む名門守護大名である。

そして、同じく北畠家は村上源氏の流れを汲む名門・・・故に北畠家に六角家の姫である北の方を娶らせており、北畠家との繋がりも深い。

まぁ、それを見越して北畠具教は六角承禎に同盟を持ち掛けたのだが。

ちなみに、北畠具教の妻である北の方に皆光は会っている。

思わず現代に生きる母を思い出し少し胸が痛くなったとかなんとか・・・。

 

そんな話は兎も角だ。

六角承禎もまた、戦国を生きる奸雄であると言えよう。

三好家当主、三好長慶が存命していた頃は、幾度となく雌雄を決し合い、敗戦続きでありながらも国力を落とすこと無く維持し続けた政治的手腕、そして、今でこそ浅井家が長政に代替わりし、六角は敗北・・・独立しているが、長政の父・・・浅井久政の代に至っては浅井を完膚無きまでに叩き潰し、それを支配下に置いた戦ぶり。

 

上洛に際して・・・決して壁は低くないといえよう。

現在の六角は、今や孤立無援とは言い難い。

伊勢が陥落した直後、六角はすぐさま新たな縁を結びに掛かった。

山城の国を拠点とする三好三人衆と同盟を結んだのだ。

六角家は三好家と手を組み織田の上洛を徹底抗戦にて阻止する姿勢を貫いた。

 

既に、軍は南近江へと足を踏み入れつつある。

故に、戦に備えてか信奈は一度軍議を開いた。

 

織田信奈を筆頭に、浅井長政、松平元康、北畠具房と国主組が並び、家臣団がずらりと並ぶ。

その様・・・誠に壮観なり。

皆光は思わず来る身震いに、腿を抓り耐えた。

各将が並ぶ中・・・初めて信奈はこの場にいないはずの幼女をその目に捉えた。

 

「左近!あんた・・・なんでここにいるの?」

 

「む?まさかここまで気付かれないとは思っておらんかったのじゃ・・・ずっとみっちーの後ろにおったはずなのじゃが・・・」

 

「一益・・・忍びだからといっても流石に忍びすぎですよ?」

 

ちこう寄りなさい・・・と信奈は一益に手を振り、一益がとてて・・・と信奈の膝に乗った。

 

「んもぅ~ひっさしぶりね~!相変わらず可愛いわね~」

 

一益に頬擦りをする信奈の膝の上で、当の本人はふん!とドヤ顔をかましながら、姫は可愛いのじゃ!とのたまっている。

 

「姫様・・・あまり時間をかけては、敵の準備も万全を期した物となりましょう。ここはお急ぎくださいませ」

 

軍議の席で一益とイチャイチャする信奈を見兼ねたのか、長秀が先を促す。

長秀の言葉を聞いた信奈は、それもそうね・・・と一益を抱えたまま言い放った。

 

「さぁ!軍議を始めるわよ!」

 

信奈の言葉にいの一番に名乗りを上げたのは、皆光・・・ではなく浅井長政。

 

「義姉上。六角の兵はさして強くないですが、観音寺城はかの稲葉山城にも匹敵する難城。いったん野陣を構築し、支城を一つずつ気長に落としていくのが上策かと思います」

 

どう心変わりすれば手のひら所か心までひっくり返るのだろうか・・・と皆光は長政を見詰めながら、観音寺城の攻略法を探す。

 

とは言え・・・皆光は策が既に頭の中で構築されつつあった。

 

観音寺城は・・・確かに、長政の言う通り・・・山城と言う分類に入り、攻め辛く・・・守るに容易い城である。

 

「長政!美濃に稲葉山城という名の城はもうないわ!岐阜城・・・よ」

 

長政が間違えた・・・まぁ間違えてない訳では無いが・・・城の名を信奈が訂正した所で、信奈の視線は皆光へと向く。

まるで、その瞳は・・・皆光なら考えがあるんでしょう?とでも言いたげだ。

ならば期待に応えるまで・・・と皆光は信奈と目線を合わせ頷いた。

 

「観音寺城を一点にて突破・・・でしょうか?」

 

皆光の言葉に、武将達がどよめく。

観音寺城を落とすに当たって、敵の主城である観音寺城を攻めるのは勿論のことだが、だからと言って皆光が零したように一点突破が可能な城とは到底思えない。

 

武将達から落胆の目線を向けられる皆光は、これと言って反応を見せない。

そこへ、皆光の傍に控えていた半兵衛がカチカチに固まりながら口を開いた。

 

「皆光さん・・・その・・・言葉が足りてませんよ?皆さんにきちんと説明して差し上げないと・・・いい・・・いぢめられますぅ・・・ぐすんぐすん」

 

「おっと?失礼・・・少しばかり呆けていた様で・・・さて、観音寺城攻めの策ですが・・・」

 

皆光が本格的に話し始めた。

 

 

 

観音寺城・・・この時代では正しく先進的と言っていいほど特異な城として有名である。

壮大な石造りの曲輪を山の斜面に展開し、建物は総石垣。城を守る広大な城壁は山城と言うよりも岩城と言われた方が納得できるだろう。

水運も豊富で、支城に囲まれた観音寺城は、籠城に適した条件が軒並み揃っている。

 

だが、一つだけ気になる点は無いだろうか。これだけ堅牢な城を築いていながら、周囲に散りばめられている支城の数は十八・・・大小様々な城が点在している・・・。

これだけ堅牢な城でありながら、まるで懐で戦われるのを恐れるかのように見えないだろうか?

実際・・・観音寺城は山城でありながら、東山道と言う巨大な陸路が傍を通っている。

つまり、懐まで入ってしまえば大軍の展開が余裕を持って行える。

これは籠城・・・と言う観点において、致命的な弱点となりうる事がお分かりいただけるだろう。

 

だからこそ・・・皆光は、一点突破を進めた。

勿論・・・これはただの一点突破でない。

だが・・・それを話す前に・・・と皆光は五右衛門を呼んだ。

 

「五右衛門!」

 

「ここに・・・」

 

即座に現れた忍びに・・・五右衛門を知らぬもの達は一度警戒するが、皆光は関係ないとばかりに話を進める。

 

「周囲の露払いを・・・また乱波を放たれては困りますから・・・」

 

「御意・・・」

 

「他の者も動員して下さいね?お気を付けて」

 

「おきを・・・ぎょ・・・御意!」

 

皆光の言葉に過剰に反応する五右衛門は、何処か慌てたような仕草でその場から消えた。

さて・・・これでよしと皆光は薄ら笑いを浮かべた。

皆光の薄ら笑いを見た事がある者達は、聞き逃すまいと耳へと意識を集中した。

 

「これより始めるはただの城攻めに在らず・・・観音寺城・・・そして・・・支城全てを同時に落とす城攻めであります」

 

周囲の者達は自らの耳を疑った。

皆光は、事もあろうに観音寺城を含めた十八の支城・・・それら全てを纏めて落とすと口にしたのだ。

 

「失礼ながら・・・さすがにそれは無謀ではありませんか?以下に大軍を擁する我々でも・・・」

 

「無謀ではありませんよ?長秀殿・・・とは言っても、今この場に居る将全てを動員する必要がありますが」

 

皆光がちらりと視線を信奈に向けるが、信奈は顎をしゃくって続きを促すだけだった。

 

「私の策とは・・・」

 

ゴクリ・・・と誰かが唾を飲み込む音が木霊した。

 

「観音寺城を攻めながらにして・・・支城全てを一気に落とす・・・軍の大返しでございます」

 

「大返し?」

 

聞き慣れない言葉に、思わず信奈が反応する。

 

「はい。観音寺城は、傍を東山道が通る交通の要所に立てられた山城です。故に・・・大軍の展開は容易いでしょう。まずは、観音寺城を一点にて攻める・・・と相手に思わせる必要があります・・・つまり、一度軍を展開してしまうのです。展開することにより、城攻めに不要な兵も出て来ましょう・・・例えば・・・騎馬・・・或いは鉄砲・・・鉄砲は野戦にこそ強いですが、攻城兵器たり得るかと言われれば、そうとは限りません・・・。不要な隊は後方に溜まっていってしまう」

 

馬で城を登れ・・・鉄砲で城を貫け・・・なんて言われても、土台無理な話。

ならば、別の活用法を探せばいい。

 

「観音寺城を一点に絞り攻められた敵は・・・どうすると思いますか?」

 

考えるまでもない。

十八の支城に五百の兵がいれば・・・それだけで一万近い軍勢が出来上がる・・・。

 

「大返し・・・不要な隊の後方待機・・・そして主城である観音寺城の包囲・・・という事は背後からの強襲?」

 

信奈の家臣の中では長秀がいの一番に気付いた。

 

「まさしく・・・」

 

そして、背後から攻めようとした敵が最初に当たるのは・・・鉄砲隊と・・・。

 

「騎馬隊・・・なるほど・・・大返しね。背後を攻めてきた敵は、まず最初に当たるのは騎馬隊・・・そして鉄砲隊・・・奇襲は奇襲足りえないって訳ね!」

 

「だからこその大返し!奇襲に来た敵に対して・・・見える位置からの奇襲と言う訳ですか!これが・・・信奈様の懐刀・・・尾張の軍師の軍略・・・流石としか言い様がないです!」

 

信奈・・・光秀と段々と策の詳細が掴めてきた者たちが立ち上がった。

 

「これが私の描く策でございます。奇襲を奇襲で返す軍の大返し・・・であれば・・・城の数は問題ありますまい?」

 

「奇襲してきた敵を奇襲で返して、撤退に乗じて軒並み落城させるって魂胆ね?」

 

「そして・・・何よりこの策は早さが命・・・そして織田軍の強みは・・・」

 

「なんと言っても野戦・・・そして速度です!」

 

「これは・・・百点ですね・・・改めて、この長秀・・・皆光殿の知略に感服致しました」

 

「ってことは・・・あたしの出番か!」

 

「姫の出番もあるのぅ・・・みっちー・・・あまり姫を前線に上げるのはやめてたも・・・」

 

一堂が立ち上がった。

 

「そうと決まれば・・・全軍!進めぇ!」

 

とうとう・・・天下布武の第一戦・・・観音寺城の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 




ご閲覧・・・ありがとうございました。
出来るだけ、週一投稿で頑張りますので、これからも末永くお願いしますね!
コメント、評価、お待ちしております。
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